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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
聖女の始まり

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第1話 帰還

 「若様! ご無事ですか!!」


 天幕でスヤスヤと寝ていたマリンさん。

 静かに眠っていたはずの彼女が急に全部を投げ飛ばして起き上がった。

 枕も掛布団も全部が吹き飛んだ。

 

 「お、マリンさん。起きましたか」


 マリンさんの額に置いていた熱冷ましのタオルを交換していたオレは彼女の起き上がり方に内心ビックリしていた。

 タオルを水につけ直して絞り切る。


 「マリンさん、熱があるみたいなんでちょっと冷やしましょうね。ゆっくりしてください」


 彼女の肩に手を置いて横にさせる。ゆっくりしてもらおう。

 

 「え。ま、まさか。若様が私の看病を」

 「当然ですよ。他の人にはさせられません。オレのメイドさんですからね」

 

 人間の世話をエルフにやらせるわけにはいかないので、オレがやるしかなかった。

 マリンさんの熱は、スキルの限界までの使用による反動だと思う。とんでもない大技だったから無理したんだろう。

 オレの体の痛みと同じ感覚だと思う。


 「申し訳ありません。私の方が若様に迷惑をかけるとは」

 「いえいえ。とんでもない。いつものお礼だと思って、甘んじて受け入れてください」

 「ありがとうございます。若様。この恩は一生忘れません」

 「いやいやいや。そんな大層な事じゃないですって」


 ただ熱冷ましのタオルを用意してるだけなんだ。そこまで恐縮されたくないし。

 それに風邪じゃないんだし、すぐに良くなるしさ。


 「若様・・・申し訳ありません。こんなことまで」


 冷えたタオルを彼女の額に置いた。


 「うんうん。疲れたんですよ。とんでもないスキルを使いましたからね。あれなんです?」


 そうなんだよ。あれ、なんなんだ?

 オレも知らねえスキルだったんだけど。


 「魔笛です。魔物にのみ効果がある笛の音ですね」

 「やっぱり。そういうことでしたか」

 「はい。通常の音よりも難しいので、疲れも異様に出ます」

 「あんな大きなのを相手にしても使えるんですね?」

 「はい。大型の魔物であればあるほど効果がありますね。体内で響く音の反響が大きくなりますので」

 「そうか。大型モンスターの体内でも鳴らせるのか」

 「ええ。内部で反響させて、耳でおかしくさせています。なので、耳の機能がないタイプの魔物には効果が薄いです。体内振動を強くしても最終的には耳が重要なので」

 「・・・なるほど」


 しかし、耳がないモンスターの方が少ない。

 ほとんどのモンスターに有効だな。ヤバいスキルがさ。

 

 そういえば、思い出したけど、マリンさんって終盤にいない時があるよな。

 たしか・・・その時はさ。


 『あなたはその程度の人でしたか。三年もの間。何をしていたのですか。あなたがその程度であるのなら、私は皆に知らせを出すため、永劫のお暇を頂きます』


 と言っていなくなるんだよな。

 120ターンが終わる時だから後半戦開始手前だ。

 ブラインの学校生活が終わり、領主として完全に動きだそうとする時に、消える時があるんだよ。

 今までの学校評価などが悪くて、三行半を突き付けて、彼女が消えるのかと思ったけど。

 もしかして、彼女からの信頼を勝ち得ていないと、いなくなるのか?

 これって、今のオレの人生だと、いなくならないって事でおっけ?

 それとも、今後のオレの動きが悪かったら、消える可能性はあるって事かな。

 これは気を付けておかないと駄目だな。

 

 「若様。一生忘れません。ありがとうございます」

 「いやいやいや、大袈裟だって」


 むしろこっちが助かったんだから、これくらい当然なんだけど。


 「ブライン!」

 

 天幕の扉が勢いよく開く。


 「うお。ビックリした。なんだ、リスベルか」

 「元気! 生きてる」

 「それはこっちのセリフだ。お前の方が危なかったぞ」


 倒れて気絶していたのはリスベルの方が長い。

 覚醒直後の反動が大きかったんだ。


 「うん。元気!」


 大丈夫そうだわ。心配して損したわ。


 「そうか。よかったね」

 「うん。ブラインは」

 「ああ。だいぶ動くよ。さっきまでは痛かったけどね」


 反動はオレにもあった。

 神の力を少し借りたからね。生身が弱すぎたから、痛みが結構あった。

 もう少しオレも強く・・・。

 あ、そうだ。それで強くで思い出した。

 熟練度を見てなかったよ。待てよ。どれどれ・・・。

 ステータス画面を調べれば、熟練度ポイントが分かるぞ。

 ん?


 『312』


 ・・・。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・。

 は?

 ちょっと待て。

 ついさっきまでは100ちょっとくらいだったよな。

 どうしてこうなった?

 マシューか。マシューのせいか。

 あの化け物を低レベル帯で突破したから、とんでもない熟練度が一気に入ったってわけか。

 どうすんのオレ。成長曲線おかしいんですけど。

 まだ12日だぞ。始まったばかりだぞ。

 1000ポイント近く稼いだよな。

 それって天才超えて、超天才になってない?


 ・・・ま、いっか。もらえるもんは貰っとくわ。


 今後は気にしない事に決めた。

 成長できるなら、何でもいいと思う事に決めたのである。


  

 「ねえねえ。あたしって巫女になったの?」


 なんで自分でわかんねえの? 

 変化あったよな。

 

 「なったよ。踊りに変化があったと思うんだけど・・・」

 「え。わかんないよ。踊ってもいつもと変わらないもん」


 舞の部分が神に捧げる神聖な踊りに変わるんだけど。

 基本が変わらないのかな。オレって芸術は・・・・。

 さすがに何にも分からないんだよな。


 「そうだ。鈴を出せるはずだ。神の鈴」

 「あたしが?」

 「ああ。巫女の能力で具現化するはずなんだけど」


 神の鈴があると、舞を強化できる。

 左右の手に一つずつ出せると一流の舞を舞えるってどこかで聞いた気がしたな。


 「ん!」


 彼女が手を前に出した。

 何も起きない。


 「ん!」


 もっと前に出した。

 何も起きない。


 「んんんんんん! ん!」


 手をバタバタとさせた。

 何も起きない。


 「出ない! ブライン。鈴なんて出ないよ」

 「まだまだだって事だね。神に祈りを捧げる踊りがまだ踊れていないって事だ」

 「えええ。でも、ブラインを強化したんだよね。あたし?」

 「したね。あれは、武闘神の力の片鱗だったはず」


 オレの動きが明らかに変わったからな。

 あいつの攻撃の方が速かったからさ。

 あれって本来は、先に攻撃されて負けてたんだよな。

 

 「そうなんだ。じゃあ、修練すれば、鈴も出せるのかな」

 「たぶんね。もっと神に踊りを捧げる事が出来れば、いけるんじゃないかな」

 「そうなんだ。じゃああたし、勉強しとくね。ブライン」

 「え?」

 「またブラインを強くしてあげる。今度はちゃんと強くしてあげるから!」

 「あ。うん。その時はお願いするよ」

 「うん。まかせて!」


 胸を叩いた彼女は、満面の笑みだった。

 いつかまた共闘しようね。

 その約束だと思う事にした。


 「それじゃあ、皆でパーティーしようよ。皆、野草パーティーの準備したんだ」

 「へ?」


 ここ壊滅したんだぞ。パーティー?

 いやいやいや、巨木三本がぶっ倒れている場所なんだけど。

 お祝いするよりは、鎮魂した方がいいんじゃないか。誰も死んでないけど木は死んだぞ。


 とオレの杞憂も意味がなく、エルフたちは皆とオレが無事であったことを祝い。

 ぶっ続けで喜び続けた。

 そしてその中では、オレがマシューを倒したんだと後世に伝えると言っていた。

 これは未来永劫のエルフに伝える。

 伝説の明星ブラインが、非業のマシューを撃破したと。

 って真顔で彼らは言っていた。

 やめてくれと伝えても、彼らは真剣な表情で無理と言う。

 だからそれ以上は禁止だと言えなかった。


 「どうなってんだエルフたちはさ・・・まあ、いっか。それより、今はこっちになるか。ガッチャンだわ。明日には戻って、決着を着けないと」


 ガッチャン借金問題。

 これが次のオレの課題だ。

 大切な仲間となるのは、エルフだけじゃない。

 オレにとっては、ガラシア君も重要なんだ。


 「戻らないとな。学校に・・・」



 ◇


 そして翌日の早朝。早めの移動をする。

 リミットタウンに朝方に到着すれば、学校の授業にも出られるだろう。


 別れの時。

 長とリスベルの二人が見送ってくれた。


 「それじゃ、ありがとう。長。リスベル。助かりました」

 「うむ。また来い。いつでもいいんだぞ」

 「はい」

 

 長は歓迎してくれると言った。


 「帰っちゃうの」

 「ああ」

 「もう少し・・」

 「駄目だよ。オレは学生だからね」

 「んんん。じゃあ、あたしも学生になる。ブライン、待ってて。一年後にそっちに行くから」

 「え!?」

 「絶対学生になるから。待っててね」

 「あ・・」


 返答に困ると、長が頷いた。了承しているようだ。


 「そっか。じゃあ、勉強を頑張らないとな。リスベル、学校には試験があるからね。長の言う事をちゃんと聞いて勉強をするようにね」

 「え!? べ、べべべ、勉強!?」


 今度はリスベルが驚いた。

 勉強なしで来ようとしてたんかい!


 「そうだぞ。娘よ。これからは、筆記の方の勉学にも励むのだ。ブラインと同じ高みに行きたかったらな」


 長は満足気に頷いた。

 娘もようやく勉強してくれるのかと、感慨深くなっているようだった。


 「ああああ・・・そうだったのねぇ・・・ふえええええ」


 やる気があっても、勉強だけは苦手なリスベルであった。


 

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