第5話 天才?
16日目の放課後。
体育館の裏側の空いたスペースにて。
シャオリンとの久しぶりの修行になった。
「ブライン。しばらくいなかったけど、どこにいたのだお?」
「ちょっと故郷にいました」
「修行サボり?」
「いえいえ。ちゃんと修行は続けてますって。ほら」
「お! ホントだお」
オレの龍麒は洗練され始めた。
習い始めて十日も経たずで、龍麒の消費MPは一分で5となる。
死にかけるような戦いを経験して大幅な熟練ポイントを得たので、もしかしたら黄龍麒麟拳の熟練度も大幅にもらえているらしい。
技の効率化が始まってるって事は、慣れ始めてるって事だ。
出来事が危険であればあるほど、ブラインの成長は大きいのかもしれない。
これがオレの予想じゃなくて、本当の事だったら、今までが体験した事のないイベントの数々だったから、オレはもっともっと爆発的な成長をするのかもしれないぞ。
今後も予想のつかない出来事は降りかかってくるだろう。
十日も経たずして原作以上の出来事が来てるからね。
「わっちの時よりも龍麒の習得が早いんだお」
「そうですか?」
「うん。これなら、他のを勉強してもいいかもしれない。とりあえず、二、三やってみるかお?」
「ええ。やってみましょう」
黄龍麒麟拳の技習得のターンとなった。
ポイントが312もあるから、だいぶ習得できるぞ。
ほとんどを学べるんじゃないかな。
技一個が大体10くらいだからな。
でも最初は威力が弱いんだよな。
マスターするまで使い続けないといけないしさ。
「それじゃ、やるかお! 組手形式で、技を出していくんだお」
手取り足取り教えない。
実戦で学べ。
シャオリンとの組手稽古は夜まで続いた。
◇
翌日。
謎の呼び出しを受けたために職員室にいる。
先生のそばには宙に浮かぶ編み物が自動で編みこまれているが、先生本体はオレの方に体を向けている。
編み物を見なくても編めるらしい。凄いな生活魔法!
「ブライン君」
「はい」
「君は問題児さんなの?」
「え? オレが?」
「うん。あのね。誰か知らない人と一緒にいたって話があったわ」
「知らない人?」
あ。まさか。シャオリンか。
「ええ。学校裏で殴り合ってるって通報があったわ。不良生徒なの?」
「ま。まあ。それは本当の事ですが、不良ではないですね」
一部正しいご指摘だ。
殴り合って覚えろ精神の人だからな。
シャオリンがさ。
「喧嘩? ちょっとそれは勘弁してほしいわ。私、生活魔法の先生よ。仲裁なんてできません」
「いいえ。それは喧嘩じゃなくてですね。その人、オレの師です」
「師?」
「はい。拳法の先生ですね」
「なぁんだ。じゃあ、外部の人との喧嘩じゃないのね」
「はい」
そう思われてたのか。心外だな。
「それなら、その人に外部講師の許可証をもらいなさいって言っておいて」
「え? どういうことです?」
「あのね。こういう感じの」
先生が魔法で物を書き始めた。
ペンが自由に動いて紙に記していく。
腕に巻く腕章の絵が描いてある。黄色い腕章だ。
「腕章をもらうの。そしたらその人も学校関係者って見られるわ。特別講師の人に着けてもらうものよ」
「へえ・・・ああ。なるほど」
オレは思い出した。
そういえばたまに教えてくれる先生に、この黄色い腕章のイメージがある。
特別学習って言う授業の時の先生だ。
「あとで、あなたとその人で、ここに来て。私も主任にもらえるように言うから」
「ありがとうございます」
先生の許可があれば、シャオリンも自由に学校に来られるのか。
なるほどな。知らなかった。ゲーム時代でも言われたことが無かったからな。
というか。便利じゃね。生活魔法。編み物が止まらないね。
「先生。この編み物って・・・魔法ですか?」
「ええ。そうよ。あんまり得意じゃないんだけどね」
「そうなんですか」
器用に編んでいる気がするんだけど。
これでも上手く出来ていないらしい。
「私の生活魔法は、こっち系じゃないから。洗濯や掃除系だからね」
「へえ」
洗濯や掃除ね。
綺麗好きって事かな。
「こっちはね。妹が得意なの」
先生は宙に浮かぶ編み物を指差した。
「妹さんがですか?」
「ええ。学校にも通ってるわ。1-Cでね」
「え!? オレと同学年だったんですか」
「ええ。でもまああの子は、お友達も出来にくいでしょうね。出来てくれると嬉しいと思って、学校に入れてみたけど。はぁ」
友達が出来ないって、何か性格に問題があるのか?
お姉さんがこんなに心配するってよほどの事だよな。
「どんな子なんです?」
「んんんん。変な子?」
「え?」
「裁縫好きの変な子」
「それはお姉さんが言う事なんですか」
「まあ、姉であっても擁護できないって事ですね」
「そうなんですか?」
「そういう事なのよ」
いつも笑顔の先生も、家族で苦労しているらしい。
妹さんの話をしている時は、顔が終始明るくはならなかった。
オレはこの顔を見た気がする。なんだか気になったけど、先生の話は終わりに向かっていた。
「じゃあ、ブライン君。その人にちゃんと教えておいてね。腕章もらいなさいよ」
「はい。そうします」
職員室から離れると、オレは考え事をしながら廊下を歩いていった。
◇
えっと、先生の苗字がミカヅキだから、〇〇・ミカヅキって事だよな。
そんな子いたっけ?
オレのTier表には名前がないな。
2Fの職員室から廊下を歩く。そこは、学年の教室は無く、特別教室群である。
理科室みたいな魔法研究室。めっちゃ熱そうな炉の部屋。ミシンもどきがある裁縫室。
あとは、生活魔法を学ぶ場所っぽい。料理。洗濯。掃除の部屋がある。
この世界には、洗濯屋さんや掃除屋さんって言う職業もある。それはまあ想像が出来る。現実の日本にだってあるからね。
意外と想像はしやすい部類だ。
ただし、人間がごしごし洗うんじゃなくて、人間の魔法で綺麗にする事が仕事だ。
豆知識だけど、この職業意外と儲ける事が出来るんだ。
生活魔法は効率と燃費が良い。消費MPが少なくて1回の動作で1の消費となってる。
これは、1回の頭のイメージと捉えていいので。
たとえばコップを洗う。水気を飛ばす。乾燥させる。除菌する。
これらのイメージを一回で行なえば、消費MP1だけでこの行動をとってくれる。しかも、対象物は複数にも広げる事が可能なので、一度に多くのものを洗えてしまう。
だからベテランの生活魔法の使い手だと、結構な額を一日で稼げてしまえるのだ。
たぶん先生もそっち方面で働いていたら、かなりの金銭を稼いでいたのだと思う。
「ん?」
特別教室のドアの隙間が開いていた。
中が見える。
「へへへへへ・・・もうすぐ・・・・へへへへへ」
影の薄い子が、ぶつぶつ呟いていた。
「これをこうして・・・これもこう・・・あとはこっちを・・・」
何をしているのかが、気になったから、隙間を少し開けて覗いてみた。
「ここが変・・・・縫い直して・・・・解かないと・・・」
影の薄い女の子が、空中に複数の縫い物を並べていた。
一度に十個以上。頭の中がどうなってんだ。
ゲーム時代、三つくらいを浮かばせて編んでる人は見たことがあったけど、この数は初めて見た。
「で、出来た。こっちは・・・ああ、まだだ・・・」
一つ完成。二つ目がまだだと彼女は手直しを始めた。
「ちょっと君」
「ふぅぇええああああああ」
驚き方が独特。ビックリし過ぎて、ひっくり返った。
スカートじゃなくてよかったね。パンツ見えるよ。そんなにひっくり返ったらさ。
「は・・・はぇえぇぇぇぇぇ。だ。だだだ。誰」
「ごめん驚かせちゃったか。オレ、ブライン。君は?」
「ぎゃあああああ」
会話も出来ずに彼女は叫び声をあげてどこかへ走っていった。
特別教室に残されたオレと縫い物。
魔法の主を失ったと思った縫い物はそのまま落下していくものだと、オレは思ったのだが、この空中にある縫い物は縫われ続けている。
主がそばにいなくても、服を完成させようと自動で動いているのだ。
「・・・え、遠隔?!」
自立式遠隔魔法?
あの子、とんでもない魔法使いなのか。
これはどうやって機能させてるんだ。離れても魔力操作って出来るものなのか。
天才を見つけてしまったオレであった。




