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「あんた、よう頑張った!元気な男の子だよ!」
女の声がしました。今よりも若いときの、桃太郎のお婆さんです。
お婆さんは、生まれたばかりの赤ん坊を抱えて奥方に差し出しました。
奥方の目から涙が溢れました。彼女は最期の力を振り絞って赤ん坊に手を伸ばしました。
「ああ、しあわせ」
奥方の口から、か細い声がもれました。
奥方の手が赤ん坊に触れようとした、その刹那。
『ダンッ!』
神様は鉈を振るわれました。
奥方の手は粗末なムシロをかけられた自分の体の上に落ちました。彼女の手は赤ん坊に触れることすら出来なかったのです。
「おぎゃあああ!おぎゃあああ!」
赤ん坊の元気な鳴き声だけが家の中に響いていました。
時は戻り、今。
桃太郎たちは橋を渡り終えていました。
いまは幽霊となった奥方は橋の上に立ち止まって、桃太郎の背中を静かに見つめているのでした。
同じころ、桃太郎の村のお寺。
「まったく。婆さんがとんでもないことを言うから桃太郎が出て行ったきり帰って来んじゃないか。桃太郎が大人になったらきちんと話をする約束だったのに、婆さんときたら・・・」
お爺さんは恨めしそうに言いました。
喜一は肩をすくめて老夫婦のやり取りを黙って聞いています。




