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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
怒涛の十日間

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25/31

第25話 最後の攻防

 「そちらから来てくれるわけだな。手間が省けるぞ。ブライン・レッドピック」


 足元の魔法に同質の魔法をぶつけて、魔法を相殺したグアバは、オレとの決戦を望んだ。

 すでに勝つつもりでいるらしい。余裕の笑みが腹立つ。


 「は? オレが行くのを待つのか。あんた? 魔族さんの癖に、オレに負けるのが怖いのか」

 「!?」

 「そっちが来いよ。ビビり!」


 こめかみに怒って書いてある。こいつ、相変わらず煽られるのが苦手らしい。

 

 「人間如きが魔族を馬鹿にするな」


 グアバの魔族プライドは高い事で有名。

 魔人四天王でも一、二を争うとオレは思う。

 魔族である事に誇りを持っているのが、良い事か、悪い事かは分からないけど。

 オレは、原作では意外と嫌いじゃなかった。

 にしても、こいつは何に固執してるんだ。

 あまりにもブラインに執着している気が・・・。


 「死ね。ブライン」


 移動が相変わらず速い。一瞬で距離を詰めてくる。しかし今回は、三倍の龍麒のおかげで、見えている。

 姿が見えたらこっちのもん。

 攻撃直前の奴の右肩が上がってる。


 「こっちか」


 オレってグアバの癖は分かりきっているのさ。

 右肩が上がると、右の袈裟斬り。左腰が浮くと、左からの袈裟斬り。

 両肩が下がると、薙ぎ払い。足が沈むと突き。

 こいつの基本動作だ。ゲーム時代のオート攻撃って奴だ。

 

 ゲームの話で悪いんだけど、このゲームのボスクラスは基本的に1000のステータスを越えている。

 上限突破が基準となる。

 主人公と味方の登場人物たちは、上限突破の技を使わないと超える事がないのに、敵方は素で超えるという鬼畜仕様。

 だから、物語終盤のボスたちの攻撃は、一撃でも喰らうと即死か。それに近い状態に陥る。

 とんでもない難易度になるわけなんだ。

 そこで重要となるのが準備。

 防具で敵の攻撃を防ぐか。それともスキルでさらに防御力を強化するか。

 仲間内にロッティのようなサポート型、ノアのようなタンク型を置くかで、対応が変化する。

 しかし、今回はそれが出来ない。

 物語の序盤中の序盤だから、あまりにも皆のステータスが弱すぎる。

 

 だから、オレは、変態技でこの事態を乗り切る。

 何度魔人四天王と戦ったと思ってるんだ。

 お前らの癖なんて、見飽きたわ。

 通常攻撃も見てるけど、オレはそっちの技も見てるんだわ。


 「な、なに!? しかし、これならどうだ。魔痛打!」


 防御無視の会心の一撃の攻撃。

 魔痛打。

 棒術のグアバがこれを繰り出す時は、軽いバックステップからの全身全霊の突きとなる。

 全体重が前にかかるから、これには反動がある。


 オレの回避が成功すれば。


 「躱された!? 馬鹿な」


 そう体が硬直して、動きが止まる。

 これで、こっちとしたら反撃する機会を得るわけよ。

 舐めんな。レベル差が、勝負の差じゃない。

 このゲーム、レベルリングも重要だけど、プレイヤースキルが最も重要なのよ。

 

 「いくぜ。こっからが、ビックリショーの始まりだ」


 無駄撃ち上等の連打。

 左右の拳に、蹴りも加えた。ただの攻撃を仕掛けた。


 「は? 痛くもかゆくも・・・ん?」


 反動切れが起こりかけている。オレが距離を取る。


 「が、がはっ・・・な、なに? だ。ダメージがある」


 攻撃を仕掛けてる本人も、攻撃をもらってるグアバも、迫力のない攻撃に戸惑うだろうが。

 今のオレの攻撃力は、三倍の96。

 それを十発ぶちこんで、960のダメージが入ったはずだ。

 奴の体力って1万以上はあったはずだから、大体十分の一くらいを削ったぞ。

 

 「し、信じられん。あんな雑魚の攻撃で?」


 打撃音もぺちぺちだもんな。本人としても効いてるように感じないんだろう。


 「雑魚で悪かったな。でもあんたを倒すことが出来る。だから、あんたは是が非でもオレを殺さないと、オレに倒されるだけだぜ」


 この中で唯一こいつに勝ち切れるのが、オレだ。

 この疑似連撃会心ビルドでな。

 

 オレのもともとの運が170。

 これにロッティが90を足した事で260。

 そこから更に二倍してくれて520となった。

 そんで、オレがここでマリアンナの力を借りて龍麒を三倍で固定。

 龍麒は限界突破の性能が疑似的に加味されるから、運を1560まで高めた。

 この数値でもまだクリティカルは100%にならない。

 そこでこれだ。

 春の目覚め。

 このイヤリングで、1560になった運の値を1.5倍として、2340に持っていく。

 こうなると、オレの攻撃のすべてが、100%クリティカルだ。

 どの攻撃も96の固定で攻撃が入る。

 これを回避する防御方法はない。

 いくら防具を強くしても、この連撃会心ビルドの前では、無意味である。

 敵の防御は紙装甲と変わりないのさ。

 これはどんな敵にも有効だ。ラスボスの魔王にもぶっ刺さったビルドだから、間違いない。


 「よし。攻略法は正しいみたいだ。これでいくぞ」

 「攻略法だと。貴様、魔族に勝ったつもりか!」

 「当然だ。つもりじゃねえ。こっから勝つのさ!」

 「ああああ。人間がぁあああ」


 煽りに弱すぎるだろ。こいつ。

 怒り狂ったグアバが、攻撃を繰り出し続ける。

 しかし、いくら怒っても、癖は抜けない。

 動きの全てが分かる。


 「な、なぜだ。なぜ、私の攻撃が当たらんのだあああ」


 結構命がけだ。一発当たれば死は確定。いくら癖を見抜けても、その緊張感は異常だ。

 耳の横を通り過ぎる棒の風切り音なんて、死の音に聞こえる。

 足が震えそうになっても、誤魔化す。

 結構ビビってるけど、ビビってないって言い聞かすのさ。

 己の心よ。奮い立て。

 ここが勝負所だ。



 ◇


 ブラインの仲間たちは、一か所に集まっていた。彼の勇士の姿を一緒になって見ていた。

 最初にノアは絶賛していた。


 「す。凄い。なんというやり合いなんだ。どうして君は・・・あそこまで動けるんだ?」


 冷静なナオはブラインの呼吸を見ていた。

 まもなく限界だろう。動きが遅れ始めた。限界に近い。


 「でもこのままじゃまずいぞ。ブラタンの方が息切れを起こすぞ」

 「かもしれません。私の魔力が底を突きそうになっています。なので、私の力を使って、ブラインさんが何らかの強化を施しているのなら・・・まずいと思います」


 マリアンナが共有している力が減少している事に気付いていた。


 「その技・・・あなた。他の人間とは繋げないの? 私とは繋がらない?」


 ミルティアが聞いた。


 「はい」

 「本来は大勢でも出来る技なのよね?」

 「え、どうしてそれを知っているんですか!」

 「それはいいの。マナリンクは、パーティー共有技よね」

 「そうなんですが。私がまだ未熟でして・・・一人としかリンクが出来ず・・・」

 「そうなのね。それは仕方ない」


 対応策が見いだせない。このままブラインを潰すわけにはいかない。


 「それじゃあ。ボクらは、応援するしかないんだね」

 「何を言っておりますの。姫様」


 ロッティの言葉が否定だと思った姫は。


 「ん。ロッティ。君は応援する気もないの」


 扇子で顔を隠す彼女を睨んだ。

 

 「そんな事を言っておりません。するしかないのではなく、するのです!」

 「え?」


 予想外の答えにレインが戸惑う。


 「ブラインなら、わたくしたちの声を聞いてくれます」

 「君・・・あのロッティなの?」

 「あのって、何の事を言っておりますの? わたくしは最初からロッティですわよ」


 顔を隠していた扇子を使って、ロッティはブラインを指した。


 「彼は昔から、声援を背に背負う男ですの。誰かのために頑張る。お爺様やお父君の為に死に物狂いの方でしたから。わたくしたちの声も聞いてくださります」

 「そうなんだ」

 「ええ。レッドピックとは、根性の一等星。お爺様がそうおしゃってましたわ。それにブラインはあの英雄クロノの孫。必ず倒します」

 

 どんな事も根性。何があっても根性。

 ド根性が第一。

 それがレッドピック家の男たちである。

 ルーフォン家が、彼の家を信頼している理由はそこにあった。


 「ですので。皆で応援を・・・」


 ロッティが最後まで言う前に。


 「ブライン君。頑張れ! おら、応援するぞ。頑張れ!!!」


 すでに応援しているガラシアがいた。

 皆も一瞬だけキョトンとしたが、そこに続く。


 「「「「頑張れ! ブライン!! 頑張れぇ」」」」


 ◇


 「ん? おお」


 ちょっとだけ振り返ったら、皆が応援してくれていた。

 マリアンナとかレインなら素直に応援するだろうけど、あのロッティも応援してくれるとは、正直驚きだ。

 こんなに一生懸命応援してくれるなんて、君たちを死神だと思ってごめんな。

 うん。その思い。受け取って、この背に背負うぜ。

 オレがやってやる。

 こいつ今さ。じれったくなってるんだよ。オレの動きが若干遅くなっているのに、攻撃が当たらないからさ。イライラしてるみたい。

 オレの作戦成功はさ。バッチリ嵌ってるみたいだ。

 こうなれば、こいつの性格なら、一撃必殺を仕掛けるはず。

 いい加減にしろと、オレにどでかい一撃を当てたくなるはずさ。


 「こ、この・・ちょこまかと・・許さんぞ。ブライン・レッドピック」


 なんでフルネームなんだろう。

 魔族の間で、流行ってんのか?

 そういや、魔王もオレのことを・・・。


 「なんでオレの名を知ってんだ?」

 「知らん」

 「知らねえのに、知ってんの? どういうことだ?」


 何のトンチだよ。答えが答えじゃねえ。


 「魔王もオレの事を知ってた口ぶりだったんだけど。そこんところ何なの?」

 「魔王・・・まさか、マフティー様か」

 「ああ。あんたが言ってる魔王ってのが、マフティー・ミディアの事だったらな」

 「な、なぜ、人間の貴様が魔王様の名を?・・・なぜだ・・・」

 「いや、知ってるよ。そっちが知らんって言って、知ってるのと一緒だ」

 

 理由は答えねえぞとする。

 これで、立場はイーブンだ。このままだと、なんだか癪に障るからな。

 こっちが優位に立てるポジションが一つくらいあってもいいだろ。

 マウントの取り合いだ。


 「貴様、その減らず口。本当に減らしてやる」


 本当に怒りが分かりやすい。

 血色がよくなったから、頭に血がのぼっている感じだ。

 

 「次で貴様は死ぬぞ。今生の別れをしなくてもいいのか。後ろで応援してる奴らにな」

 「まあ。いらねえ。こっちも次の一撃で終わらせる。オレがあんたを倒すから、別れの挨拶なんていらねえわ」

 「貴様・・・ずいぶん自信があるようだな」

 「まあな」


 挑発に挑発を重ねると、瞬間沸騰湯沸かし器のように、ピーっと音が鳴りそうな顔になった。

 頭から煙が出そうな男は、最大火力の攻撃を繰り出す。


 「魔人天翔!」


 武器に暗黒闘気(ダージュオブダーク)を纏わせる特殊な一撃。

 魔人四天王と魔王だけが使える奥義だ。


 「よっしゃ、ようやく来たな。それを待ってたぜ」


 前傾姿勢のグアバが一気に突っ込んで来る。


 「黄龍麒麟拳。黄龍・竜虎撃りゅうこげき


 ここ一番で大カウンター。相手の攻撃力を倍で返して、しかも今のオレはクリティカルで返すから、こいつを一発で沈める事が出来るはずだ。

 

 「今度こそ死ね。ブライン・レッドピック」


 棒が若干斜めに傾いているから、真横に払う気だ。

 なら踏み込みを一瞬遅らせて、この掌底攻撃をずらせば、カウンターだ。


 「なに!? しまっ」


 まさかの攻撃位置を変更してきた。今の動きがフェイントだったようだ。

 くそ。ゲーム時代とは別の駆け引きが生まれていたのか。


 「その顔。やはり私の癖を見抜いていたようだ。食らえ。跡形もなく消えろ!」


 顔面に一直線での突きに変更されていた。ちょうどオレの右目の位置だ。

  

 「くっ。こうなりゃ、同時でもいい。竜虎撃りゅうこげきが当たればなんでもいいわ」


 相打ち狙いで、攻撃を繰り出す。顔面が吹き飛んでも、この掌底さえ当たれば、勝つには勝つ。

 何があろうと、一矢を報いる。もはや意地なのよ。オレはもう死に物狂いだからな。


 「遅い。消え失せ・・・ん!? な、何に引っ張られ・・・」


 グアバの突き攻撃が一瞬だけ悪くなる。急ブレーキがかかったような動きに変わり、攻撃を当てるために飛び跳ねていたグアバの肉体もほんの僅か空中で止まった。

 オレの思考加速はさっきの連打で使ってるから、一体何が起こった?

 まあいい。そんなんどうでもいいわ。


 「ここしかねえ。いけえ。黄龍麒麟拳。爆発だ!」

 

 左頬を通り過ぎる棒。微かな動きで敵の攻撃を躱しつつ、オレは最大火力を敵の腹にねじ込んだ。


 「地の果てまでぶっ飛べ魔族。こらあああ」


 感触抜群。掌底がめり込んで、敵の肉体を吹き飛ばす。

 それと同時に、辺りが明るくなるから、封閲(フィールドマイン)が消失しているのが分かる。

 この光が、敵を倒せた合図だ。


 「んだよ。ボロボロだわ・・・無理し過ぎたか」


 一発ももらってはいけない状況に、この攻撃を当てるために費やした労力。

 疲労がピークになっていた。うつぶせに倒れると、上から声が聞こえてきた。


 「うわああ。ブライン君!」

 「え。ガッチャン?」

 「勝った。勝った。勝ったよ。凄いよ」

 「待って。待て。オレ動けねえよ。ぐあ」


 ガラシア君だけじゃなかった。皆がオレの体の上に乗って来た。


 「おわあああ。今度こそ死ぬ!?」

 

 皆に祝福されると同時に、オレは死を予感したのであった。

 死神は健在であったのだ。

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