第23話 反撃に必要な二人
ガラシアは、ブラインとの会話後。
彼女らを探し回った。
精一杯の足を使って、精一杯の声を出す。
「マリアンナさん。ロッティさん。いますか! いたら返事を下さい」
封閲の周りには人だかりがある。
皆、謎の黒い物体に興味津々だったからだ。
だから、そこに集まっているものだろうと、ガラシアはその周りを走り続ける。
「あ、はい。私はいます。ここです」
手を上げて、自分をアピールしてくれた女性がいた。
ガラシアは近づく。
「マリアンナさんですね」
「はい。そうです。私がマリアンナです」
初対面同士の二人は丁寧に頭を下げあう。
「おらは、ガラシアって言います。ブライン君の友達で、あなたを連れて来てほしいって、伝言をもらったんです」
「ブラインさんが? 私をですか? それはどちらにでしょうか?」
「あの中にです」
「え? あの中?」
あそこには入れるものなのか。
戸惑ったマリアンナは、結界のような黒い塊を見つめる。
「可能なのでしょうか・・・結界に近い性質に見えるのですが・・・」
「聖女の力さえあれば、何とか出来るってブライン君が」
「ブラインさんが?・・・まさか、聖女の秘術をご存じなのでしょうか。それはおかしい。教会でも極一部しか・・・」
聖女の力について、一般人はあまり知らないはず。
回復魔法なら分かるかも知れないが、邪を払う力がある事を知る者は少ない。
「おらはわからないけど。ブライン君があなたの力が必要だって。それとロッティさんも」
「え。彼女もですか」
「うん。だから二人があっちに入って欲しいんだって」
「・・・」
マリアンナは露骨に嫌がった。無言でも分かるように、顔にも出ていた。
「お願いします。おらは、ブライン君とこれからも一緒に学校に通いたい!」
「え?! きゅ、急に何ですか」
勢い良く頭を下げて、顔を上げたガラシアの顔は必至だった。
「あそこでブライン君たちが魔族と戦ってるらしいんだ。ブライン君も、ナオちゃんも。あそこで死んじゃうかもしれないんだ。どうか助けて欲しい。おらは一緒に学校に・・・これからも一緒に・・・通いたいんだ!」
目に涙をためて、ガラシアは必死に願った。
人々の願いを叶えるのが聖女の役割。
しかし彼女はまだ卵だ。でも聖女の端くれではある。
彼の願いは心からの善なる願い。
それを無下にする事は出来ない。
それにマリアンナは、自分の好き嫌いを優先するような女性じゃなかった。
「わかりました。私があそこにいけば、ブラインさんたちは何とかなるのですね」
「そ。そうみたいです」
「ロッティさんを探しましょう。ガラシアさんも一緒に」
「うん!」
◇
長い間二人で探し回る。顔を覗いて確認するが、あの美しい女性はどこにもいない。
声を掛けても当然返事をするような人間じゃないだろうから、こういった形での確認しか出来なかった。
結界付近よりも少々離れた位置に、扇子で口元を隠す女性がいた。
「いた」
ガラシアが発見。彼女に近づいて声を掛けるが。
「ロッティさん」
「・・・・・」
一般人の男性であるために無視をした。誰にでも声を発する人ではない。
「ロッティさん。あなたの力を借りたいんだ。お願いだ。あっちに一緒に来てほしい」
「・・・・・」
懇願しても無駄。一般人など無視するのが悪役令嬢だ。
「ロッティさん。頼みます。彼女と一緒に・・・」
「うるさいですわね。わたくしの視界が汚れます。消えてくださる?」
性格最悪。容姿端麗。馬鹿頭脳。
ロッティが、ガラシアの言う事を聞くわけが無かった。
「ロッティさん。あなたと言う人は、最後まで無視するのですか。あなたは人として最低限の事も出来ないのですか。返事くらいしたらどうです」
「・・・あら、あなたは聖女様」
聖女であれば、話してもいい。
あからさまな差別に、腹が立ちながらも、マリアンナは会話を続ける。
「違います。まだ卵です」
「でも次の聖女様は確実でしょう。あなた一人しか候補がいませんし」
聖女候補。
通常、一時代に聖女候補は複数人現れる。
真の聖女を生み出すために、その候補者から一人が選定されるのだが。
今回、聖女の力を宿した女性はマリアンナしかいなかった。
これは、世界パルティアンにとって初めての事だった。
「一人だとしても、私が相応しい人間かは分かりません!」
「あら、謙遜ばかりで良い子なのね。あなた様は」
「・・・・」
何を話しても嫌味で来るために、マリアンナの怒りを買う。
せめて普通に会話出来たらと願うものの。それは不可能だ。
だから、聖女らしい振る舞いをしようと怒りを抑え込んだ。
「お願いします。ガラシアさんが、伝言を受け取ったのです」
「伝言・・こんな田舎者が? 誰からです?」
ガラシアが答える。
「ブライン君!」
「な!??」
ブラインであれば、反応がある。入学式の因縁の相手だ。
なにより、元婚約者でもある。
「君とマリアンナさんの力が必要だって」
「わたくしの?!」
「絶対に必要だから、連れて来てほしいんだって」
「あのブラインがわたくしを? 絶対にですって」
「うん!」
扇子で自分の顔を仰ぐ。
「何を今さら。二度と顔を会わせるつもりがないのでしょう」
表情は微妙だ。怒りでも、微笑みでもない。無表情に違いが、少しだけガラシアの言葉に反応している気がする。
「そのつもりの人が、あなたに力を貸して欲しいって言ってるんだよ。それはよほどの事でしょ!」
ガラシアの言葉は正しいが、ロッティには通用しない。
「あ、謝ったって許しませんわよ。ブラインの分際で、わたくしをコケにしたのですから。わたくしは会いません」
マリアンナの堪忍袋の緒が切れた。
こめかみの怒りが、静かな怒りのスイッチであった。
「あのですね。あなたはそうやって悪態をついて、相手を困らせるのがお得意なようですが。人が必死になっている事も見えないのですか!」
「は、はい?」
聖女の怒りの表情に若干戸惑うロッティ。返事が弱めだった。
「ガラシアさんが必死になってお願いしているのです。あなたも次の領主になる者なのでしょう。領民の声を聞けない領主など、この世にいりません。そんな人間であり続ければ、いずれは恨みを買われ、領民に殺されてもおかしくないはずです」
悪態だけは一人前。人に恩も売れない。むしろ害を売っている。
そんな人物は、仇を返されてもおかしくない。
「は? 何を言って、わたくしは、この人の領主じゃありません」
「そうですか。だとしても、誰かの話も聞けない程度の低い領主だとは確実に言えますよ・・・」
マリアンナが深いため息をついた。
「はぁ。もういいでしょう。助けに行くのは私がいれば十分なはず。ブラインさんも、どうしてこのような方にお願いしたのでしょう。薄情者なんかに」
「なんですって」
売り言葉に買い言葉で、敵を挑発する。
「ブラインさんは、あなたに顔を見せないと皆さんの前で宣言したんですよ。それなのに、あなたにお願いするなんて、よほどの事が起きたのです。そのよほどの事を受け入れる度量もない人を薄情者と呼んで何が悪い!」
堂々と言い切った。聖女であっても、言葉がキツイ。
「こ、この! わたくしを馬鹿にして!」
反撃も虚しく、マリアンナは無視をする。彼女は一本筋が通った女性である。
「私は行きます。あとから一緒に行こうと思っても、無理ですよ。あの道を開ける事が出来るのは、私しかいません。あなたはここでお留守番になります」
今決断しなさい。行くか。行かないか。
マリアンナの言葉の意味に気付けたロッティは、質問の趣向を変えた。
「・・・あ、あなたは、あの黒い渦の中に入れるのですか」
「ええ。私なら出来ます」
「・・・・・いいでしょう。ブラインがどんな面を下げて、わたくしに会うのか。その顔を見てやりましょう!」
「ならばついて来てください。私が道を開けます」
聖女マリアンナは交渉上手だった。
ロッティの自尊心を傷つけて、ブラインに会わせる口実を作った。
彼女を連れていく事に成功したのである。
◇
渦の前にて。
「これが邪の力であるのなら、私の力を解放します」
聖女の闘気『光の導』
真っ白のオーラを纏う事で、邪を寄せ付けない力を得る。
効能は、聖女魔法の強化。魔力の増強。暗黒闘気に対抗する正反対の力である。
「白い・・き、綺麗」
ガルシアが思わず見とれてしまうほど、マリアンナの闘気は澄んでいて綺麗だった。
元々の容姿の美しさに、この白の輝きが映える。肌の白さも透けて通るほどだ。
「開けます。二人とも私のそばに」
「う、うん」「わたくしもですね」
聖なる輝きを持って、暗黒の雲を晴らす。
「邪を払う。聖なる光の輝き『聖痕』」
マリアンナが手をかざした先に紋章が浮かび上がる。
聖なる紋で、道を開く。
「ぐっ!? こ、これは重いですね。訓練の扉だったら簡単に開いてましたが・・・」
扉を開けるようにするため、少しずつ光の力を入れこむ。
重たい扉を開け始めた。
「ちょっと。いつまで待たせるつもり。いい加減に開けなさいよ」
マリアンナの肩を引っ張ろうとしたロッティの手をガルシアが握った。
「ま、待て。ロッティさん。邪魔しちゃ駄目だよ。そんなことしたら集中力を削ぐから」
「黙りなさい。ダンゴ虫」
「だ。ダンゴ虫?」
「いいから、わたくしの邪魔をしないで下さる」
「え? 邪魔をって? 君が邪魔をしてるんじゃ・・・」
ロッティがガルシアの手を振りほどき、マリアンナの肩に触れる。
「ファイブカード『魔力強化』」
彼女のスキルが発動。マリアンナの魔力が一時的に増強された。
「あれ!? 私の力が・・・」
光の道が続いていく。闇を押しのけて道が生まれ始めた。
「いけますわ。そこの扉を固定して」
「は、はい」
マリアンナは戸惑いながら道を作った。
入っていくとすぐに驚愕の景色が広がる。
「み、みなさん!?」
闇の中にいた全員が、倒れている。特に女性陣のダメージが大きい。
「来てくれたのか!」
「ブライン君!」
「ガッチャンありがとう。連れて来てくれたか」
二人の会話の直後。
「ブライン。わたくしに言う事がありまして」
ロッティはどうしても言いたい事があった。
自分とは二度と会わないような言い方をしたくせに、こうして会おうとしたことを咎めたかった。
だが、ブラインはそんなことを考えていない。
「ああ、ロッティ! 来てくれてありがとう」
ブラインはそばに駆け寄り、ロッティの手を握った。
「君の力が必要だ。オレに君の全てをくれ。頼む」
「え!? す。すべて!?」
ロッティの顔が真っ赤になった。トマト柄の彼女は照れ続ける。
ブラインの容姿端麗の姿は、女性を虜にする部分がある。ついでに濁り気のない純粋な眼差しも、女性の心に拍車をかけていた。
「君が切り札だ。あいつを倒すには、君の力が重要なんだ」
「わ、わたくしの?」
「ああ。頼む。オレが奴を倒すために、君の力で勝負をしたいんだ」
「ぶ、ブライン・・・・わ、わたくしが、あなたに必要なのですわね」
「そうだ。勝つ手段を得るには、君しかいない」
「わかりましたわ。何をすれば」
「ルーレットオブセブンを頼む」
「・・・ん。なぜそれを・・・」
ロッティは、自分の秘奥義だけは誰にも伝えていない。
親にも兄にも妹にもだ。
家族にすら教えていない技を、ブラインが知っていた事に驚く。
「あなたがどうしてそれを・・・」
「オレは君の事を知ってる! 全部ね」
「・・・ぶ、ブライン・・・」
握られた手から温かさが伝わってくる。
これは以前の冷たい突き放しの態度とは違う。
ブラインを信じたロッティは、その手を握り返した。
「わかりました。あなたを信じますわ。やってみましょう」
「頼む」
「ご希望は?」
「運爆上げルーレットで!」
「了解ですわ。いきますわよ」
ロッティは、握られていた手を離して、ブラインの背中に両手を置いた。
「ブライン。始めますわ」
「うん。お願いする」
二人の力が合う時。
黄金の輝きはより強く輝く事となる。
「ルーレットオブセブン! ラッキーセブン」
ロッティの奥義が発動となった。




