17-15
将軍・経行は町の小高い丘の上にある寺を借り切って今日の宿としていました。
経行は窓際に腰掛けて、月明かりに照らされた家々の影を眺めながら酒を飲んでいました。経行の目の前には典成が黙って胡坐をかいて座っています。
経行はぼんやり、十数年前のことを思い出していました。
その時にも経行は彼のお屋敷の中で酒を飲んでいました。そして彼のそばには着物を着た美しい女性がいました。奥方です。
「しばらく都を離れることになる。戻るのは桜が散った後だな」
経行は奥方に言いました。
奥方は微笑を浮かべて自分の腹を撫でてています。それを見て経行の顔も思わず緩みました。
「その頃には生まれておるだろうな。男の子であればワシが剣を教えてやろう。大人になったら一緒に酒も酌み交わすのだ」
と経行は言いました。
奥方は
「女の子が生まれたらどうするのです?」
と笑いました。
「女の子であったら花や音楽や、美しいもので大切に育ててあげるさ」
と経行は言って奥方の背中を撫でました。
「わしの子か…」
経行が奥方のお腹を見ながら言うと
「私たちの、です」
奥方が、めっ、と叱る様な、でもとてもやさしい笑顔で言いました。
経行も目を細めて優しい笑顔を返しました。
時は今に戻ります。
「上様」
と典成が経行を呼びました。
「ああ…」
と経行はぼんやり返事を返しました。




