第7話 非業のマシュー ブラインの作戦
マシュー。
リミットタウンの西『ギランバニアの森』で、節目の時に出現してくる可能性があるモンスター。
見た目は、巨大妖狐であるが、三つ首の顔が三つもあるという点で、ケルベロスにも似たモンスターだ。
出現した時代で、このモンスターを倒したとしても、どこかの時代でまた復活を成し遂げるから、妖狐だとも言われている。
そして、復活の時は人間が作り出す業から生み出されると伝承されているから、非業のマシューと呼ばれている。
「マシューがこのタイミング。ありえねえ」
マシューが出てくるタイミングは、リミットタウンが発展した頃。
最速が120ターン前後。最遅でも200ターンだ。
今は数値で行ったら2ターン目だぞ。
だから全然! まったくもって!
オレのリミットタウンでは絶対に出現しない。
ヤバいくらいに発展をしてないんだよ。
むしろ町とも言えないくらいに何もねえんだ。
それのどこに業が生まれるってんだよ。
業どころか、あの町には欲もねえわ。色もねえし。金もねえ。
人が少ないからさ!
「マシューですって。ど、どうしてあれが・・」
テルローさんも驚いていた。
「あの。お名前は?」
「え」
「それだけでいい。聞きたいです」
「マリアです」
「わかりました。それじゃあ」
とりあえず今は長の元に急ごう。
マリアさんって事だけ聞けたら、あとは学校でミルティアに聞けばいいや。
「長!」
最上階に上がろうとすると、長は降りてきていた。
さすがにこの事態は緊急だからな。
「ブライン。お前は逃げろ。我らでお前とリスベルが逃げ出せる時間を作る。子供たちを連れて、リミットタウンまで引いてくれ」
それは自分たち大人が犠牲になるから、オレに次世代を託すって事か。
「いいや。エルフたちだけであれは無理。協力しないと駄目です」
本来は、リミットタウンとエルフたちが総出で奴を迎え撃つ。
それも、エルフたちが引き寄せてくれて、リミットタウンで迎撃する形なんだ。
だから防衛戦争の一種として、非業のマシュー戦は組まれている。
奴は怪物。
通常の戦い方では、全滅は確実なんだ。
「協力なんて無駄だ。ブライン頼む。皆を逃がしてくれ」
「いいや。こっちも譲れない。ここで逃げてもですよ。奴はリミットタウンにも到達しますよ。ここを破壊したら、あっちにまで絶対に来るはずだ。それに、オレの町はもう町じゃない。町を守る壁もないのに、あそこに奴が来たら、皆おしまいだ、エルフたちが逃げ込んだって、そこで死ぬだけだ。その作戦は延命なだけなんだよ。長!」
だから、エルフの精鋭が必要なんだ。
あいつに対抗するには皆が生きてる今のタイミングだけだ。
「ぐっ・・・それはたしかに」
「だからここで倒す」
「なに? マシューを我々の手だけでだと」
「そうです!」
過去のマシュー戦ってのは、エルフだけで倒した事がないらしい。
協力があって初めて倒せたって話を、ゲーム時代に聞いた気がする。
ダイナガルト王国か。ロア王国のどっちかが、動き出してくれてエルフと共に討伐ってのが過去の歴史であったはずだ。
そんな一国家が協力してくれてやっと倒せるというのにだ。
リミットタウンのゲームでは、ブラインが単独で協力して、エルフと共に突破するという偉業を達成するんだ。
でもそれはゲーム時代の話で、しかも後半の話だよ。
それなのに、今はここで倒しきるしかないんだよ。
「長、オレに任せてほしい。そのために、一時的に足止めをしてください。ここで!」
「こんな場所で動きを止めろというのか」
「はい。ここを犠牲にして、皆を守るんですよ」
「ブライン、それはどうやるつもりだ」
「いったんですね。ここの中心地に奴を招いて三本の木を破壊。倒す方向をここにすれば、重なった木で奴を一時的に行動不能に出来るはずです。大きなダメージも入るはずだ」
奴のHPは驚異の100万越え。終盤に相応しい化け物モンスターの一体だ。
このゲームの敵って、人間だとバカ高いHPにはならないんだけど、モンスターだとかなりある。
耐久性を防御力に持っていくわけじゃなくて、HPに持っていくらしいんだ。
だからリミットタウンの防衛装備で、どんどん戦っていくわけなんだが、今回はそんな手が使えない。
人間の肉弾戦で倒しきるしかない。MMORPGで勝負するしかない。
「まさか。この家を犠牲にか」
「そうです! 人命第一の戦法です」
「・・・わかった、やってみよう」
家が無くなる苦渋の決断だろうが、命が無くなるよりはマシ。
オレの意見を聞いてくれた長は準備を始めてくれた。
家を壊す方向を間違えないように計算している。
そこでオレは別の作戦を立てる。
「みんな。聞いてくれ。戦闘が出来る人全員が、こっちに来てほしい」
エルフたちが頷いてくれる。
「いいかい。戦える人達で界の深緑まで逃げる。それ以外の人や子供たちは、反対方向の泉の方に行かせよう」
「「「「え?! 界の深緑に?!」」」」
戦う場所じゃないのはよく分かる。
でもあそこで戦うからこそこっちが有利になるはずだ。
「全員で先に移動。足の速い人は・・・えっと、レンジャータイプのエルフは、奴をそこまで引っ張ってきて欲しい。罠にかけたいんです」
色々な人が質問すると混乱するからと、代表的な人物として聞いてくれたのが、エルフの護衛長『ハスィ・アンサン』だ。
「ブラインよ。それは、俺たちで倒しきる為なんだな」
「はい。そうです。ハスィさん」
「わかった。その役目。俺が担おう。足は速いぞ」
「ありがとうございます。でも一人じゃなく、数人で対応してください。奴は一人でだと釣れないかもしれない」
「わかった。気を付ける」
マシューは、大勢を殺すために行動を起こすから、一人や二人じゃ追いかける事はしないはずだ。
「それじゃ、あとは奴の移動はハスィさんに任せて。皆で移動しながら行きます。界の深緑にいきます」
「「「了解」」」
◇
移動中。走りながら説明する。
「いいですか。界の深緑の真っ暗になった位置に、皆で潜みます」
ここでも何も反論せずに頷いてくれる。
やっぱり、オレがブラインだから、こんなに素直に信じてくれているらしい。
「奴が指定した位置に侵入したら、前方の人たちで強烈な光を作ります。火魔法でいいです。一気に点灯する感じで、敵の目を眩ませます」
暗闇から光を浴びせれば、いくら強いモンスターだって目が眩むはずだ。
「そしてそこからは本物の目を潰します。奴の左右の顔の目に目掛けて、魔法や武器をぶっ放します」
マシューは、ケルベロス型なので、顔が三つ。つまり目が六つあるのが、奴の強さ。死角がないから、どこから攻撃しても対応してくるから厄介なんだ。
だから、左右の顔にある目を潰せば、奴の視界は正面の顔の目だけになる。
「正面の顔だけになったら、オレが戦いますんで、皆は奴の後ろから攻撃をし続けてください」
と言ったら、隣から思わぬ声が聞こえてきた。
「ちょっと。それ危ないよ。ブラインが囮になるの? ダメダメ、危険だよ!」
「ああ。そうなんだ・・・ってなんでいるんだ!?」
リスベルが隣を並走していた。
オレの隣にはマリンさんがいると思ってたから、心臓が止まるくらいに驚いた。
「だってあたし戦えるよ」
「いやいやいや。逃げる方にいるべきだろ。君は!」
「どうして!」
「どうしても何もね。君はエルフの未来じゃないか」
次期族長だぞ。この子は!?
「うん。だからブラインと一緒に倒すんだもん」
「あのね・・・はぁ」
クソデカため息をついたら、マリンさんが反対方向の隣から声を掛けてくれた。
「若様。言い争っている場合じゃありませんよ。こうなると、長殿の位置にも泉の位置にも、どちらにもお返しするわけにもいきません」
「たしかに」
今逃げて移動しているルートを、真っ直ぐ後ろに行って引き返せば、必然的にマシューとかち会う。
それだともうこの子を連れていくしか選択肢がない。
「仕方ない。リスベルも来るんだ。でも後方にいるんだよ。君は支援型なんだから」
「うん」
隠れていてくれ。頼むぞ。
この子は将来のキーマンなんだから、のちに魔王がリミットタウンに来るってんなら、この子の巫女の能力は確実に必要なんだ。
こんな序盤で死んじゃいけない。最後まで生きていて欲しい子なんだわ。
「マリンさん、皆来てますか?」
「ええ。さすがは、エルフの精鋭たち。一糸も乱れていません」
「それはさすがですね」
「ええ」
というか、その精鋭と変わらない動きを見せてるあなたもどういう事なんでしょうか。
あなたの戦闘力も高すぎます。
「皆、そろそろ着くぞ。配置についてくれ」
界の深緑が見えた。
戦闘の準備はあの真っ暗な内部で行なう・・・。




