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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
怒涛の十日間

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26/30

第26話 勝利の後

 「凄いよ。ブライン君凄い! 魔族と戦ったのに死んでない。みんな生きてる!」


 魔族と戦えば誰かしらが死ぬ。

 御伽噺にある言葉だ。


 「く、苦しい。今、死ぬ。今・・・ガッチャンたちが重いよ・・・なんで皆でオレの上に」

 「あ。ごめん。でもおらだけじゃなくて」


 ガラシア君の上にも、皆が重なっていた。


 「レインも、ナオも離れてくれ。死にそう」

 「ごめん。嬉しさのあまりついつい、ハハハハ」

 「あーしもだ。スマン」


 二人は素直に離れてくれた。


 「まあ、はしたない人たちですわ。お行儀の悪い」

 「あなたも本当は混ざりたかったのでは? その足。浮ついてますよ。ソワソワしてます」


 マリアンナが前傾姿勢のロッティに指摘した。


 「ち、違います。わたくしは、躓きそうになったのですわ。これはそれを耐えているだけです」

 「あら、そうですか」


 マリアンナが軽くあしらう。

 彼女もロッティへの苦手意識は消えたのかもしれない。軽口を叩いていた。

 

 そして、ノアが手を取ってくれる。オレの体を起こしてくれた。正直助かる。起き上がる力もなく、限界だったからね。


 「ノア、助かったよ・・・あれ? ミルティアは?」

 「僕らがここに集まった時にはいたんだけど。今いないんだよ」


 ノアたちのそばにいたらしい。

 いつの間にか消えていた。


 「ブライン君勝ったんだよね。僕ら」


 目と鼻の先でレインが話しかけてくれた。

 しかし、もう少し離れてくれないと、君の鼻しか見えないんだが・・・。距離感がバグってる。


 「だと思う。封閲(フィールドマイン)が解除されているようだしね。あとはどこに行ったんだ? あいつ」

 「「「「さ。さあ?」」」」

 「逃げたのかな?」

 「「「「さっぱりだ?」」」」


 皆が首を傾げた。

 倒した瞬間は見ても、倒された後を誰も見ていない。

 一体どこへ消えたんだ。倒れている敵の姿でも見て、皆で勝利を味わおうと思ったのに・・・。



 ◇


 ブラインに吹き飛ばされたはずのグアバは、学校にいなかった。

 謎の領域に誰かと共にいた。

 

 「ぐはっ・・・に、人間如きに・・・このダメージは・・・ありえない。こちらにいる時だからとはいえ、実力差は大きいはずなのに・・・」


 腹部への一撃で、何故か背中が焼け焦げている。

 貫通した一撃の威力に戸惑うグアバは周りを確認する。

 どこか分からない場所にいる事に驚いていると隣から声を掛けられた。


 「人間如きにコテンパンにやられて、その鼻だけじゃなく、プライドごとへし折れたか。グアバ!」

 「・・・だ、誰だ」


 浅黒い肌の女性がグアバのそばにいた。

 頭に角が二本生えている。 


 「ま・・・魔族!? それも二本角だと」

 「貴様は何の用で、西の世界に来ている」

 「見知らぬ者に・・・は。話すわけが・・・」

 「この顔を見ても、見知らぬで通すか」


 二本角の女性が、グアバの前髪を掴んで、自分の顔を良く見せた。


 「あ・・あなた様は・・・まさか。まさか・・・ミミ様!? どうしてミミ様が、私のそばに? 行方不明になられたはずでは・・・」

 「貴様が西の世界にいるのは、父上の命令か」

 「は、はい」

 「ブライン・レッドピックを殺せと?」

 「そうです」

 「それは本当に父上からの命令か?」

 「え。そうですが・・・」

 「対面での命令か?」

 「いいえ。文書でした」

 「その文書は本物だったか?」

 「なぜ、そんな事をお気になさるのですか。人間一人の命如き・・・」

 「奴は如きではない。明星だぞ! グアバ、口答えせずに答えろ!」

 「は、はい。印がありました」

 「あの父上がか・・・心変わりでもしたか。まあ、いいだろう。こうなれば、母上に相談しなければ」

 

 ミミと呼ばれた女性は、グアバの髪から手を離した。

 動けるようになったグアバは、すぐさま彼女に跪いた。


 「み、ミミ様。今はどちらにいらっしゃるのですか。魔王様も心配していましたぞ」

 「そうか。しかし、今は私を探るな。貴様は、与えられた仕事だけしていろ。ただし、ブラインには手を出すな。それはお前の仕事ではない」

 「え!? し、しかし。魔王様からの勅命でありまして」

 「破棄しろ。私の印を出しておく」

 「わかりました」

 「いいか。今の私の指示後に再び父上から指示があった場合は、父上に直接会え。文書でもらおうとするな。いいな」

 「はっ。承知しました」

 「よい。ならば、貴様は帰ってよい」

 「外界にですか?」

 「ああそうだ。こちらの世界にいたら、体がきつかろう。聖女の力は体に毒だぞ」

 「は、はい」

 「まあ、これでもこちら側の聖女の力は弱まっているが、まだ一人聖女はいるからな。もしかしたら維持されるかもしれん」

 「そのようでした。人間どもの中に一人、卵がいましたね・・・ん、ミミ様。あの戦いを見ていたのですか」

 「そうだ。貴様はこれを感じなかったか」


 グアバは、自分の体を這いずり回る暗黒の闘気を感じた。

 

 「こ、これは・・・私の動きを最後に鈍らせた技・・・まさか、ミミ様が私の戦いの邪魔を」

 「命令を忘れるな。いいな。グアバ。私を探すなよ」


 転送の準備が整い、ミミの姿が薄っすらと消えていく。


 「み、ミミ様。お待ちを。ミミ様!」


 ミミの姿が無くなる。

 

 「な、なぜだ・・・なぜミミ様が私の邪魔を? あと少しでブラインを殺せたというのに・・・まさか、ご自身がブラインを殺すためか?」


 ミミの姿は消えても、グアバの疑問は消えなかった。


 ◇


 「君たち。少しいいか」


 涼し気な目元がチャームポイントの魔道士のローブを着た男性『オラシオン・カンパネラ』

 一学年の学年主任の先生だ。


 「はい」

 「何があった? 一体ここで・・・何があってこんな騒ぎに?」


 オラシオンは、別会場にいたらしく。急遽こちらに駆けつけていた。

 

 「それは・・・」


 オレがかいつまんで説明をしたら。


 「そうか。では、アッシュ副教頭が偽物だったのだな。幻術か?」

 「たぶんそうです。あの術の溶け方は、変身ではなさそうでした」


 見た目を誤魔化すやり方だったから幻術だと思う。

 変身だと、肉体ごと変わっているから、戦闘形態も棒術以外を使えたはずだ。


 「そうか。それだとアッシュ先生はその魔族にやられたのか」

 「どうなんでしょう。探せばどこかにいるかもしれませんよ。こちらに幻術で罠に仕掛けるなら、殺す必要性ってないですよね。無駄な労力をあのグアバがするのか・・・わかりませんよ」


 奴は合理的だ。

 アッシュと普通に対面で戦えば、無事では済まないぞ。

 あの人、むちゃんこ強いからな。

 何か罠にかけた方が、効率的にアッシュになれるはずだ。


 「ちっ。生きてんのかあのジジイ」


 舌打ちが聞こえた。え? どういう事?

 生きてちゃ駄目なのか?

 死んでろって事?


 「え、先生?」

 「あ。なんでもない。気にするな」

 「は、はぁ」


 もしかして、オラシオンって辛辣な人なのか。

 学年主任とあんまり接点がなかったから、詳細な性格を知らないんだけど・・・。


 「それで、魔族を倒したのは、君たちで全員か」

 「いいえ。あと一人いたんですけど・・・」


 会話の途中で、隣に彼女がいた。良い匂い香りがする黒きダークエルフだ。

 

 「私もいました」

 「あ。ミルティア。どこにいたんだよ。急にいなくなってさ」

 「黙っていなくなったのよ。それを女性に聞く? デリカシーのない男ね」

 「え?」

 「女性を知りなさい。ブライン」

 「は。はぁ」


 なんか怒られた。

 オレが悪いのか。これ?

 えっと、言いたい事を簡単にまとめると、トイレに行ってたのよって事だよね。

 それでもオレが悪いのか。これ?

 察しろって事か。

 

 「そうか。じゃあこれで全員だな」

 「「「はい」」」

 「今回、かなり迷惑をかけてしまった。そこでクソジジイも・・違う。アッシュ副教頭もどきも言っていたように」


 おいおい。普段アッシュを呼ぶときに、クソジジイって呼んでるんだろ。

 口癖になってないか。この先生。


 「スキルブックをやるんだが、上の判断でな。これもやるってなってな。誰か一人になるんだが、どうする。他の奴には、用意していたスキルブックをやるんだが。こっちは誰にする」


 オラシオンが持っていた本は、特別な本だ。

 栄光の教書『スタンブリーブック』だった。

 

 「まさかそれって」


 熟練度500を手にすることが出来る超絶激レアアイテム。

 ブラインの人生を送る際に、一度も見ずに人生を終える事なんて、ざらの代物だ。

 だって、一発500だぞ。んなもん、ホイホイ獲得できるわけがない。

 一項目のステータスの半分を一気に上げる事が出来るのはヤバすぎる。

 

 それに・・あ。やべえ。

 オレの熟練度120も溜まってる。

 まさか、この時点でグアバみたいな化け物と戦って、勝ったからか。

 一気に熟練度が上がってるわ。


 「どうする。お前たちで決めてくれないか」

 「それは当然」


 ノアがこっちを見てきた。


 「ボクも異存なし」


 レインもこっちを見てきた。


 「まあそうだよな。ブラタンがいなかったら、死んでるからな。あーしら」


 ナオも見てきた。


 「ええ。ブラインの力で勝ちましたわよ」

 「はいそうですね」


 ロッティもマリアンナもこっちを見てきた。


 「おらは・・・なんもしてないし・・・」


 ガラシア君だけモジモジしていた。

 最後にオレの隣にいるミルティアは。


 「この人がトドメを刺しましたから、それはこの人で決定でいいです」


 顔だけ先生の方を見て、目だけがオレの方を見た。


 「オレでいいの?」

 

 とんでもない代物が、オレの手元に来た。


 「君でいいらしいぞ。よかったな。揉めなくて」


 先生はそう言って本を渡した。

 

 「あ、ありがとうございます」


 激レアアイテムを取得して、オレは一挙に600を超える熟練度を手に入れた。

 僅か10日で、とんでもない大成長であった。

 こうしてオレは、天才型にも負けず劣らずのブラインになったのであった。

 

  

 

 

 

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