第2話 不憫鍛冶師ガランドー
教室の自分の席に辿り着くと、嵐が待っていた。
「ねえねえ」
クラスメイトの女の子が一人。
「ブライン君ってさ」
女の子が二人。
「婚約者いないんですよね」
女の子が三人。
「・・・・」「・・・・」「・・・・」
その他諸々の女の子が五人くらい。
何かの質問をしているらしいが、声が聞き取れない。女の子たちが興奮状態だ。
「え? なにこれ?」
周りがたまり場と化した。
一方通行話を分析すると、どうやらオレが魔族をぶっ倒したから、株が急上昇したらしく。
彼氏にしたい。候補筆頭株となったらしいんだ。
将来性に目が眩んだ女性たちらしい。
色々と質問責めをされている途中。
風も吹いてないのに、髪の毛が真横に靡ている男が来た。
「君たち、そんな男よりも、スイートでスマートな僕の元に来ないかい」
誰だこいつ・・・オレの辞書にもいない奴だ。
「うるさい。あっちいってよ」「邪魔しないで」
と散々な言われようだったが。
謎の男は、ポケットからGを取り出して言う。
「いいのかい。君たち。僕は、あのファングだからね! 無視したら大変だよ。ベイビー」
ついでにお金もアピールする。
「チラ」
微妙にかっこ悪い事を、凄いカッコつけてるけど、あのファングってどのファングだよ。
・・・・・。
ファング?
まさか。そのファングって。
リーヴァ・ファングのリファング商会のファングか!
「そこのうだつがあがらない雑魚鍛冶師の息子の友達になるくらいの男に、将来性なんてないよ。君たち! キラ!」
自分でキラっと言う人初めて見た。
輝く白い歯を出した。
絶妙にうざい奴だ。
しかしオレの記憶の中にこいつがいないぞ。
・・・リーヴァは見たことがあるけど、その息子を知らねえ。
「おらの親父は雑魚鍛冶師じゃない。腕は良いけど、馬鹿な鍛冶師なだけだ」
どこを弁明してるんだガラシア君は!
そもそも父親を馬鹿にされている事を怒りなさい。
「ガラシア・ランパート君。僕と張り合うには、億を稼ぐ鍛冶師にならないとね」
まあそうなるか。稼ぐ額で世の中を見ているタイプの御曹司君ね。
「おらはあんたと張り合う気はない。リファングが別に羨ましいとか思ったことがないから」
「強がりを。弱小だった僻みかい。今のあれが、うちの小間使いになってるから怒ってるのかい」
「強がりでも僻みでもない。おらは、親父を尊敬してる! 馬鹿だけど」
それは尊敬してるのか?
余計な一言がある気がした。
「ふふふふ。君の親父殿は、いつも使えない道具ばかりを作ってるじゃないか」
ん、使えない道具?
武器や防具を作ってるだけじゃないのか。
ノアが満足するような盾を作った人なのに、道具も作れるの?
「それにその男は、君の親父殿の装備を買ってるよ。やはり君の友人も、良し悪しの見極めも出来ない。馬鹿なんだね」
「え? オレが?」
「そのイヤリング。ガランドー・ランパートの作品だ」
「は? これが???」
春の目覚めが、ガラシア君のお父さんの作品だと!?
「ガッチャン。これそうなの」
オレは自分の耳にあるイヤリングを見せて言った。
「ごめんね。そうなんだ」
「え。なんだぁ。最初から知ってたの?」
「本当は知ってたよ。ブライン君が親父の着けてるからビックリしてたんだ」
「早く言ってよ。マジか」
「うん。恥ずかしかったから。それに・・・親父のだって知ったら外しちゃうかなって」
ガラシア君がモジモジし始めた。
オレが親父さんの装備だと知ったら、外すかもしれないと心配だったみたいだ。
良い物だと自負していても、世の中的には評価されていないから、作品に自信がないらしい。
「それはないね。これって凄い装備なんだよ。ガッチャン自信持ってよ」
「ぷふっ。君は馬鹿か。そんなほとんど効果のない装備を褒めるなんて」
成金御曹司が笑った。
「これがほとんど効果のない装備?」
ちょっと温厚なオレもキレた。血管数本が無くなりそう。
「そうだ。効果がないから、10Gで売っているんだろ。うちでも二、三個の取り扱いがあってまったく売れないゴミだからね」
そうだったのか。
売店以外にも売ってる店があったのか。
「君さ。これを効果のない装備だと本気で思ってるなら、オレって、君とは話す意味がないわ。方向性が違い過ぎる。だとすると感性も違う。だからそっちから無理に話しかけなくていいよ。あっち行ってなって。その方が精神衛生上良いよ。君の方がな。オレ悪態付くから」
最初に宣言しておいてやる。
「な!? なんだと!!!」
「オレは、父親の金が自慢の御曹司さんに興味ないんで、お話したいならあっちでどうぞ」
この男は、マジで無能だと思う。
こいつは、とんでもない装備なんだぞ。
春の目覚め。夏の兆し。秋の予兆。冬の眠り。
四つで化け物級の装備と化す。合体アクセサリーだ。
こんな仕組みで物を作る人物だ。親父さんは稀有な存在であるのは間違いない。
こいつが移動しないのでトドメの一言を。
「成金さんは、他人にお金だけ見せつけてろ。それで靡く奴とお話してなよ」
「な!? こ、この。ブライン!」
「怒っても無駄だからな。オレも怒ってる。大事な友人を馬鹿にしたお前に結構怒ってるからな」
「・・・くっ」
こっちくんなボケ。
オレ的には金がめっちゃ欲しいけど、金だけじゃないわ。
友人だって大切だ。
ガラシア君を馬鹿にしてくるこいつは、とりあえず今の段階だと一番の敵でいいだろう。
死神たちよりも要警戒人物にしておこう。
「これ以上ガラシア君を馬鹿にするな。次に口開いたらその口縫うぞ」
「くっ」
成金御曹司君は、『く』お兄さんになって去っていった。
彼がリファングの人間だと知った女性陣もそちらに行った。
どうやら慰めて、取り入る魂胆だろう。
「おい。ブラタンって結構いうタイプなんだな」
「まあ。頭に来たから言ってみた」
「なんだよそれ。言ってみたって、最初は言うつもりなかったのか」
「うん。咄嗟に出てたね。言葉がさ」
「そっか。まあブラタンが言わないなら、あーしが似たような事を言ってたからな」
「だろうね」
「なんだよそれ。あーしが怒ってたのをわかってたんか」
「まあね」
ナオが、ニカッと笑った。
どうやらここでもほとんど同じ考えをしていたらしい。
「ブライン君。ナオちゃん。レイン姫。ありがとう」
ガラシア君が頭を下げる。丁寧に感謝を述べてきた。
「あんなの気にしない。気にしない。ボクらはずっと友達だからね」
レインは能天気だ。
ガラシア君は、別にあいつから庇ってくれた事で恐縮したんじゃないと思うんだが。
「うん。ありがとう」
とりあえずいざこざがあったが、重要な情報を得た。
ガラシア君があの伝説の装備の制作者の息子である事だ。
この出来事で、オレの会いたい人物リストの上位に入ったのが、ガラシア君の親父さんである。
◇
放課後。
ガラシア君がイヤリングを使って、誰かと会話していた。
個人だと珍しい通信道具を持ってたみたい。
前の席なので、声が聞こえる。
「は? 親父! 何言ってんの。今こっちにいるって? なんで?! また失敗したのかよ」
何の話だ?
親父って言ってるな。
「・・・ああ。はいはい。わかったよ。今終わったからそっちいく」
ガラシア君と親父さんの間で何かあったらしい。顔色が良くない。
「ガッチャン、どしたの?」
「うん。親父が来てるんだって。あの感じだと、たぶん仕事に失敗したと思う」
「ふーん。そっか。仕事って鍛冶の?」
「うん。詳しくは教えてくれなかったんだけど、工房でまた失敗したらしいんだ。借金もあるのにさ」
「それ、ついていってもいい?」
「いま?」
「うん」
「いいよ。おらが怒ってるだけになるけど」
「お邪魔します」
と言ってオレは気になるのでついていった。
◇
「親父」
「あ・・・すまん息子」
息子に会っていきなり謝った男の名がガランドー・ランパート。
赤い髪でボサボサの寝癖のような髪型だから、親子で確定だ。
「何があったんだ。今度は何に失敗したんだよ」
「借金で火の車になった。返せなくなった。夜逃げしようと思う」
「はあ? 新しい工房で、装備を作ってたんじゃないの」
「作ってたんだが・・・新作を作ったら怒られた。売れない装備を作るんじゃないってよ」
「それ、おらもやめろって言ったじゃん」
「すまん。創作意欲が・・・勝ってしまった」
「馬鹿鍛冶師!」
「すまん」
大きな背中の男性だけど、肩身狭そうな肩幅になった。
ガランドーは縮こまって息子に怒られている。
「ちょっと失礼。あなたが、ガッチャンの親父さんですか」
「あ? だ、誰だ」
「握手お願いします」
「あ。どうも」
軽く触れたには理由がある。
ステータスを見せてもらうためだ。
オレの方が実力者であれば、ステータスって見えるらしい。
運の値が爆上げになったから、戦闘系じゃない人は調べられるはず。
来た!
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ガーランド・ランパート 男性37歳。職業戦士。
HP 71
MP 15
攻撃力 22
防御力 28
魔攻 2
魔防 7
速度 44
精神力 211
知力 45
運 8
スキル
反逆の一撃
虹彩の目利き
炉の恵み
鍛錬Ⅹ
打ち直しⅩ
火加減Ⅹ
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まて。ちょっと待て。どういうことだこれ!?
信じられないスキルが並んでいるぞ。この人・・・。
えっと、オレの辞書を・・・。
反逆の一撃は、最後の一振りで、装備を一気に仕上げるスキルだ。
作成工程を短縮しながら、最高効率で装備を強化する技だったはず。
虹彩の目利きは、素材の鑑定にプラスして、真贋の見極め。あとは作成途中で自分の作品の完成形を見る事が出来る技だ。
炉の恵みは、作成している作品の品質を最高にする技で、その際の炉の管理が完璧になるから、炉の消耗を避ける効果があったはずだ。火加減と合わせると無敵のスキルだったはず。
うん。ヤバいな。この人。
なんで、貧乏鍛冶師なんだ?
なんで、稼げないんだよ!!
◇
「息子。これ誰?」
ガラシア君を息子呼び。ガラシアでよくない?
「友達」
「おお。こっちでもお前に友達が出来たか。よかったな」
「うん」
「しかし悪いな・・・せっかくお友達も出来たのにな・・・」
「そうだよ。親父のせいだ」
ガラシア君の顔が暗い。やっぱり親子間で何かあったようだ。
「あの。何かあったんですか」
「ん。ま、まあ。その。なんだ。息子と友達になってくれてありがたいんだが・・・」
歯切れの悪いガランドーは、握手していた手を離して、オレに横顔を見せてきた。
目を合わせてくれないらしい。
「息子、自主退学になりそうなんだ・・・・ワイのせいでな!」
「は!?」
衝撃の告白に微動だにしないガラシア君は、どうやら事前に覚悟していたようだ。
まさか。そういうことか。
オレの中に彼の記憶がない。
ゲーム時代に君の存在を感じてないのは、このせいか!
ガラシア君って、序盤で学校を退学していたんだよ。
だから、オレの記憶に残ってないんだ。
目の前の席の人だったのにさ!?




