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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
怒涛の十日間

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19/29

第19話 弱いことが弱いわけじゃない

 オレの出番が来た。


 先生の元に向かう前に、レインからの応援が温かい。

 握り込んだ両手を上下に揺らしている姿は、運動会で幼い子が友達を応援する姿と重なる。


 「頑張って。ブライン君」

 「うん。ありがとう」


 返事をしたら、こっちからも応援だ。


 「ブライン君。応援してるからね! 頑張って。気を付けて」

 「ありがとうガッチャン」


 ガラシア君も、レインと似た感じで、応援してくれた。

 君は顔が上下に揺れているので、頷きながらだね。

 あんたはオレの親か。そんなに心配しなくてもいいのに。

 

 「ブラタン。かませよ。タダでやられるんじゃねえぞ」

 「あ。うん。ナオもありがと」


 素直じゃない言い方だけど、これも応援らしい。

 オレがやられるのが前提みたいな言い方なのが気になる。


 三人の声援を背に、オレは奴に挑戦した。


 ◇


 ウォルシュ・プッシュ。

 近接戦闘の先生の中でも、攻撃力が異様に高い先生だ。

 この時点で、先生方のステータス平均値が300~400でまとまっている中、彼はその倍くらいあった気がした。

 ブラインの学園時代は、ゲームで言うと初期から中盤あたり。

 ここらで登場する人物は、この程度のステータスを限度に収めてある。

 まあ、主要な先生。例えば、校長とか教頭。副系統や学年主任はヤバめな強さだけどね。

 だけど、ウォルシュは攻撃力だけは別格に育っている。

 今回が練習用の斧だとはいえ、その素の攻撃力は厄介だ。

 生徒如きの防御力じゃ一発KO間違いなしだからね。


 オレの防御力も、一年生の中ではかなり弱めだ。

 素の防御力は21。学生服が防御力20。

 だから合計の防御力が41だ。

 あっちの攻撃力が600前後だとすると、一撃500以上のダメージが入る。

 オレのHPが121だから・・・・。

 あ、死んだわ。一撃喰らったら死ぬんだわ。

 掠ってもヤバいな。

 100以上は入るかも。


 「ここでも切羽詰まった状況か。これこそリミットタウンの状況だな。ソウルライクゲームのように、死んで覚えろ精神が見え隠れするんだよ。死にゲー的な感じもするわけ。なのに一度も死んじゃいけない。理不尽だよな。リミットタウンってさ」


 リミットタウンのゲームオーバーの一つに、ブラインの死亡がある。

 HPが0になったら即死ではなく、インターバル期間が損傷具合で置かれて、その期間内に復活しなかった場合に死亡となる。

 そして、戦闘時の瀕死から復活しない場合は、死亡扱いになり、そこから即座にセーブデータが落ちる仕様となっている。 

 人生は一度きりをモットーにしてるとかなんとかで、本当にセーブデータがぶっ壊れるんだ。

 オレも一度や二度じゃなく、何回か経験した。本当に二度とそのデータをロード出来ないんだよ。

 やばいだろ。このゲーム。子供とかだったら泣くよ。

 今まで一生懸命やってきたのにさ。

 次のタイトル画面を開いた時には、そのセーブデータが消えてるからさ。大泣きだわ。


 「そんで、今回はどうなの。生身のオレが死ぬって話はさ・・・・それってどうなるんだ?」


 先生の前に到着していたオレがブツブツ呟いていたら、前から声を掛けられた。


 「おい。そこの。何を考えてるんだ? 勝負をしねえのか」

 「あ。はい。します」


 先生だけど、ウォルシュはガラの悪い男でもある。

 巨大な戦斧持ちなので、下手したら蛮族にも見える。

 肩にかけて話しかけてくる姿だって、海賊だろ。これ。

 

 「じゃあかかって来い。最初は、そっちのターンだから安心しな」

 「あ。そうですか」


 攻撃はしねえから、撃ち込んで来いだそうです。

 そう言えばさっきのガラシア君の時も、最初は無防備だった。

 なるほど。さっきも同じことをしていたわけだ。余裕を見せて、生徒の攻撃をわざともらう。

 そんで、完膚なきまでに反撃で倒すわけだ。


 「じゃあ。遠慮なくいきます」


 折角もらった機会なので、全力でいかせてもらう。

 

 「おりゃああああ」


 殴る蹴る。基本動作で攻撃。

 オレの拳と蹴りが、ウォルシュの肉体に当たると、パチパチパチと音が鳴る。

 痛みはなさそうな音だ。


 「ハハハハ。子供のマッサージか。こいつはよ?」


 だろうな。 

 オレの攻撃力って32しかないからな。

 ウォルシュの防御力が、先生方の平均の300だとしたら、全く攻撃が入らない。0ダメ。どんなに殴っても無傷で決まりだぜ。


 「これ以上はやめとけお前。才能がねえんだ。ギブアップしておけ」

 「いいえ。これからが本番」


 思考加速と並列を展開。2秒の考えるタイムを作る・・・わけじゃない。

 展開した理由は、2秒間を上手く使うため。

 オレが動くための時間を作っただけだ。

 パッシブスキル『肉体加速』

 思考中に行動が可能になるスキルだ。


 2秒の時を止めて、撃ち込んだ数は40発以上。

 それと余裕の態度の先生がくれた元々の時間は、5秒。

 計7秒で、オレは200発近い攻撃を繰り出した。


 「ちっ。しつこいぞ。終わらせてやる・・・ん? ば、ばかな。え?」


 ウォルシュが苛立ってこっちに反撃を仕掛けようと、背中に背負う斧に手をかけた時に膝を突いた。

 

 「いやぁ。まだまだ本番はこっからですよ。先生、ギブアップするなら今の内ですよ」

 「な。なんで体が・・・」


 ダメージが重なりすぎて、動きにくくなっている。

 ウォルシュは自分のHPが削れている事に気付いていない。しかしこれも仕方のない事だ。周りの生徒も、試験官として待機している先生たちも、誰も気付いていない。

 オレの攻撃が弱いのに貫通している事にね。


 「そいつは企業秘密です」

 

 手の内をバラす馬鹿がどこにいる。

 それにここでオレがさ。

 必殺の連続クリティカル攻撃が炸裂してんだよって言い切ったらアホだよな。

 オレの攻撃20発の内一発だけが、あんたにめちゃくちゃ効いているんだよって説明すんのはさ。めっちゃ恥ずかしいから、黙っておこう。


 「くっ。ならば。これでどうだ。戦斧相(せんぷう)


 その技は知ってる。

 後ろに斧を引いてから、横一線のスキル技だな。たしか重戦士のスキルだったかな。


 オレの中にあるリミットタウンの辞書を甘く見るなよウォルシュ。

 技の動きなんて、大体頭の中に入ってるから、ほとんど見極められるわ。

 どんだけやり込んでると思ってんだ。オレは、廃ゲーマーだぞ。


 知識で、相手の動きを読み切り、こちらが有利となる初動を作り出せる。

 素早さに違いがあっても、敵の行動を読みきれば、オレの方が先に動けるから、攻撃を躱す事も容易いのさ。


 「か、躱された?! 馬鹿な」


 ウォルシュの斧が、オレを切り裂けず横に流れる。

 空振りに終わる事で、斧の勢いに体が持っていかれたようだ。ウォルシュはバランスを崩していた。

 だからそこで、更にオレの攻撃を当てていく。


 「これでどうだ。おりゃりゃりゃ!」

 

 連打。連打。連打!

 どれか一つでもいいから、クリティカルであれば、自動的に32のダメージが入っていく。

 運で蓄積しろ。どこかでぶっ倒れるだろ。ウォルシュ!

 

 「痛くもねえ攻撃だ。次に・・・あ、なに。なぜ俺にダメージが!?」


 ダメージが遅れて入った。

 もしかしたら、二発くらいクリティカルが入ったかもな。


 「どのくらいで倒れるのかが分からないんで、連打しますけど。降参します?」

 「だ、誰が。ガキ相手に降参するか! ああああああ」


 雄叫びを上げた。

 周辺の空気ごと震えている。この感じは、たぶん。

 戦士の上位職の技『威嚇』だろう。

 敵の行動を遅らせる技で、これの更に上の技がキャンセルクラッシュだ。あれはもっと悪質で、スキルキャンセルだからな。


 「状態異常狙いか。じゃあ、龍麒」


 一瞬だけ龍麒を解放して、即座に解除。これでMP消費を抑える。

 この技は、そういった類の状態異常も防ぐ事が出来るんだ。タイミングよく発動すれば、燃費を抑える事ができるから、今のオレにとっては、この技はこういう使い方になる。

 MPが少ないんでね。


 「な、なぜ。ビビらない。どういう事だ。お前・・・・」

 

 バステルは、焦ってるのか。言葉がたどたどしくなった。

 さっきまでの勢いはどうした。

 

 「いや、ここでビビってもしょうがないんで、スキルでビビらされるのも嫌だし」


 すでに死神の鎌を首元に置かれているんでね。

 こんなのでビビってたら、この世界でオレは生きていけないと思う。

 それに、死神の事以外でビビるのも嫌だわ。

 たかがバトル。そっち以上の恐怖はない。ずっと鎌を置かれている状況の方が怖いわ。


 「それで、先生。降参はなしですか? オレ、勝負を決めに行けますよ」

 「・・・いいだろう。その自信。砕いてやるわ」


 斧を両手で持ち上げ。

 天高くまで掲げてから、そのまま振り降ろす。

 と言う事は、その技は『地面割り』だな。

 最初のモーションが大きくて遅い印象があるけど、それは準備段階だけで、技的には異様な速度で進む。

 だから、このモーションに入ったら、離脱するのが最善手だ。


 「地面割り!」

 

 バステルがスキルを発動させた。

 オレの予想通りの技だったので、対処が可能。 

 すでに後ろに飛べるように体重を移動させていた。


 「ほい」


 バックステップからのジャンプ。バステルの斧はちゃんとオレがいた位置に落ちていく。


 「なに!? 躱された!??」

 「悪いですね。あなたのその技は、反動系の技だ」


 スキルインターバルとは別の。

 威力増強と引き換えに、体に反動が起きる技。

 動きが一瞬だけ止まってしまう『硬直タイム』がある。

 だから、この技は・・・・。

 

 「その技は確実に当てられる時だけに発動させるものですよ。先生!」

 「いや・・・それは、今がまさに・・・」


 そうバステルにとってだと、今がまさにその好機だと思ったんだろう。 

 なにせ生徒たちにその技を見せていないからね。

 雑魚ステータスの学生ならば躱せるはずもないしね。

 この二つの要因で、ケリをつけられると思ったはずだ。


 「硬直時間って厄介ですよ。二秒あれば、オレはこうやって、ほいほいほい」


 またまた連打!

 どれかがクリティカルであればいいから、ジャブ攻撃で良い。

 だから、オレの連打が速い。


 「がはっ・・・だ、ダメージが入ってる!? ど。どうして」


 あなたの敗因は舐めプだね。

 弱い学生だと侮った事が負けに繋がった。


 「弱いことは恥じゃない。強いことが偉いわけじゃない。先生、いいですか。一番大事なのは何にでも挑む事です。挑戦者が世界の勇者だから!」


 この世界に勇者のジョブがない。

 かつてはあったという設定だが、今のリミットタウンには勇者がいない。

 だけどオレは、このブラインこそが魂の勇者だと思う。

 これは彼のセリフ。

 挑戦者が世界の勇者。

 挑戦する事が一番大事。

 失敗も。死も。どちらも恐れずに突き進む。

 彼のモットーで生き様だ。


 「ぐはっ。その心に負けたって事か。俺・・・は・・・」

 

 バステルがドサッと倒れた。HPが尽きかけたんだろう。瀕死状態かもしれない。


 「大変だ。回復させなければ、急げ。救護班!」


 先生方が慌てて、救護に入った。

 バステルは担架に乗せられて急いでどこかへ移動していったのである。


 「あれ、やり過ぎたか。ま、いっか!」


 とりあえず目標には到達した。

 最初の難関、チュートリアルバトル攻略だ。

 ホッとしたと同時に。


 「凄いよブライン君!」

 「やるな。あんた」

 「おお! ボクよりも強いんじゃないかな」


 三人が来てくれて、更に安堵した。

 そばにいて安心するのはもうこれって、仲間だよな。

 そうだ。オレはキミらを大事にして進もうと思う。

 新たなブラインとしてさ。

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