第22話 力の差
「何故私の名を・・・ダークエルフ如きが! なぜ知っているのだ!」
軽く後ろを振り返る事で、ミルティアを見たグアバ。
オレに顔を常に向け続けるのが、基本行動らしい。狙いはオレのみっぽいな。
「やかましく喚かないで。私はとある事情で、知ってるだけ。そんなことより、魔人四天王が、どうしてこっちの世界にいるの。侵略を始めるつもり?」
それはオレも聞きたい事だ。
代弁してもらってるような感じになってる。
「ほう。私が魔人四天王だという事も知ってるというのか。貴様、こちら側の人間か?」
「違うわ」
「そうか?・・・しかし、どこかで見たことがある顔・・・だ・・・な? 誰かに似ている気が・・・・」
ミルティアの顔を見て、グアバが止まる。向こうに視線が行ったので、この隙にオレは距離を取った方が良いと判断した。そろりと移動する。
オレが距離を取り始めたら、ナオが近づいて来た。
「ナオ」
「なんだブラタン」
「今、思いついた作戦がある」
「どんなのだ」
「オレが奴を倒す。その為の時間が欲しい」
「ん? ブラタンが??」
「ああ。疑似的に連撃会心ビルドを作るから、その為にここに二人を呼びたいんだ」
「連撃会心? な、なんだそれ」
「説明が長くなるから。まあ、任せて欲しい。ナオは、皆に指示を出して、オレが準備する時間を作って欲しいんだ」
「その顔、信じるぞ。わかった。任せてくれ」
ナオは渋々だけど承諾してくれた。
ここから大事な事をやるからさ。
まだあっちで二人が会話しているなら、その隙に準備だ。
オレは連絡を入れた。
「ガッチャン! 聞こえるか」
果たして、この領域内と外が通じあえるのか。ここが賭けだ。
「・・あ・・・ブライン・・君」
通信が悪い!
声が途切れ途切れだ。
「分かるかな。オレの言葉。伝わってくれ」
「・・な・・何がおきてるの・・・・こっちからだと・・・そっちが真っ暗だよ」
「こっちは戦ってるんだ。結構ヤバい相手でさ。それよりやって欲しい事がある」
「え、戦ってる?・・・・やってほしい・・・ことってなに?」
「いいかい。こっちに呼んでほしい人がいるんだ!」
「え・・・その中・・・・に?・・・入れるの?」
ガラシア君の声が途切れてはいるけど、こっちの声はそっちに普通に聞こえているみたいだ。
「うん。この魔法は、壊す以外で、ここを無効化できる人がいるんだ」
「・・・それ・・・誰?」
「聖女だ。マリアンナをこっちに連れて来てほしい」
「え・・・彼女を?!」
「それと、ロッティを頼む。ガッチャン、君しか頼れる人がいない。連れて来てほしい」
外にいる人物で、オレが連絡を取れる人物は、ガラシア君だけだ。
頼れる人が彼しかいない。
「ろ・・ロッティさんも!?」
それは驚くだろうな。オレをあんな風に言ってきた人を頼る事になるからね。
「頼む。急いで欲しい。時間がないんだ。オレたちは今さ。魔族に襲われてるんだよ。時間がない」
「え!?・・・ま、魔族・・・本当?」
戸惑うのも無理もないよな。
魔族なんて、この時点だと、御伽噺に近い。
奴らの情報だって、古文書にしか載っていないからね。
一般人だと何も知らない敵となるんだよ。
だからミルティアって子は何故知ってるんだ?
「ガッチャン。一刻も早くだ」
「う、うん。わかった」
頼むよ。ここで皆の様子を。
って・・・え!?
◇
会話が終わり。戦いが始まっている。
ノアの防御を中心に、彼女がメインになっていた。
「このダークエルフ。私の動きについてくるのか」
敵の棒術の隙間を縫って、ミルティアがレイピアで攻撃を仕掛ける。
鋭い一撃だけど、グアバは近接も強い。彼女の攻撃はギリギリで当たっていない。
「グアバ、あなたの力が完全ではないようね。ならまだ完全な形で、あなたたちはこっちの世界に来ていないのね」
ミルティアがその場で回転する。
「防御はまかせるわ。ノア!」
敵の棒撃にはくるりと身を捻じって躱し、ノアの盾に任せる。
彼は手が痺れながらも攻撃を受け止めきった。
「了解だ!」
ノアの素の防御力は、今の時点ではそんなに高くない。
でも盾の防御力が異様に高いはずだ。
あの盾だって、騎士団の盾の中でも上位の盾ライオシールドだ。
そんじょそこらの攻撃だったら全部無傷で受け止める事が出来るし、彼の盾操作が上手すぎるから、今の魔人の攻撃すら遮断できているんだ。でも一歩でも間違えたら大ダメージだろうけどね。
あれは、勇気がある人だよ。敵を恐れていたら、ビビって操作を間違えるはずだからさ。
「くっ。連携が厄介だ。人間の癖にしぶとい」
二人からは距離を取るナオとレインは、遠距離が一番活躍できる。
ナオがレインの肩を触る。
「これで当てるぞ。レイン。必中の効果をあんたの魔法に入れる」
「うん。やるよ!」
必中には、もう一つ特殊な効果がある。
それが、仲間にも必中の効果を付与できる事だ。
それは今オレも知ったことだった。
「ウォータースラッシュ」
水の刃を二つ作ったレインは、グアバの側面から一つずつ魔法を放つ。
「挟み撃ちか。まあ、この程度なら躱せるか」
ジャンプ一番で、両脇から来る魔法を躱したグアバだった。しかし、その魔法には必中の効果が生まれている。
「なに!? 追尾してきただと」
魔法が途中で曲がって追跡していく。これは大変珍しい状況だ。矢が追跡していくよりもド派手な展開だ。
「ちっ。これでどうだ」
同質の威力の魔力を当てて相殺。さすがは魔人。魔力取り扱いも完璧だ。ウォータースラッシュが跡形もなく消えた。
「はぁ。私はブラインを殺すだけでいいんだ。貴様らは余計な真似をするな。ブラインを差し出せ」
「そうはさせるか!」
ノアが盾を使ったシールドバッシュを披露。前進突撃で、相手に盾をぶつける。
「駄目。それは罠」
突撃の途中で、ミルティアがノアを止めた。
「え? しかし、今が」
「チャンスじゃない。これはまずいの。ノア。下がって盾を展開して」
「しかし敵が立っているだけで・・・」
「立ってるだけじゃないのこれは! 技を仕掛けてるのよ! 早く!」
敵が止まっている今がチャンス。
ノアはそう言いたげだったが、ミルティアは違う。下がれの合図を出した。
「皆、ノアの盾に隠れて! ブラインも!」
「わかった」
五人で、ノアの大盾に隠れる。
「何が起こるんだい」
ノアが聞くと。
「今から風圧が来るの。ノア、盾をしっかり支えていて」
「風圧?」
「封閲を使った者の定石の攻撃手段で、壁に向かって敵を押し付けるの。自身の暗黒闘気を広げて、威圧してくるわ」
「そ、それは、どんな技なんだ・・押し付ける技?」
「中の人間を閉じ込めて、あの壁で圧死させるのよ。魔法に近い闘気技でね。気を付けて。来るわ」
グアバから放出される暗黒の闘気。
黒の風が、こちらを襲ってきた。
「ぐおおお。重い・・・なんという風圧だ」
「オレも支える。頑張ってくれノア!」
盾を支えるのがノアならば、オレは彼の背を支えた。
二人がかりだったら・・・。
「頑張るけども・・・僕のパワーでもむず・・・かしいぞこれは・・・」
踏ん張っているノアの足が若干浮いた。巨体を動かす。それ程のパワーで闘気を放出しているのか。なんて強さだ。グアバ!?
「きゃああ」
レインの体が若干浮いた。すかさずミルティアが支える。
「駄目。ここから離れたらあの壁まで一直線よ。レイン。私の手を握って」
「う、うん」
何とかして、隠れてくれた。一度飛ばされたが最後だ。
あの壁にまで激突して、空気と壁で圧死するぞ。この風圧の強さなら、それが容易い。
「ナオ。あなたもそっちから、彼女を支えて」
「ぐっ。わ、わかった。でもあーしもヤバい。ぶっ飛ばされそうだ。か、軽いみたいだわ。あーしの体重」
そうか。体重差か。
オレとノアは、男の子で重いからいいけど、女の子三人は軽いわけだ。
「大丈夫。三人で手を繋いで耐えるわ」
「おっけ。た、助かるぜ・・・」
女の子三人は、オレとノアの後ろで手を繋いで必死に耐えた。
この爆風。何らかの威圧感のある風だ。
これは感情に訴える風? 恐れを抱かせる風のような気がする。
心がざわつく感じがあって、彼女たちも少しだけ言葉の勢いがなくなってる。
まさか、スキルの威圧が入りこんだ風なのか。
「っぐぐぐぐ。盾が重い。こんな事は初めてだ」
「耐えてくれ。ノア。オレも何とか君を支え・・・しまっ。最後の風が強い!?」
敵の風が一気に爆発した。ノアの盾が吹き飛び、オレたち五人が吹き飛んだ。
方向はバラバラで飛んでいった。
「ちっ。フィールド維持の為に、力を出し切れなかったか。全員生存か」
敵の声でオレは生存を確認できた。でも念のために。
「み、みんな。生きてるか」
「ああ」「ええ」「あーしもいけるが、レインはどこだ。近くにいねえ」「だ、大丈夫。ボクもいる。心配しないでナオ」
ナオは、あの一瞬で一番危険なのが、レインだと判断したのか。
そうだよな。彼女が一番防御が甘くなりやすい。
ミルティアの強さは別格だから、心配しなくてもいいもんな。
やっぱりすごい人だ。ナオ・ケシガン。全然知らなかったけど、かなり優秀な人物だ。
「くそ。まだか。オレの切り札が来ねえ」
「ブラタン。何する気なんだよ」
「それは・・・ん!?」
封閲の力で、暗闇の戦場。
暗黒とまではいかないが、薄暗い夜の様な場所が今いる場所。
そこに一筋の光が届いた。
オレが背後の光の方に顔を向けると、そこには反撃に必要な人がいてくれた・・・。




