第8話:ジェニーとの出会い
訓練時の身体検査を除けば、ジュリアンが入隊後に衛生部を訪れるのはこれが初めてだった。彼はまず環境を視察し、薬品の保管場所を把握しようと考えた。しかし、周囲の視線が自分に集中していることに気づいた。
まず診察や検査に来ていた一般兵士たちが、ジュリアンを見ると敬礼した。どうやら「レクイエム」の名声は軍内に広く行き渡り、一般兵士たちの憧れの的となっているようだった。また、二人の将校がジュリアンに微笑みかけると、彼は厳粛な敬礼で応じた。
次に女性看護師たちだ。彼女たちはジュリアンを見ると、手元の仕事をすぐに止めて彼を見つめ、同僚がいれば小声で噂し合い、時折くすくすと忍び笑いを漏らした。ジュリアンが彼女たちの方を見ると、誰も彼と目を合わせようとせず、恥ずかしそうに視線をそらした。
彼が周囲を見渡しながら、どうやって薬を手に入れようかと考えていた時、一組の瞳が彼をじっと見つめていた。
その瞳の主は、金色の長い髪を蓄え、黒い太枠の眼鏡をかけた女医だった。彼女は黙ってジュリアンを見つめていた。二人の目が合った時、彼女は他の女性たちのように視線をそらすことはせず、むしろより強い意志を込めて彼を凝視し続けた。
数秒の沈黙の後、先に口を開いたのは女医の方だった。
「何か用かしら?」
「あ……すぐに服用できるような常備薬がほしいんです。パトロール中に体調が悪くなった時に備えて」
「あなたたちには衛生兵が同行するはずでは?」女医が問い返した。
「ええと……私たちはしばしば二手に分かれて行動する必要があるので、各自が基本的な薬を携帯していた方がいいんです」
女医はジュリアンを見つめ、何か怪しいと感じたが、特に不審な点は見つからなかった。
「わかりました。では、ついてきてください」
ジュリアンが女医の後ろに付いていくと、初めて彼女のボディラインが非常に魅力的であることに気づいた。思わず何度か見てしまったが、じっと見つめ続けるわけにもいかず、廊下の両側にある冷たい白い壁に視線を向けるよう自分に言い聞かせた。心の中ではジャックが言っていた「経験人数を増やす」という言葉がよぎったが、初対面の女性に対してそんな不謹慎な想像をするなんて最低だと自分を責め、意識を壁に集中させた。
そのため、女医が突然部屋の前で立ち止まった時、ジュリアンは前方に注意を払っておらず、彼女にぶつかってしまった。彼女はバランスを崩して前に倒れそうになった。その瞬間、ジュリアンは電光石火の速さで彼女の手を掴み、力強く自分の胸へと引き寄せた。女医の顔はジュリアンの胸元に当たり、聴診器がなくても彼の速い鼓動が聞こえた。彼女は本能的にジュリアンの腰に手を回し、驚いたように息を切らしていた。数秒後、二人がこんなふうに抱き合っているのはあまりにも不適切だと気づき、ジュリアンの手を振りほどき、彼を押しのけた。
「あなたが誰だか知ってるわ。今、何人?」女医が尋ねた。
ジュリアンは、この女性は随分と直球で聞いてくるものだなと思いながら、大真面目に答えた。。
「一人だけだ。高校時代の初恋の相手だ」
「は? 何を言っているの? 私が聞いているのは、あなたがこれまでに奪った命の数のことよ」
ジュリアンは女医を見つめた。その時初めて、彼女の目には少しの憧れもなく、むしろ嫌悪と軽蔑が満ちていることに気づいた。彼は心の中で葛藤した後、かろうじて答えた。
「19人だ。」
「率直に言うと、私はあなたのような人が大嫌いよ。あなたがとてもハンサムだってことは認めるわ。どんな女性でも、私を含めて、一瞬で惹かれるでしょうね。でも、私はあなたのような人間が嫌いなの。分かってる? 私たちは命を救うのに本当に苦労しているのよ。なのにあなたは簡単に人を殺す。地獄に落ちるのが怖くないの?」
ジュリアンは、戦争とは互いに殺し合うゲームであり、自分は仲間を守るために殺しているのだと言い訳をしようと思った。それもまた、間接的には人を救うことになるのだと、この美しい女性の前で自分の人間性を弁護したかった。しかし、口から出た言葉はこうだった。
「最初の一人を殺した時は、地獄に落ちるのが怖かった。でも二人目、三人目を殺す時には、もう怖くなかった。だって、もうすでに地獄の底にいるんだから」
女医はその答えを聞いて、数秒間彼をにらみつけた。そして黙って目の前の扉を開け、言った。
「必要な薬を言ってください。お渡しします」
「アスピリンと、蚊に刺された後の発熱や悪寒に効く薬がほしい」
「アスピリンは問題ありません。我が国ではまだ製造されていますから。でもマラリアの特効薬は、原料が輸入できず供給が非常に厳しいので、簡単にはお渡しできません。必要な時は私に言ってください。それから、胃腸薬や消毒用品も用意できますよ」
「あの……炎症を抑えたり、殺菌したりする特効薬をいただくことは?」
「抗生物質は医師の処方箋が必要です。自己判断での服用はできません。同様に、必要な時は私に言ってください」
「では、今出せる薬だけで構いません。包んでいただけますか。……あ、それと」
「何かしら」
「俺はジュリアンです。あなたのお名前は?」
女医は少し考えてから言った。
「ジェニーよ。でも、仕事中は名前ではなく『先生』と呼びなさい」
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実はジェニーが数週間前からジュリアンの存在を知っていた。ほとんど全ての看護師が彼の話題で持ちきりだったからだ。彼女は他の者たちの浅はかさを嘲笑おうとしたが、ある看護師がジュリアンの写真を見せてきた。たった一目見ただけで、彼女は思わずジュリアンに強い興味を抱いてしまった。
後に他の兵士たちから、ジュリアンが軍内部でも注目の人物であることを知った。もちろん美貌ではなく、短期間で多数の敵を仕留めたという噂で有名だったのだ。
命を救うことを天職とするジェニーにとって、ジュリアンの背景を知った時はまさに青天の霹靂だった。彼への好意は次第に反感へと変わり、嫌悪感さえ抱くようになった。しかし今日、実際にジュリアンと向き合って話してみると、彼女は再び自らの意志を裏切るように、彼に惹きつけられていくのを感じていた。彼を嫌っているふりをし、口では嫌いだと嘘をついたが、本当の気持ちは自分が一番よく分かっていた。
ジェニーは、看護師のアイリーンの彼氏がジュリアンと同じ部隊に所属していることを知り、勇気を振り絞って彼女にジュリアンのことを尋ねた。
「ねえ、どうしてジュリアンという男は、あんなに多くの人を殺せるのか知っている?」ジェニーは問いかけた。
「私もジャックにその質問をしたことがあるわ。彼は言ってた。ジュリアンは決して好んで人を殺しているわけじゃないって。彼らの任務は極めて危険で、毎日数え切れないほどの奇襲に直面しているの。敵か、そうじゃないかを判断する時間はせいぜい2秒ほどしかない。だから時には民間人を誤って殺してしまうこともある。でも、もし相手が敵だった場合、ジュリアンがすぐに撃たなければ、次の瞬間には仲間が殺されていたかもしれないって」
「2秒は言い訳に過ぎないと思うけど?」
「多分、言い訳じゃないと思うわ。私たち医療従事者も、しばしば迅速な即断を迫られることがある。どの決断にも良い結果が生まれることもあれば、悪い結果になることもある。結局、みんな人を救うために働いている。彼のやり方は私たちとは違うけれど、本質は同じなんだと思う」
ジェニーは静かに耳を傾け、何も言わなかった。彼女はアイリーンの言葉を何度も反芻し、真剣に考えた。そしてジュリアンの写真を取り出し、指でそっと彼の顔を撫でた。その口元に、誰にも気づかれないような微かな微笑みが浮かんだ。





