第8話 非業のマシュー エルフたちの奮闘
マシュー襲来事件。
ギランバニアの森にて。
災厄モンスターの一種である非業のマシューが、久方ぶりに森に登場した。
最初に発見したのは、エルフの里のノリオという青年だった。
彼は野草採取の探検のため、里から西の方面を進んでいた。
野草はエルフらの主食。食すのには訳があり、野草自体の成分を目的とはせずに、自然豊かな森の中で育つ野草が持つマナの摂取の方を目的としている。
森で作られる事になる上質なマナと、エルフらが持つ魔力との相性が非常に良いので、彼らは味を無視しても、積極的に摂取する事を心掛けているのだ。
それで、ノリオは自分が居住している東の木の住民が十分に食べられる分の野草を手に入れ、里に帰ろうとした時に南から異変を感じた。
地面から伝わる小刻みな震え。
最初は大型のモンスターでも出現したのかと思ったのだが、それは次第に大きな震えに変わり、大型モンスター以上の出現だと悟った。
これは森の緊急事態だと咄嗟に判断した彼は、背負っていた野草を捨てて、偵察に目的を切り替えた。
慎重に動いて、森の異変を感じる方向に移動した結果。
のそのそと動くマシューを発見。
目的もない行動をしていたようなので、マシューの動きはかなり遅い動きであったらしい。
歩くたびの振動は大きくても、動き的には大型モンスターの歩行くらいの速度だったようだ。
そこでノリオはじっくり観察。マシューの動きを予測した。
最近、界の深緑のモンスターの出が悪いと、エルフの護衛兵たちが言っていたのを思い出し、おそらくそれはマシューが出現していたために、界の深緑の奥に避難していたのではないかと推測が出来た。
マシューが、界の深緑付近を歩いていたから、里より南側のモンスターの出現率が悪く出ていたようなのだ。
ブラインたちが、10%の割合で出現するはずのアルレシオを発見するのに手間取った要因でもあった。
モンスターすらも恐れるモンスター。
それが災厄モンスターなのだ。
そして、ノリオはこの事態を教えようとした時に、しくじってしまった。
移動音を聞かれてしまったらしく、マシューが追跡行動を開始してしまったのだ。
その時の逃げ出す方向の音も拾われてしまったらしく、奴が人の気配を察知してしまった。
マシューは災厄なので、人に災いをもたらすという意味も含まれている。
狙いが人になりやすいのだ。
モンスターも軽く相手するのだが、真に相手するのは人と決まっている。
なので、ノリオの危機が里の危機となり、彼は急ぎ伝え戻ったのであった。
だが、これはノリオのせいではない。
いずれは里が発見され、いずれは襲われる運命だったのだ。
だから逆にノリオが発見してくれなければ、里は何も知らない間に、マシューからの強襲攻撃を受けていたのである。
エルフたちの全滅は不可避の運命であったのだ。
偶然の産物。そして偶然にもここには彼らの英雄の孫が訪問してくれていた。
◇
三つの巨木を破壊するために、そのそばにいる長の指示が飛んだ。
「来たぞ。奴だ。皆タイミングを合わせろ」
マシューが里周辺にあった木々をなぎ倒して、里に入り込んだ。
里の広場に出てくる。
「いけ! 魔法でなぎ倒せ」
魔法が出せる面子で、最大火力を生み出す。
巨木を切り倒した。
三本が内側に向かって倒れていくと、そこにはマシューの巨体がある事となった。
「グオオオオオオオオオオ」
完璧な流れで、巨木が倒れる事となった。
マシューの悲鳴が作戦の成功の合図だった。
背中に落ちている木が邪魔で、マシューは身動きが取れない。
「長! 退避してください。泉の方です」
「駄目だ。私もいく」
「いいえ。逃げている方を安心させてください。お嬢がブラインの方に行ってしまったので、向こうには統率者がいません」
「なんだと・・・バカ娘め!!」
巨木の伐採の準備に忙しかったために、長は娘の動向を逐一チェックできなかった。
まさかの戦闘方面に出ていると思わずであったのだ。
「長。お願いします。こっちはお任せを」
「わ、わかった。ハスィ。気をつけろ。いいな。ちゃんと移動させるのだぞ」
「はい。お任せください」
ここから戦闘行動は、逃走フェーズに進む。
ハスィ率いる俊足部隊が、マシューを界の深緑に連れていく。
「皆、気を引き締めろ。マシューが出てくるぞ!」
◇
折り重なる木々が邪魔。
マシューは自分の背に乗った巨木を見てから、己の背中が傷ついている事に気付いた。
「ンンングアアアアアアアアアア」
三つの頭が怒り狂う。傷を背負うなど生まれてこの方味わったことのない出来事だった。左右の頭が後ろを振り向き。口の中に光線を蓄える。
マシューの必殺技『ザケロ』
これはマシューだけの技ではなく、大型モンスターが使える光線系の魔力放出技だ。
口や手からビームを放出できる。
しかしマシューの場合はこれが必殺技となる。
その理由は、首の特性に応じてザケロが変化するためだ。
マシューの場合は、三つの頭によって特色が変化する。
火。水。風。
この三種がマシューの得意性質で、頭によってビームの違いが出てくる。
今回のマシューは、左の顔が火。右の顔が風だった。
「ガアアアアアアアア」
最初に左から火を放ち、覆い被さった木を焼き。
次に右から風を巻き上げて、焼け焦げて軽くなった木を吹き飛ばした。
「さあ来い。お前の相手は俺たちだ」
マシューが立ち上がったのを見て、ハスィが自分の姿を見せる。
「お前の大好物の人間はここにいるぞ。追いかけてこい。マシュー!」
挑発から逃走開始。
ハスィとそれに近しい足の速さの部隊が、南に向かって逃げ始めた。
マシューの足の動きは速いには速いが、戦闘系の人間に比べるとそれほど速く走れるわけじゃない。短距離であれば走り負ける事はざらだ。ただし、長距離にめっぽう強く、一定の速度で走り続ける事が可能。
なので、足の遅い人間や、スタミナのない人間だと捕まってしまうのだが、今回逃走しているハスィの部隊は、そこを克服している面子だ。
ただし、彼らのプレッシャーは計り知れない。
背に災厄を背負う。
これは、足運びを一つ間違えただけで死だ。
死と隣り合わせの逃走の緊張感は、尋常じゃない疲労感を与える。
「こ、転ぶなよ皆。なんとしても皆で、界の深緑へ行くぞ。あとはブラインと皆がなんとかしてくれるはずだ」
エルフが信頼する光の守護者ブライン。
彼なら何とかしてくれるはずだと期待しているのだ。
「「「「おおおおおおおお」」」」
ハスィが後方を確認。
敵は追いかけてくるが、まだ後方。捕まるはずはない。だが、一つ気になる点を見つけた。
「まさか。走りながらも放出できるのか」
中央の顔が光る。ザケロの用意があった。
「来るぞ。ザケロだ! 躱せええ」
真っ直ぐ逃げていたハスィ部隊の面子は、左右に散りながら前へと進む。
するとちょうどビームが彼らが走っていた所を通過した。
「あ、危なかった。水のザケロか。それでこんなにも」
ハスィの前には新たな道が出来上がっていた。
元々道だったが、それは獣道で細い道だった。今、マシューが出したザケロによって何もない広い道に変わったのだ。
木々も草木も一挙に吹き飛んだ形である。
「皆、気をつけろ。また来るかもしれない」
「「「了解」」」
ザケロの威力上、同質の連発は出来ない。最大火力をすぐに放出は不可能なのだ。
体内の魔力を練り込んで放出するまでに時間が掛る。
先程の左右の顔で二発。今の一発で、最大火力三発分は放出した。
「くそ。また来たら危ないな。どうにかして急がなければ」
二回目の放出の前に界の深緑へ。
ハスィ部隊は逃走を急いだ。
◇
「ハスィ。見えたぞ」
先頭を走る誘導部隊の声が聞こえた。
「本当か。いけ。そのまま突っ込むぞ」
「了解」
界の深緑の入り口に到達。真っ暗な森の中に先頭が入り込む。
続いて、後ろを確認しながら走るハスィたちも入り込んだ。
「ブライン! 来たぞ。マシューを連れて来たぞ」
真っ暗闇の森を走り、味方に宣言すると、希望の光があちこちから見えた。
「ハスィさん。左右によけろ。今から光らせる」
ブラインの声が反撃の口火となった。




