第4話 責任
「しかし、どうしようか。返すのも悪い気がするし。失礼だし・・・」
オレが悩んでいると、マリンさんがこちらに来た。
今の話は部屋の入り口で聞いていたらしい。会話の区切りが出来るまで外で待機していたようだ。
「若様」
「お。マリンさん」
「おかえりなさいませ」
「ええ。帰って来ました!」
「はい」
オレが軽く手を振って挨拶すると頭を下げてくれた。忠誠心が強すぎて、普通の挨拶が返ってこない。
「マリンさんはどう思います? オレまだ見てないんですけど、表の資材を見ましたか?」
「はい。素晴らしいものを送って頂いて、恐縮しています。ジュリア様には感謝を」
マリンさんが挨拶すると。
「ええ。マリン。お久しぶりですわ」
彼女は丁寧に貴族流の挨拶をした。
「で、どうします? 返した方が良いと思いますか」
「私はどちらでも構いません。若様のご決断で」
「そうですか。バーランドさんは?」
「私もですね。マリンと同じ考えでございます」
結局オレ次第か。
「お兄様」
「ん?」
「何故、返す前提でお話を聞いてるのですか?」
「それは当然。そうなるよねバーランドさん」
バーランドさんに聞くと。
「はい。ジュリア様には申し訳ありませんが。若様は、ロッティ様から婚約を破棄されていますので、こちらとしたら受け取ってよい物なのか。これが悩み所となります。それで無償となると、隷属契約にも見ようによっては見えますので」
「わたくしどもが、隷属契約!? ば、馬鹿にしないでもらいたい。バーランド!」
領主代理の器が見える叱責。きびきびとした動作で、ハッキリと意思を伝えてきた。
「申し訳ありません。ですが、そのように見えてしまうのです。破棄されたのに無償なのです。そちら側の破棄なのですよ!」
婚約破棄をしたのに、タダで支援。
裏があると思わずにはいられない。
それはバーランドさんだけじゃなく、マリンさんも、オレも思ってる。
隷属契約とは、奴隷の事を言うわけではない。
上下の関係の事を指す。
ロア王国の貴族間で起こる契約で主従を結ぶ契約の事だ。
大貴族のルーフォン家に、小貴族のレッドピック家。
それを世間に知らしめる意味があるのかというのがこっちの言い分だ。
お前の家が下につけ。という意味がこの援助にあるのではないかと、バーランドさんも疑っているわけだ。
ルーフォン家とレッドピック家の関係は同盟。
それも永劫同盟。
この絆は永遠だとしたジョンとクロノの友情同盟である。
「・・・それは・・・」
ジュリアが止まると、すかさずマリアさんがそばによる。
「ジュリア様」
「なんですか。マリン」
「失礼ながら、お返しした場合。そちらの資材はどうなるのでしょうか。廃棄ですか?」
「返されるなど、こちらは考えていないのです。お父様は受け取ってくれると信じています。わたくしもです!」
無償の愛とは言えるよな。
これほど言い切れるって事はさ。
「しかし返すという選択肢はこちらが持っているのです。ならばここで仮定してほしいのです。こちらがそちらに資材を返しましたら、あなた様はどういたしますか?」
「・・・・嫌ですわ。受け取って下さらないのなら、受け取ってくださるまでここにいますわ!」
「だそうです。若様」
くっ。マリンさん。これを言わせたな。
つまりマリンさんの中では、あの資材を受け取れって事だ。
「はぁ。いいでしょう。受け取りましょうか」
「お兄様!」
嬉しそうな顔でこっちを見てきた。
「だけど、文書が欲しいな。簡易なサインでもいい。こっちの言い分を保証して欲しい」
「何をです?」
「返さなくてもいいって事だ。ロッティの件があるから、こっちとしたら慎重にならないといけないからさ」
「わ、わかりました。お姉様の件ですね」
申し訳ないな。
さっきまでの明るい笑顔を曇らせてさ。
「うん。ごめんね」
「いいえ。こちらが悪いのです。わたくしがサインしますので、それをお父様にも見せますね。それでよろしいですか」
「うん。ごめんな。面倒な事をさせて」
「いいえ。お姉様が本当に破棄したのなら、こちらが全面的に悪いのです。資材は置いておきますので、一度帰ります」
「ん?」
一度? 二度目がある?
「わたくし、ちゃんと証明したいので、お父様のサインも持ってきます!」
「え?」
「駄目です。これは、うやむやには出来ません。ルーフォン家としたら、ブラインお兄様と、気持ちが離れるのは嫌なのです。急ぎ帰ります!」
「はぁ?」
「マリン。バーランド。文章を今すぐ用意してください。持って帰ります!」
「「は、はい」」
ジュリアは慌ただしく帰り支度をし始めた。
文書もすぐに作成されて、こちらの準備も出来上がりつつある。
「帰るって? 今から?」
こちら、今の時間。
夜なのですが・・・。
「はい。お兄様。家族会議後、すぐに帰ってきますので、お待ちください」
「え? ちょ」
サインをしたらすぐに帰り始めた。
扉から出ようとすると、振り返る。
「あ。お兄様。わたくしが帰っても、資材はすでにお兄様のものなので、使用してくださいね。お気になさらずにどんどん使ってくださいね」
「え。あ、うん。ありがとう」
「いいえ。では、急ぎ帰り、準備が出来次第で戻ってきますので、それではまた! ごきげんよう」
と言ってスカートの裾をあげて挨拶をしてくれた。
慌ただしく彼女は帰っていった。
「台風か。あの子は」
嵐のような出来事だった。
「ってか。待てよ。急ぎ帰るって言っても、ターンしてくるんだからいつくらいになる!? あれ、マリンさん。ルーフォンの家からこっちまでってどれくらいでしたっけ?」
「はい。ジュリア様は列車で来られない。馬車でしょうから、往復10日ほどです」
「え・・・さ、最速は?」
「8日ではないでしょうか。または馬替えなどで寝ずに来れば、6日でしょう」
「・・・」
それはまずいかもしれない。
彼女がターンしてきた時が30日目付近か。
下手したらオーク・ゴブリン防衛戦争と被るんじゃないか。
戦争の時に彼女が来るのはこっちとしたらまずいな。
万が一でも彼女に傷が付いたら、ルーフォン家に申し訳ない。
「何か気になる事でもありましたか?」
「いや。なんでもない。大丈夫でしょう」
そんな悩みは明日のオレに任せよう。今日のオレは、建築を考えようか。
もらえた物は貰えたんだから、存分に使う事にした。
◇
屋敷もどきから表に出ると、資材は並んでいた。
とんでもない量に驚くと同時に、ブラインが愛されているのを感じる。
「これは・・・なんでも作れそうだな」
積み上がった建築資材に質を感じる。
木材も高級品じゃないけど綺麗だ。粗悪さを感じない。
「そうだ。ガランドーさんは到着しました?」
「ええ。いますよ。今は寝ていらっしゃると思いますが」
「あっちの住宅に?」
「はい」
今はまだ個別で住めていない。皆が雑魚寝状態のリミットタウン。
これを安定化させてから、個別の家を建てねばならない。
「結構早寝なんですね」
「いいえ。皆さんには早寝を心掛けてもらってます」
「ん?」
「共同生活で、寝るタイミングがバラバラだと睡眠不足に陥るかと思いましたので、皆さんには9時までに寝てもらう事にしています」
「はや!?」
「仕方ありません。緊急措置みたいなものです」
「それはたしかに。そうか寝不足問題ね」
「ええ。これは仕方ありません。生活リズムを崩してまで共同生活するのはよろしくないですから」
「四軒の家。全てですか?」
「はい」
「そうか」
これはもっと家を作らないと駄目だ。
今は我慢できるだろうけど、不満も溜まる可能性はあるよな。
この環境、少なくとも快適とは言えないな。
「若様。それではどうしますか?」
「ええ。あとで建築班と運搬係の人に仕事を割り振ってください」
「ん? 早速作る準備が?」
「ええ。あります。まずは工房を作りましょう。位置は・・・・歩きます」
「はい」
中心地よりも少し離れた位置。
第一の壁の外側で、第二の壁の内側。
中心から南東の位置に職人街にするつもりだ。
「ここがいいな」
「若様。中心から離れていますが?」
「ええ。ですから、ここにも監視塔をお願いします。壁がまだないので警戒エリアを疑似的に作りましょう」
「わかりました」
「それで、今回の一番最初の建物にしてください。資材は。全部使用じゃなくてまだ残りますよね」
「それは、どの程度の工房にするおつもりなんでしょうか。それによります」
「ふんだんに使っていいです。王都の工房にも負けない強い武具を生み出せる場所を作ってください」
「・・・わ、わかりました。おまかせを」
「はい」
「そうなると、若様。それ程資材が残らない可能性もあります」
「んんん。だったら、ここは建物は諦めて、農業で資材を使った方がいいな。柵とかにしましょうか。安パイで」
無難なものにしよう。
今はまだ完成しなくてもいい酪農がいいかな。
農業は完成形に持っていきたいし。
「柵ですか?」
「はい。酪農エリアを北西の位置。農業エリアを南西の位置。ここに作りましょう。柵なら囲いきれなくても大丈夫ですし、余ってもいいですしね」
「なるほど」
「先に産業を。次に商会を誘致。その次に皆さんの家を。この順番で安定させていきましょう」
大体60日までにこれをやりきりたいな。
長くこの生活をしていたら、不満がt溜まりそうだ。
評判値も上がりにくくなるからな。
「わかりました。おまかせを」
「はい。それで、西火の楽山に協力要請しましたので、彼らが五日後辺りでこちらに来ます」
「西火の楽山。あの傭兵の?」
「ええ。彼らには暫く護衛をしてもらいます」
「なんと! 助けて頂けるのですか」
「ええ。ですから軍を組織するまでの間は接待しましょう」
彼らには気持ちよくここに居てもらわないと。
「お金は後で支払う事が決まりまして。ただし滞在費用はこちら持ち。食費は折半でしたが、あげられる分だけあげてください。出来るだけ長くいてもらいたい」
「なるほど。わかりました」
「ええ。戦闘が出来る人を増やすまでの間は、彼らに守ってもらわないと」
リミットタウン軍が出来上がるまでは、彼らとの友好関係はちゃんと築いたままにしたい。
出来たら信頼関係もだけど、大丈夫だろうか。あの子たち。
不安もあるが、彼らに期待するしかないのが、今の段階のリミットタウンだろう。




