第2話 |西火の楽山《ヴォルテクス》第三分隊
22日目の放課後。
「ブラタン。いくぞ」
「あ。うん。ついていく」
ナオが言ってきたのを聞いていたので、レインが。
「どこに?」
無邪気に聞いて来た。
「ああ。会議だわ」
「会議?」
「仕事だ。西火の楽山のな」
「ふ~ん。じゃあ、明日ね」
邪魔は出来ないとレインは引いた。
友達同士がいる時、一緒に遊ぼうとついていこうとするのが彼女だ。
でもちゃんと見極める事が出来るのもレインだ。
ナオの顔を見て、ちゃんと身を引いたんだ。
「ああ。またな」
「うん」
◇
学園都市の喫茶店。
先に集まっているのは四人。
全員が席に着いていたのだが。
「隊長!」
ナオを見つけた眼鏡の男の子が立ち上がった。
敬礼をする。
「うぜぇ。やめろって」
「お久しぶりです」
照れ隠しのナオに対して、クソ真面目な男の子。
相性的におもろい。
「う~す」
ぼんやり一点を見つめる女の子は、ナオに似ている口調だ。ダウナー系女子。
「・・・」
その隣で黙ってる女性は、ダウナー系の人と顔が似た雰囲気がある。
「お。その人が依頼人すか」
軽い話し方の男性は、これまた眼鏡の男性とは違う印象だ。
「そうだ。あーしのクラスメイト。ブラタンだ!」
「ブラインね」
「あ。あんまりにもこっちに慣れちって、本名みたいに言っちゃったわ。すまん」
「まあいいよ。別に気にしてない」
「サンキュ!」
口癖になってるから、単純な言い間違いだと思った。
ナオもテキトーを極めている。
「紹介すっぜ。あーしの部隊の連中。昔はあと数人いたんだけど。皆卒業してった」
「卒業?」
「ああ。あーしの隊はさ。新人研修の隊みたいなもんなんだ」
「新人研修って、そうか。新人じゃ無くなったら別な隊に行くのか」
「そう。第二分隊に移動するのが大体だ」
「へえ」
西火の楽山はたしか。
本隊。第一分隊。第二分隊。
三つの隊だったはずだ。ゲーム時代で見かけたのはここまでだ。
そうか。第三分隊があったんだな。
「これ。一番うぜえのが、ラグナルだ」
眼鏡の男性の名がラグナル。
「は! 自分がラグナルです。ブライン殿!」
うぜえは、訂正しなくてもいいのか。
受け入れてるのかな。
「次にこっちのやる気のねえのが、ユーナ」
ナオみたいな返事をした女性がユーナ。
「ちーす」
たしかにやる気を感じられない。
「そんでこっちがルーナ。双子な。こいつら」
どおりで顔が似てると思ったら双子だった。
オレンジの髪がルーナね。こっちは赤い髪として覚えよう。
髪で判断しないと、顔だけだと見間違えるぞこれ。
「・・・・」
喋らない!
コミュニケーションどうするの!?
「んで。これがチャラ男」
自己紹介じゃないぞそれ。
「カールっす。依頼人」
「どうも」
自分で名乗ってくれた。この人が一番話が分かる人かも。
「んじゃ。お前らさ。なんでここに居るんだ? あーし、あと三年もここだぞ」
「暇」
無言を貫いていたルーナが話し出した。
「暇って。それこそ暇だろ。あーし、分隊にいないんだぞ。隊の維持だって意味がねえだろ」
「隊長いないとつまんない」
「だからよぉ」
「つまんない」
「・・・は?」
話が微妙に噛み合ってない。
ナオが困惑するのも珍しい。
「ルーナは隊長のそばにいれば会えると思ってんの」
ユーナが代わりに説明した。
「会えねえよ。学生だって言ってんだろ」
「ちょっと見えたらいいんだって」
「だから見えねえだろ。学校は学園都市でも隔離されてる方だろ。あーしがこうやって学校の外に意図的に出ねえと駄目だろ?」
「それでもいいんだってさ」
「意味わからん」
会える確率が少ないのに、なんでここにいるんだよ。
これがナオの主張で。
会えなくてもそばにいれば、それでいい。
これがルーナの主張か?
「そうだ。なんで隊が維持されてんだ?」
「それはこいつの案っす。俺っちらは、その付き添い」
チャラ男のカールが隣の眼鏡の男性を指差す。
ラグナルが敬礼をする。
「自分が隊長をお待ちします! いずれ第三分隊も主力分隊にしましょう」
「やる気あり過ぎ・・・うざい」
ダウナーのユーナが答えた。
「ユーナ。君も承諾したじゃないか。隊長を待つって」
「私はあんたと同じじゃない。この子が待つって言うから待つの」
「ルーナ。君は隊長を待つんだよな?」
「うん。近くがいい」
想いと熱量が随分とバラバラな隊だな。
「カールもだよな」
「俺っち? 俺っちは別に隊長を待たんでもいいけど。他の分隊に行くと、めんどそうでさ。俺っちって省かれそうじゃん。隊長以外だと。それに隊長とは馬が合うし」
うん。たしかに。
この人だと、本部隊以外は厳しいかもな。
団長アイソンなら面倒見てくれそうだけど、たしかにそれ以外だと厳しそう。
「ということです。隊長! 皆が隊長を待っているのです」
何言ってんだ。どういうことだよ。
待ってる奴と待ってねえ奴がいるわ。
「何言ってんだ。待ってねえだろ。これのどこが待ってんだよ」
オレと同じツッコミをナオがした!
「隊長。心配なさらずに。自分らは隊長を信じてます!」
「信用問題じゃねえわ。あーしが言いたいのは、こんなところにずっといたら、お前ら実践から離れんぞって言ってんだよ」
「え!? 実践から!?」
「そうだろが。ここは安全地帯。傭兵家業の仕事なんてほとんどねえぞ。あってもギルドみたいな。うちの猫捜索みたいな平和な奴しか出来なくなるぞ」
学園都市はとにかく治安が良い。
モンスターなんて、よほどのことがないと出現しない。
さらに警備も良いので、出ても速攻で処理される。
だから学生ダンジョンくらいが危険地帯となっていて、しかもその学生ダンジョンは一般参加まで広げていないから、ますます傭兵や冒険者ギルドは無意味なんだ。
そこにあと三年いたら、確かにナオが言ったように腕が訛るだろう。
「だから言っただろ。ラグナル。隊長に怒られるって」
「・・・しかし」
カールはこれに気付いていたらしい。
彼は頬杖をしてから、ストローでジュースを飲んだ。
「だってつまんない」
ルーナが不貞腐れたような声で言った。口も尖がってる。
「つまんないってな。あーしを待ったって・・・あとほぼ三年だからな」
そうそう。ナオが言ったように、三年間も学校があるんですよ。
「隊長。だから依頼を受けるんでしょ。俺っちら、その人の依頼を受けたらイイ感じなわけでしょ」
「あ。ああ。そうだ。頼むわ。あーしは学校で抜け出せねえから。ブラタンの領土。守ってくれよ」
領主権限を使えないので、彼女は無断で学校を飛び出せない。
だから自分の傭兵に託すと言ってくれていた。
「はい! 頑張ります」
真面目な彼は速攻で返事をしたが。
「それってあの町でしょ。私らが守る意味ってあるの」
ユーナが聞いてきた。
「ある。ブラタンの町だからな」
「それは隊長の友達だから?」
「そうだ」
「ずいぶんと私事ね」
「悪いか」
「うん」
「なんで?」
「だって、なんもないでしょ。その町」
「知ってんのか」
「ええ。有名だもの。リミットタウン。壊滅した街。何もなくなった街。でしょ」
その通りである。まったくもって、一言一句間違いがありません。オレも思っています。
「おい。意味がねえって言いたいのか」
「そう」
「てめえ。表出るか」
「めんどー」
二人の喧嘩になりそうになると、ラグナルがあたふたしていた。
隊内での喧嘩は困ってしまうらしい。
「まあまあ。ナオ。落ち着いて」
「あ? なんでブラタンがキレねえんだよ。お前の町のこと。馬鹿にされてんだぞ」
オレの為に怒ってくれてるのに、オレにキレてる。
どういうこと?
「あのね。この子の言う事も正しいよ」
「は? ふざけんてんのか!? あ?」
「いやいや。あのね。オレの町。マジで何にもないの。見たことある?」
「ねえ」
「じゃあ、君たちも見たことある?」
全員首を横に振った。
「うん。話に聞く限り以上の状態。それがオレの町だ」
自慢じゃないがそうだ。
家を建ててやっとの状態だ。今は確か公共施設のトイレや井戸を作ったはず。
「でもオレは、町を最強の防衛都市に仕上げるつもりだ。この先に訪れる戦いの為にね」
「この先? ブラタン。今回以外にも襲撃があるのか」
「あるっぽい。オレの街が壊されてたのも、謎の襲撃なんだけどさ。明らかにリミットタウンだけを狙った襲撃なんだよね。他の都市が平気なんだよ。両国のさ」
「・・・そうか。何かに執着されている・・・つまり、あのネクロマンサーの件・・・だよな?」
「うん。あいつもオレに執着している。で、街も執着された。って事はこれからも執着はあるかもしれない」
「ありえるな」
オレとナオの意見は二手に分かれる事はほぼない。
同意見が多い。
「だからって、オレは負けない。引いてやらない。襲いかかってくるのなら、全てぶち壊す。相手の思惑など、木っ端みじんに砕くのさ。そのためにオレは町を最強にして、街に戻す。大陸一の大都市にだってしてみせる」
「「「「「・・・・・」」」」」
真剣に語っていたら、全員が黙った。
「守る為ならなんでもやる。だからオレはナオを頼った。友達に頼るのは悪いと思ったけど、西火の楽山のメンバーなら、きっと良い関係を築けると思ったからさ。あの団長さんって面白いだろ」
アイソン・ノマドは非常に面白い存在だ。
傭兵家業にしては金にがめつくない。
やるか、やらないか。
この判断は団長の気まぐれが大きい。
だから協力を取り付ける難しさがある。
しかし協力してもらえると、抜群の効果を生む。
リミットタウンの防衛戦での成果は、他の傭兵団よりも格段に上だ。
体感八割は勝利に導いてくれた気がする。
でもオレの記憶が正しければ、この団長。
どこかのタイミングで命を落としていた気がする。
何か巨大な戦争の中だったか?
いや、モンスターの集団戦? それとも災厄系か?
あんまし傭兵って最後の方には使わなくなるから、彼らの動向を見抜けないんだよな。
ほら、最後の方になるとリミットタウンの戦力って自前で賄えるからさ。
他の勢力の分布図って分からないんだよな。
「ふ~ん」
ユーナって子がオレの顔を見て、品定めをして来た。
ちょっと見つめてからナオを見る。
「わかった。やる」
と言ってきた。何に納得したんだろう?
まだ説得してないんだけど、宣言しただけなんだけど。
「そうか! 頼むわ。ルーナもイイか」
「隊長がどうしてもって言うなら」
「どうしてもだ」
「じゃあやる」
説得も納得も軽!?
「お前は?」
「俺っちは言っただろ。隊長の下じゃないと、ヤバいって」
「やるんだな」
「隊長が決めた事だからな」
「よし。決まりだ。ブラタン、よかったな」
「う、うん」
こうして、西火の楽山第三分隊が、リミットタウンを守ってくれることになった。




