第17話 死神とも共に
六日目から九日目。
全ての放課後で、シャオリンと特訓をした。
龍麒を纏う訓練が基礎で。
次に、黄龍・竜虎撃を永遠に食らい続ける訓練をした。
オレがパンチをして、彼女にカウンターをしてもらうやり方で教わる。
傍から見たら、ド変態訓練だろう。
攻撃を仕掛けたはずのオレが何度も反撃に遭って、宙を舞っているからね。
シャオリンも良く付き合ってくれたと思うよ。
ボコボコになるオレを見ても、訓練を止めないでくれたのが助かった。
おかげで、試験にも間に合った部分がある。
あとは本番次第だろう。
◇
十日目。
朝礼の前の出来事。
「ブライン君・・・なんでボロボロなの? 戦う前だよ」
ガラシア君が不安そうな顔で聞いて来た。
当たり前だ。オレの顔に青あざがあるからだ。
試験戦闘前に、体が・・・。
いや、頭もイカレテル男なんて、オレくらいなもんだろう。
「まあ。訓練で出来た傷だね。ちょっと忙しかったんだよ」
「そっか。だから、放課後いなかったんだ。一緒に帰ろうと思ったけど、いつの間にかいなくなっちゃうし」
ごめん。
転送で、シャオリンの所に飛んでたんだ。
とは言えないので返事だけをする。
「うん」
心配してくれる友人がいる。
ここでもそんな人がいてくれるなんて、オレは幸せ者だな。
「ブラタン。どんな訓練したらそうなるんだよ。傭兵団のあーしでも、そうはならんよ」
こっちも心配してくれる人だった。
学校だと、最近この三人でいる事が多い。
このまま順調に行けば、パーティーにもなれそうだった。
「まあね。結構ハードでいってみた」
「・・・ハードね。ハード?・・・いや、それってハードってよりも死ぬんじゃねえのか。訓練でよ」
オレのただならぬ様子で、ナオはオレの死期を感じてるらしい。
それはあながち間違いじゃない。
オレはいつだって死神がそばに来るからね。
ほら!
「ぶ、ブライン君。これを」
姫様の両手に何かがあった。
よく見ると綺麗な小箱だ。
「ん?」
「ど。どうぞ」
顔を赤らめている彼女が、オレの両手に小箱を置いてくれた。
「ありがとう・・・あ、これは」
蓋を開けたら傷薬だった。
まさか、傷だらけだから心配してくれたのか。
優しいんだな・・・。
って、姫様が優しくて良い子なのは知ってんだよ。
だけど、オレにとっては死神なんだよな。勿体ねえ。
くそ。
死神じゃなかったら、今すぐパーティーに入って欲しいよ。
「傷薬だよ。え、遠慮しないで使ってください」
「は。はい」
と受け取ったはいいものの。
周りの目が冷たい。オレの態度が悪いからだな。
冷たい態度じゃないけど、遠ざけてはいるから、皆、そういうのに敏感になるお年頃だもんな。
これは完全にオレが悪いよな。
「おい。ブラタン。いいのか。姫様を邪険にしてよ。顔真っ赤にしてまで、心配してるみたいだぞ」
誰にも聞こえないようにするために、ナオがオレの右耳に手を当てた。
「え・・・う、うん・・・まあ。そうだよね」
ここで姫様に歩み寄るってなると、オレも覚悟を決めなければならない。
姫様ルート上等だとね。
掛かって来い。死!
ってな感じで、リミットタウンのイタズラな神に喧嘩を吹っ掛けないといけないのさ。
ここで彼女の手を取るとなると、オレは死の運命に立ち向かう決意が必要だ。
「・・・ぶ、ブライン君も、頑張ってね。ボクも頑張る」
「あ。はい。お互い頑張りましょう」
「うん!」
緊張気味の表情から、ぱぁっと明るい笑顔になった。
ずっとオレに声掛けをしたかったようだ。
ここ数日、朝の朝礼が始まる前は、ほとんど眠っていたから、話しかけるのを遠慮してくれたらしい。
あんだけ毎日諦めないで、オレに話しかけていたのにね。
オレが頑張ってると思って、無理に起こさなかったんだな。
姫様が自分の席に戻ると、ガラシア君がコソコソ話をした。
「姫様ってさ。パーティー組みにくそうなんだよ。どうする。ブライン君?」
「え、組みにくそう? 姫様って優秀だよね? 引く手あまたじゃないの?」
「うん。そうなんだけど、皆さ。遠慮してるみたい。あんまり会話も出来ていないんだよ。君以外とはまともに話してないんじゃないかな」
そうか。ずっとオレを勧誘しようとしていたから、逆に一人ぼっちになっちゃったのか。
それは可哀想だな。
三年間、友達なしかよ。
あんまりじゃないか。
日本で言ったら、高校三年間友人一人も無しで、学校に通うって事だぞ。
地獄だろ。そんな学校。オレなら通いたくないもん。
そうだな。オレもそろそろ覚悟を決めるか。
黄龍麒麟拳。
あれをこの段階で習えたからさ。
今までで一番の成長が出来るブラインになるはずだ。
魔王にも単独で対抗できる力を得られるかもしれない。
もしかしたら、各ルートに入っても、その力を持てるなら、絶望から脱却できるのかも。
それに魔王襲撃ルートには、既に入ってるんだ。
何をあがこうが、あれに入りそうなら、もはや他のルートを気にする必要ってないんじゃないか?
だって、あれよりも上のルートは存在しないんだよ。
このゲームの難度最高峰が、魔王襲撃ルートなんだ。
つまりだ。
ここから姫様ルートに入っても、最終的に魔王ルートに辿り着くってなるのなら、姫様ルートをやってみてもいいよな。
つうか、こうなったらさ。全部踏んでやるか。
フラグと言うフラグを踏んでみて、死神たちに寄り添ってみるか。
彼らを集めてみるか! Tier1の実力は貴重だしさ。
何もしなくても、何かしても、どうせ死ぬんだ。だったら、試しにどでかい事をした方が、案外生きられたりするかもしれないしさ。
17のルートを踏む。
あ、でも結婚ルートや脱走。あれらは同時並行が難しいから、そこを除外した彼ら彼女らのルートを踏んでみるか。
いっその事。全部に介入するのもありか!
「うん。やってみようか」
「急にどうしたの? 独り言?」
ガラシア君の目には、思考並列と思考加速の力で考えがまとまったオレの様子は一瞬だったらしい。
オレは数秒間考え事をしていたんだけど、彼にとっては1秒くらいの出来事らしいぞ。
「そうだね。あとで姫様に話しかけようか。一人ぼっちは寂しいからね。いいかな。ガラシア君。ナオ」
「おらはいいよ」
「あーしは別に・・・姫様に興味あるわけじゃ無ねえし。お前の好きにしろよ」
ガラシア君は笑顔で答えてくれて、ナオはそっぽ向いて答えた。
◇
試験戦闘は、1VS1で、先生との戦闘をする。
近距離型。遠距離型。魔法型。
この三つのタイプから、生徒たちの得意分野に合わせて先生が選抜される形だ。
オレはガラシア君と同じで、近距離型の先生と対戦。
ナオは、弓なので遠距離型の先生で、そして、今から戦うレインは魔法型だ。
「レインさん」
「あ! ブライン君!」
オレが声を掛けると、彼女が笑う。
ここ一番の笑顔だ。今までよりも明るい笑顔。
「嬉しいな。君からボクに話しかけてくれるんだ!」
「え。ま、まあ」
そっか。そう言えば、全部君から声を掛けてくれたもんな。
「あとね。レインでいいよ。ブライン君!」
「あ。いや。それは・・・」
さすがにないよな。
あんた姫様だよ。この国の大事な姫様。
オレは一領主で、しかもよわよわ地盤だ。弱小だ。
失礼で不敬だよな。
「お願い。レインがいいんだ」
って言われたら、しょうがない。
オレもロア王国の貴族の端くれ。上司からの命令みたいなもんだし。
「わ。わかりました。レインですね」
「うん!」
「相手は誰になりましたか」
「パラメラ先生だよ」
対戦相手はパラメラか。中々厄介だな。
そういえば、オレって魔法系統のブラインには、数回しかした事が無かったから、ここでの対戦相手の先生をあんまり知らないからな。
パラメラか・・・。
「難しい相手ですね」
「うん」
「でも勝てなくはないですね」
「え?」
「あなたはお強い人ですから。魔力負けだってしないでしょう」
「・・・そうなの? ボクって強いのかな。お城じゃ負けっぱなしだし」
それは当たり前だ。
あんたの周りにいるのは、王国最強の魔法師団『ロア魔法師団』だもん。
あそこの人たちと張り合って戦ってる段階で怪物だろうが。
それに一番強かったら、あんたが団長だわ。
「ええ。レインはすでにお強い。だから自信を持って倒しましょう」
「うん。ありがとう・・・でも、ブライン君ってボクの事を知らないんだよね? どうして勝てるって言えるの?」
「そ、それは」
そういやそんな言い訳してたわ!?
しまった。オレって馬鹿だな。もっと口が上手かったら・・・。
「よ。予知夢です。オレ、寝てる間に結構重要な夢を見る事が出来るみたいで、レインが勝ってる姿を見たんですよ」
「え。凄いね。予知夢なんて見られるんだ」
んなもん。見れるか!
こちとら、一分先の未来すら見えないよ。
さっきまでは死神と居たくないと思ってたのに、こうやって死神と一緒にいる事になってんだからな。
「うん。ありがとう。ブライン君。勇気付けてくれたんだね」
ニッコリ笑った直後。
「レイン・スタークス。前へ」
彼女の順番が来た。
呼び出しを受けたので、返事をする。
「はぁい」
最後に振り返ってまた笑う。
「いってくるね!」
「頑張ってください」
「うん!」
大きくはない身長なのに、彼女の背中は大きかった。
その後は振り返らないで、そのまま戦場へと向かっていった。
◇
「姫様。手加減はしませんよ。よろしいですか」
読んでいた魔導書を閉じる。
パラメラは読書好きで有名だ。こんな時でも欠かさない。
しかし、対戦相手が姫様では、読んでいる余裕はなかった。
今までの生徒とは、一味違う事を彼女も理解していた。
「先生。あなたを倒すつもりで挑みます。いいですか」
「もちろん」
本物の強さを求めてアーケミア特別支援学校に入って来た。
レイン・スタークスは、普通のお姫様じゃない。
戦うお姫様だ。
開始の合図とほぼ同時に、レインが魔法を展開。
魔力展開の速度も一流なのが、戦うお姫様だ。
「ウォータースピア!」
水の槍を二本作って、操作する。
パラメラに襲い掛かる槍の勢いは、凄まじい。彼女を突き刺す気だ。
「アイスウォール」
パラメラの周りに氷の障壁が生まれた。
水対氷。結果は火を見るより明らかだ。
魔法同士の衝突で、水の槍が消える。当然に氷の壁の方が強いわけだ。
「姫様。あなたと私の実力は近しくとも、残念なことに相性が悪い。簡単に防いでしまい、申し訳ないですね」
「うん。たしかにね。ボクの魔法が火だったらよかったかもしれない」
氷を解かすほどの火だったら、勝てる可能性があった。
水が氷に勝つには、魔力の差で圧倒するしかない。
しかし、レインとパラメラのステータスはほぼ互角。
こうなると相性が問題となるわけだ。
「先生を降参させても、勝ちってもらえるんですか?」
「ん? 私が降参ですか?」
「はい。あなたが負けを認めてくれたら、こっちの勝ちは勝ちでいいんですよね?」
降参の制度があるのか。
レインは疑問に思っていた事を質問した。
「はい。そうですね。先生方が降参した事例は少ないですが、それで勝利を得た生徒はいますよ」
「そうですか。よし・・・」
レインは飛び跳ねる。高くジャンプして、両足を同時に地面につけるのを十回。腰を回して、肩を回して、首を左右に傾けた。
なぜかこのタイミングで準備運動をしていた。
「姫様? 何をする気ですか?」
「うん。先生。気を付けて、ボク本気だすよ」
「はい?」
「ブライン君に応援されたし、ボク頑張るって決めたしさ。今の全力を出すつもりだよ」
元々は負けてもいいと思っていたレイン。
でも、ブラインに応援されて、恥ずかしい姿は見せたくないと思ってしまった事で、やる気に満ちていた。
学生生活では禁じられている魔法を出すつもりになってしまった。
「い、今の水が全力じゃない???」
彼女が簡単に防いだように見えた魔法でも、あの魔法は学生レベルを超えた魔法だった。
パラメラでなければ、こうも容易く防げるような威力じゃない事は確かなのだ。
他の先生で相性が悪かったら、負けていた可能性もある。
「うん。だからいくよ。先生」
レイン・スタークス。
雨の魔法少女と呼ばれるレイン。この段階での世界の人々の認識は、優秀な水魔法の使い手としての認識であった。
しかし、魔法師団団長で彼女の師『トリス・メリーランド』だけが知ってる。
姫様が最強クラスの範囲魔法を持つ女性であることを。
「アシッドレイン」
彼女の全身から魔力が出てくる。
それと同時に、辺りに小さな霧が出てきた。
最悪の霧が出現したのである。




