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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
聖女の始まり

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第10話 窮地から

 「な、何が起きたのでしょう。転移してしまったのは分かるのですが・・・」

 「さあな。にしても、こいつ。聖女の敵か」


 聖女を支えていたエリオンは彼女から離れてクレアに短剣を向けた。


 「ひっ・・・な、なんですか」

 

 返答次第じゃ殺す。彼の殺意の目にクレアが怯えた。


 「て、て、敵じゃないです・・・うちは、敵じゃない!」

 「じゃあこれは何だ。これは反転してたんだぞ」

 「は、反転?」


 エリオンが、クレアの首にぶら下がるロザリオの十字架部分を握った。

 引きちぎる。


 「これが元凶だ」


 握りしめた十字架からは、邪が消えていた。


 「あ・・・そ。それは大神官様が」

 「大神官だと。誰だ」

 「え。そ、それは」

 「フリオネか?」

 「ち、違います」

 「セシオか」

 「・・・・」


 答えられなかった。その様子で、勘づく。


 「セシオか・・・なら、この現状は、聖女狙い。こいつは駒か」


 キッと睨んでくる目にクレアがまた怯える。

 

 「ひっ」


 マリアンナが聞いて来た。


 「エリオンさん。どういうことでしょう。あなたがなぜ聖教会の大神官様を知ってるのでしょう」

 

 大神官の名前を呼び捨てる。

 恐れ多いことをやってのけると言う事は知り合いではないか。

 マリアンナはそんな推察をしていた。


 「セシオは聖女反対派だ。あんたを殺す気なんだよ」

 「え、私を」

 

 エリオンの言葉に肩を震わせたクレア。その姿を見たエリオンはクレアを見ながら聖女と会話している。


 「フリオネもだ」

 「フリオネ様も?」

 「ああ。表向きは二人ともそんな素振りを出さないだろうがな」

 「あなたはなぜそれを知ってるのですか」

 「俺は、聖教会の裏側にいる。聖女を守護する役目を授かった朝焼けの五つ星(スターマイン)だ。本来はあんたに正体を明かして守っては駄目だが、ここまで直接的に仕掛けてくるなら無理だな。知ってもらわないと駄目だ。あんた自身と協力して守らないとな」


 今までが嘘のように話しかけてくれた。

 そこに嬉しさがあるマリアンナは。

 

 「おお。あなたは話せる方だったのですね」


 思わずエリオンに聞いていた。


 「は?」

 「エリオンさんは、話せる人だったのですね。嬉しいです」


 お喋りな彼女にとって、現状の難しさよりも、話せたことの嬉しさが勝ったのである。


 「何言ってんだこいつ・・・。今がヤバいのが分からねえのか」

 「ヤバいとは?」

 「見ろ。ダンジョン内で転移させた理由はこれだろうな」

 「・・・・おお。モンスターの群れですか!?」

 「ああ。ここは、何階層だ? 人の気配がないな。少なくとも一階層じゃない」

 

 モンスターの群れが近づいてくる。ジリジリ近づいてくるので、襲い掛かってくる寸前だ。

 マリアンナは不満そうな顔をしていた。


 「んん。もう少し、エリオンさんとお話したいです。邪魔ですよ!」

 「え!?」


 冷静なエリオンが驚いてしまうくらいに、マリアンナの動きが早い。

 右手から放たれる青の力は、一瞬で結界を張る。


 「ノンエンカウントフィールド」

 

 モンスターとのエンカウント拒絶の結界。

 モンスターよりも聖女の力が強ければ、モンスターから襲われる心配がなくなる結界だ。


 「お。お前。これを使えたのか。ほとんど聖女じゃねえか」


 候補生では不可能な技。

 エリオンは驚きで固まった。

 

 「ええ。最近聖女の力を使えるようになりました。技が増えましたね」

 「な、なに? 直近で?」

 「はい。おそらく魔族との邂逅でしょう。あの時の戦いのおかげで力が上がりましたね。ブラインさんと共闘した時に感じました」


 ブラインに力を貸した時に一気にパワーアップした気がしたのだ。

 

 「・・・明星との接触が影響したか」


 一時安全となった事で、余裕が生まれたのでエリオンはクレアにも話を聞く。

 

 「おい。お前。お前がなんであんなものを持っていたんだ。話を聞かせろ。嘘つくようなら殺すぞ」

 「ひぃ」

 「お前の嘘の話を聞く時間が勿体ねえ。必要な事だけを話せ」

 「・・・う、うち・・・教会に・・・」


 エリオンだけじゃなく、マリアンナもクレアの話を聞いた。


 ◇


 クレアは凄く裕福な家庭とは言えなかったが、普通の幸せな家庭で育った。

 小さな商家で、父・母・姉の四人家族。

 特別不幸な事など、事故以外で起きた事のない家庭だった。


 ある日、父と母が事故で死んだ。

 残された姉妹は悲しみにふけったが、それでもこの世界で生きていかねばならない。

 姉が一家を支える大黒柱となった。

 生活魔法の扱いが上手かった姉は、本来は生活魔法で生計を立てられたのだが、妹の世話をしながらだとその仕事は難しい。

 だから安定的な収入と住む場所の確保その他諸々のケアをしてくれると言ったアーケミア特別支援学校に就職した。

 特に食事。これらの提供をすると言ってくれたのが、姉が大きな決断をする理由だった。

 生活魔法が得意なのに、姉は料理が苦手だったのだ。


 そんな料理だけが不器用な姉も、妹を育てるのにここが十分な環境だと思ったのだが、残念な事にクレアは塞ぎこんでしまった。

 両親の死が強いショックだったのだ。しかしそれも仕方ない。クレアがまだ八歳の子供だったからだ。

 だから姉も無理には彼女に外に出ろとは言えず、心の傷が癒えるのを待った。

 

 しかし、一年ほどが経っても良くなる傾向がなかった。

 塞ぎこむ時間が長くなれば、外に出る可能性も少なくなっていくかもしれない。だから、姉は何かと理由をつけて連れ出せる場所に案内した。 

 それが教会だった。 

 皆が悩み苦しんでいる場所だから、似たような悩みを持つ人たちと話せると思い連れ出した。

 だが、あまり効果はなかった。外に出てもらえるわけじゃなかった。

 でも彼女が教会に行くことを嫌がった訳じゃなかったから、外に出すという意味合いだけで、姉は週に最低でも一度は教会に連れていった。

 教会が外だとすればよいとの考えであった。


 こうすることで、クレアは教会に行くことが習慣になった。

 しばらく通うと、神官が布が足りないと言っていたのを聞いた。

 それは身を清める程の真っ白な布だから中々確保が出来ないとの話だった。

 

 こんな外にも出られない人間が今後で誰かの役に立てるのか。

 そう思った彼女は、一度でいいから困ってる人の役に立とうと、姉同様の生活魔法の勉強を始めた。

 

 生活魔法の中でも、最も難しいとされるのが、縫い物だ。

 細かい魔力コントロールが一番に必要とされる点が難しさに繋がっている。

 しかも真っ白な布を作り上げると言う事は、相当な鍛錬がないと出来ない。

 下手をしたら防具を作るよりも難易度がある。


 しかし彼女は天才だった。

 独学で努力をし続けた結果で、防具のような強度を生み出せる縫い物が出来るようになったのだ。

 彼女は白い布を縫いあげるだけでなく、強い装備も作れる。


 火を通さない耐火性の布。

 鋭い刃でも傷が付かない服。

 強い日差しから肌を守る薄い服まで。


 様々なものを作った彼女だった。

 しかし白い布は難しかった。

 二年でこれほどの服を作れたのに、白い布は作れなかった。

 ただの白の布なら縫える。だがそれは身を清めるほどの白さではない。

 そこが難しい。

 教会の白い布は極上の白さじゃなければいけなかったのだ。

 だから研究に研究を重ねて、彼女は縫い続けた。 

 

 彼女がここまでの白さを出せるようになったのは、一年前。

 贈呈できるようになったのは半年前だ。


 そこからはずっと献上し続けて、今のセシオにまで繋がった。

 貢献してくれる彼女にセシオは。


 「素晴らしい布だ。貢献してくれる君に、願いはあるのかね」

 

 甘い誘惑にも聞こえたが、本音を話す場所が教会だったから素直に答えた。

 彼女は、両親に会いたいと言った。

 会えなくても声でもいいから、自分の耳に届けてくれるのかもしれないと思ったのだ。


 「そうか。ならば、作り続けてくれ。我々もその願いが叶うように祈り続けよう。その布を纏って欲しい・・・」


 聖なる布がもっとあれば、我々もあなたの願いを叶えるだろうと言ってきたのだ。

 それが本当か。嘘か。

 それはどっちでも良かった。

 両親の事も半分は無理だと思っていた。

 でも彼女が教会の為に働いたのは、誰かの役に立てるかもしれないからだった。

 学校に通ったのも、その技術を磨けると思ったからだ。

 アーケミアには、生活魔法に関する知識がある。

 その知識を得ようと、外の世界に飛び込めたのだ。

 

 

 ◇


 彼女の話を聞いた後。マリアンナは聞いた。


 「つまりあなたは、セシオ様を信頼していたわけじゃないんですね。ご両親の事でも・・・」

 「はい。戻ってこない・・・そんなのわかってますよ。失われた命が元に戻るなんて、そんなの神の奇跡です。両親の声を聞けるなんて無理ですよ。そうです。わかってました。わかっていたけど、教会に行く理由が欲しかったんです」


 分かっていても止められなかったんだ。

 苦しい胸の内を告白してくれてありがとうと、マリアンナは涙する彼女の肩に手を置いた。


 「・・・なるほど」


 マリアンナの背後からエリオンが言葉を吐き捨てる。


 「はっ。わかってたなら、理解しろ。死んだら最後だ。生き返るなんてない」

 「エリオンさん!」


 マリアンナは振り返ってキッと睨んだ。


 「聖女。お前も曖昧な言葉で人の心を誘導するなよ。そんなことしたらセシオと同じになるぞ。あいつらは、狂信者だ。自分が絶対に正しいと思う奴らだからな。危険なんだよ」

 「・・・それは」


 否定が出来ない。教会内に不和があるのは分かっていた。

 現教皇は信心深い人だけど、その下の大神官たちは違う。

 四人の大神官は、己の地位を確保するために、いがみ合っているのが見えていた。


 「いいか。そこのお前はダシに使われたんだよ」

 「・・・だ、ダシ?」

 「ああ。そのロザリオ。力を反転させられていた。魔物の吸い寄せの効果付きでな」

 「だ、だから・・・今がこの状況なんですか」


 聖女の結界の外は魔物だらけ。集まってるのが群れだから引き寄せられているのが分かる。


 「ここなら、こいつがモンスターに襲われて死んだことに出来る。それで死んだら誰も文句が言えないからな。事故で聖女を失いましたってな」


 聖女の死が事故だったり、誰かに殺されたりしたら、教会に責任が生まれるかもしれないが。

 モンスターに殺されてしまったとなれば、教会の責任は生まれない。

 そんな打算が向こう側にあるのが見え隠れする。

 エリオンはそこに苛立っていた。


 「・・じゃ。じゃあ。う、うちが・・・マリアンナ様を・・・追い込んだ!?」

 「ああそうだ」


 エリオンがハッキリ伝えるが。


 「エリオンさん!」


 聖女が怒る。マリアンナは彼女をかばいたかった。


 「ここでお前のせいだと言われない方が心苦しいぞ。こいつはそんなに馬鹿じゃないからあとからでも必ず気付く。そして気付いたら最後だ」

 「ですが」

 「駄目だ。聖女を追い込んだという罪の意識は認識しておいた方が良い。その上でどう動くかはこいつ次第。このまま教会に残るのもいいが、それ以上も出来る事を知っておけ。覚悟さえあれば、命には使い道がある」

 「「それ以上?」」


 エリオンの言葉に含みがある事は分かる。

 だけど何が言いたのかは、クレアには分からなかった。

 それは聖女マリアンナも同じだった。


 「まずはここからの脱出が重要だ。とりあえずどうするか。連絡も取れねえ」


 問題は窮地からの脱出。

 今いる場所も分からない彼らの打つ手は少なかったのである。

 

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