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「大丈夫か?」
「ありがとう…なんだか、僕は川の流れが怖いみたいだ」
たった一瞬のめまいでしたが、桃太郎はとても疲れたような感じでした。
桃太郎たちから少し離れた後方、女性の幽霊は誰にも見えない透明の姿で桃太郎たちの後をついてきていました。彼女は川をちらりと見下ろして悲しそうな顔をしました。
幽霊の女性は思い出していたのです。時は十数年前、こことは違う川での出来事でした。
その日。雨によって水かさが増した川の流れが奥方を飲み込んでいました。青、黒、白い泡、桜の花びら。桃太郎が見た光景の中を奥方は流されていたのです。
奥方は薄れゆく意識の中で必死に神仏に祈りを捧げていました。
「神様、仏様。私はどうなっても構いません。どうかこの子だけは。どうか…」
奥方は両手で必死にお腹を守るように抱きしめました。そして、彼女の意識は川の流れの中に消えていきました。
どれくらい時がたったのでしょうか。
奥方がうっすら目を開けると、粗末な作りの天井が見えました。むき出しの梁に藁ぶきの屋根。下々の人が暮らす、質素な作りの家。囲炉裏の火が家の中を薄暗く照らしています。壁際に干された奥方の着物が、水滴を床に落とし床板にシミを作っていました。
囲炉裏には鍋が欠けられてグツグツとお湯を沸かしていました。その横に大きなタライが置かれて柔らかい湯気を立てています。
奥方はぼんやりとそれらを横目で見ていました。
「おぎゃああああ!おぎゃああああ!」
赤ん坊の鳴き声がしました。
奥方の目が見開かれました。




