第14話 黄金の龍 シャオリン・ジンセ
四日目の放課後はダンジョンで過ごした。
メニューの転送の力は、ダンジョンにも働く。
一度行った事のある場所には、バトル時以外だと自由に行き来が可能だ。
チェックポイントにはファストトラベルが出来る事が証明された。
ここはゲーム時代と同じ仕様だった。
ただし、自分のみの効果であるから、注意が必要だ。
誰かとどこかに行きたい場合に、その人をそこに連れていけないし、その反対のダンジョンから別な場所への転送となると、一人で逃げる羽目になるから、パーティー行動の時は絶対に使用できない。
仲間を置いていくっていうのは、オレには出来ないね。大切にするって決めてるし。
このゲームって一人じゃ出来ないから、たぶん現実のこの世界でも一緒だと思う。
だから、そこは不便だね。
◇
学生ダンジョンではたくさんのモンスターを倒して、熟練度とお金を得ていく。この先の為の資金と自分の体の動かし方を学ぶのにちょうどよかった。敵のレベル帯も難しい物じゃない。
ただし、熟練度の方は上がりにくいことはわかった。
ここもゲームと同じ仕様である。
一度倒したモンスターを倒しても熟練度の経験値が得にくい。
このシステムが全く同じだ。
現実なのに、なんでこの厄介なシステム周りをしてるんだよ。ちぇ。
それで四日目に得られた熟練度は6。お金は167G。
まあまあの収穫である。
そして、五日目。オレの勝負の時であった。
ここが別れ道。成長するためには彼女が必要なんだ。
◇
放課後。
都市の市場に向かう。
路地裏の方に行って、飲み屋の裏手に来た。
予定通りの場所に到着すると、行き倒れている女性がいる。
顔の確認を取ろうとすると、女性がこっちの気配に気付いて、呻きながら話をし出した。
「アアア・・・・アアア・・・・酒ぇ」
髪色を確認。黄金のように輝く黄色。
横顔を確認。残念ながら美人。
武闘家なのに、色白の肌で傷がない。
まさしく目当ての女性だ。
「飲ましてぇ・・・三日・・・三日も飲めてないお・・・・」
倒れ込んで、顔は地面を向いているのに、手だけ伸ばしている。
この人。
人を感知できるのかもしれない。
あと声が震えてるから、泣いてんの?
「そ、そこに誰かいるな」
顔が上がった。オレの事を見てきた。
「君・・・酒をおおおおお・・・くれお」
学生が酒を持ってると思うのがおかしい。
シャオリンは独特な感性を持つ。
「いい大人が、なんでこんなところで寝そべってるんですか」
自分の師になって欲しいからと言って、シャオリンを甘やかしてはいけない。
大体の人が、そこでミスをしている可能性がある。
オレも、最初はそれでミスった。
この人にとことん優しくしないと、師弟関係になれないんじゃないかって思いこんでしまい、全力でおもてなししてしまったんだ。
でもそれは駄目だった。
彼女には性格上の問題があって、つけあがる性質を持っているんだ。
だらしなさから来るつけあがりで、シャオリンはすぐに有頂天になる。ただし、日常生活の部分だけだ。
武道においてだと、全く油断しないから、掴み所がない人である。
「わっちに。お酒くれお! そこの青年」
「自分で買えないんですか?」
自分で言ってるけど、全くその通りだよな。
この人、何でお酒を買えないんだ?
学生じゃきついけど、100Gだろ。
大人だったら何とか出来るもんだぞ。
「見てちょ。わっちの財布」
財布をひっくり返した。Gが落ちてこない。空である。
「財布ですね」
ちょっとイラっと来るわ。
見てよ、お金ないんだよって顔をするなよ。
子供相手にさ。
「見て欲しいのは財布じゃないんだお・・・お金だよ」
「ないじゃないですか。お金が見当たらないですよ」
「だから、入ってないんだお」
また財布をプラプラと振る。お金が全くない。
「それは大変だ。お酒を買いたかったら、働かないとね」
「んんんんんん。君、察しが悪いんだお」
ムスッと頬を膨らませたって、可愛くないぞ。
あんた大人なんだからな。
「お金ください」
「子供にたかるな」
まだ突き放していくぞ。この人、駄目人間すぎだろ。
ここはオレが正していく。腹立って来たから、ゲーム時代よりも厳しめでいくわ。
「そこをなんとか! どうかお願いします」
足元にすがってきた。大人としてのプライドがないのか。この人は!
「あのね。あなたは年頃の女性ですよ。自分みたいな子供にすがってたら駄目でしょ」
「で。でも。お酒があれば・・・なんとか生きていけていけるんだお。お酒があれば。なんでも忘れるんだお」
二回も言うな。二回も!
「いいや、まず飲むより食べろよ。食べたら生きていけるだろうが」
ちょっときつめに言った。
でも懲りない駄目人間は、ある意味で最強だ。
「お酒は、わっちの血なんだお。この身に流れている透明な血なんだお・・・点滴だお」
この言い分、アル中でしょ。
「まあしょうがな・・・」
少しだけ手助けしようとしたら。
「ん? 青年。伏せろ」
「はい?」
「いいから伏せるんだお!」
彼女が一瞬で起き上がって、オレの頭頂部を鷲掴みにした。そしてそのままオレの頭を地面にたたきつける。
「ぐはっ・・・な、なにすんだって・・・え?」
オレとシャオリンの前に複数の影が現れた。
敵っぽい奴の服装はこういう襲撃時の定番の黒ずくめだ。
「これ、狙いは青年なんだお?」
シャオリンが構え出した。彼女は、右前の構えが基本。
右手と右足を前に出して、左足を引くスタイル。
「青年。こいつらを倒してもいいのかお!」
「倒すも何も・・誰?」
こんなイベント知らねえ。
どういう事だ。こんな序盤で襲撃イベント???
しかも、オレのみを対象とする?
いや、リミットタウンを目的にするのならあるんだけど、個人に向けては知らないぞ。
ブラインって誰かに恨まれるような人間じゃないしな・・・。
「ん。ここまであからさまな殺気を放つんだ・・・そんな敵を知らない? 敵対関係じゃないのかお?」
「まったく知りませんよ。誰です?」
「んんん。だとしても、穏やかな様子には見えないんだお」
敵の様子は戦闘する気満々。
それはオレでも分かる。
「青年の力じゃ対抗できない。これはわっちが、守ってやらんと駄目だお。これは・・・・手練れだお」
「この敵、強いんですか?」
「うん。だからお酒頂戴」
タダでは守ってくれないのね。
ちゃっかり者なのか。それともただの酒好きか。
とりあえず、どっちでもいいや。守ってくれるなら、こっちだって誠意は見せないとな。
「ほら。あなたのお目当てのお酒。自分ちょうど持ってますよ。知り合いにあげようと思ってた奴です」
ぼんくらを見せる。
これは、彼女の好きなお酒の中でも大好物のお酒だ。
シャオリンは、良い酒が好きなんじゃない。浴びるほど飲める酒が好きである。
「おお。青年。それは・・・わっちの大好物だお!!」
「ええ、ですから。あげますので、倒してください」
「了解だお。わっちにまかせんしゃい」
最初から、黄龍麒麟拳を使うつもりだ。
戦いでは、油断も慢心もない。シャオリンは武闘家としてだけは尊敬できる人物である。
「かかってきんしゃい。よく分からない敵!」
敵は六名。強さが分からない。
ステータス画面のほとんどが???になっている。
調べるコマンドも通用しないみたいだ。
オレよりも遥かに強い人には、通用しないのかも。
そういえば、シャオリンのステータスも見えていない。
シャオリンと作中終盤でもトップクラスだからな。
「な。なんだこいつ。邪魔をするな」
敵の一人が話し出した。
「邪魔? この子を守る事が邪魔なのかお?」
話していた敵じゃない人物二人が、彼女の両脇に出現。
この動きはおそらく暗殺者や盗賊が持つスキルの『隠密』だ。
ランクはV以上だろうな。ここまで接近して気配を感じさせないなんてさ。
「「部外者は消えろ!」」
「その動き、全部見えてる。そのステップもわっちの前では意味ないんだお」
オレの目にはその動きが見えていなかったが、シャオリンの目には最初から見えていたらしい。
構えが変わって、両手を前に突き出すスタイルに変更されていた。
両足を開いて、どっしり構えている。
「黄龍・竜虎撃」
あの技は竜虎撃だ。
敵の突っ込んで来る動きに対して、カウンターをする技で、ゲームの時代だと敵の攻撃力も上乗せして跳ね返す技だったはずだ。
シャリオットの掌底が、敵二人のお腹にめり込む。
左右の掌底。どちらも同威力みたいで、両方が吹き飛んでいった。
「「がはっ」」
地面に落ちてもその吹き飛びの威力は収まらない。数十メートルは飛んでいった。
オレは思わず声が出ていた。
「つ。強え・・・」
ゲーム時代とは違って、迫力満点。
直で見ると彼女の強さが際立って見える。黄金の気のようなものを纏っている。あれは龍麒。やっぱ美しいんだわ。
「感触がおかしいな。わっちの攻撃を受け止めてる? まさかな・・・」
攻撃を当てたのに、感触が悪いみたいで、シャオリンは首を傾げた。
「貴様・・・人間か。我々を弾き飛ばすとは・・・」
敵の動きが止まった。こうなると、カウンター主体の龍象破では待ちの姿勢のままになってしまう。
だから、シャオリンは龍虎撃の構えを解いた。
「ものの見事に、止まったな・・・じゃあ、こっちからいくんだお」
敵の言葉も無視して、冷静に敵を倒しに行く。
普段の情けなさとは違い。戦闘時の頼もしさは、作中でもトップクラス。
シャオリンの動きは常人の目では追いかけられない。
オレの目でも彼女の最終到達地点にしか反応できなかった。
こっちから見て一番手前の敵の懐に入った彼女は、第二関節まで曲げていた掌底から攻撃方法を変更。手の平全開のパーに変える。
「黄龍・龍鯨」
敵の上から、腕を大きく振りかぶって、敵の頭を叩く。
オレは別名ハエ叩きと呼んでいる。
シンプルな攻撃だけど、彼女の攻撃が鋭くて速いから、敵は反応しきれない。
防御姿勢も作れずに、モロに喰らった。
『ドン』
爆裂な音を立てて、敵が地面に埋まる。
「な!? ば、馬鹿な。なんだこの女・・・」
彼女が倒した敵の隣の奴を睨んだ瞬間、無意識に後ろに下がった。敵は恐慌状態に入ったらしい。足も震えている。
「まだまだ!」
そして、シャオリンは両手首をピタリと合わせる。手の平には気を集中させているから、あの必殺の一撃を入れ込むみたいだ。
さらに下がっていった敵に向かっていき、懐に入り込んだ。
「黄龍・龍象破」
放出型の一撃で、射程距離が超至近距離のみの『龍象破』
魔法のように見えるが、これは魔法じゃない。
龍麒と呼ばれる闘気の塊を放出する技だ。
龍麒は、MPを使って、魔力を闘気に変換。
効率化を極めると、1MPあるだけで、自身を最強強化できる。
バフ系の能力だ。
1MP1分間。
それでボスクラスと互角の肉弾戦が出来るようになるのは、この拳法の他にない。
「何をくらったんだ・・・・お。俺はぁああ」
最初に吹き飛んだ敵の位置まで、龍象破をもらった敵が吹き飛んだ。
「ふぅ。あとは二人か・・・まだやるか? わっちはまだまだいけるんだお」
黄金の龍シャオリン。
やっぱりこの世界でも最強クラスの人だ・・・。
「人間風情が調子に乗るなよ。こっちは手加減しての事だからな」
一番奥にいた敵が重低音の声で威嚇してきた。
腹の辺りが熱くなって、足が動かくなる。
まさか、これは威圧か?
スキル威圧。
敵の判断能力を衰えさせるスキルだ。
でもこれくらいなら、シャオリンには効かない・・・。
「なに?!」
動じないはずのシャオリンが驚いている。だからオレも彼女が見ている物を見ようとしたら。
「え・・あんたまさか。魔族!?」
オレも気付いた。敵に身体の特徴があった。
「つ、角!?・・・なんでこのタイミングで・・・」
今は、リミットタウンでも序盤の序盤だ。
このタイミングで、魔族なんて絶対に出てこない。
ありえない。魔王襲来ルートに入らない限り、魔族がリミットタウンに出てくることはないんだ。
それがなぜ、こんな最初の場面で?
「皆、下がれ。こ奴は、お前たちでは敵わん」
「「「「はっ」」」」
奥にいた敵の隣の奴が急に指示を出してきた。
奥に引っ込んでいた奴がこっちまで来る。
だから、フードで隠れていた顔が徐々に見え始める。
「あんた。何もんだお・・・その気配・・・化け物だ」
シャオリンが言った直後、オレにもその近づいてくる敵の顔が見えてきた。
そして気付いてしまう。気付かなかった方が気が楽だった。
憂いた瞳。疲れ切った表情。
具合が悪いような血色の悪さが残る顔の魔族。
本来は三本の角を持つ男が、今は二本までしか見せていない。
その特徴を持つ者は、リミットタウンで一人しか知らない。
「な!? ま、魔王『マフティー・ミディア』」
最終ボスのような男が・・・。
なぜこんな場面で!?
オレの・・・。
ブラインの今回の人生は、どうなってんだよ!!!
おい。いきなり魔王に会うってなんだ。
おいおい。オレをどうやっても死なせるつもりなのか。
リミットタウンさんよ。
ルートから外れて、ルートに戻るんか!?
なんで、この男が・・・どうしてこんなところにいるんだ!?




