第15話 『雨のにおい、遠吠え』
昼。雨が降っていました。
都から離れた桃太郎の村へ向かう川沿いの道、かつて橋がかけられていた所に典成はいました。
典成は親柱の横で、川に向かって両手を合わせて目を閉じていました。彼は十数年前の出来事を思い出していのです。
その日も雨でした。
都の端。村に伸びている道を、兵士たちの列が一つの輿を守りながら進んでいました。
雨と風に桜の花びらが散って、兵士たちに降りそそいでいます。
「典成殿、もし私に万一のことがあったら…」
下侍たちが担ぐ輿の小窓を開けて、経行の奥方が典成に声を掛けました。その顔は紛れもなく桃太郎のそばにいる幽霊の女性でした。
輿の横、馬上にいる典成は厳しい表情で前方を見ています。
「奥方様、万一などと。やっと南条の幽閉から逃れることができたのです。このまま一気に落ち延びましょう」
「きっと都の周囲は南条様が兵を置いているはずです。このような体では急ぐこともできません。もし私に万一の事があったら経行様に、時子様と再婚して武丸様を太子とするよう伝えてください」
「なんということを」
「そうなれば南条様も刃を振り下ろす先がなくなるでしょう」
「拙者が命に代えても奥方様を無事に逃がします。なのでどうか、そのようなことは」
彼らの後方から伝令兵が走って来て典成に
「後方、南条軍が迫っております!」
と伝えました。
典成は踵を返し
「拙者は追っ手を食い止めます。奥方様は一刻も早く都を抜けてください」
と馬を走らせました。




