第5話 踊り子
泉から南へ、中間位置にはエルフの里があるが、こちらを無視して、更に南へ。
どんどん森を歩いていくと見えるのが、界の深緑。
日差しが入りやすい明るい森から徐々に色が濃くなっていき、深い緑になっていく。
日を通さぬ背の高い木々に、色の濃い緑のせいで、ここは真っ暗なんだ。
入口だとされるオレがいる場所も既に前が見えにくい。
「若様。これ以上はさすがに」
危険ですよの御忠告。
マリンさんって超優秀なメイドだよな。
原作の時から気になってたんだけど、この人何者なんだ?
「わかってます。引き返しますね」
「さすがです」
オレが判断を取ると、彼女は大人しく引き下がった。
ピタッとオレの背後について、守るようにして移動を補助する。
護衛のような動きをしているけど、本来はメイドだ。
こういう事を、バーランドさんも出来る。
もしかしてだが、レッドピック家の使用人ってとんでもない人たちなんじゃないのか?
ゲーム時代だと、そういうの考えた事もなかったけど、今の生身での視点だと気になるな。
優秀過ぎると思う。
「あ、待ってよ。あたしも~」
こっちはお気楽だ。警戒心の欠片もない。ただここが庭のような感じだからってのもあるだろう。
エルフにとって、ギランバニアの森は自由に行き来できる森だから、緊張感に欠けるのは仕方ない。
しばらく行き来して、モンスターとは出会ったがアルレシオには会えず。
四往復した辺りの道中。
「そういえば、こっち側に行くとモンスターが減りますよね」
オレが南を指差すと。
「そうですね。若様もお気付きに?」
「ええ。なんとなく。モンスター数が変だなって思ってました。出現数に偏りが出来てる気がしますね」
泉方面でモンスターが10出るとしたら、こっちの界の深緑方面は3くらいだ。
段々と南に下っていくと、出現率が悪くなっている。
「うん。こういう時は、何か出る時だよ」
「何かって?」
リスベルが木の棒を持って、木々や草木を叩いていく。遊びながら歩いていた。
「珍しいモンスターか。すんごい強いモンスター」
「そうなんだ。じゃあ、アルレシオも出る可能性があるのか」
「たぶん。珍しいもんね。あれ」
「ああ」
二つの地域での出現率が10%ほどで、他の地域だったら2、3%だからかなり低い方だ。
もしかして、出てくれる予兆なのかな。
「探してみましょう」
トライアングルを取り出して、マリンさんは音を鳴らす。
モンスターを索敵。
半径50メートル範囲のモンスターを選別。
種類は分からずとも大きさは分かるので、アルレシオがこの地域の最小モンスターであるから判別可能だ。
「ん? いますね」
「いましたか?」
「はい。小さな反応が三つ。右斜め前方。32mから少しずつ右に移動しています」
「索敵外にいきそうなんだ。それはまずいか」
近づくために走ろうと思ったが、ここで忘れていた事があった。
彼女に呼び止められて完全に思い出す。
「ブライン。駄目だよ。そぉっと近づかないと逃げちゃう」
リスベルが小声で言ってきた。
ここではまだ良いだろうと思うが、ちゃんとしている部分でもあるのでツッコむのはやめとこう。
「ああ。そうだったね。君にまかせてもいい?」
「うん。まかせてぇ」
なんでここから小声なのかは、オレにも分からないけど、彼女がここで重要だ。
◇
三人でそろりと近づく。忍び足。ゆっくり移動して、音を立てないようにしている。
だけど、草木の中を移動しているから、さすがにある程度の音は出てしまう。
そこで、アルレシオには聞こえない距離から聞こえてしまう距離の所。だいたい10m範囲圏内に入った瞬間に、彼女に全てを託した。
「あたしが・・・いくねぇ」
彼女は、小声で宣言してから、扇子を持つ。
チラッと扇子から顔を出して、目的のモンスターを確認。
そこから舞を始めた。
「乱・魅惑」
彼女のジョブは踊り子。技が舞踊となっている。戦闘系も多少あるようだが、彼女が得意とするのはサポート型の動き。
動きを止める踊りも持っている。
華麗さ。可憐さ。美しさ。
元気っ子な彼女とは思えない妖艶さも見える舞だ。
直接この目で見ると見惚れてしまう踊りをしている。
ちなみに、彼女の事をTier1としたのは、覚醒した際にとんでもない強さになるからでもある。
リミットタウンのキャラクターたちには、覚醒という能力上限突破の出来事が起きる時がある。
何かをきっかけにして、彼らの能力の蓋が外れて、真の力を発揮する時があるんだ。
リスベルが覚醒すると踊り子から、巫女へとジョブ変化する。
神へ祈りを捧げる神秘的な踊り子になるんだ。
この普段の感じからは信じられないんだけどね。
聖女と双璧を成す。この世界の神秘的な女性なんだよ。いちおう。これでも・・・。
マリンさんが耳打ちしてきた。
「止まりましたね」
アルレシオは見てしまった。彼女の華麗な踊りを・・・。
こうなると、モンスターであっても動きを止めてしまう。
彼女が舞う限り、目を離さずにはいられない。
「よし。ここでオレが」
アルレシオ三体に拳を使って連打。
クリティカル率は50%。とにかく連打すれば二分の一でクリティカル。
倒すには十分だ。
そしてオレの運で、なんとかしてこいつらから瞳を・・・。
「三体撃破! リスベルもういいよ」
「うん。はぁはぁ。ちょっと休憩・・・」
舞踊一回でも疲労は来る。
相手の目を釘付けにする踊りを舞うわけだからね。
「ありがとう。無理させたかな」
「ううん。まだ大丈夫。それよりどう? 出た?」
「駄目だね。他は出たけど、瞳じゃないや」
出たのは、アルレシオの角。
滋養強壮に良い奴で、薬になる角だ。
でもこれは良くても買取価格は1000Gだわ。
3500万まで絶対にいかないや・・・。
っつうかさ、この角一発で、オレの町の資産と同じなんですけど。
ヤバい。早く町の方を発展させたいんだけどね。
いかんせんそのイベントがまだ先だから、家以外の物を建てられねえんだよな。
自分の町を発展させたくて、ウズウズしてるんだけど、お預け状態はもう少し続くか。
「そうなんだ。でもさ、目当てのって滅多に出ないだよね?」
「うん。これは根気がいる。なんとかして三日以内に出さないと・・・」
「急ぎなんだ」
「オレ、言ったよね。友達に金がいるってさ」
「そうだっけ? 覚えてないや。ニシシシ」
この子は・・・。
なんでこんな感じなのに、族長の娘なんだよ。
まあ族長が心配するのも分かるわ。
「若様。折り返しますか?」
「そうですね。ゆっくりもう一回移動しましょう。リスベルも少し疲れていますから」
休息を兼ねた移動で、北を目指す。
これを数度繰り返せば、いつかは瞳が出るはずなんだ。
「あたし大丈夫だよ」
「駄目」
「え。いいよ。すぐに移動したって!」
「駄目なものは駄目」
「大丈夫だもん」
「いいか。リスベル。君はね。もう少し考えよう」
「え? なにを?」
この子はもう少し族長の娘として成長しないと駄目だ。
「いいかい。君がここで疲れたら、オレたちが戦う時に、上手く戦えなくなるでしょ。君は切り札的な動きなんだよ。わかる?」
「動きを止めるのが?」
「そう。マリンさんが、最初に敵を発見して、君が敵を止める。そしてオレがトドメを刺すんだけど、結局さ。オレはそんなに重要じゃなくて、君たち二人がいればできる事なんだ」
そうこの二人こそが作戦内で最も重要。
オレはただのラッキーボーイとして、アイテム出し係なだけなんだよ。
「だからね。君がいざって時に疲れてたら駄目なわけ。アルレシオが出てきても君たちがいないと逃がしちゃうでしょ。わかる?」
「あ・・・そっか。うん。大人しくしてる」
しょぼんとなって肩を落とした彼女は、大人しくついて来てくれた。
とりあえずオレの言いたい事は伝わったらしい。
一時でも反省してくれたようだ。
ここから初日の成果は無し。
合計で30体ほどを倒したが、さすがに瞳は手に入れられず。
角や爪などが手に入っただけで留まる。でもこれを売ればだいぶいい値段がつくから、ここまで協力してくれたリスベルにも何かお礼を渡せるくらいの金額は稼げたと思う。
今晩の宿はエルフの里の長の家。
口では線引きが重要だと言っていた長だったが、大歓迎のムードを崩さずに、凄い豪華な食事を出してくれた。
甘々な人である。
それに口では仲が良いのは駄目なんだと言ってるエルフたちも、オレが来た事に感付いていたらしく、皆が長の家の近くで待機していて、結局は大宴会になった。
だから改めてオレは、レッドピック家とエルフたちには強い絆があると思った。
ブラインの事が可愛くてしょうがない。
だってクロノの孫なんだから。
って言う文言が各所から聞こえてきた気がした。
クロノってどんな人だったんだろう。
リミットタウンを普通にプレイしていると知り得なくて。
ちょっとした裏ルートで、若干知る事が出来る人なんだけど。
どうしても気になった。
ブラインみたいな前向きで明るい人だったんだろうか。
面倒見がいいとか?
それともエルフたちの恩人だとか?
まあ、でもそれはいいとして。
オレはこの人たちも死なせたくないな。
彼らの運命は、オレが生き抜く事で、回避できるはずだ。
共に生きるんだ。こんなに良い人たちなんだからさ。




