第21話 T3ルート
「時間がねえから手短に行く。ミータンは、何が出来んの!」
「私は全般」
「分かりにくい! 攻撃・防御? 魔法? サポート型か?」
「偏らない。バランス型」
「得意なのがないって事か?」
「いいえ。全部が出来るだけよ」
二人の会話を聞いてるオレは、彼女の凄い自信に驚く。
この人の能力は、高水準にまとまってるって事でいいのか?
いや、原作でそんな子がいたら、オレが覚えてると思うんだけどな。
「んん。それだったら、じゃあ補助を頼む。ノア・レイン。この二人のフォローを頼む」
「二人を見ておけばいいのね」
「ああ。頼んだ」
ナオは、特徴を掴めていない人物であるミルティアに対しては曖昧な指示を出した。
「レイン。あんたは火力でいく。最高の魔法を出せる準備が出来たら、あーしらに合図をくれ」
「わかった」
次にナオはオレの方を見た。
「ブラタン。あんたを囮に使う」
「自分を?」
狙われてるオレを使うのか。
「ああ。敵が狙ってくるなら、逆にブラタンで釣る。防御は任せてくれ。あーしがしゃしゃり出るからよ」
「・・・なるほど。了解」
ナオのしたい事が分かった。
中距離の距離感を維持して、オレと敵の間で動き回る気だ。
「この黒いのってさ。解除できるんだよな。あいつが戦いできつくなったりしたら、途中で解除になったりするんだろ? 違うかミータン?」
封閲の暗黒空間に閉じ込められたら、やる事は二つ。
術者を倒すか。戦闘で発動者を苦しめて強引な解除状態にさせる事だ。
しかしもう一つやり方があるにはある。
それがこの力に匹敵する聖なる力をぶつける方法だ。
「ええ。そうなる可能性はある。封閲は、戦闘区域確定の領域技で。あの人の集中力が阻害されれば、技が解除されるわ」
「わかった。それなら、今の策で良い。ここを脱出すれば、あーしらの周りに先生たちもいるからな。この異常事態で集まっているはず。そうなりゃ、あいつ的には多勢に無勢になるだろ。人数差を作るぞ」
数で押し切る作戦のために、第一段階でオレたちが勝利しないといけないって事か。
分かりやすい作戦だ。
「よし、作戦は決まった」
ナオが最後の指示を出す。
「バラバラで動いていくからな。ブラタン。あんたは右回りで、あーしがフォロー。レインは左回りで、ミータンがフォローだ。動くぞ! 散!」
「「「了解」」」
彼女の指示通りに全員が動く。
オレとバディを組んだナオが、オレの後ろを走る。
「ブラタン。タイミングを間違えんなよ。防御しきれ!」
「わかってるよ。でも防ぎきれないかもしれない。動きが分からない」
敵の正体が分からない。ゲーム時代でも戦ったことがない敵だから、動き方の癖が分からないぞ。
だから、こっちの動き方はぶつけ本番だ。
オレの頭の中の資料にもいない敵だからな。警戒度はマックスだ。
「ん!? 来るぞ。警戒しろ」
鷹の目で敵の動きを捉えたのか。
まだアッシュとノアは戦っているのに、ナオは指示をこっちに出してきた。
「しまった。敵の動きを・・・挑発が入りきらなかったのか」
ノアの声が聞こえたと同時に敵がオレの前に出現してきた。
「ブライン。貴様は死ね。我々の世界に安定をもたらすためには、貴様の死が必要なんだ。理の外にいる人間よ」
獲物は、打撃棒。こいつは棒術使いだ。さっきの大剣よりも遥かに動きが良い。
振りが速すぎる。
右から来る薙ぎ払いの攻撃に対して、オレが横に動いて躱そうとすると、逆に棒の勢いをもろに喰らうと思った。
だから、一歩踏み込んで当たる事にした。先回りだ。
どうせ躱せないんだったら、当たって砕けろなんだよ。
根性で痛みを乗り越えろオレ!
「ば、バカ強い。なんだこの一撃は!? ぐわぁ」
龍麒を一瞬だけ解放。防御の力を強化。そこから敵の懐に飛び込んだ。
棒に当たった瞬間に吹き飛びの態勢になったけど。
でもここで逆にその力を利用して、自分でも後ろに飛んだ。
物凄い勢いで後ろに飛ばされるが、それはわざとなので、ド派手に吹き飛んだ割りには、ダメージが少ない。
なんとか生きている。胴体は下半身と繋がってる。
「ブラタン! 大丈夫か」
「自分はまだ生きてる。皆、警戒はしててくれ。自分はまだいける」
「いや。まだだ。ブラタン! ちっ」
つ、追撃が来てる?
吹き飛んだと同時に敵が動いていた。
倒れ込んだオレの前に敵がいた。どんだけ速い移動なんだよ。化け物か。こいつ!
「死ね。ブライン・レッドピック」
「死んでたまるか! 一か八かだ。龍麒!」
もう一度力を解放。
敵の振り下ろしの棒撃に対して、オレは必殺の一撃を入れる。
「黄龍麒麟拳。黄龍・竜虎撃 倍返しだ!!!」
黄龍麒麟拳のカウンター掌底攻撃。
自分の力に、相手の力を乗せる事が出来るから、こいつの力でこいつを倒す!
「ぐあはっ!? な、なに。非力な貴様が・・・」
そうだろうな。あんたから見たら、めっちゃ非力だろうけど、この技が優秀なんでね。
自分自身の力の強さに苦しめ。
でもこれはクリティカルで入ってないな。
この敵、防御力もかなりあるようだ。
「止まんな。ブラタン」
フォローに入ってくれたナオがオレの首根っこを掴んだ。引きずりながら敵との距離を作ってくれた。
「あ、ありがと・・苦しい」
「我慢しな。あーしらは、一瞬の油断でぶっ殺される」
動きながらナオは次の指示を出した。
「ノア! 足止め頼む」
「了解」
さっきは挑発失敗で体勢を崩していたノア。
オレがいた位置に入って、盾を構えてひきつけてくれた。これで一時的にオレは離脱となる。
「まだかよ。さっさと必殺が必要なんだけどよ」
二人でレインの方を見る。
一度できていたのに、魔力を作り直している所だった。
◇
レインが魔力を練り始めた頃の会話。
「レイン」
「う。うん」
「何の魔法を作り上げる気?」
「あ、アシッドレインだけど・・」
「それって試験の時の?」
「う。うん」
「未完の技を出す気なの」
「え・・・未完?」
ミルティアがレインの隣に立った。
「この魔力の形では、未完よ。イメージが悪いわ。あなたのこれは霧が主体になり過ぎているの」
「え、でも。お師匠様が、こうすればできるぞって」
トリスの魔法は、毒霧が主体。
周辺を毒で埋め尽くす悪質性の高い魔法を作り上げる。
成分の違いで、魔法に違いが生まれる。
「それは、あの人が、毒使いだからね。広く撒いて、敵に吸わせれば勝ちでしょ」
「うん」
「だから彼女は設置魔法。でもあなたは範囲魔法。悪質性が同じでも、魔法の基本構造が違うわ」
ミルティアは、出来上がる魔法のイメージを伝えていた。
「あなたのこれは、相手に浴びせないと駄目よ。触れさせるのが、敵攻略の手段よ。だったら、イメージは雨しかない」
「雨?」
ミルティアが、敵の頭上を指差した。
「あそこに、水玉を設置。そこから破裂させて、アシッドレインを降らせる。雨と同じ動きをイメージすれば、敵に必ず当たるわ」
「・・・なるほどね。うん。やってみる」
魔法発動初動。
丸い水玉をイメージ。
徐々に大きくして、直径1mで作る。
敵の頭上に水玉が作られていった。
「む。難しい・・・これを・・・破裂?」
大きくするのまでは出来た。しかしここから先の動きがイメージできなかった。
霧であれば、最初から霧散させればいいだけ。
だが雨となれば、話は別だ。それぞれの水が独立した動きになる。
「雨粒を一つ一つ丁寧に作ることはないの。針で水風船を突いて、あの中身をバシャンとさせるイメージよ。水の粒を自動落下させるだけにすれば、こちらの魔力の負担は軽減されるわ」
「・・・そっか。動きのイメージを大雑把にしていくだけなんだね」
「そう。手助けするから、やってみて」
「うん!」
準備は整った。
◇
「ナオ!」
ミルティアから合図が来た。
反撃の狼煙だ。
「やっとか。よし。出せ!」
オレを掴んでいたナオが手を離す。
急ターンして、ノアに向かって行った。
「ノア! これでもくらえ!」
ナオが飛び跳ねて、ノアの身長まで高く飛んだ。
「は? ぶはぁ!?」
ノアの横顔に、ナオの飛び蹴りが入った。
さっきまで完璧に敵の攻撃を盾で防いでいたのに、彼女の蹴りは不意打ちだったらしい。
もろに入った。
「な、何するんだ! 君は!!」
「馬鹿野郎。あれに当たったらやべえ。鈍足のお前が移動するくらいなら、あーしが蹴った方が速え!」
こっちの仲間割れのような行動で、敵は棒立ちになった。
この一瞬が大切。
魔法が発動。そこからすべてが始める。
あれは、まさしく完成形のアシッドレインだ。
「ボクはレイン・スタークス。ロア王国の姫だ」
魔法展開は口上から始まった。
「皆を守るのだって、ボクの役目! だって姫だもん。民を守れぬ姫に意味はない! 発動アシッドレイン」
雨が降り注いで、敵が苦しむ。
「ぐおおお。こ、これは、酸性雨か!?」
驚異の範囲魔法アシッドレイン。
触れたものを溶かしていく悪質性の高い魔法。
効果が高い順は、魔法→装備→人体。
なのにこの効き目は?
「まさかこいつ自体が魔族だったのか・・・」
敵が苦しむ様子が変だった。この魔法で、一番最初に皮膚が剥がれていくなんて、ありえない。レインの魔法は、人体には最後に影響する魔法なんだ。
つまり、奴に直接影響したって事は、容姿が魔法出来ているって話だ。
ここまでアッシュと瓜二つだったから、操っていたのかと思っていたんだけど。
これは、アッシュの姿を模していたんだ。
なるほど。だから武器が自分の得意武器で棒術だったんだ。これは幻術だ。変身だったら、剣でいいんだもんな。
敵の真の姿が露わになった。
「ちっ。人間如きにやられるとは。私の姿を見せる事になるとはな・・・若い芽だと思い、甘く見ていたか」
容姿端麗で美しい顔の角持ち。
青白い顔色の悪い男は、魔人四天王『グアバ・ユール』
なんでこんな時にこいつが?
「あんたは、グア・・」
ついつい言ってしまう所で、オレがなんとか耐えていたら、反対側から。
「グアバ!」
なぜ君が知っているんだ?
ミルティア・テルロー。
君は一体、何者なんだ!?
敵を知る女性を、オレは何も知らない。
この先の展開も全く知らない。
どうすればオレはリミットタウンを生き残れるんだ。
情報が足りない気がした。




