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ゆっくり話して●大佐の香り with 前日譚  作者: 香詠 Koei
『レクイエムの救済』(ゆっくり話して●前日譚)
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第12話:同じ部屋にしてもいいかしら?

村長はジュリアンが持ってきた薬を確認し、言った。

「本当にありがとう。この特効薬があれば、もうマラリアを恐れずにすむ」


ジェニーが補足した。

「ですが、この種の薬は供給が非常に逼迫していますので、これだけしかお渡しできません。この量で、多くても3人の患者がひと療程分を完了できる程度です。どうか慎重にお使いくださいね」


「ジェニー先生、ご助言ありがとうございます。大切に使わせていただきます」


「どういたしまして。でも、マラリア対策に一番効果的なのは薬ではなく、生活環境を整えることです。例えば、水たまりを排除したり、水が溜まりやすい道路を補修したりすることです」ジェニーが言った。


「それなら、私の部下にも手伝わせることができます」ジュリアンが言った。


「それは本当にありがたい!」村長は時計をちらりと見て、続けた。「時刻も遅くなってきました。よろしければ、夕食を食べてからお帰りになりませんか?」


ジュリアンは辞退しようと思ったが、ジェニーが先に答えた。「そうしましょう! 時間はありますし、遅くなっても大丈夫です」


こうして二人は夕食を共にすることになった。ジュリアンは村民が食事の準備をしている隙に、ジェニーを連れてレベッカの家を訪ね、ドアをノックした。やがてドアが開き、顔を出したのはレベッカの母親だった。彼女は一瞬呆気にとられた後、淡々と尋ねた。

「……下士官様、何かご用でしょうか?」


「例の歌、後半の歌詞を書き上げました。聴いてみますか?」


レベッカの母親は一瞬ためらったが、やがてドアを大きく開け、手招きで二人を室内へと迎え入れた。


中に入ると、ジュリアンが言った。

「まず紹介させてください。こちらは私たちの部隊で軍医を務めているジェニー先生です。そしてこちらは――」


レベッカの母親が慌てて言った。

「前回は自己紹介を忘れてしまいましたね。私はバーバラです。でも皆はマーティン夫人と呼びます。ジェニー先生、お会いできて嬉しいです」


簡単な紹介が終わると、ジュリアンはハーモニカと楽譜を取り出し、まず一度演奏した。それからアカペラで歌おうとしたが、ジェニーがハーモニカを彼の手から受け取り、自ら吹き始めた。技術的にはまだ向上の余地があったが、歌の伴奏としては十分だった。マーティン夫人は二人が同じハーモニカを共有している様子と、ジェニーがジュリアンを見つめる目線に気づき、口元に微かな微笑みを浮かべたが、何も言わなかった。


ジェニーの伴奏に合わせて、ジュリアンは亡き父親が愛娘のために書き残した歌を優しく歌い上げていった。


My blonde angel playing hide and seek

(金髪の天使が、かくれんぼしてる)


Where are you hiding? Won't you come out?

(どこに隠れてるの? 出てきてくれない?)


I'm waiting for you, Rebecca.

(ずっと待ってるんだ、レベッカ)


Now it's your turn to come and find me.

(今度は君が、私を見つける番だよ)


Please come and find me soon.

(どうかすぐに、見つけ出してほしい)


I'm waiting for you, Rebecca.

(ずっと待ってるんだ、レベッカ)


歌い終えると、ジェニーは歌詞の内容に気づき、マーティン夫人に尋ねた。

「レベッカはあなたの娘さんですか? どこにいるんですか?」


「近所の家に遊びに行っています」


「では、お父様は?」


マーティン夫人はその質問を聞いて、すぐに笑みを消し、十秒ほど沈黙した後、言った。

「夫は遠くの外国で働いています」


「そうなんですか? どこの国――」


ジュリアンは話がまずい方向に向かうのを恐れ、慌ててジェニーの話しを遮り、目配せと手振りでそれ以上質問しないよう合図した。


マーティン夫人は場の空気を和らげようとして、ジェニーにいくつかの医学的な質問を投げかけ、自分の皮膚のトラブルを見せた。


「これは軟膏を塗れば大丈夫です。簡単なことです。次にお越しの際に、一本お持ちしますね」


***************


夕食の席には村長をはじめ、招待された数名の村人たちが出席し、村に医者が来たことを皆が喜び、ジェニーと楽しく会話を交わした。


しかしジュリアンは一晩中、沈んだ表情で、ほとんど話をしなかった。


突然、窓の外で激しい雨が降り出し、稲光と雷鳴も轟いた。ジュリアンは気にせず、通り雨だろう、すぐに止むはずだと思っていた。


しかし今回は見込みが外れた。夕食が終わっても、雨は止むどころかますます激しさを増していた。


「これほどの土砂降りでは、お戻りになるのは到底不可能ですな。よろしければ、一晩お泊まりになって、明日の朝にお帰りになったらいかがですか?」村長が提案した。


ジュリアンはもちろん、外泊が発覚すれば厳しい処分を受けることを承知していたが、天候があまりに悪すぎたため、やむなく承諾した。彼はジェニーに目を向け、彼女がうなずくのを確認してから、村長に言った。

「では、お言葉に甘えさせていただきます。差し支えなければ、部屋を二つご用意いただけませんでしょうか?」


しかしジェニーが彼の袖を引っ張り、耳元でささやいた。「知らない場所で一人で寝るのは怖いの。私たち……同じ部屋にしてもいいかしら?」


ジュリアンはそれを聞いて、目を見開き、何と言えばいいのか分からなかった。


村長は二人が何を話しているか察して、気を利かせて言った。

「わかりました。部屋は二つ用意します。どう使うかはお二人でご相談ください」


*****************


結局、ジェニーはジュリアンの部屋に入ったが、部屋にはベッドが一つしかなかった。


「経験人数ゼロの俺を、君は恐れてないってことか?」


ジェニーはジュリアンがこういう話題を出すたびに笑ってしまう。今回も例外ではなく、笑いながら言った。

「本当に知らない場所で寝るのが怖いの。あなたがいてくれれば眠れるから」


「わかった。君はベッドで寝てくれ。俺は椅子に座って寝る」


「さっきの夕食の時、どうしてずっと黙ってたの?」


ジュリアンは答えず、数秒間こらえた後、ついに涙が溢れ出した。必死に感情を抑えようとしたが、かすかな嗚咽が漏れてしまった。


「何かあったの? 話してみてくれる?」


ジュリアンは一分ほど沈黙し、感情が落ち着いてから手の甲で涙を拭い、言った。

「マーティン夫人の夫は、外国で働いているわけじゃない。俺が殺したんだ。彼は......俺が生まれて初めて奪った命でした」


「な......何ですって!?」ジェニーは驚愕の表情を浮かべた。


「本当だ。夕食の時に黙ってたのは、何人かの村民が数週間前から家族が行方不明だと言っていたからだ。彼らの話を聞いて、おそらく俺が殺したんだとわかった。もし彼らが、家族を殺した犯人が俺だと知ったら、それでも一緒に食事をするだろうかって考えてたんだ」


ジュリアンはついに感情の抑制が効かなくなり、声を上げて泣き出した。なぜか彼は、ジェニーの前ではいつも偽りのない本当の自分を見せたくなった。最も弱い部分さえも、彼女の前にさらけ出すことを厭わなかった。


ジェニーは彼をそっと抱きしめ、言った。「辛いことがあったら、話して。私はただ聴くだけ。批判したりしないから。」


ジュリアンは再び感情が落ち着くのを待ってから、言った。

「彼らは基本的には普通の村民だ。でも、彼らが武器を持って攻撃してきた時、もし撃つのが遅ければ、仲間が殺されるかもしれない。そうなれば、彼らの死も俺の責任になる。逆に早すぎれば、マーティン夫人の夫のように、無実の人を殺してしまうかもしれない。遅いか早いかの差は、せいぜい2秒だ。俺は精一杯やってきた。彼らが指示に従えば、絶対に撃たない。なのに、彼らは生死の瀬戸際で指示に従わず、その責任を全部俺が負わなければならないのか?」


ジェニーは彼が宗教的な責任について言及していることを理解し、言った。

「どうして神が最後に審判を行うのか分かる? もし同じ罪に同じ罰が与えられるなら、審判なんて必要ないわ。審判の意味は、神がそれぞれの状況を考慮に入れることにあるの。あなたはもう神に罪を定められたと自分を諦めないで。」


「じゃあ、これからどうすればいいんだ?」


「安易に答えは出せないけど、私は思うの。あなたの力で、弱い人たちを助けることよ。それが償いになるんじゃないかしら」


「それをすれば、君はもう俺を嫌わなくなるのか?」


ジェニーは嫌いならこんな風に抱きしめて話を聞いたりしないと言いたかったが、彼がいつまでもこの鈍感で不器用なままでいてくれた方が愛おしいと思い直し、こう答えた。

「それは、これからのあなたの頑張り次第ね」


「頑張ってみる。そうすれば君がもう少しだけ俺を嫌わなくなるなら」


「心の内を話したら、少しは楽になった? これから何か辛いことがあったら、いつでも私に話していいからね」


ジュリアンはうなずいた。


その夜、ジュリアンは椅子に座って眠り、ジェニーはベッドで眠った。ジュリアンがそばにいることで、ジェニーは強い安心感を得て、見知らぬ場所にもかかわらず、すぐに眠りに落ちることができた。

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