第4話 エルフの里
エルフの里。
ここは、森の中の木々をいくつか切り倒して、自然と一体になった施設が多く建ち並ぶ区域。
超巨大な木をくりぬいて家を作っているので、自然と運命共同体の部落でもある。
三本の大樹の中にエルフたちがそれぞれで住んでいる。
族長の家は、その中で一番立派な木の最上階だ。
オレはそこにマリンさんと一緒に入った。
族長と三人での会話となる。
「ブライン大きくなったな。クロノの葬式以来か。久しぶりだな」
どうやら、ブラインの祖父のお葬式以来で会ってるらしい。
「はい。族長さん。お久しぶりです」
イシュベル・ウインド。
リスベルの父で、エルフたちの長。筋骨隆々のエルフなので、肉弾戦タイプのエルフだ。
エルフは魔力特化型と肉弾戦型にタイプが別れている。
学校にいたダークエルフのミルティアのような万能タイプの方が珍しい。
ちなみに、ここの人たちは肉弾戦型が多く、魔力特化型の人の割合は少ない。
噂に聞くと獣王国のエルフは魔力特化型が多いと聞く。
「今頃何しに来たんだ?・・・私はいつでも歓迎だと言っていたはずだぞ。ここまで一向に来なかったのに、今来るとはどういう風の吹き回しだ」
これは、言い換えると。もっと遊びに来いってことを言ってるんだな。
ブラインのお爺さんと、よほど仲が良かったんだな。
「はい。どうしても、やらねばならない事が出来まして。ここの森の探索をしてもいいですか?」
「森の?」
「はい。エルフたちの許可が欲しいのです。自由にウロウロしたいので、その時にオレの存在が気になるかと思いまして」
「・・・・んん。どこらへんを回る気だ? 場所によっては危険だぞ」
「ホルエの泉と、界の深緑の間です」
会ってからずっと腕組みを崩さない族長が、オレの事を見て、マリンさんを見た。
「たった二人でか? まあマリンがいるから、心配する必要はなさそうだが・・・しかし二人か」
マリンさんを随分信頼してるんだな。
「はい。基本は二人で行動します。だけど許可をもらえるなら、リスベルも」
「娘もか」
「はい」
「まあ、あんなのが役に立つとは思わんぞ。元気だけが取り柄だからな」
「はい大丈夫です」
「そうか? 不安だな。こちらからブラインに助けを出す。それが護衛長なら良いのだが、送り出すのがあれだと思うと・・・なぁ。不安だ」
族長は、娘の事が大好きではあるが、実力をあまり信用していない。
彼女の本来の力は、高めの能力であるのだが、性格に問題がある。
彼女は、おっちょこちょいなんだ。
ドジを結構な範囲でしてしまい、エルフたちも迷惑を被っている。
それと、彼女が族長の娘だから皆あまり文句も言えないし、それに彼女が底抜けに明るい子で良い子だから、怒るに怒れないのが、エルフの里にいるエルフたちの悩みの種である。
「大丈夫です。オレがなんとかしますので」
「そうか。ブラインがそういうならな・・・承諾せざるを得ないな」
と渋々承諾をしてくれそうになったら、部屋の扉が開いた。元気っ子が元気なままでいる。
「お父さん! 酷い。あたしだってやればできるもん」
話を盗み聞きしていた。
「聞いてたのかリスベル。ドジの癖に抜け目ないな」
「だって、ブラインが来てくれたのに。お父さんだけが会話するなんてズルい。あたしも入~れ~て!」
「これは族長としての挨拶の儀礼みたいなものだ。家族間の付き合いの話じゃない。立場の問題だ」
族長は色々と線引きをしてくれていたらしい。
オレがちゃんとした族長挨拶をしておけば、周りのエルフたちの溜飲が下がると言う考えだ。
エルフと人は慣れ合わないのが基本路線だからの配慮だ。
「あたしたちとブラインは家族だもんね! そんなの別にいいじゃん」
「それはそうだ。でも私は族長でもあるからな。面子を保たねばならんのだ。人間をおいそれと里に招いては示しがつかん」
ここでの出来事は、族長としての立場を優先させただけだと言っているんだ。
ということは、家族としてもブラインを大切に思っているという裏返しでもあるな。
今の言葉はさ。
「ふ~~~ん」
「はぁ。本当にいいのか。ブライン。こんなのを連れていって」
右手を額に置いて、首を振る。イシュベルは、オレの心配をしてくれていた。
「大丈夫です。なんとかします」
「そうか。わかった。では許可を出す。里にはお触れを出しておくから、ブラインは自由にしていいぞ。森の方に移動するのも自由でいい」
「ありがとうございます。長」
「うむ。というのはここまでだ」
「はい?」
族長は、腕組みを外して、胡坐を崩した。楽な姿勢で話し始めた。
「ブライン。どうだ。学校は」
「え。学校ですか」
「うむ。楽しいか」
「え。ええ。そうですね」
「そうか。それは良かったな。ダグノスも喜んでるだろうな」
「そうだと嬉しいですね」
ダグノス・レッドピックが、ブラインの父の名だ。
作中だと、名前だけが登場する。
「うむ。何か困った事があれば、何でも相談しに来い。私たちはいつでも相談に乗るからな」
「ありがとうございます」
エルフたちとここまで友好的な関係だったのか。凄い良い関係を築いていたんだな。クロノはさ・・・。
クロノ・レッドピック。
ブラインの祖父で、リミットタウンの最盛期を築いたと言われる人だ。
作中で、通常通りに進めていくと、ダクノスと同様に名前くらいしか情報が出てこない。
念入りに進めていくと、色々と断片的に、話の中や調べ物の中で、ちょこちょこ出てくる時がある。
実のところ、彼は主人公と呼んでもいいくらいの活躍をしている。
前作主人公のような立ち位置でもいいんだ。
この国では英雄と呼ばれていた。
「ブライン。娘を頼んだ。しっかり見ておいてくれ。あと、無茶はするなよ。特に界の深緑は危険だからな。入口までにしておきなさい」
「はい」
界の深緑。
ギランバニアの中腹で、緑が濃い領域の森。モンスターの出も激しく、そして討伐難易度が高いモンスターが出現する。
あそこは暗いを通り越して、夜だと錯覚するくらいに、何も見えない。
それはたとえ朝に侵入しても同じだ。日の光が入って来ない。ゲーム時代だと、明かりを頼りにしないと何も見えない地域で、オレは初めて行った時は放送事故だと思ってた。
本当に真っ暗で何も見えなかったからね。
バグかと思ったくらいだ。優しさの欠片もないゲームだから、マジで真っ暗なんだよ。
モニターの故障かと思ったっていうゲーマーの声もあったくらいだ。
「ブライン。じゃあ一緒に行こうよ」
彼女が抱きついて来た。頬と頬が重なるくらいに近距離だ。距離感がバグってる。
「う。うん。とりあえず、抱きつくのは無しね。歩きにくいから」
「ええ~~~」
ええじゃないよ。ええじゃ。
ほら、あなたのお父さんも呆れてる顔をしてますぞ。
注意したばっかりでしょみたいな顔をしてるからね。
◇
とりあえず森の中の目的地へと急いだオレは、大変な少女を傍らに置いている。
「あ。ダンゴ虫さんだ。コロコロ~コロコロ~」
目についたもの全てに反応を示す。一分一秒を無駄にせずに遊び歩くのがリスベルだ。
とにかく子供。14歳とは思えないくらいに、まじで子供だ。
「若様、そろそろですね。ホルエの泉は」
「お。そうですね。こっちかな」
オレのMAPに現在地とホルエの泉が記録されていく。
そばにいけば、大体を記録してくれるからこの地図機能は便利だ。
最初の段階は地図埋めくらいでいいんだよな。そんなに無理する必要もないからさ。
「警戒をしましょう」
マリンさんが打楽器のトライアングルを取り出す。
棒で叩くと澄み切った高音が響いた。
「・・・・近くにはいませんね」
「そうですか。そうだとすると逆にアルレシオもいないって事ですか」
「はい。そうなります」
「そこが残念だと言えば残念か」
マリンさんは、特殊ジョブ持ちで音楽家だ。
何をするジョブかというと、楽器で探知を行うのだ。
歌を歌うのではなく、楽器を演奏する事で、戦闘を優位に運ぶ珍しいジョブ。
今のトライアングルは、鳴らすことで反響音を探り、異物を見つけるって技だ。
モンスターが跳ね返す音は、違和感のある音として認識しているらしく、本人には不協和音として聞こえてくるらしい。
初めて行く場所や危険な場所に、一人くらいは欲しいジョブだ。
パーティーってのは、何が何でも強い人を並べれば良いってもんじゃない。
こういうマリンさんみたいなジョブ持ちの人がいると大いに助かる。
なぜなら、こういう人がいると事前に準備が出来るからだ。
不意打ちを喰らわない。
これだけでも生存率は格段に飛躍する。
ダンジョンなどでは、最重要能力と言っても良いのが、正確な索敵能力だ。
「お水発見! 泉に来たよ~」
リスベルが一目散に泉に向かう。
無邪気が過ぎて、無警戒も過ぎる。
まあ、モンスターがいないからいいけどね。
「はいはい。転ばないんだよ。そんなに急ぐとこけちゃうからね」
「大丈夫。大丈夫~。あ!?」
木の根に引っ掛かって、彼女はドサッと転んだ。
「痛! お、お腹打った・・・・」
べたっとうつ伏せになったから、お腹への衝撃が一番強かったのだろう。
お腹を抑えながら立ち上がった。
「ほら、慌てるからだよ。リスベルは落ち着きなさい。この程度の事なら、気をつけたら回避できるんだから」
「・・・うん」
素直ではある。だけどこれを次の展開ですっかり忘れるのが彼女だ。
リスベル・ウインドは、Tier1のキャラ。
オレが見た全17のルートのほとんどに登場する子だ。
特に120ターン以降の後半に登場するんだ。
どのルートを辿っても必ず窮地に陥る事になるリミットタウンのために、彼らエルフは救援に来てくれるのさ。
エルフたちって、クロノの孫であるブラインを大切に思ってるらしく。
最後まで粘ってくれる最高の仲間たちなんだけど、ブラインが町の防衛に失敗すると彼らも全滅になる最悪のゲームオーバーがある。
それを回避したく、オレは変わった実験をした事があって、出来るだけエルフらと接点を持たないようにしてみたら、彼らもこの森でいつまでも生き残れるんじゃないかと思ったんだ。
そしたら、それも無意味なようで、接点を持たないのであれば、逆に関係のない所で全滅するらしい。
ギランバニアの森にいるエルフたちにも、ブライン同様に死がそばにあるようなんだ。
何らかの因果がここにはある。
だったら、オレは彼らと接点を持たない選択をしない。絶対に親密になった方が良い。彼らを守れる気がするんだ。
オレはそう思ってるから、ここでは仲良く共に生きたいと思ってる。
この世界のエルフたちって気難しいって言われる設定なんだけど、彼らと付き合うと分かるんだが、全然そんな事は無くて、気の良い人たちが多い。
むしろ、国家に関係するルートの人々の方が気難しいんだよね。
選択肢を一つ間違えるだけで怒るんだ。それも内心でね。だからこっちも気付かない間に嫌われていくから面倒なんだよね。
まあそこがゲームぽく無くて、人間っぽいと言えるだろう。
「ブライン様。休息を取りましょう。お弁当を作って来ました」
「あ。はい。ありがとうございます」
マリンさんの手作り弁当を泉の前で食べて、オレたちはここからの探検の計画を立てていった。




