第16話 成長システム
6日目にして、この人の師事を得られる。
これは異例の早さだ。
オレが経験した中での最速は111日目だった。
黄龍麒麟拳は、完全会得するまでに時間を要するので、この拳法の真の実力を実感できるのも、最終学年の三年生の時になる。
技の体得のコスパはかなり良い方なんだけど、いかんせん体に馴染ませる時間が必要なんだ。
時間が重要でもあるので、早め早めの体得が必要である。
「黄龍麒麟拳で技を出したい時。この龍麒が基本形態だお。わっちの龍麒は洗練化されているから長い時間続けられるんだお。慣れれば、この状態が最強となるって事だお」
「はい。そうですね」
「そんで龍麒には倍化があるんだお。限界突破の状態を維持するだお」
龍麒に必要な魔力とは、魔法攻撃力と魔法防御力を足して二で割った数値の事だ。
そして、二倍の龍麒を得るには、どちらも200以上の数値が必要となる。計算式で言えば、魔力÷100で計算する。
それでここが難しい点だ。
黄龍麒麟拳を習う者の基礎ステータスは、武闘家に準拠する。
だから、基本的に魔法系列のステータスってのは疎かになる傾向だ。
しかし、黄龍麒麟拳の龍麒で倍化させるには魔力が必要となる。
この技はステータス限界の理論上。
最高で10倍の力を得られるわけだ。
しかし、そのステータスを得るには、魔法攻撃力と魔法防御力の両方を1000にする必要がある。
だから、その10倍を得たいがために、二つのステータスをMAXの1000にした場合。
倍化させたい元のステータスの方が疎かになるという残念な結果が訪れる。
だから逆に五、六倍の時のステータスが全体的に良い場合があったりして、そっちの方が結果的に強かったりする。
700、800の平均ステータスを五倍。
特化型で1000のステータスを十倍。
どちらがいいかは好みによるが、黄龍麒麟拳で覚えられる技を考えた時には、平均値が高い方が良いかもしれない。
この塩梅の難しさが、黄龍麒麟拳の考え所だ。
「まずは、1分維持だお。これが出来て、技を習得できるお」
「そうですね。わかりました」
「うん。と言う事で、わっちから送る。耐えてくれお」
「はい」
龍麒の習得方法は、力の譲渡。
強制的に体に龍麒状態を教え込ませるんだ。
結構ぶつけ本番感がある修行方法だ。リスクがある修行方法でもある。
「最初は痛いけど、慣れるから。気にしないお!」
「え?」
痛いの!?
ちょっと待って。
そうだっけ?
痛みなんてよく分かんないよ。画面越しじゃそこは伝わらないよね。
元々ゲームだからさ。
「気にしない。気にしない。男の子は細かいことは気にしないお。いくお」
「え? ちょっ」
オレの言葉を最後まで聞かずに、彼女は勝手に龍麒を送って来た。
彼女の黄金の闘気がオレに流れてくる。
「ぐあ・・いてえ」
最初から痛い。彼女が、オレの両肩に手を置いた時から、痛みは肩から始まった。
背中に落ちてくると、やけどみたいな感覚になる。
真夏のアスファルトに、裸で大の字で寝てるみたいな暑さだ。
げ、激痛過ぎる。
あんな涼しい顔で、こんな痛みを耐えてたのかよ。ブライン!
ゲームの主人公だけど、オレは心から尊敬するぞ。
人生の師匠と呼ばせてもらおう。ブライン・レッドピック!
少しの時間、この痛みに耐えると、視界のど真ん中に、スキル画面が映る。
『龍麒を取得しますか? YES NO』
ん? まさかこれは、ゲームと同じ仕様か。
◇
リミットタウンの成長システムは、熟練度ポイントで成長していくシステムだ。
成長ポイントとも呼ぶ人が多いが、熟練度ポイントが正しい。
なんらかの行動をする事で、この世界で経験した事が、成熟したポイントとなり、成長のきっかけになっていく。
ステータスの割り振りからスキルまで、自由に成長を選択できるのが魅力のゲームだ。
その成長過程の中で、スキルは武器などから取得できる場合がある。
例えば、シールドバッシュのスキルが付与されている盾を使用するとする。
その盾を持っている限り、そのスキルが使用できるのだが、ある程度回数をこなすと。
使用者本人がそのスキルを獲得できる機会を得たりする。公式ではこれに名称がないけど、ユーザー間では天啓と呼んで、成長の機会を得たと喜んでいた。
この天啓を得る事で、スキルを取得出来たら、次からはその盾を持たずしてその技を使用できるようになる。
さっきのオレのように取得するかどうかを問われるんだ。
これでYESを選択すると、熟練度ポイントを使用して技を得る。
それで、なぜここで熟練度ポイントと呼ぶかは、その際の取得ポイント数に変化が起きるからだ。
実は、スキルには必要なポイントの基礎が決まっていて、獲得基礎ポイントってのが割り振られている。
えっとたしか、シールドバッシュなら50だったはず。
でもこれよりも更に節約した状態で獲得したい場合は、そのスキルを持つ盾を使い続けて、50の獲得量を効率化させる事が出来る。
たしかシールドバッシュだと、最高率は10まで減らす事が可能だ。
このように、武器に付いてるスキルを使用すれば使用するほど、獲得ポイントの節約が出来るから、熟練度システムと呼んでいる。
これは内部データで処理する部分だから、この部分はプレイヤーは全く分からない。肌感覚でこのくらい使うとこの程度に収まるかなって具合に曖昧な部分だ。
それにこれは、この世界の住民すべてに適用される事なんだと思う。
レインやロッティ。ノアなどの主要メンバーがどんどん成長していくのも、同じ要領だと思うんだ。
各々で熟練度を得ていって、徐々に成長していくってな感じだ。
だからこその熟練度システム。
己を成長させるのに、重要なポイントだ。
ってな感じで、オレは龍麒を得た。
取得必要ポイントは僅か10。
最強クラスの技なのに10で済む。本来なら下手をしたら3桁は必要な所だ。
しかし、たったの10で良い理由もある。
それが、龍麒が初期段階じゃ、ゴミスキルであるからだ。
「ほう。びっくりだお。ブライン。一瞬で体得したんだお。凄いんだお」
「だ、ダルイ・・・あ、あれ!?」
体から一気に力が抜けていく。
自分のステータスを確認すると、MP切れを起こしていた。
「おっと。大丈夫だお?」
シャオリンに支えてもらってやっと立てていた。
「自分の消費効率が悪いんですね。シャオさん」
「そうなんよ。これの弱点だお」
そう龍麒の初期段階は、MP消費がバカ高い。
最初は確か、一分で10は消費する羽目になる。
オレのMPが14しかないから、彼女から送られてきた龍麒に耐えている時間を合わせると、大体二分くらいだ。
うん。一気にスッカラカンなわけだよ。オレのMPがさ。
「成長させるには、何度も使用すればいいんですね?」
龍麒は、勝手に効率化するスキルだから、使用回数が多ければ多い程効率化する。
そこでオレは、最高率1分間でMP消費量1の龍麒を目指す。
大きく時間が掛ってしまう部分だから、早めの黄龍麒麟拳の取得が重要って事だ。
「そう。よく知ってるんだお。なんで?」
「ええ。まあ、予知夢です。なんとなく前に教わった気がしてて」
やば!?
知るわけないのに、知ってる風で話しちゃった。
まあいいや。
テキトーに誤魔化しとけ。
「そっか。わっち、優秀な子を弟子に持てたかお。爺様にも自慢できるお。えっへん!」
にんまり笑って満足してるけど、オレを疑わないのかい!
なんで黄龍麒麟拳を知ってるんだって、疑問を持てよ。
あんたの拳法。この大陸じゃ秘拳だよ。
誰も知らない拳法だもん。
「シャオさんの爺様には、自分も会えるもんなんですか? お忙しい方なんでしょ?」
「うん会えるお。わっち連絡したし・・・あ。でも向こうでの調べ物が完了したら、こっちに来るって連絡が来たから、まだ先かな」
「そうなんですね」
調べもの?
マオリンって、シャオリンとはぐれてたよな。
あれって遊んでたんじゃないのか。
来年辺りも獣王国にいたはず。えっとそういえば何をしてるんだろう?
全然知らないや。もっとゲーム時代に詳しい情報を得ておけば良かった。
オレって、上辺しか知らなかったのかもしれない。
「まあ、爺様はいいでしょ。わっちがちゃんと君を育てるお!」
「あ・・ありがとうございます。ええ、助かりますよ。武闘家になりたかったので、本当に助かります」
「ん? 武闘家になりたかったお?」
「ええ。お金を他に使いたくて、あんまり装備にお金を掛けられないんですよ」
「他にお金? 学生が何に使うお? これ?」
小指が上がった。
「彼女かお?」
なんでそこで恋愛になるんだよ。
恋愛脳か。あんたは!
「いいえ違いますよ。町にです。自分、領主なんで、そっちにもお金を使いたくて」
「領主? どこのだお?」
「リミットタウンです。あそこの領主なんで、住民にお金を使いたくて、これからお金をたくさん貯めるんです。学生ダンジョンで稼ぐつもりなんです」
「んん・・・リミットタウン・・・どこかで聞いたかも?・・・」
学生ダンジョンでは、モンスター狩りが出来る。
このゲームは、魔物を倒すと、アイテム取得と同時にお金が手に入る。
雑魚だと、微々たるものだけど、敵のレベルが上がっていけば、それに比例して獲得できるものも上がっていくし、なによりオレの運を上げるビルドは、お金を稼ぐのに最適だ。
「そう言えば、学生って言ってたんだお。あまりにも大人びてるから、すっかり忘れてた!」
「ええ。学生じゃいられない部分がありますからね」
そうだ。
領主として、お金を稼げないとね。皆を守れない。オレは、自分だけじゃない。皆も守りたいんだ。
リミットタウンに残ってくれた人たちは、全員良い人たちだもん。
オレは知ってるんだ。
どんな苦境に陥ろうとも、あの町だけが、最後までブラインと共にいてくれることをさ。
だから、オレは彼らに報いないといけない。
それはいつでもどんな時でもだ。絶対に裏切らねえ。
「あの。技って見せてもらえます? 竜虎撃を覚えたいんです」
「え? それは駄目だお。今のところは龍麒で一杯一杯になるお!」
彼女は、両手をバッテンにクロスさせて、禁止だと言った。
たしかに、龍麒を覚えるのに精一杯になるのは分かる。
でも今のオレには、直近の戦いも大切なわけよ。
10日目の試験戦闘だよ。
あの中で勝ちに行くんだったら、試験官を突破する技がないとな。
今のオレには切り札的な技が欲しいのさ!
天才型でもないから、技スキルまでポイントを割り振れない。
とにかく熟練度のポイントが足りねえ。
その点、黄龍麒麟拳なら、ド根性さえあれば何とか出来る。
技取得に必要なポイントが最初から少ないし、見本を見せてもらったり、攻撃をもらったりすれば、取得に必要なポイントを軽減できるからね。
ただし、覚えても最初の段階だとあんまり強くないのも愛嬌だね。
『ふっ相変わらず可愛い技だな』とか言って、苦笑いでごまかすしかないわ。
本当にさ。使っていかないと、本当の威力を発揮しないっていうのは、このゲームでも珍しいタイプの流派だよな。
黄龍麒麟拳ってさ。
「お願いします。今度の試験で良い成績でいきたいんです」
「・・・ん? 成績を? なんでそんなに気にするんだお?」
「はい。特殊なものをもらえますから、それがあれば今後が少し楽になりますので」
「特殊?」
「ええ。本をもらえます」
「本? 良い参考書? 教科書とかかお?」
「いいえ。スキルブックをもらえます」
「へえ、あの貴重なねぇ」
「はい」
スキルブック。
本の中に書いてあるスキルを読む事で、そのスキルを習得できるようになる本。
しかし今回の試験戦闘に勝つと、もらえるスキルブックは通常のものじゃない。
特殊なスキルブックだ。
スキルそのものを学習するわけじゃなく、100の熟練ポイントがもらえる本なんだ。
市販ではなかなか売っていない激レア商品だから、学校が送り出す物としては大盤振る舞いの大特典だろう。
そうこれがチュートリアル戦闘の報酬品だ。
信じられないかもしれないが、勝てないチュートリアルの報酬なんだ。
大事な事なので、二度言おう。
勝てない! そう普通に戦ったら勝てない戦闘なのに、商品が豪華すぎるんだ。
だからまた言おう。
開発メンバーは変態であると!!!
「それを何としても欲しいんです。シャオさん。協力してください。強くなりたいんです」
「いや・・でも、一朝一夕じゃ・・・黄龍麒麟拳は・・・」
黄龍麒麟拳は地道な一歩で強くなるタイプの流派。
徐々に階段を登り、一つずつ開花していくんだけど。
ここで、ブライン流の荒業がある。
ゲームの仕様上、何度でも繰り返し訓練と実践に励み。この身に技を刻み込めば、他の人間よりも急成長するのさ。
ブラインの成長曲線は、効率よくいけば、Tier1たちを遥かに凌ぐ恐ろしい爆発的成長力がある。
レインの範囲魔法攻撃。ロッティの支援スキルサポート。ノアの絶対防御タンク。マリアンナの超回復サポート。
これらよりも遥かに強く己を成長させる事が出来るのよ。
しかも、黄龍麒麟拳と合わせると、この成長に輪をかける事が出来るんだ。
この二つの特性を上手く使えば、いける。
オレはこの世界で生き延びる事も可能かもしれない。
魔王にも対抗できる力を得られるかも。
「大丈夫です。死ぬ気でいきます」
「え?」
「死んでもいい感じで訓練しますから。お願いします」
「へ? 死んでもいい???」
「はい。お願いします」
どうせ、このまま何もしなければ、ブラインは死ぬんだ。
だったら、死ぬ気でやるんだよ。
死んでもいいんだって、思うくらいにさ。
オレは、とことん自分を鍛えて、それでも死ぬんだったら、さすがに諦めるよ。
でもまだまだだ。
オレは、ブラインとして何もしてないのと同じなんだ。
だったらさ。死に物狂いで特訓したっていいじゃないか。
そんな逆転発想の理論でいこうと思う。
あたって砕けろならぬ。
何したって死んで当然なんだから、なんでもやり抜いて当然の精神で行くんだよ。
オレの成長システムに組み込んでやる。
やって当然。して当然。
全部に挑戦こそが道であると!




