第20話 ターニングポイント
「それでは集まってもらいたい方たちがいますので、そちらの方たちは、第一試験場の四番ステージに来てください」
試験戦闘の終盤で、アナウンスが入った。
四人でずっと話していたオレたちもその話を聞いていた。
「ナオ・ケシガン」
「やべ。なんかしたか。あーし。これ呼び出しじゃんか。どうしよう。バックレるか」
悪いことをしたと思った彼女は珍しく狼狽えた。
「レイン・スタークス」
「あ。ボクもだ・・・ど、どうしよう。ボクも怒られることしたのかな」
ここでオレはこの呼び出しのメンバーについて気付いた。
なんでそっち方面で不安になるんだ。この二人は・・・。察しが悪いだろ。
「ブライン・レッドピック」
「え。ブラタンも」「ブライン君も」
二人が不安そうな顔でオレの顔を見た。
だからなんでそうなる。あんたら、オレらの共通点を察しろよ。
「ノア・ラインガルド」
そうか。君も突破したんだ。
さすが次期騎士団長だ。
「ミルティア・テルロー」
・・・・誰? え、誰。
Tier2や3でもない。むしろ聞いたこともない名だ。
このメンバーの他で、先生たちに勝てるメンバーって言ったら、ロッティかマリアンナだけだぞ。もしくは彼か?
ミルティア・テルロー?
誰だ。
「ど。ど。どうしよう!」
「あーしは具合が悪くて帰ろうかな」
「二人とも大丈夫だよ。ほら、勝った人達だと思うよ」
ガラシア君が二人に言った。
「「え?」」
「先生に勝った人達だって」
「「あ。そうか」」
二人がようやく気付いた。
「なぁんだ。焦って損したぜ。なあ、レイン」
「そうだね。ボクら、悪い事しちゃったって思ったよね」
「ああ」
優等生と不良。一見したら仲良くなるわけはないのだが、この二人は結構仲が良くなったと思う。
たぶん、ナオがレインの事を、姫様としてじゃなくて一人の友達として扱ってくれるから、どちらかと言うとレインの方が懐いている感じに見える。
「それじゃあ、そっちに行こうか」
オレが三人に言うと、ガラシア君から返事が返って来た。
「おらはいいや。いってきてよ。その呼び出しに関係ないもん」
「え。でもさ」
学校では、いつも一緒だから、離れると寂しい。
だからまた一緒に行こうと誘うけど。
「やっぱりそっちに行くのは変だよ。おら全然ダメだったからさ」
「そっか。じゃあ、終わったらすぐに連絡するから。これ、見ててね」
生徒手帳を取り出した。
「おっけ!」
ガラシア君も生徒手帳を取り出した。
この生徒手帳は、仲間リンクさせると、これで連絡を取り合える。
携帯電話みたいな機能があるんだ。
「お。そういや、あんたらだけは先にしてんのか。なんだよ。あーしも混ぜてくれよ」
ナオの次にレインも。
「あ。ボクも! 三人の分を入れたい!」
「いいよ。じゃあ、交換しておこうか」
オレたちはこれでパーティーになったようなものだった。
四人で一組だからちょうど良い感じだ。
それにバランスもとれている。
戦士タイプ1 遠距離タイプ1 魔法タイプ1 後方支援型1
ガラシア君は自分に自信がないようだけど、この人は絶対にパーティーに必要なタイプの人だ。
なぜなら装備修復の力を持っている。
この子は本来鍛冶師だ。
これは、パーティーが連戦で戦う際に、非常に重要な役職だ。
この世界は、武器や防具に耐久値がある。
一定数削られると、能力が落ちて、耐久値が0になると、完全破壊で消滅になる。
なので、損傷したらその都度修復するのが重要になり、これらを直すにはお金が必要になってくるんだ。そこを彼に頼めば何とか出来るかもしれない。ダンジョン内とかで得たアイテムで、素材は回収できるからね。
それに、だからこそオレは耐久値なんて関係ない拳を選んだんだ。
ここの費用の削減に繋がっているからさ。
「じゃあ、ガッチャン。またね。終わったら絶対にすぐに連絡するからね」
「うん。待ってるよ!」
オレたちはガラシア君と別れて、呼び出しの場所へと向かった。
◇
指定の場所に行くと、既にノアがいた。
大きな体で手を振る。それだけで威圧感がある。本人としたら、至って普通に手を振ってるだけだろうけど。
「お~い。ブライン。君も突破したんだな」
「ノアもだったか・・・まあ、当然だよね」
「うん」
凄い自信だな。
やっぱり主要メンバーって面白い性格をしてるよな。
ノアは行動や性格は大人しそうなのに、自分の実力に自信があるタイプの人だ。
マリアンナも変わっている性格だし、あのロッティも変わってる。
それにこの姫様であるレインもだ。
「あ。ノア君。おひさ!」
「はい。姫様。お久しぶりです」
「また! 堅苦しいよ。ボクら、タメだよ。タメ口がいいな」
「それは無理です。姫様はこの国の大事な方です。騎士は、王国の要人を守らないといけません」
「ちぇ!」
本当は友達みたいに話したいレインは明るい舌打ちをした。
「ずいぶん。でけえ男だな。こいつ」
「誰?」
ナオの事は当然分からない様子のノアは首を傾げた。
王国にゆかりのある人物じゃないし、原作でも有名な存在じゃない。
実力を隠していた子だから、ノアが知らないのは当たり前だ。
「ナオだ。デカ男」
「僕はノア」
「ノアか。わかった。ノアでいいか」
「なんでもいい」
ナオはノアの周りをグルグル回って、体をじろじろ見ていた。
「ふ~ん。強いな。それに良い体してるしな。このガタイで、デブデブじゃなくて、筋肉質だしな」
「パパのおかげで恵まれただけだ」
「パパ?」
「ゴア・ラインガルドが僕のパパだ」
「お! あの化け物おっさんか」
「知ってるのかい?」
「まあ、一回会った事がある。団長と旧友らしいからな」
「団長?」
「西火の楽山のアイソンだ」
「なに!? アイソン殿だと!?」
「ん? あんたも知ってんのか?」
お互いがお互いの知人を知っているそんな感じの会話をしていた所。
オレはどうしてもオレの左隣にいる人が気になっていた。
真っ直ぐ前を見て、黙って立っている女性だ。
肌が薄い黒で、耳が尖っている。
この人はこの世界のエルフの中でも珍しいタイプのエルフ。
ダークエルフだ。
「あの」
「・・・・」
顔は真っ直ぐ。でも目だけが、オレを見てきた。翠玉色の右目が美しい。
「あなたが、ミルティアさん?」
「・・・・そう」
一言で返ってくる。話が続かない返しだ。でも遠慮はしない。ここで踏み込むぞ。
「自分は・・・・」
名乗ろうと思ったら。
「ブライン・レッドピックでしょ」
名前を言い当ててきた。
初対面なのに、どうしてわかった。
「え!?」
「あなたの事は忘れないわ」
この言い方。前にオレを見たことがあるのか。
待て、思い出すか。えっと・・・ブラインの過去編を思い出しても・・・。
ミルティアっていたか?
いないよな。どういう事だ。
そっちが一方的に知っている状態なのかな。これは?
「夜空を照らす。希望の光。世を導く光・・・明星のブラインでしょ」
「ん!? それは・・・」
どこかで聞いたようなフレーズで、えっとどこで聞いたっけ?・・・。
色々悩んでいると、先生がやって来た。
こっちに来たのは、体中の傷を見せつけるために半裸になっていると言われる男性だ。
これは、まずい。
コンプライアンス違反男として、ゲーマーの間でミームになっている人だ。
副教頭『アッシュ・トーカー』
異名は、怪物アッシュだ。戦闘時の粗削りな戦い方から来てる名である。
「お前らに来てもらったのは他でもない。今回の新入生が優秀過ぎるみたいでな。五人も突破者が出てきてしまったからよ。恒例の最難関試験を追加する事になった」
最難関試験?
おい、聞いたことがないフレーズだよ。
あれだけやり込んだオレでも知らない事だぞ。
この序盤で、こんなイベントがあったっけ?
いや、待てよ。そもそもだ。五人も突破するって状況がないや!
今まで最高でも四人だった。
ブライン。ノア。レイン。ロッティ。
この四人が、試験突破する可能性があるのがゲーム時代のリミットタウンだ。
マリアンナは、まだ成長段階であって、しかも聖女の魔法を使わないと決めているから、なおさら勝ち抜くのが厳しい。だからこの時点だと試験突破が難しいんだ。
でも今回は五人になってる。
オレに、ノア。レイン。ここまでは順当だけど。
ナオ。そしてこの子。ミルティア・・・。
いったいどんな子なんだ。情報がない!
「内容は、俺と勝負だ。全員で挑んでいいぞ。お前らが戦った先生らとは、強さの桁が違うからな」
だろうね。あなたの実力は、このゲームでもトップクラスだからな。
「そんで、どいつがブラインだ」
「え。あ、自分です」
「そうか」
急に冷たい目になった。
オレってこの人に何かしてたのか?
歩いて近づいてくるアッシュは、オレの前で立ち止まる。
そして。
「お前がブラインか」
「は。はぁ」
何回聞くんだこの人は。
「死ね」
「え?」
突然大剣が頭上から落ちてくる。
急な悪意に、脳の処理が追い付かない。体の反応が悪かった。
目の前が大剣の影で暗くなる。
「ブライン。僕の盾に隠れてくれ」
ノアが盾を展開。オレを守ってくれた。
「ぐあっ。重たい!? 本気の殺意だ。皆、ブラインを守れ。狙いは彼だ」
敵の目を見て言ったノアは、彼の顔がオレにだけ向いている事に気付いていた。
「離れるぞ。ブラタン」
「う、うん。ぐあっ」
足が動かないオレのために、ナオが首に腕を回して動いてくれた。
ヘッドロックのようだけど、これで後ろに移動できた。
「離れろ。レイン。そこのあんたも。危険だ。一旦ノアに任せておけ」
指示が通った。全員で後ろに下がる。
「邪魔をするな。ノア・ラインガルド」
「あなたは、何者だ。怪物アッシュは、いきなり人を切り殺すような人じゃない。先生じゃないな。誰だ!」
ノアの呼び声から、アッシュの態度が変わる。声も変わっていった。
「ちっ。察しの良い騎士だ。貴様が邪魔をするか。まあいいどのみち全員殺せばいいからな」
アッシュが大剣を見つめる。
「この獲物では、私の力は半減だからな」
そしてアッシュが大剣を捨てた。得意武器を放棄した。
「封閲」
アッシュの全身から黒の靄が渦巻く。
徐々にその濃度が濃くなり、そして外へと広がる。試験会場を覆った。
「こ、これは・・・」
この状況は、昔のオレが経験した状況だ。
魔王襲撃ルートであれば、この状況に気付く。
魔王軍が戦う時に出すフィールド技だ。
魔族の力を増幅させる術で、さらに奴が纏っている力は・・・。
「暗黒闘気」
オレの左隣にいるミルティアが先に答えた。
「え、なんで。君はそれを知って・・」
暗黒闘気。
それは、魔族が持つ龍麒のような闘気系の技だ。
黒の魔闘気を体に纏わせる事で、防御と攻撃を補完して、魔力のスムーズな発動を促す闘気だ。魔族でも上位存在だけが出来る技。
「ブライン。いい。よそ見をしたら死ぬわよ」
「え・・・」
オレに指示をくれる彼女の目は、敵を真っ直ぐ見ていた。
「あれは、あなただけがターゲットのようね」
「ん? あ!?」
アッシュが対峙しているのはノアなのに、アッシュが見ているのはオレだ。
敵は他をまったく見ていない。
「姫様。助けてほしい。僕が防御を。君が攻撃をするんだ」
「う。うん。ノアに防御を任せるから、攻撃はボクがするよ!」
「それじゃ駄目だ」
二人の意見を頭ごなしに否定したのは、ナオ。
彼女が前に出る。
「こいつは、そんな単純な動きじゃ、勝てねえ。あーしに任せてくれ。三十秒耐えてくれ。デカ男!」
「この相手に対して防戦一方でか・・・うん。難しいがやってみよう」
「頼んだ。レイン。こっち来い。ブラタンもだ。そこの女もな」
三人を呼び寄せる彼女の元に集まる途中。
「そこの女じゃない。私は、ミルティア」
「じゃあミータンな」
「なんでもいい。女呼びは嫌」
「悪かったわ。時間がねえからな。これで言い合いは終わりな」
「ええ。いいわよ」
「じゃあ、いくぜ。あーしの作戦で動くぞ」
そういえば、ナオの能力は指揮官寄りだった。
もしかして、得意なのは戦闘じゃなくて、集団戦闘なのか。
彼女の真剣な表情を見ると少しだけ安心した。
絶望的な実力差のある魔族との決戦に挑めるようだからね。
事態を飲み込めないけど、オレは原作を超える何かに巻き込まれたようだ。




