第9話 事件開始
二十日目。
本日はお待ちかねの行事。
ゲームで言えば2ターン目の出来事『ダンジョン見学』
実はゲームであれば、ここまでの道のりなんて一瞬に近い。
最速で動こうと思えば、一時間も掛からない内に到達できる。
なのに、今のオレは紆余曲折してからの曲折をした。
もう曲がりすぎてどこまで行ってるんだレベルの遠回りをしたんだ。
「それでは皆さん。こちらから入りますよ。ダンジョンは危険で一杯。気を引き締めましょう」
先生の引率で、1ーAも進む。
先生は、生活魔法の先生だが、後ろに1-Bもいるので、別に危険はないとの判断らしい。
「ブライン君。緊張するね」
「ガッチャン緊張してるの」
「うん。あ、でもそうか。一回入ってるんだね」
「まあね。あんまり緊張はないかな」
ジル兄さんが入れてくれたおかげで、何回も入ってるんだよね。こっそり・・・。
「ふわぁ、眠い。レイン、あーし寝るからさ。このまま連れてってくれ」
「えええ。ナオ! ボクの服引っ張らないでよ」
目を瞑るナオは、レインの服を引っ張る事で眠りながら歩こうとした。
「いいじゃねえか。減るもんじゃねえし」
「伸びちゃうよ」
二人は仲良し。ここ最近は普通の友達に見える事がしばしば。
「ガッチャン。これってどこまでいくの?」
「うん。二階層だったかな。一階層を地図通りに進んで、二階層の入り口で止まるはずだよ。ここからは君たちが進むんだよってな感じで終わるらしいよ」
「へえ」
なるほどな。一階層はチュートリアルって事だな。
「まあ、モンスターの出も悪いから、そんなに緊張する事ないよね。魔族を倒してるメンバーだし」
オレ。ナオ。レイン。
この三名は魔族を倒したメンバーである。
この程度の魔物では余裕だろうと、ガラシア君の視線だけじゃなくて、クラスメイトの視線はこっちに向いていた。
「まあ。緊張感が出るようなモンスターは普通は来ないもんな」
学生ダンジョンでイレギュラーが発生する割合は、1%もない。
しかも若い階層なら、イレギュラーはないと断言できる。
あんなにゲームをしても、そんな事は起きた事がないからね。
「地図覚えておこう」
そういってガラシア君は真面目に地図を書いていた。
ガラシア君は、できる事を少しずつやろうとする努力の子である。
◇
学生ダンジョン10階層。
ローブを着用している男性は、暢気な女性の横にいた。
「学生に教えるんだ。最低でもこの階層を余裕で突破するくらいの実力は欲しいな。あんたはどの程度の実力者なんだ」
「わっち? んんん。わかんないだお。誰かと比べた事がないんだぁ」
「ちっ。大丈夫かこいつ」
暢気な女性に悪態をつく男性は学年主任のオラシオン・カンパネラ。
隣にいる女性シャオリン・ジンセの実力を見るために、彼女のダンジョン踏破に同行している。
「獲物がねえようだが、あんたは格闘家か」
学生には出来るだけ丁寧に接しているオラシオン。
同僚や同格の相手には、対応が荒い。
「まあ・・・武闘家だお」
「なんで曖昧なんだ?」
黄龍麒麟拳は武闘家の分類に入るが、特殊形態の舞踊に近い性質もある。攻防の際の流れる動きはまるで踊りのようであるので舞踏家でもおかしくない。
「あ。出たお。あれをわっちが倒せばいいんだお」
「おい。あんたに取っちゃ最悪の魔物じゃねえか」
オラシオンとシャオリンの前に現れたのは、ボックススライム。
四角い箱形態のスライムで、魔法防御力も上がり、魔法が通りにくい。さらに、刺突系の武器に若干の耐性があるスライムなので、武器類で倒すにも時間が掛るモンスターとなっている。
ちなみに、当たり前だが打撃系は無効だ。
「ほい」
モンスターに触れるもなにも、軽く拳を前に突き出すだけに終わった。
「何してんだ?」
「倒したお」
「は? 生きてんじゃねえか」
「ううん。撃ち抜いたお。コアって奴」
「馬鹿な。あ・・・マジか」
ボックススライムの中心点に穴が開いていた。
コアが無くなり、消滅していく。
「おいおいおい。あんた今・・・」
「群れも倒すんだお?」
「あ。ああ。やってみてくれ」
ボックススライムがどんどん登場してくる。合計8体が出てきた。
「ふぅ!」
短く息を吐いて、構えを作る。
黄金の闘気を身に纏い、右手に集中。
「黄龍麒麟拳。黄龍・龍鷹爪」
目にも留まらぬ速さの拳の正拳突き。
その拳が届かぬ距離での攻撃である。
「は?」
さすが一学年の主任の先生オラシオン。そこはしっかり見えていた。彼女の拳から黄金の闘気の欠片が飛び出し、敵のコアを撃ち抜く姿をだ。
「ほいほいほいほい」
連打で、敵を次々と倒していく。
敵を想定して、型を練習する人にしか見えないのに、実際は敵をボコボコにしている。
そのギャップに驚愕する。
「なんてことだ。あんた、化け物か」
「え? わっちが?」
「ああ。敵に触れずに打撃系の人間が、ボックススライムを倒すのか」
「わっちは化け物じゃない。爺様なら化け物だお」
「げ。その爺さんはあんたよりも上なのか」
「うん」
「どんな化け物なんだ。その爺さんはよ。あのクソジジイなんかよりはるかに強いのか」
オラシオンは、ある人物を頭に思い浮かべながら、まだ見ぬ人物の強さを想像していた。
「まだ進むんだお?」
「あ。ああ。一応な。あんたがこの階層をどう進むか見るよ。ほぼ意味ないけどな」
この女性は確実に強い。この階層程度では止まらないだろう。
実力を認めてはいるが、一応採用試験みたいなものだから、規定はクリアさせなければと思ったオラシオンだった。
「わかったお。倒していくんだお! ほらほらほら」
余裕のシャオリンは、次々にモンスターを撃破していった。
◇
学生ダンジョン1-Cの番。
聖女候補マリアンナは、真っ直ぐ前を向いて堂々としていた。
そばには二人。
隣の席のクレア。それと授業のパートナーになりやすい少年のエリオンがいた。
「ここがダンジョン。少し暗い場所ですね」
「・・・・そうだな」
背後にいる少年が答えてくれた。
「エリオンさん。いつの間に」
「裏にいた・・」
「あ。そうですか」
とっつきにくい少年なので、マリアンナは難しい表情をしていた。
そして隣の女性も気になる。
「・・・神様。どうか無事に終わりますように・・・」
信心深い彼女は神に祈りを捧げていた。
「クレアさん。お祈りですか。聖教会に通ってらっしゃったのですね」
「・・ふあ!? は、はひ」
「なにもそんなに驚かなくても・・・」
前途多難なダンジョン見学だと、マリアンナは思った。
◇
学生ダンジョン中盤。
ダンジョン一階層は、わざと広い作りになっている。それは、慣れを生みだすためだ。
学生だと、戦闘その者に不慣れな者が多い。
だからせめてダンジョンの移動には慣れてもらおうという意図がある。
動き方を学んでもらい。その後は戦いの方に慣れてもらう。二階層からモンスターの出現率が上がるのはその為だ。
「・・・・そのロザリオ」
ふと気になったマリアンナは隣にいる彼女に聞いた。
「少し見せてもらいますか?」
「・・・ふぇ? こ、これを・・・ですか」
「はい」
ロザリオの十字架の部分をずっと握って祈っていた彼女は手を離した。
「これは・・・聖教会のものじゃありませんね」
「え? でもセ・・・」
セシオ様から貰った物とは言えなかったので、言葉を飲み込んだ。
「それに変です。ここから、魔の力を・・・それも邪悪な・・・」
後ろを歩いていたエリオンが二人に並んだ。
「・・・・!?」
目がカッと見開く。
「離れろ。聖女」
「え!?」
エリオンの方が先にロザリオから闇の波動を感じた。
一瞬見て、マリアンナの肩を抱いて、距離を取ろうとしたが時すでに遅し。
十字架から広がる闇に飲み込まれていく。
遅れて闇を感じ取ったマリアンナは、彼女の十字架から広がる闇に悪意も感じ取った。
「こ、これは・・・闇の転移。光で反応を」
「それはやめろ。対衝突する」
「え?」
「聖女。大人しく飲み込まれるしかない。俺もいく」
「え、エリオンさん?」
「守護はするから。転移先で生き延びるしかない。聖女、気を引き締めろ」
「え、は、はい!?」
こんなにしゃべる人なのと思った彼女は、既に一階層にはいなかった。
聖女失踪事件が始まった。




