第6話 ターニングポイント
二日目。
アルレシオ捜索は早朝から始まり、無理なくゆったりとしたペースで往復を繰り返す。そこでアルレシオが出現するたびに戦うのだが、お昼を過ぎてもアイテムの方はゲットできなかった。
ご飯を食べて、一時間くらいの休息を取った後。
南下した先、界の深緑にて。
「若様。五体出ました」
「はい。了解です。それじゃあ、リスベル任せるよ」
リスベルに託す。
「うん。まかせて! 踊るね」
いつもと同じ手順で、オレたちは敵を突破。
今まで4%の壁が分厚かったのだが、この三体目にて。
「お! これは瞳だ」
「え。出たの!」
「ついに出ましたか。若様」
ようやく手に入れる事が出来た瞳は、深緑の色をしていた。
オレがゲーム時代に二回見たアルレシオの瞳ってのは真紅だったはずだ。
あれ? 失敗か?
手に取って、調べるコマンドをやってみると。
『アルレシオの瞳』
と出るには出るけれど、オレの中の記憶では真紅だから戸惑う。
色違いってあるのかな?
「どうしたのブライン?」
戸惑いが完全に表に出ていたらしい。オレの顔を覗きこんで来るリスベルが、心配そうな顔で聞いて来た。
「あ。ああ。とりあえずゲットしたから、これでなんとかなるよ。ありがとう。リスベル。マリンさん」
「うん。よかったね。ブライン」
彼女は明るく答えてくれて。
「当然でありますので、礼はいりません。若様」
マリンさんは、当たり前の話だとして、オレの感謝を受け入れてはくれなかった。
でも微かに笑顔なので嬉しそうだから気にしない事とした。
「さて。ゲットしたなら、学校に戻るか」
「えええ。もう帰っちゃうの」
「そりゃ学生だからね。早く戻らないとサボりみたいになるし」
「あと一日くらい泊まってもいいじゃん。予定はその予定だったでしょ」
「まあ。そうだね」
二日で終わる予定ではなく、三日の予定で組んでいたので、一日余った形になってしまった。
「里の皆もブラインが来てくれたから嬉しそうだったのに。あと一日くらい泊まってよ」
「う~ん・・・・いいのかな。迷惑にならない?」
「ならない」
「どうして?」
「ブラインだもん」
「なんでオレだとならないんだよ」
「ブラインだもん」
それじゃあ、理由がないのと同じだよ。
どういう事だ!?
「若様。どうしますか。お帰りになられるのなら、こちらから、北東に歩けばよろしいのですが?」
マリンさんが道案内をしようとしているけど。
「だめだめ。まだ里にいてよ」
リスベルが引き留めてくる。
腕を引っ張られて、肩から引っこ抜かれそう。
「う~ん。わかったわかった。もうちょっといるよ。それでいい?」
「うん!」
嬉しそうな顔のリスベルはオレの腕を離してくれた。
「それでいいかな。マリンさん」
「もちろんです。若様がお決めになられたことが絶対であります」
「ありがとう」
すげえ忠誠心なんですけど。
これはどうしてなんでしょうか。
これもクロノのおかげなのかな?
でもマリンさんって若いよな。
たぶんブラインと大きく離れていたとしても、十歳くらいだよな。
だとすると25、6歳だから、それでクロノのおかげはないか・・・。
ベテランならまだしもな。かなり若いからな。
「じゃあ。帰ろうよ。ブライン」
「うんそうしようか」
帰るのは君だけどね。
オレ的には、君の家に行くんだよ。
そこニュアンスが違うからさ。
◇
再びの大歓迎。
夜を迎える前から皆が準備し始めて、今度は外でのバーベキュー大会に変わるらしい。
色々な食材が並んでいた。
エルフたちがお祭り以外で、こんな風に集まる事はないらしい。
随分と皆が頑張ってくれている。
「んんん」
「どうしたのブライン?」
オレが長の家の窓から下を見ていたら、隣にリスベルが来た。
「いや、こんなに歓迎されても良いのかなってね。こんな大掛かりの準備って大変じゃん。皆の迷惑になってないかな? 急に来てるしさ」
そう、急な訪問だったのに、すぐに歓迎してくれるのは、大事にしてしまった感じがして心苦しい部分がある。
「なってない!」
「でもさ。総動員だよね。里の皆が出てきてないか?」
エルフたちがだいぶ集まってる気がした。
三本の木に住むエルフたちが全員集まってるかもしれない。
「うん。そうだよ。ブラインが来てくれたから、皆張り切ってるんだ」
「オレが来ただけでさ。何もこんな事しなくたっていいんじゃないか? いつも通りとかで良くないか?」
「いつもと同じは駄目だよ。ブラインは光なんだよ」
「ん? 光ってなに?」
「ブラインが生まれた時って、空が光に満ちた時なんだって」
「オレが生まれた時が?」
「うん。それはクロノの時と同じだって、お父さんが言っていた」
「祖父の時と?」
「うん。クロノが里と関わってくれたおかげで、あたしらはここに安定的に住めてるんだ」
それってどういう事だ?
ここに住んでいること自体、クロノが何かしたのか。
「光の運命に導かれた人間は、吉兆の兆し。幸運をもたらす者って言われてるんだよ」
「へえ、吉兆ね」
ブラインが幸運をもたらす?
いやいや、それはないだろう。
だってほとんどが死ぬんだぞ。
ブラインの運命って、むしろ死神を寄せ付けているような・・・。
ん、でもまあ、ちょっと考えると違うか。
ブラインが死んでも、結構周りの皆って生き残るエンドが多いか。
どのルートを選択しようと、反対側の人間はいくつか生き残るもんな。
それを幸運と呼んでいいか分からないけどね。
見ようによったら、人々を生かしてはいるのか。
「だから皆でおもてなし。ブラインを大切にするのは、ギランバニアの森のエルフたちの役目だもん」
「へえ。そうなんだ」
光ね。ブライン・レッドピックがね。
・・・・。明星ってのと同じ意味なのかな。
えっとそれってたしかミルティアがさ、なんか言っていたような気がする。
そうだ。ミルティアってどこの出身だ?
「リスベル」
「なに?」
「ミルティアって知ってる?」
「知らない」
「ここの出身じゃないのか」
エルフと言ったら、ここか。獣王国、ミルス帝国が出身だからな。
彼女はあっちの別大陸出身だったか。
「フルネームは?」
「ん・・・えっと。ミルティア・テルロー?」
「テルロー!?」
「知ってるの?」
「テルローは知ってる。えっとね。ほら、あそこ」
窓から下を覗いて、彼女はお皿を運んでいるダークエルフの女性を指差した。
「あの人がテルロー?」
「うん」
「あの人に子供っている?」
「知らないよ。いつも一人でいるから、話したことがあんまりない。儚げな人でね。優しいんだけど悲しそうな顔をしてる人」
「へえ。たしかに彼女に似ていると言えば似ているな。特に瞳がさ」
ミルティアの瞳は、翠玉色の右目と真紅の左目のオッドアイだ。
でも彼女は翠玉色の両目だね。
つまり彼女の目を継いだ可能性はあるね。
「ちょっと会ってくる」
「え。あの人に?」
「うん。降りるね」
気になる人物の知り合いの可能性は大だ。情報は得ておいた方が良い。
◇
「すみません」
声を掛けると、無視された。
背中越しだからだと思って正面に立つ。
するとビックリドッキリ、ダークエルフの美人さんだった。
それに彼女の母だとしたらもっと歳を行っているのかと思ったら、思った以上に若い。
そりゃ長命のエルフだから、若い期間が長いのか。
「あのすみません」
「あ。私ですか。す、すみません。ブライン様」
オレを無視した事を謝って来た。
気付かないだけだったんだから、そんなに恐縮しなくても。
「いえいえ。こっちが後ろから声を掛けちゃったからですよ。気にしないでください」
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます」
ペコペコ謝ってくれた。
「あの。お聞きしたい事があるんですけど」
「え!? 私に?」
「はい」
たしかに、驚いても顔の陰りが消えない。儚い表情が板についた女性だ。
「なんでしょうか? クロノ様のお孫様から私に?・・・」
「あの。ミルティアって知ってます?」
「知りません」
顔が変わった。この人の顔が、無になったぞ。これは何か知ってるな。
「そうですか?」
「はい」
「変ですね。学校にミルティア・テルローって子がいるんですが。あなたの親族じゃなくて?」
外堀から聞いてみよう。娘かと聞くよりも答えやすいはず。
「そんな人は知りません」
「その人、あなたの目とそっくりなんですけど」
「たまたまじゃないですか」
「ダークエルフだったんですけど」
「それはどこにでもいますよ」
「そうですか。知り合いじゃないのか」
絶対に何か知ってるな。
顔がほとんど動かねえ。感情を消してる。
「いやぁ、その人魔族に詳しくて、何か知ってたら話を聞きたかったんですけど。学校であんまり会えなくて。あなたが知り合いだったら、魔族の話を聞きたかったですよね」
「ま、魔族なんて知りません。私は、え・・・エルフですから」
「いや、別にあなたが知り合いだったらって話で、今聞いてるわけじゃなくてですね」
「そ、そうですか」
これ、この人も知ってるな。
ミルティアはあの魔人四天王の一人を知ってたんだぞ。
魔族についての知識が、かなりある人だ。
技も知ってたしな。
「それで、ミルティアとはどんな関係で? 娘ですか」
「それは・・・関係ありません」
簡単な引っ掛けじゃ、口が緩まないか。どうやって聞き出そう。
ここから思考加速で質問を考える時間を作ろうと思ったら、里の入り口から声が聞こえてきた。
かなり慌てている。
「みんな! ヤバい。マシューだ。あいつが出た! 避難しなきゃだめだ。もうすぐで来る。そ、そこまで来てるんだ。逃げろ!」
「「「「なに?!」」」」
緊急の一声で、エルフたちが一気に混乱した。
「このタイミングで、マシューだと!?」
出現タイミングにズレが生じてる。
オレはその出現タイミングに衝撃を受けていた。




