第1話 激闘後の彼ら
朝食を食べるために、寮の部屋から出て行く。
自分の部屋のドアノブを回して外に出ると、隣も同じ動作で開いた。
既視感だらけの翌朝だ。
「ふわぁ・・・あ? ブラタンじゃねえか。おはよう」
髪の毛ボサボサのまま整えないナオが出てきた。あくびも盛大にかましている。
「おはよう。珍しいね。ナオにしては朝早くない?」
「まあな。疲れすぎて早めに起きちまった」
「そっか。じゃあご飯一緒に食べようよ。ちょうどいいしさ」
「おういいぜ。食堂行こうか」
「うん」
ナオと二人で一緒に食堂に向かった。
◇
空いていた席は六人席。
二人だと気が引けるが、ここしか空いてなかったので、仕方なく座る。
「二人じゃ広いな」
ナオも同じ考えだった。スカスカの席を見ている。
「ああ、誰か来ねえかな。知り合いがいいんだけど・・あ! おいおい。こっち来いよ。ガラタン」
「ん? あ、二人ともいたんだ。おらも入れて」
ガラシア君も来ていたようだ。席を探していた。
「おはよう」「「おはよう」」
いつもの三人になったと思ったら、隣から元気な声が聞こえてきた。
「おはよう! ボクもここに座るね!」
レインも参加。元気よく席に着く。
と言うか姫様なのに寮に入ってたのか。
知らなかった。
「「「おはよう」」」
何回も言ってたら、おはようBOTになった気がした。
なにせまた・・・。
「おはよう。ここに座るぞ」
ノアがとんでもない量の朝ご飯と共に登場した。
「おはようございます。私もよろしいですか」
マリアンナの朝食も、ノアとほぼ同じ量であった。ただし野菜とフルーツの爆盛り。
胃袋が化け物だったのか。この人!?
さっきまで空席が目立っていた六人席が綺麗に埋まる。
「昨日の今日だけど、お疲れ様」
今度はちぎらずにノアが硬いフランスパンを丸かじりした。
歯、強!!
「そうですね。皆さん、お疲れ様でした」
続いてマリアンナが反応。彼女は、どこから持ってきて、どうやってよそってきたんだよと言いたくなる金魚鉢のような皿を持った。
とんでもない量のサラダを食べ始める。
「本当、疲れたよね。あ、ブライン君。例のはどうしたの?」
ホッとする量を食べるガラシア君が聞いて来た。
「ああ。スキルブックの事?」
「うん」
「もちろん読んだよ。強くなったと思う」
とりあえずこちらの常識に話を合わせる。曖昧な答え方をした。
「そうなんだ」
この世界の常識として、ステータスがある事は皆分かっているらしいんだけど、その成長の仕方の詳細までは知らないみたいなんだ。
プレイヤー以外のNPCは、熟練度については知らずに進む。
彼らは項目型の成長をしているらしい。
たとえば、腕立て伏せをしたら、攻撃力アップの熟練度追加みたいな曖昧な感じだ。
ある程度それらを頑張るとステータスが上昇すると思っている。
なので、彼らがスキルブックを読んだ際は、得意な事に割り振られるようで、意外とアバウトな成長法で彼らは進んでいく。ゲーム時代と同じだったらね。
ちなみにオレは、スキルブックで得た熟練度のほとんどを運に振った。
運の値を670まで上昇させて、他は待機状態。
それでも熟練度はまだ少し残っている。
なぜ670にしたのかというと、この春の目覚めで、運のステータスを1000にまで引き上げる事が出来るからだ。
本来は一気にカンストさせたいけど、今1000にしても、会心率は半分だからね。
春夏秋冬運便りを完成させるまでは、ここまででいいと思う。
二倍の効力を得たら1000を目指そうと思う。
「君らは、パーティーを組むのかい」
ノアが聞いて来た。
「うん。まあね。オレとガッチャン。レイン。ナオでいくよ」
ブラインは自分と呼んでいたけど、ここからはもうオレでいこうと思う。
いちいちオレを自分に変換するのも、色々と面倒になりそうだからさ。
素直にオレの方がいいだろう。皆受け入れているし。
「そうか。それは強力なパーティーだな。学年トップのパーティーになるんじゃないか」
「そうかな。あ、そうだ。ノアは、どうするの? 彼女と組むの?」
「わからない。期限までにミルティアが許可をしてくれたら、組めるかもしれない」
ミルティアとノアは同じクラス1-Bだ。知り合いになったから、組む可能性はある。
「それはいいですね。私は皆さんに誘われなくて困ってます」
山盛りサラダがいつの間にか無くなっていた。今は別な皿によそってあるサラダを食べている。
まだ食べるみたいだ。意外と大食漢だったのか。
「聖女様を誘うってハードル高くないかな。話しかけにくいのかもしれないよ」
ガラシア君が聞いた。
「そうなんですか? 私はそんなに気難しいのでしょうか? ガラシアさんは、私に話しかけてくれましたよね?」
「え。まあ、おらは一生懸命だったから。ブライン君がピンチだって聞いたし。それが無かったら恐れ多くて話しかけられないよ」
オレの為に頑張ってくれたらしい。
ガラシア君は相変わらず可愛い人だ。
「そうですか。とっつきにくいのですね・・・私」
それはそうだろうな。
ある意味で難しい立ち位置の面子なんだよな。この面子。
この国のお姫様レイン。
この国の騎士団長の息子ノア。
この世界の聖女マリアンナ。
三人とも、モブが話しかけるのは辛い所だ。
ほら、学生カーストって奴で、下層側の人間だとさ。
学年のマドンナとかイケメンとかに話しかけるのと同じ感じじゃないかな。
気後れするんだよ。普通ならさ・・・。
って思ったけど、そう考えると、ゲーム時代のブラインって、彼らに遠慮せずに話しかけるよな。
あ。そうか。ブラインって神経が図太い設定なのかもな。
「マリアンナ。君が話しかけやすそうな人はいないの? 君から声かけてみたら」
オレが聞いてみた。
「・・・んんん。皆さん、遠慮されるんですよ。私が話しかけるとですね・・・」
彼女の実演が入った。
◇
とある日の1-C。
訓練実習の準備運動時。
「二人一組で準備運動してください」
これがマリアンナにとっての難題であった。
「あ。あの・・・」
近くにいる人に声を掛けるが。
「すみません。私はこの人と・・・」
断れてしまっても、それでもあきらめずに。
「あの」
再度別な人にアタックするが。
「ごめんなさい」
その後も。
「その・・あの・・えっと・・・」
駄目であった。
最後には、先生が見かねて、余った人同士がくっつく羽目になり。
変な子と一緒になった。
「よ。よろしくお願いします」
「・・・・うん・・・・よろ」
女の子のような見た目の少年だったそう。
その後も何度も話しかけても、彼が大人しぎて会話が続かなかったそうだ。
◇
「どうしたら会話って続くものなのでしょうか。私には分かりませんでした! また彼と同じになったらどうしましょう。会話が続きません。こ、怖いです」
それは心の声で留めておけ。
聖女なんだからさ。
「その子。名前は?」
オレが聞いた。
「はい。エリオン・ジャヴァさんです」
そいつは・・・たしか。
オレは頭の中の辞書から思い出す。
エリオン・ジャヴァ。
その子はTier2だな。
でも彼はたしか二年次から活躍する人だな。
そっか。この時点だと、マリアンナのクラスにいるんだ。
疾風のエリオン。
のちに獣王国に行くことになる彼はそう呼ばれる。
暗殺ビルドを組んでいる子だ。
ジョブが暗殺者なんでね。
「まあ。そこは何とでもなるんじゃねえのか。無理に話さなくてもいい奴かも知れねえぞ。黙ってそこにいればいいんじゃねえか?」
ナオが言った。
「ナオさん。それはどういう意味ですか?」
マリアンナが聞き返した。
「ほら、そばにいるだけで。別に会話しなくてもいいタイプの人間かもしれねえって話」
ナオの言葉は心理を得ている。オレもそっちタイプだ。
「そんな人がこの世にいるんですか。人がそばにいるのに!?」
いるだろ。普通に。
どこで驚いてるんだよ。この聖女。
「いるだろ。んなやつ。山ほどよ」
口が悪いのが玉に瑕だけど、ナオってオレが言いたい事を言ってくれる。
オレは、彼女と考えが似てるのかもしれない。
「でも会話したいです。せっかく一緒にいるんですから」
乙女か。あんた。
「乙女か。お前」
同じツッコミだ。ナオと意気投合してるね。オレ!
「だってですね。皆さんとはこうしてお話しできるようになったんですよ。他の方とも同じように話したいですもん」
これはそうだ。
今思ったぞ。
たしかにこの現状がおかしい。
オレの今までのブラインの人生で、姫様とノアと聖女が一緒の場にいた事がないんだ。
これは驚異的な事じゃないのか?
それで昨日もロッティが一緒だったし。ありえない事態に突入しているのは間違いないね。
「お喋りだったんだね。マリアンナって!」
レイン、それを無邪気に聞くな。
失礼かどうかも分からないんだぞ。
「はい」
普通に返事するんだ。失礼じゃないらしい。
「じゃあ、たまに遊びに来なよ。ボクら待ってるよ」
「え。1-Aにですか」
「うん」
「ぜひ。いきます」
「うんうん。来なよ」
それはまずいんでねえの。隣のクラスでもないよ。マリアンナはさ。
「僕もいきたいな」
「そっか。じゃあ、ノア君も来なよ」
それはそれであんたは目立つよ。体、デカすぎだもん。
つうか。勝手に決めていいのか。レイン!!
「おいおい。いいのかよ。そんな安請け合いしてよ。色々面倒事になったらレインが責任とれよ」
ナオが、言いたい事を言ってくれました。
さすがです。オレの理解者だ。
「いいよ」
いいのかい!
「いいのかよ」
同じだ。マジで。この人と感性がそっくりなのかも。
「まあまあ。気にしてもしょうがないじゃん。楽しくいこうよ。せっかくの学校だもん」
お気楽お姫様レインの締めの一言。
朝はこうして終わった。
明るい会話であったのが、11日目の朝であった。




