9-4
「ありがたき幸せ。先だっては学校の設立をお許しいただきまして、重ねて、まことにありがとうございます。学術の発展は必ずこの国を豊かにするでしょう。今後みなさまのご子息ご子女の教育にも尽力いたしますゆえ、なにとぞ私に、鬼の妙薬を頂きたく、お願い申し上げます」
ウィリアムは額を床の近くまで下げたまま経行に言いました。
「話は聞いた。娘が病とのことだな、哀れである。その願い叶えてやりたいところではあるが肝心の鬼の妙薬がここにはない。鬼の国との国交は絶えて久しい。南条殿、鬼の国の動向はどうであるか?」
と経行は居並ぶ重臣たちのなかで上座近くに座っている初老の武将・南条正時に聞きました。
「は。先日も申し上げました通り、鬼どもは無法の蛮族、隣り合う我が領地の船を破壊するなど狼藉が絶えません。そろそろ鎮圧をせねば、後の世に禍根を遺すことになりましょう」
南条は怖い顔で言いました。
南条の隣、太子の武丸は顔を曇らせて彼らの話を聞いていていました。
ウィリアム博士は
「鬼との交渉、私にお任せいただけませんでしょうか。交渉がかなわず戦いになった時には、私の作った巨大カラクリ人形がお役に立つでしょう。なにとぞ、なにとぞ、鬼の妙薬をお取り計らいくださいませ」
と頭を何度も何度も床にこすりつけてお願いをするのでした。
謁見を終えたウィリアム博士は武将・北畠忠重と別室で話をしていました。
「上様からウィリアム博士の世話係を命じられました。何か困ったことがあれば私に聞いてください」
北畠は言いました。
「ありがとうございます、北畠様」
「ウィリアム博士のご息女はご病気なのですね。おいたわしい」
「眠り続け、だんだんと衰弱して死に至る奇妙な病です。ずっと眠ったままなのです。魂が体から離れてしまう病などとも言われています。口に水を当てれば飲みもするし食べ物も食べはする。ですがそれらは生まれたばかりの赤ん坊が乳を飲むようなもので、彼女は意識を取り戻すことが無いのです」
とウィリアム博士はつらそうに言いました。




