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ゆっくり話して●大佐の香り with 前日譚  作者: 香詠 Koei
第四章 再会……できるかしら
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第76話:マリー、もう安らかに眠っていい

「その男」が柱に縛り付けられると、アンドレは彼の口に詰められていた布を取り除いた。


「その男」は大きく数回息を切らした後、大声で叫んだ。

「私の名前はフィリップだ! ジュリアンじゃない! 間違えてる!」


「その男」が約二分間叫び続け、息をついて休んでいる隙に、リオンが近づき、目隠しを引き上げ、彼と向き合った。


目隠しが外されると、「その男」の顔が完全に露わになった。彼こそ、大佐の元部下のフリッツだった。


フリッツは目の前の男を凝視した。男の瞳は怒りに満ちていた。その眼差しをどこかで見たことがあるような気がした。そして、男の背後に立つ大佐とアンドレを見て、突然、三年以上前のある夜のことを思い出した。

一人の少女が凌辱に抗うため激しく抵抗し、最終的に彼に扼殺された。彼女は死ぬ間際、まさに同じような怒りに満ちた目でフリッツをにらみつけていたのだ。


フリッツは全てを理解した。自分が今夜、必ず死ぬことを。彼はそれ以上、命乞いの言葉を一切口にせず、沈黙を貫くことで、人生最後の数分間における僅かな尊厳を保とうとした。


リオンは再び目隠しを引き下げ、妹の仇の頭部にリボルバーを向けた。


バン!

バン!

バン!

バン!

バン!

バン!

カチャ

カチャ

カチャ


銃を握る手が垂れ下がり、彼の目の端から涙がこぼれ落ちた。


「報告します。戦犯、北方帝国陸軍ジュリアン・シンクレア大佐の死刑、無事執行されました」


(マリー、お兄ちゃんが代わりに復讐したよ。もう安らかに眠っていいんだ)


リオンは涙をぬぐいながら、アンドレに銃を返した。


アンドレは大佐に何かを渡した。それは真鍮の指輪だった。

「三年前にあなたを拘束した時、代わりにこれを預かっていたものだ。今、あなたに返す」


大佐は指輪を受け取り、しばらく眺めた後、ポケットにしまった。すぐには嵌めなかった。


アンドレは続けた。

「ジュリアン大佐はもう死んだ。今のあなたはフィリップ・テイラーだ」


大佐はうなずき、理解を示した。


アンドレは言った。

「最後に、戸籍登録データを変更するお手伝いができる。こちらの用紙を見てくれ。修正したい箇所はあるか?」


大佐は用紙を受け取り、一通り目を通して言った。

「私の職業は会計士ではない。音楽教師に書き換えてください」

それからリオンの方を見て尋ねた。

「ソフィーは……?」


「彼女はずっと独身で、ずっとあなたの帰りを待ってる」


大佐は再びアンドレの方を見て言った。

「配偶者の欄を『既婚』に変えてください。配偶者の名前は『ソフィー・テイラー』で」


************************


三人は遺体を袋に入れて運び去った。大佐が先に車に乗った。アンドレはその隙に革袋から二百ドルを取り出し、リオンに渡した。「ここに二百ドルある。大佐のそばにいた少年兵、ジャックとハンスの両親に百ドルずつ渡してほしい。お前ならなら彼らを見つけ出せるはずだ。」


「なぜ自分で渡さないんだ?」


「彼らに顔向けできない。彼らは私の友達だった。まさか彼らの息子たちを死なせることになるとは思わなかった。ジャックとハンスが初めて南国に来た時、私が南国語を教えたんだ。私が彼らに教えた最初の南国語の言葉は『私はいい男の子です』だった。もし人生をやり直せるなら、私もいい男の子になりたい」

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