第13話 ルートが独特の人の為の酒
放課後。
学校を飛び出して、やって来たのは、学生寮よりもさらに行った先にある都市の市場。
ここは学園都市となっているが、一般の人々も暮らしてる。
学生だけでは、都市全体を動かすのは不可能だからだ。
大人の支えもあって、この都市は生きている。
「これって自分の歳でも買えますか?」
「おいおいおい。まさか、飲むの?」
オレが来たのは酒屋。
ビール瓶を指差して聞いたんだけど、店主はオレを疑った。
「いいえ。違います。贈り物として買いたいんですけど。無理ですか?」
「贈り物? 君、ここの学生だよね」
「はい」
「誰に送るの。先生?」
「違います。いつもお世話になってる人です」
「誰?」
「言わないと駄目ですか?」
「まあ。自分で飲むための嘘かも知れないしね」
疑っているのはそこだった。
不良学生だと思ったのかもしれない。
「えっとこの人です。自分の親みたいな人で・・・」
オレは、生徒手帳にある写真を見せた。
バーランドさんと二人で並んで撮った写真をお守り代わりにしているのが、ブラインだ。
領主でもあり、義理堅い人でもある。大切な人の顔を絶対に忘れないようにしているらしい。
「へえ。この人にか」
「はい」
「本当? 自分で飲むためじゃないよね」
まだ疑うのか。
あのさ。ここまで疑うってことは、ここの学生がお酒飲んだことあるのかな。
もしかしてヤバい学校だったのか。
アーケミア特別支援学校はさ。ヤンキーばっかりだったのかい。
「それじゃあ、この人にプレゼントしたって言う証拠の写真を撮ってきますよ。それでいいです?」
「ああ。なるほど。本当にあげたかどうかの確認だな」
「そうです」
「それならわかった。売ってあげるよ。じゃあ、すぐに写真を持って来てよ。未成年に飲ましたとなったら、俺の方が危ないからな」
「大丈夫ですよ。飲みませんから」
と言ってオレは、この人からお酒を五本買った。
名前は『ぼんくら』と言うビールだ。
ゲームの時の話で、味は普通だと聞いた。
だけどぐびぐび飲めちゃうから好きな人は好きだという。
店主さんは、ビール五本を束にしてくれて、オレの前に置いた。
「ほらよ。持ってくか」
「はい。アイテムボックスに入れて持ち運びます」
「そうか。じゃあ、金を払ってくれ」
「はい。いくらです?」
「500」
「もう少し安くなりません。五本セットなんで、おまけは?」
「1本100だ」
「だからそこをお願いしたいですよ。学生だからお金がなくてですね」
駄々をこねてみた。
「ちっ・・・まあそりゃそうだよな・・・まあ・・・」
意外と聞いてくれた。
「世話になってる人にあげるって言ってんだもんな。わかった。95でどうだ」
「そこを一声! 85!」
「安すぎだわ。無理言うな。破産しちまうわ」
「じゃあ。間の90!」
「・・・まあ。それくらいならいいか」
「450ですよね。ありがとうございます。これどうぞ」
店主の気が変わらない内に、オレはササッと450Gを出した。
なけなしの金だ。今は450でも名残惜しい。
残り50しかないもんね。金欠過ぎて、財布が寂しい。
「ああ。それじゃあな。ちゃんと送れよ」
「は~い」
こうしてオレは、重要アイテム。
酒を手に入れたのであった。
◇
当然、これはバーランドさんへの贈り物じゃない。
彼女への贈り物だ。
オレが狙う女性『シャオリン・ジンセ』
原作では隠しキャラクターとして登場している。
彼女には、たぶん出会おうと思って出会えた人は少ないと思う。たまたま発見して、攻略法を得た人だけが、彼女との接点を持てたと思うんだ。
かくいうオレも、序盤攻略を何度も繰り返していた時に見つけた人だった。
連撃会心ビルドを組み立てるのに、通常の拳法家や戦士のスキルだと正直火力が足りない。そこに気付いてから、誰かを参考にするために探し回った結果で見つけた人が彼女だ。
黄龍麒麟拳の師範代。
伝説の拳法の使い手で、リミットタウンの世界にある主流派『白神流』とは一線を画すんだけど、超マイナーな流派でもある。
そこの門下生はいないみたいで、祖父と孫の二人だけの流派。
彼女の祖父『マオリン・ジンセ』の命令で、こっちに遊びに来たって話だ。
シャオリンの祖父は獣王国の方にいるから、別大陸にいる。だから、シャオリンはわざわざこっちに派遣されたって事なんだけどさ。
彼女、そんなに勧誘に乗り気じゃないから、なんでここに遊びに来たんだろうね。
それに、この大陸って、勧誘するのにお薦めの大陸じゃないしさ。
積極的じゃないんだったら、こっちに来る必要がないよね。
この世界は四大陸あって、ロア王国があるのは世界の南西の大陸。
この大陸は世界で唯一、二か国と一部族が共存する大陸だ。
他の三大陸は単一国家での統治なので、一番厄介な大陸であるのは間違いない。
まあ。いてくれるなら助かる程度で、彼女が現れる五日目を期待して待つことにしよう。
◇
この後、オレはリミットタウンに帰還した。
「若。なぜ? どういうことです?」
バーランドさんにビール瓶を持ってもらって、オレは彼の隣に入る。
「マリンさん。このシーン撮ってもらえます?」
メイドのマリンさん。
切れ長の目に、口元がセクシー。ほくろがポチッとついている。
口調も落ち着いていて、ややきつめの見た目のせいで、冷たい人だと勘違いされやすいらしい。
この町が発展していって、メイド長になった時に、怖がられるイベントが起きる。
めっちゃいい人なのに。
「はい。もちろん。若様。笑顔をお願いします」
普通に一枚写真があればいいだけなんだけど。
笑顔は別に・・・
「若様! 笑顔! にっこりです!」
圧強めだ。笑顔を作らないと怒られそう。
「う。うん」
顔が引きつってるかも。頬が痛い。
「若様。不自然です。それが笑顔のつもりですか? 苦笑いに見えますよ」
「そんなこと言ってもね。急には・・・それにこれは証拠の写真だし」
酒屋の御主人に見せるためだけの写真だから。
別に見栄えをよくする必要がなくて・・・。
「駄目ですよ。写真にちゃんと写らないと、魂取られますよ」
「いつの時代の話だよ」
江戸時代とか明治時代とかの話?
いや、あれは写真撮ったら魂抜かれるだっけ?
「写真に映るものは真実を映します。嘘は映しません。若様の笑顔。これが屈託のない笑顔であるべきです」
「・・・まあ、それはそうだけどね」
思い出とかね。ブワって思いだすもんね。写真を眺めるとさ。
「はい。若様。笑顔ですよ」
「うん」
と悪戦苦闘した末に、満足の行く写真は取れたらしい。
彼女は出来上がった写真を眺めて、にんまりと笑った。
「若様。こちらのお酒は何をするために?」
バーランドさんが聞いてきた。
前髪がいつもよりも決まっている。さっきの写真映りを気にしていたのかもしれない。
「ちょっとした用で使うんだ。まあ、頼みごとにね」
「頼み事ですか・・・あ、それで思い出しました。今、資材が届いたので、建築班が仕事を出来るようになりましたが、家から作りますか?」
バーランドさんの言葉から、リミットタウンの第一段階のチュートリアルが始まる。
そうだ。忘れちゃいけない。ここからは自分だけじゃない。リミットタウンの発展を目指さないといけないんだ。
まずは隠しパラメータの幸福度。充実度。
これを少しずつ満足できる領域に持っていかないと、住民の不満が溜まりやすい。
今は初期段階だから、家・トイレ。ここが二大巨頭で、本当の所は風呂も欲しい。
公衆衛生も完備でき始めると、不満は散りやすい。
それでもゼロにはならない。
このゲーム、いかにも人間らしい部分が出てくる。
あれが出来るようになれば、これも欲しい。
これが出来るようになれば、それも欲しい。
人間の慣れと欲深さについて、徹底しているゲームなのがリミットタウン。
今に満足しても、その生活に慣れていけば、未来はもっと良くなりたいと、色々な施設を欲しがる。
それが人間であるのさ。でもそれも悪い事じゃない。便利になるって、そういう感情から来ることだと思うからさ。
より良くなる方向を間違えなければ、その思いは大切にするべきだ。
「家からいこう。今の所の全住民が住めるようにして、この先来てくれる人たちの為にも準備をしないとね」
「わかりました。では見学しますか」
「見学?」
「はい。建築班の所にいきましょう」
「わかりました」
小さなお屋敷から外へ。
◇
「おう。若! 建築は家からだって聞いたぞ」
坊主頭の親父さんが、大工頭のシュル・トントンさん。
リミットタウンの大工だ。
このゲームの大工は、自前の腕で建てていくわけじゃない。
生活魔法の建築と呼ばれる魔法で、家を組み立てていくんだ。
だから、目の前で見るのは楽しみだったりする。ゲームだと、建設予定地から砂ぼこりが起きて、ゴゴゴゴってな感じで、地面からニョキニョキと建物が出来上がるだけなんだ。
「はい。シュルさんお願いします」
「おうよ。まかせとけ」
建築の手順は、ゲーム時代と同じ。
1建築予定地に必要素材を置く。
2魔法陣を組み立てる。
3大工衆の人たちが魔力を練り始め。
4施工のイメージが出来ている頭が、魔法を展開。
5イメージ通りの動きをするか。逐一チェックを入れて、魔法で建築していく。
6完成。
この流れが同じだった。
ただ、目の前で見られる分。ド迫力の展開だ。
日本で、家が建つってさ。
一個一個土台を作って、骨組みをしっかりして、大黒柱を作ってとかさ。きめ細かい作業があるのに、これは見事なもので。
下から一気に出来上がるんだ。
3Dプリンターみたいな感じだ。
「すげえ。あっという間だ」
「ふう・・・・若、まだ二人だからな。日に1。2回での魔法展開しかできないぞ」
それ十分じゃないの・・・。
「他の施設・・・例えば、若が提案してきた壁は、もっと人が必要だ。せめて10人は欲しい」
「10人か」
あと8人。生活魔法を扱える人間は貴重だから、スカウトも大変だ。
「シュルさん。10人だと、第一の壁を作り上げるのに期間はどれくらいになるんですか?」
「第一の壁ってのは内側のだったな」
「うん」
「まあ、10人だと10日間は必要だな」
「マジか・・・そんなに・・・」
思ったよりも時間が必要だ。
材料を集めてからじゃないと、建築が出来ないから、10日以上の日数で余裕を持たせるとすると、90日よりも前に全部の素材を集めないと駄目だな。100日目に大きなのが来るからな。
おおお。これは意外と厳しいぞ。
あらゆるものを集めきれるか。オレ!?
「それと、壁を効率よく頑丈にしたいなら、スキルの素材『鉄』を持っている奴がいないと駄目だぞ」
生産職の素材スキルは、制作の時の素材節約も出来るスキルだったはず。
ゲーム時代も人を集めるのに必死過ぎて、来てくれる人たちのスキルって、あまり注意深く見て来なかったから、ここも重要視しておこう。
「俺はそのスキルを持っていないからな。仲間に欲しい所だぞ。若。気を付けてくれ」
「・・え。そうななんだ・・わかった。調べてみるよ」
「若、助かるぞ。こっちも探してるんだが、近隣ではな・・・どうもな・・・」
歯切れの悪い答えで分かる。
近隣の人たちに、こちらに来てくれと誘っても、魅力もない町だし、評判値が悪いから誰も来たがらないもんな。
最初のスカウトはオレ次第ってわけだよ。
100日の間に、生産職の人たちを集めきらないと・・・。
「うん。そっちは任せて。なんとかして、人に来てもらうようにするよ」
「頼むぞ。若」
シュルさんだけじゃなく、バーランドさんもマリンさんも、オレの顔を見てくれた。
期待しているって顔だ。
大変危険な状況は変わらないけど、ちょっと嬉しい出来事だった。
この人たちの為にも、必ず復興するよ。
いや、もっと凄い都市にしてみせるよ!
待っててくれリミットタウンの皆。
領主として頑張るからさ。




