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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
怒涛の十日間

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18/29

第18話 友人

 あれは・・・。

 まさか。この時点で、彼女はあの魔法を使えたのか。知らなかった。

 あれだけやり込んでいたのに、オレって全然この世界の事を知らないんだな。

 魔王もこの時点でいたしさ。

 シャオリンとだって、あそこで師弟になれるなんて知らなかったし。



 彼女の周りに漂う紫の霧の名は凶悪な性質を持つ魔法『アシッドレイン』

 触れるものを溶かす魔法だ。


 だから・・・。



 ◇


 「いくよ。先生! 防げないだろうから、危険になったらギブアップしてくださいね」

 「なにを言いますか。私を侮らないでください。姫様!」


 パラメラが氷の障壁を分厚くした。

 でもそれは意味がない。

 オレは知ってんだわ。あれはそんなものじゃ止められない。

 彼女の魔法を止める事が出来るのは、彼女の師だけだ。

 

 『冷笑の蟲毒(キラースマイル)』トリス・メリーランド。


 魔法師団団長だけが、受け止めきれるんだよ。

 リミットタウン作中最強クラスの魔法使いだけが出来るわけよ。

 それくらい、やべえ魔法なの。

 普通に暮らしておけば、別に戦う必要もない姫様。

 それなのに、あんな魔法を習得しちゃってね。大変だこりゃ。


 「アイスウォールで防ぎ切ります」


 氷の壁で、守り切る。

 魔力を高めて、完全に攻撃を遮断しようとしたパラメラだったが、レインの紫の霧には及ばない。

 霧が氷を溶かし始めた。


 「え?! と、溶けた・・・」


 霧に触れた所から、魔法が溶けていく。

 対魔法では即効性があるのが、アシッドレインだ。

 

 「な、なら。風で・・・この霧を吹き飛ばしましょう」


 パラメラは氷と風の魔法使い。

 だから普通の水魔法の使い手だったら、彼女に勝つには至難の業だ。

 水の相手として、氷と風は厳しい。どちらかと言うと苦手な相手である。


 「ウインド」


 風を起こして、霧を吹き飛ばす。

 その発想は悪くない。しかし、その霧は普通じゃない。異常な霧なんだよ。


 「無駄ですよ。先生。ボクの魔法は止まらない」

 

 この霧は悪質と言う言葉がよくお似合いなんだ。

 対魔法であれば、何があっても効果抜群の攻撃で、そこに相性などない。

 全てが有利条件となる。あれと対峙できるのは、現状トリスの毒魔法だけだ。

  

 「か、風が負けている!?」


 ウインドが溶けていく。

 ぶつけて相殺するつもりだった風魔法が、ぶつかった先で消えている。

 起こしたはずの風が消えて、そこから無風になっていくのだ。

  

 「・・・こ。これは。ま、まずい!?」

 

 パラメラの左手に霧が纏わりついた。

 彼女が装着していた手袋が溶け始めた事で、パラメラは動揺した。


 「装備が溶けています!? そんな魔法は・・・まさか、トリス師団長とほぼ同格の魔法!?・・・」


 アシッドレインは、対魔法では相手の魔法を溶かす。

 対装備でも時間が掛るが溶かしていく。

 対人だと、やけどを起こす魔法となる。

 しかし、この順番で即効性があるので、対人での効果は遅れて出やすい。

 ちなみに、あの段階ではまだ未完成。

 アシッドレインの完成形は、霧じゃなくて雨。

 疑似酸性雨として、敵全体を溶かす大魔法である。

 対複数モンスター戦で大活躍する魔法だ。


 「ぐあ・・ま、まるで・・火魔法!?」


 最後にやけどの効果が現れた。

 左手に痛みが走って、彼女は右手で左の手首を握った。


 「降参お願いします。それ以上進めば、先生の服。溶けちゃいますよ。肌もです」

 「・・・これは、私では止められませんね」


 パラメラが両手を挙げた。


 「降参です。さすがにこれ以上は無理ですね」

 

 負けを認めた事で、レインは魔法を解除した。


 「ボクの勝ち! やったぁ」


 彼女が飛び跳ねると、会場で見ていた生徒たちが拍手する。


 「「「おおおおおお」」」

 

 感嘆の声も聞こえてきた。

 さすがにこれは絶賛しかないだろう。

 うん、やっぱり。さすがのTier1だよな。

 この時点でも学生の実力じゃないな。


 「ブライン君。ボク勝ったよ。どう凄いでしょ! 君の予知夢通りかな!」


 オレの前に来た彼女は、子供のように自慢してきた。


 「ええ、そうですね。さすがですよ。レイン」

 

 だから、子供を褒めるように褒めてみた。


 「うん! えへへへ」


 満足そうな笑みを浮かべた明るい彼女は最後まで明るくいる。

 でもこの素敵な笑顔が曇るのが、あのルートだ。

 王位継承戦争。

 あれには行かないようにしたい所だね。

 王子との決戦。そこだけは避けたい。


 「次はガラタンじゃねえのか。準備しといたら」

 「あ。うん。そうだった」


 後ろで二人の声が聞こえた。

 だいぶ仲間っぽい会話である。

 

 ◇

 

 オレたちは四人で行動する事になった。

 試験戦闘の会場を回って、今度は近距離戦闘の会場にきた。

 ガラシア君は、内政職だけど戦士として参加する。

 今後の学科で勉強するのが内政職であったりしても、一応ここで挑戦はしないと駄目らしい。



 そして今回のガラシア君が戦う先生は、オレも戦う事になる先生だ。


 「あれは・・・ウォルシュだ・・・これは普通に厳しいな」


 思わず呟いてしまった。

 実は、試験戦闘の対戦相手は完全ランダム。

 チュートリアルバトルで、最初のバトル相手がランダムって事は、開発チームは絶対にここを勝たせる気がない。 

 だって、ほら。

 その人の対策をしても、次の人生のブラインの対戦相手が別物になっている可能性があるんだからね。

 数十回挑戦しても、対戦できる回数は2、3回になってしまう。

 まあだからこそ、報酬も破格なんだろう。

 100の熟練度なんて、3ターンくらい効率的に動いて得られる数値だからな。

 

 「ありゃ、ガラタンじゃ無理じゃねえか。戦うのも可哀想だ」

 「そうだけどね。でも一生懸命だよ。ほら、表情がいいもん」

 「まあな。あいつは勝たなくてもイイだろ。別に戦士じゃねえしな」


 さすがは傭兵。

 彼の動きだけで、彼が戦士じゃない事を見抜いていた。 

 オレは調べるコマンドがあるから、調べられるけど。

 たぶん、ここの人たちにそんなのはないから、実際に見て相手の強さを把握するんだと思う。


 「あれさ。先生らも手加減しねえんだな」

 「ぽいね」

 

 巨大な戦斧で、ガラシア君が吹き飛ぶ。

 手加減なしで叩きのめされていた。


 「う~ん。負けちゃったよ。何にも出来なかった」


 ガラシア君はしょんぼりして帰って来た。

 実力差があっても、悔しいには悔しい。

 負けるって悔しいもんな。


 「おい。ガラタン」

 「う。うん」

 「お前は頑張ってたぞ」

 「そ。そうかな?」

 「ガラタンは戦闘スキルがねえもんな」

 「うん。そうなんだ。勉強はしてるけど、獲得できないんだ。おら、やっぱり戦闘が駄目みたいだね」


 ガラシア君のその口ぶりだと、獲得する感覚が無かったようだ。

 戦闘での熟練度を得にくい上に取得ポイントが高かったのか。

 ガラシア君も一応挑戦はしてたんだな。


 「そうか? あーしからしたら、中々筋が良いぞ。太刀筋は悪くなかったぜ。誇れよ。あんた剣をちゃんと振ってるわ」

 「うん」

 「んじゃ。次はあーしだわな。カタキ取って来てやる。あーしもやる気出たわ」


 カタキって、何も殺されたわけじゃないんだけど。

 でもやる気満々だな。

 目に炎が宿ってる。眠そうな顔してないのを初めて見た。


 「・・・うん。頑張って」


 ガラシア君の表情が少し明るくなった。

 今のって、そうか。励ましてくれたんだな。

 ぶっきらぼうだけど、優しい人なのかも。


 ◇


 遠距離戦闘のナオが戦う相手は、バステル・ストック。

 石で戦う変則戦闘の人だ。

 これもまた珍しい先生が試験戦闘をしているな。


 オレも何回かチュートリアルバトルで戦ったことがあるけど、あの人には勝った事がない。

 チュートリアルバトルの中でも、遠距離戦闘と魔法戦闘で、ここを勝つ事はほとんど不可能だと思う。

 遠距離戦闘ってさ。

 ラッキーがほぼ起きないんだもんな。

 運よく勝つなんて出来ない。実力差が如実に出る。戦闘対象との距離が遠くなればなるほど、力量に差が出るんだからね。


 だから、ブラインの初手は近接型に限るんだ。

 この戦闘で、1%の勝率でもいいから、勝利を目指すには近接しかないんだ。

 ラッキーパンチを作るにはそこに限る。


 「君、いつでもどうぞ」


 先生は止まったまま。

 初手は生徒に任せるみたいだ。強者の余裕とも言える。

 ただ、それが彼女の癇に障ったらしい。顔に若干イラつきが出ている。


 「そりゃどうも。じゃあ、こっちからいくぜ」


 遠距離型の戦闘だとしても、遠距離だけで戦えとは言われていない。

 弓を持つ彼女が第一に起こした行動は、前方へのダッシュだった。


 「なるほど。私の攻撃を警戒せずに前へか・・・面白い」

 

 ポケットに詰め込んでいた石を取り出す。バステルは、直径一センチもない小石を投げた。

 あの程度の振りであれば、普通の人間だったら的当てに当てる程度だ。

 しかし、バステルの場合は別格。あの人の投擲能力は尋常じゃない。

 剛速球で飛んでいく。


 「ん!? 自信の通りの実力者か・・・今季初だな」


 バステルは、自分の石が躱されたことで、ナオの実力を認めた。

 他の生徒にはいない優秀な人物だとして、彼は更にポケットから意思を取り出した。


 「これならどうだろうか。君は、この先を進めるか! 流星岩シューティングストーン

 

 複数の石を持ったバステルは、先程よりも大きく振りかぶって投げつけた。

 無数の石が、ナオを襲う。

 あれだけの数だ。普通なら怖いものだけど、でもナオの表情に怯えがない。目だけが鋭く光る。


 「君はどうだい。ここでギブアップするのが、優秀な生徒だ!」


 つまり、さっきので優秀だって認めたんだよな。

 と言う事は、ここを乗り越えたら、どうなるの?

 超優秀って事?

 オレは疑問に思いながら戦いの行く末を見守った。


 「は!? あーしがこの程度でビビるわけねえだろ」


 必要最小限の左右の動きで、バステルの石を掻い潜る。


 「なに? まぐれか? まさかな。試すか」


 あまりの華麗な動きに疑問を持ったバステル。彼女の実力を試し始めた。複数回に分けて流星岩シューティングストーンを繰り出す。

 当たれば痛そうな石の群れ。オレなら怖いけど彼女は平気そう。涼しい顔で次々と躱していく。


 「これらも・・・まさかこんな原石がいるとは・・・入学試験の時に気付かないとはおかしいな」


 試した結果。満点回答。バステルは微笑んでいた。


 「あーしは燃えるような事がねえと、やる気が出ねえ!」

 

 それは逆に考えるとさ。ナオは、入学試験の時に手を抜いていたのね。

 基本眠そうだしな。あくびしながらやってそう。

 

 「燃えるような事? そうか。君は私の強さを・・・」

 「いいや。あーしはちょっとこの試験に腹立っただけだ」


 あんたの強さで燃えたわけじゃないって言ってるな。挑発だよな。

 あれって先生に対していいの?


 「腹が立つ?」

 「ガラタンみたいな奴。あいつらにも同じ試験を受けさせて何の意味があるんだ」

 「ん?」

 「内政職の奴の努力を粉々に砕いて何になる。自信喪失にでもさせる気かよ」

 「ああ・・・君は、そうか。優しいんだな」

 「あーしは優しくねえ!」

 

 全ての石を躱して繰り出される会話。両者の口は動いても、手と足は止まっていた。


 「いいや、優しいね。彼らのような戦いに出られない子にも、活躍する機会を作れと言う事だろ?」

 「・・・・」

 「大丈夫だ。ここで折れるような子は、最初から折れている。彼らはここで真実を受け入れるのさ。努力をしても無駄だというね」

 「んだと。無駄?」

 「そうさ。才能のない子がスキルを得ようとも、優秀な子らには敵わない。スキルにはその人物の特徴が出やすい。才覚によってスキルの性能も変わっていくし、成長もさせやすいからね」


 これは、まさか熟練度システムの事を言ってるのか?

 たしかに、人間に応じて熟練度の溜まりやすさが違う。

 一、二周目では気付かないけど、ブラインもその人生ごとに違うっぽいんだよな。

  

 「ああ。そうですか。あんたはそっち派か」


 ナオの顔が怒りの表情から無表情に変わった。興味が消えたような感じになる。


 「そっち派とはなんだい」

 「努力無視型だな。あんたが次に言いたいのは、成長しにくいスキルを取るな。無駄な事をすんなって言うんだろ。内政野郎どもは、大人しくそっち方面のスキルだけ取ってろやって事だろ。戦う才能のねえ奴は黙ってろって事だろ」

 「・・・まあそうだな。口悪く言うとそうだね」

 

 たしかに口が悪いけど。言いたい事は分かる。

 頭にくる理由は正当なものだな。

 その人が頑張ったのに、全部無駄だと言ってるのに、腹立ってるんだもんな。


 「あんたらは一つ間違えてる。スキルは、天の恵みじゃねえ。才能じゃねえ」


 ナオの言葉は、オレも実際にここで生きてるから実感する。

 天からじゃない。才能じゃない。努力だよ。オレも同じ思いだ。


 「取得方法ってのは色々あるんだ。天から降ってくるんじゃねえ。体に沁み込ませるもんだ。それを最初の段階で決めつけたら、才能は縮こまるばかりだぜ」


 うん。そうだ。

 オレも、黄龍麒麟拳でそういう風に覚えたよ。ボロボロになりながらさ。


 「だから、あんたらがやらなきゃいけないのはさ。その体に沁み込ませた技。それを、どうやって使うかを教える事だ! 効率の悪い技なんてどの世界にもねえ。その人が、その技をうまく活用するかの問題だ」


 ん? ナオ・・・君は。

 まさか、あの人の事を。


 「あーしの恩人は、クソ不器用だぞ。死ぬほど鈍くさい!」


 やっぱり、彼の事を言ってる。

 

 「手が不器用で、武器も握れねえ時もあるし。足もこんがらがって転ぶこともしょっちゅうだ」


 ああ。そうだわ。あの人だ。

 ナオが言っているのは西火の楽山(ヴォルテクス)の団長。

 アイソン・ノマドだ。

 穏やかな人で、ほんわかしている男性。

 傭兵団の団長なのに、一般兵みたいなモブ的な人に見えるんだけど。

 傭兵家業の人たちの中では一目を置かれる存在の人だ。


 「そんでも、あの人は諦めねえ。どんな人物が、傭兵団に来ても、見放さねえ。必ず成長させる! 人に教えるってそういう事だろ。学校って場所の方が、そういう場所だろうが」


 そうか。わかった。

 ナオは、技を教える立場の人が、人の選別をしている事に腹を立てているんだ。

 才能のあるなしで、その技を教えないってなるのが気に入らないんだな。


 「だからよーく見とけあんた! 技ってのは使い方だ。才能じゃねえ」

 「な、なにをする気だ??」

 「いくぜ」


 途中で止めた足を動かす。最速の動きで、バステルの懐に入った。

 

 「なんともまあ弓を持っているのに遠距離の戦闘をしない子だな!」

 「こいつは戦いなんだろ。そんなん気にする戦場がどこにある」


 敵の武器が弓と分かっても、それで攻撃して来ないからって疑問に思ってもいけない。

 目の前の人物に集中する事が大切だろう。


 「いくぜ。必中!」

 「ん?」


 ナオが両手をそれぞれ伸ばして、バステルの右肩と左腰に触れた。

 その意味が分からないバステルが首を傾げた。


 「そんじゃ、距離取るぜ」


 バク転で距離を取る。

 運動能力が高いのがよく分かる距離の取り方だ。


 「必中? これがかい?」


 スキル必中は次の攻撃の命中率を100%にする技だ。

 絶対に当てたい時に使う技なんだけど、今のは何だ?

 ただ相手の体に触れただけで、それが必中になるのが意味分からない。

 たしかにあれが攻撃だとしたら必中だけど、触れただけだから攻撃に見えないんだけど。


 「今からするあーしの攻撃は、学校じゃ教わらねえだろう。特性って奴を利用する攻撃だからな。現場にいないと分からねえだろうぜ」

 「き、君は・・・な、何をする気なんだ?」


 バステルが戸惑う中で、ナオは弓を持つ。

 

 「テキトーにいくぜ! 特性を知らねえあんたは、それだけで驚きまくりだろうな」

 「何をする気だ・・・いや、何をする気じゃない。行動そのものをさせないぞ。流星岩シューティングストーン


 彼女の次の攻撃が予想付かない。だからバステルは自分の攻撃を先に出した。

 もう一度流星岩シューティングストーンが彼女を襲うが・・・・。


 「もう見えてんのよ。あんたの石って正確に敵に向かってるからな。あーしは、鷹の目持ちだぜ」


 パッシブスキル『鷹の目』

 視力が良くなり、その目に慣れていくと、俯瞰で自分の周辺を見る事が出来るようになるスキル。

 

 だけど、その技があったとしても、バステルの攻撃位置を正確に予測するのは難しいはずだ。

 それが全部の攻撃に予測を立てて、先回りで動いて、自分の素早さまでカバーするわけだ。

 たぶん、ナオが持っている素早さだと、予測をしないと全部攻撃が当たってしまうはずだ。


 「あぁ。そっか。だからだ。鷹の目をどう使うかで、違いが生まれるんだよ・・・ナオだからあんな風に使いこなせるってわけだ。凄いなナオ。あれはもうTier1の彼らと遜色ない実力者だ・・・」


 まだ見ぬ実力者が、この世界にはいる。

 オレが、ゲームの時に彼女らを見つけていなかったんだ。

 リミットタウンって、奥深いゲームだったんだ。


 「全部躱された!? この子は・・・せ、生徒だぞ」


 今までこんな完璧に生徒に攻撃をかわされたことがないのだろう。バステルが動揺している。その隙に今度はナオが攻撃に移る。


 「ったく。面倒な攻撃しやがって・・・あーしの攻撃いくからな。そっちがビビんなよ」


 ナオが弓を使う。

 それもテキトーに速射していく。矢を持って、目星もつけずに弓で射る。それを連続で続けていく。

 バステルに向けていない矢もちらほらあったりして、本当にテキトーだった。


 「な、なんだ。それは、やる気がなさ・・・」


 過ぎたわけじゃない。

 テキトーに射られた矢が、全部集束していく。途中から一点目掛けて進み始めた。

 

 「まさか!? 私に向かって」

 「あーしの矢は全部。あんたの懐に向かうぜ」


 四十本近くの矢が、バステルの肩と腰に向かっている。あれは、さっき彼女が触った箇所だ。


 「まさかナオ・・・。必中ってのは」

 

 オレの独り言を聞いていたかのように、彼女は宣言した。


 「必中っつうのは、使用スキルであってインターバルが必要だけどな。こうやって、対象物に直接触れると、解除するか、次の狙いを見つける間までは、その箇所に攻撃がいくようになるんだよ」

 

 それは、ヤバいスキルだ。

 直接触れるって言う欠点はあっても、強力過ぎる技だろ。

 だって、絶対当たるんだもんな。何があってもさ。

 必中っていうくらいだからね。

 

 「まあしかし、それはあくまでも君の矢だからね。私にはきかな・・」


 必中は、矢の威力が変わるわけじゃない。

 バステルが防御態勢に入る。彼女の攻撃力は、102程度。攻撃力から言えば、そんなに凄いわけじゃない。むしろ弱い部類だ。

 バステルは確か300前後のステータス。

 彼女の攻撃力が、装備の攻撃力を足しても、バステルの素の防御を上回るわけはないから、だから防御態勢に入れば・・・。

 あ!?


 「そうか。そういうことか」


 彼女の動きは面白い。無数の矢の意味は、目くらまし。

 防御の態勢を整えさせて、己を見失わせることにある。

 

 ナオは、バステルの背後を取った。静かに移動している。

 

 「あんたは終わり。降参しな」

 「ん!? なに、背後に・・・短刀・・・」

 「あーしは、急所突きを持ってる。これから、この獲物であんたの首を刺してもいいんだぜ」


 急所突き。

 リミットタウンでは、クリティカル攻撃の一種だ。

 通常のラッキークリティカルの場合は、防御無視の攻撃。

 しかしこのスキルで出すクリティカルは違う。

 敵の急所を突いた時に、攻撃力がそのランク帯の倍率になる仕組みだ。 

 ナオの攻撃力が102。急所突きがランクⅤ。

 なので今はあの短刀の攻撃力が分からないけど、あの技で攻撃を入れれば510以上のダメージが入る。

 それで、バステルの防御力が300前後であって、硬く防御をしてもだ。

 確実にダメージは入っていく。

 HPも半分以上は持っていかれるだろうね。

 そうなると、あの短刀だったら連打が可能だし・・・。

 

 「三回くらい当たれば、ナオが勝つね。あれはさ」


 オレの考えは当たってる。素早く攻撃を展開できる彼女なんだ。一瞬で戦いを終わらせる事が出来る。

 やっぱりこの世界の戦いは、ステータスだけじゃない。

 工夫によって、相手にダメージを通すことが出来るんだ。


 バステルが降参するために、手を挙げた。


 「これは参りましたね。私の攻撃を凌ぐとは想定外でした」


 そうだ。全ては彼の攻撃を躱したことが勝因になる。

 攻め手がないんだ。それでナオの方がまだ奥の手がありそうだからね。

 これは降参した方が良さそうだよな。


 「おっし。あーしの勝ちか。やったぞ。ガラタン! カタキは取った」


 カタキって、ガラシア君死んではいないんだけど。

 

 「うん。おめでとう。ナオちゃん!」


 ツッコミを入れたかったけど、嬉しそうだからいいか。

 友人二人が微笑んでいるの見て、オレも微笑んだ。 


 

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