第6話 してやられたような気がするが・・・ま、いっか
26日目の朝は衝撃の朝だった。
いつものメンバーで食べようと思ったら、一人異物がいた。
「ブライン。どういう事でしょうか」
「ん? あれ? なんでロッティがオレの前に?」
個別の席が空いてなかったから、オレたちは長机の席に座ろうとしていた。
だからそっち側とこっち側に別れて座るものだと思っていたら、オレ側に皆が来ていて不思議に思っていた所で疑問が解決。
彼女が座る気だったから、皆がこっちに座ったらしい。
「なんでではありませんの。どうして、受け取りを拒否しようと思ったのですか」
「何を?」
「しらばっくれないでくださいまし」
「ん?」
この人はずっと何を言ってるんだ。
というかさ。
「久しぶりだな。あれ以来か」
「ええ。お話しするのも会うのも、あれ以来ですわね。もう少し会いに来てもよろしいのではありませんか!」
なんでだよ。あんた婚約破棄したじゃん。
それにしても魔族襲来以来ロッティには会っていなかった。
久しぶりの彼女だ。
険しい表情は消えているけど、ちょっと怒ってる。なんで怒ってんだ?
「いたんだな。寮にさ」
「当り前ですわ。学生ですもの」
「んで、なんで会いに来たの?」
「だから、どうして受け取りを拒否したのです。お父様とジュリに怒られましたわ」
「・・・・何の話?」
「資材の話です」
「ああ。ジュリがうちに来た話?」
「そうです。それにですね。ジュリに婚約破棄をしたと言ったのですか」
「言った」
「どうして!」
「え。だって君がしたよね。婚約破棄」
「え?」
「なあ。皆」
皆は黙って頷いた。
ご飯は食べていて、オレたちの会話だけ聞いている感じだ。邪魔しないように。
「わ、わたくしは。し、してません。したつもりがありません」
「それは無理だろ。みんなの前で堂々とオレに宣言したんだからさ」
この感じ。反転ルートに入ってるかもしれないな。
素直になれない御令嬢に変身してるかも。
本当はブラインの事好きだからな。ロッティもさ。
「と、とにかく、婚約破棄なんて、最初からないのですわ」
「無理だよ。ジュリに伝えたし、君のお父さんにも伝わったんだろ。その顔。昨晩にでも怒られたのか?」
「ど、どうしてそれを」
ほら、この子。自分で言ったことを忘れてます。
馬鹿頭脳なんです。
「アホな子だなぁ」
とオレが言うと、オレのそばにいる仲間たちは頷いた。オレたちの会話の邪魔をしないように、ご飯を無言で食べ続けている。
「アホとはなんですか。アホとは!」
「じゃあ馬鹿」
「なんですって。ブライン!」
「じゃあ話を聞こう。どんな感じで怒られたの」
「それが・・・・」
馬鹿頭脳なので、前の言葉は上書きされた。
素直に答えてくれる。
◇
昨晩の家族会議。
最新の通信機器を持つルーフォン家は、モニターに映像を映せた。
寮の部屋にある機器で会議が始まった。
「ロッティ!」
「は、はい。お父様」
第一声から怒りの声。
ロッティの背筋はいつも以上にピンとなった。
「どういうことだ。ジュリアから聞いたぞ」
「ジュリから? 何をでしょうか」
「馬鹿者が! 何を勝手に婚約破棄している!」
「は、はい?」
「ジュリから、お前がブラインと婚約破棄をしたと聞いたのだ。どういうことだ! バカ娘がぁ」
「ひぃいい」
怒声で通信機器が壊れそうだった。
父フィルドの怒りは最初から全開だった。
「我が家の宿願を。お前は台無しにしたのだぞ」
「で、ですが・・・あ、あれは・・・気を引こうとして・・・わたくしを見てもらおうと」
これは言い訳だった。しかし、あの時の事は、半分本音だ。
釣り合わない立場は本音。
ブラインを馬鹿にしたのは嘘。
本当はブラインの立場が上がれば、すぐにでも結婚しようと思っていた。
それに、彼が前のように、ロッティ自身を見てくれて、普通に接してくれるなら結婚しようと思ってた。
だから困らせて奮起させようとロッティは思ったのだ。
馬鹿頭脳なのでそのやり方がまずかった。
「この馬鹿者が。婚約破棄を盾にして、ブラインの気が引ける? そんな寛容な男はどの世界にいる! あの温厚なブラインでもそんなことは許さんぞ!」
「は、はい」
それは父の言い分が正しい。
ロッティの目論見は失敗であったのだ。
「お姉様」
「あ。ジュリもいたのですね」
画面いっぱいに父が映っていたので、隣にいたはずのジュリアが画面に映っていなかった。
「わたくしも怒っています!」
「え!?」
「お姉様がお兄様と結婚してくれると思っていましたのに! 破棄されたなどありえない。いえ。破棄したなどありえない。お姉様とは絶交ですわ!」
「そ。そんな・・じゅ、ジュリぃ」
「それにお姉様」
「な、なんでしょう」
妹に叱責されて、身が縮む思いになっていた。
言葉遣いでも負け始める。
「わたくし。お兄様に怒られそうになったのです。せっかくの支援物資。あれを渡そうとしたら、突き返されそうになったのですよ!」
「え!? あ、あのわたくしが手配したものですか?」
「そうです! 本当はあれらがいるだろうに、それをいらないとまで言われたのです。それもバーランドにもマリンにもですよ」
「そ・・・それは・・・」
「全員から拒否されて、一時わたくしは悲しくて、悲しくて・・・この悲しい気持ち、どうしてくれるのですか。お姉様!」
「す。すみません」
妹の怒りに素直に謝った。
「ロッティ!」
「は、はい」
「ブラインとの婚姻を取り戻せ。出来なければ家から追い出す」
「え? ま、待ってください」
「いいか。それまで勘当だ!」
「え?」
「帰ってくるな。バカ娘。学校に必要な金は出すが家に帰ってくるな。いいな」
「え!? そ、そんな。お父様。それは・・・」
「ふん!」
ぶちッと切れた。
父親の怒りは最高潮に達していたようだ。
今まで甘々だったので、父の驚きの一面を見たロッティである。
◇
「という感じで、勘当されてしまいました。ブライン。結婚してくださります?」
「出来るか!」
「なぜ。わたくしを助けると思って」
「それはお前の都合だ。オレには関係ない」
皆が頷く。
オレの方が正しい。
「ブライン。お願いします。わたくし、お父様に怒られた状態は耐えられそうにないですわ。それにジュリにも・・・」
「それはロッティのせいだろ。オレには関係ない」
「そこをなんとか・・・」
相変わらず馬鹿頭脳だな。
この子は、気持ちが反転し始めてるから、悪い子ではないのが分かるんだけど。
アホ過ぎる!
「ロッティ。君はそうやってまた困らせるのかい」
と声が聞こえた方を向くとジルベルトがいた。
「お兄様!?」
「ロッティ。これ以上ブラインを困らせたら駄目だ。今回はね。私もブラインの肩を持つんだよ」
妹に言い聞かせるためにBBを使わないのか。
配慮してくれてるな。
「そんな。お兄様ぁ」
「今回はどの方向に立とうが、さすがに君が悪い。人づてだけど、君があんなことを言ったら駄目だ。まず、謝ったの?」
「い。いいえ」
「ほら。まずは謝りなさい」
「はい」
しょぼんとなったロッティだが、こちらを向いて頭を下げた。
「ブライン。申し訳ありませんでした。わたくしがあなたを傷つけてしまいましたわ」
「あ。う、うん。いいよ。別に」
「そうですか!」
すぐに明るい顔になるな。反省しろ。反省!
「お兄様。許してもらえました!」
「うんうん。よかったね」
ジルベルトがロッティの隣に座ると、彼女の頭を撫でた。
兄妹間の仲はすこぶる良い。羨ましいくらいにだ。
「しかしだ。ブラインは今回一つも悪くなくてね。婚約破棄も正式なものになるだろうし。それに君も婚約を戻そうとは思わないだろ。この子の我儘に付き合えないだろうしね」
「はい」
即答しておいた。
ロッティは悲しそうな顔をしたけど、そんなの当たり前だろと思う。
「そうなると父上は一生ロッティを許さない事になるだろうな・・・そうだな。私が謝りに行こう。ロッティ。一緒に父上に挨拶に行こうか」
「お兄様。大好きです」
兄に抱き着いた。
兄妹同士だと素直に感情表現が出来るロッティだ。
「うんうん。まったく世話のかかる妹だ。すまないな。ブライン。君たちも。この子がまた迷惑をかけるかもしれないが、それでも諦めないで欲しい。悪い子ではないからね」
出来た兄ジルベルト・ルーフォン。
イケメン。優しい。家族と仲間想い。そしてブライン想いだ。
だから、この人も立派なルーフォン家の一員なんだ。
「ブライン。その許しを確実にするために、夏休みに来てくれ」
「はい?」
「ルーフォン家に遊びに来てくれ。それで父上の機嫌を取り戻せるはずだ」
「オレが、な、なんでですか?」
「当り前だ。クロノ様の生き写しの君が遊びに来れば、一発でロッティを許すだろう」
「・・・はぁ。まあ。そうですね。遊びに行きましょう。資材のお礼の挨拶もしたかったですしね」
「そうかい。ありがとうブライン」
してやられたような気もするけど。
でもお礼もしたかったし、一度フィルドに会うのもいいだろう。
あの人、面白おじさんだしな。




