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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
まさかの災厄 非業のマシュー戦

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第9話 非業のマシュー ブラインとエルフたちの戦い

 「灯せエルフたち! 真っ暗闇の森を真昼間にするんだ!」


 明るめの森の中を走り、そして真っ暗な森の中に入る。

 この目の光の調整の最中に、とんでもない光を浴びせる。

 それも太陽を見つめたくらいの眩しさで、ここを照らすんだ。


 「どうだ。マシュー。目が潰れたか!」

 

 こっちに入り込んできた時はその姿を完全に捕らえる事が出来なかったが、ここら一帯が明るく照らされた事で、マシューの姿が見えた。

 こっちが仕掛けた光で、三つの顔の目が閉じている。

 

 「いまだ! みんな、最大火力でマシューの左右の目を潰せ」


 瞑っているとしても、目はそこにある。各々が最大火力で魔法や武器を放出した。

 飛び交う矢に。出の速い投石。轟音の炎。葉を斬る水流。様々な攻撃方法でマシューを追い込んだ。


 「ギャアアアアアアオオオオオオオオンン」


 苦しめられた末の鳴き声。

 攻撃の全てがクリーンヒットで決まった。

 

 「奴の目はどうなった。潰れたか?」


 皆をマシューの両脇に控えさせて、オレはマシューの正面に立つ。

 1VS1の形だ。

 これによって、マシューはオレだけを見るはずだ。

 その無事な真ん中の顔の目でな。


 「フシュゥウウウウ」


 大きな息を吐いた。

 目が潰れた事への怒りが真ん中の奴の顔に滲んでいる。


 「これでどうだ。龍麒」


 真っ暗闇に輝く黄金の闘気。

 誰がどこから見てもオレは目立つ。

 なんてたって輝いてるからね。


 「すぅぅうううう」


 思いっ切り吸った。これは無理くりザケロを出す気だ。

 集まっている光が弱いから、こいつは放出までのクールダウンを強引にこじ開ける気だ。

 オレに向かって正面に放ってくる気だ。

 

 「皆。いまだ。裏からいけ!」


 オレが奴の狙いになっている内に、マシューの背後を狙う。

 暗闇の中でも彼らは目星をつけている。一度魔法や攻撃を当てたから、こいつとの距離感は完璧なはずだ。エルフは本来距離感に優れている人たちが多い。

 だから、リスベルがドジなだけである。


 「尻尾だ。特に尻尾を斬ってくれ」


 ここからが肉弾戦の開始となった。


 「「「「おおおおおおお」」」」」


 暗闇の中で、エルフの一斉攻撃が始まっている。

 奴のブースターは尻尾。超巨大な妖狐の尻尾でもクルクルになった可愛らしい尻尾だ。


 「切り刻むぞ」「やれやれ」

 「こっちも斬る」「気をつけろ。尻尾も攻撃してくるみたいだ」


 暗闇の中で皆の声が聞こえる。

 懸命に斬ってくれているようだ。

 ん? まずい。


 「皆、離れろ。強引にザケロを放つ気だ。左の顔だ。そっちを向いてる」


 マシューの左の顔が後ろを振り向いた。

 目は潰れているから、攻撃位置が定かでない。

 だから逆に予測がつかない!


 「逃げろ。全体攻撃停止。皆、回避行動を優先!」


 炎のビームが出てきた。しかしオレの想像していた威力には程遠い。あれくらいならば人間でも可能な範囲の光線だ。

 やっぱり、次弾装填の準備が足りないんだ。

 でもあの火は・・・。


 「そうか。灯されたか」


 火を点ける意味での光線。

 辺りの木々に着火した火が松明のようになった。

 

 「若様。これで、敵は若様以外も標的にします」

 「ええ。そうです。そうなるとエルフの皆も危険に・・・」


 エルフたちに、ローリスクハイリターンで、攻撃を続けてもらいたかった。

 だからオレが囮になって勝負するはずだったんだけど。

 これだと、オレが龍麒になっても無意味になる。


 「では、ここは私にお任せを。若様。攪乱します」

 「え?」

 

 マリンさんがオレの前に立つ。

 アイテムボックスから、フルートを取り出した。


 「若様、三分敵を混乱させますので、エルフたちに指示を」

 「わかりました」

 「いきます。魔笛!」


 彼女がフルートを奏で始めた。

 息を吹き込んで、指を動かしている。なのに音が鳴っていない。

 オレの耳に、彼女が奏でるメロディが聞こえない。


 「ん? 何をして・・・あ!?」


 疑問に思った時には、マシューの首がのたうち回っていた。

 三つの顔が苦悶の表情で、そして三つの首がそれぞれに絡まりそうになっている。

 

 「苦しんでる? いや、錯乱状態? まさかマリンさんのそれって・・・」


 無音の様で音が出ているんだ。

 それも、モンスターのみが感知する音だ。


 「すげえ。こんな技があったのか・・・対モンスター戦で尋常じゃない効果を生むぞ。こんなの・・・」


 しかし、彼女の眉間にしわが寄って、額には脂汗が出てる。

 かなりの消耗をする技みたいだ。とっておきの必殺だったか。

 三分持たせてくれるって言ってるけど、それ以下かもしれない。

 

 「皆。今だ。首に注意しながら、尻尾を集中攻撃! いけえ」

 「「「おおおおおおお」」」


 マリンさんが稼いでくれる時間の間。どれだけ奴を削れるか。これが勝負所だ。


 肉弾戦の得意なエルフたちの総攻撃で、少しずつ尻尾が切れ始めた。端が取れそうになってから、真ん中あたりまでは時間が掛ったが、そこから先は一気にだった。


 「取れたぞ! ブライン。尻尾を取った」

 「了解。まだまだいける所まで裏を攻撃してください」

 

 エルフたちの総攻撃は続く。

 のたうち回るマシューは、全身をやみくもに動かしていた。

 纏わりつくようなエルフたちが邪魔だが、それよりも邪魔なのが音の方だろう。

 マリンさんが出す笛の音が、奴の感覚の全てを狂わせている。

 奴が、エルフたちに攻撃を当てられないのは彼女のおかげだ。

 

 「ぐっ。はぁはぁ」


 マリンさんの笛が地面に落ちた。

 息をやっと吸えたような感じの呼吸だ。


 「も、もうしわけありませ・・・ん・・・若様、げ、限界です・・・どうか。お逃げくだ・・・さ・・・い」


 気絶するまで技を展開してくれたんだ。

 倒れそうな彼女をオレが支える。


 「マリンさん!」

 「ほぅ・・・ふぅふぅ」


 弱いけど呼吸がある。よかった。

 でもマジで限界を超えてもやってくれていたんだ。

 三分やるつもりだったろうが、二分弱のスキル展開。

 それでも命を懸けてやってくれたわけだよ。

 すまない。マリンさん。

 君の忠誠心は、疑いようがないわ。ブラインを守る為なら全力なわけだ。


 「ブライン。動くよ。見て」


 後方待機していたはずのリスベルがオレの横に来た。

 心配で前に出てきたのだ。


 「ん? あ、あれはまずいか」


 三つの首が正常の位置にある。

 左右の顔の目は見えていないだろうが、真ん中は生きている。だからあれらが協力関係になれば・・・。


 左右の首がグルンと回って、後方を見た。

 エルフたちを捉えている。


 「やばい。皆。回避優先だ! さっきまでとは違うぞ。狙ってくる!」

 「「「うわあああ」」」「「「ぎゃああああ」」」


 狙いの定まるザケロの攻撃にエルフたちが吹き飛んでいく。

 しかし威力は最大限じゃない。

 あいつ、連発出来ないくせに、無理繰り出してるな。

 

 「なら、オレがいく。龍麒全開。こっちだぞ。デカブツ」


 マシューの顔の正面に飛び出すつもりで足に力を溜めた。

 奴の攻撃を掻い潜り、龍虎撃をぶっ放せば・・・。

 削れたHPに重ねた一撃だ。トドメを刺せるはず。


 「リスベル。マリンさんを頼む。オレが出る」

 「え・・・う、うん」


 マリンさんを任せて、オレは飛び出した。


 「おっしゃあ。気合い一発。ビビってたら死ぬだけだ。おおおおおおお」


 三つの首がそれぞれザケロの準備を始めた。

 右の首から先に攻撃に出てくる。それをギリギリで躱して、まだ前を行く。

 ここで下がったら負け。気持ちで下がりそうになっても、勇気で前に行く。


 「二発目も躱した。ここだ。いくぜ」


 左の首の攻撃を躱して、最後の中央の首の攻撃が来る。

 これにカウンターを合わせてと思ったら計算違いが生まれた。

 

 「あ。しまった。こいつ・・・・策士か」


 ここに到着してから、マシューの真ん中の顔はザケロを一発も放っていない。

 口の中に溜まっているエネルギーの輝きが桁違いだ。

 輝きが違う。

 って事は初速も・・・しまった。


 「嫌ああああああああ。それは駄目えええええええええ」


 ん!? 声の主はリスベルだ。一瞬だけ後ろを向くと、彼女が青い光を放っていた。

 全身から溢れ出るあの力は・・・まさしく伝説の力。


 「まさか。ここで覚醒したのか。リスベル!?」


 早すぎる。彼女の覚醒は少なくともこのタイミングじゃない・・・。

 でもあの青の力は覚醒の瞬間のだぞ。

 

 「神舞・武闘神」


 神に祈りを捧げ、神から力を借りる。

 武闘の神に願いを込めて舞う。

 彼女の舞は、オールステータスアップの舞で、一時神の力を借りる舞だ。

 

 「こ、こ・・これでオレが先に出れるってわけか」


 オレの龍麒の色が変わった。彼女の力のおかげで緑の闘気に変化する。


 「ザケロよりも先に動けえええ。オレの体!」


 放たれる前に、オレがマシューの中央の顔の鼻に乗った。

 

 「いけえ。黄龍麒麟拳。黄龍・龍虎撃!」


 オレの大技が飛び出し、そして奴の大技も飛び出す。


 「グアアアアアアアアアアア」


 敵のザケロとオレの技が同時に出た。

 つまり、大カウンターのタイミングとなった。


 「乗れ。お前の攻撃力もここにだ! そんで運も乗ってくれ。龍虎撃!」

 

 奴の攻撃力を上乗せ出来た龍虎撃が発動。

 更にオレの運の力も発動しろと願う。

 クリティカルでこいつに入れば、皆で削ったHPがあるから、こいつの命ごと削りきれるはずだ。


 倒せ。オレ。倒すしかないんだ。オレ!


 ここしかチャンスはねえ。

 覚醒したばかりのリスベルは、おそらくこの戦闘じゃ再起不能だ。

 あの舞に全ての地かあを込めているはず。

 それに力が溢れた人は、その溢れた力に戸惑うからな。疲れも異常にあるはずだ。


 だから頼む。オレの運!

 作用しやがれ。ラッキーパンチだああああああ。


 「おりゃあああああああ。ぶっとべ。ケルベロスの首ごとだああああ!!!」

 

 全身全霊の龍虎撃が弾かれた。オレは中央の首筋にぶつけた両手が離れると同時に空中から放り出された。


 「ど。どうなった」


 ドサッと仰向けに倒れる。

 相手の姿が見えない。

 

 「ぶ、ブライン」

 「どうなりました! ハスィさん」

 

 ハスィさんの声が聞こえた。

 近況を教えてくれ。


 「倒したぞ。お前。あの伝説の・・・マシューをお前が倒しぞぉおおおおおお!」


 驚愕だと言っている彼の声に導かれ、重い体を起こしたオレの目に映ったのは。


 「え!? ど。感触はそんなじゃ・・お!」


 マシューの姿が消えかけている。

 倒れ込んでいる奴の顔はまだこちらを睨んではいるが、それは力尽きた最後の視線だった。

 オレへの恨みだろう。憎しみの目だ。


 「がはっ・・・口なんか切ってたのか。血が出たわ」


 オレの勝ちか?

 いや、死に物狂い過ぎて感触がなかったけど、オレたち全員で勝利を掴んだんだよな。


 「はははは・・・こんな序盤で・・・マジで、こんな化け物をかよ」


 力を合わせてやっとの思いで勝利を得た。

 ステータスだってまだまだ雑魚だぞオレ。

 でも、皆のおかげで勝ったんだな。

 助かったよ。エルフの皆。マリンさん。リスベル!


 誰一人欠けても、勝てなかったよ。

 ありがとう皆・・・。


 オレはここで気絶したらしい。ここからしばらくの記憶が無かった。


 

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