第15話 白雪姫のお願い
「だってそうじゃないですか。美人でこんなに可愛い女の人がうちに来るなんて未だに驚いているというか、お兄ちゃんの知り合いというのも未だに半信半疑でもしかして美人局かもと思っていた次第で……」
なんてことを言うのだろうか。雫の疑いっぷりは兄の碧や白雪を全く持って完璧に信じていないように思える。
「つ、美人局だなんて……私は……」
美人局という単語に反応して、私はそんな色気を出して碧を誘惑していないと、あたふたする白雪。
その行動をじっくりと観察した雫は、ニコリと微笑んだ。
(なーんだ。本当に同級生なんだ。美人局はわざと言ったつもりだったんだけど、あの反応は……なるほどね……)
雫はさらに白雪に対して話を続ける。
「そうなんですか。だったら白雪さんは、お兄ちゃんの〝恋人〟ですか?」
「こ、恋っ!」
白雪はキャパオーバーしている。
頭からゆでだこの様に湯気が悶々と出ている。
「雫! 俺と橘はそういう関係ではない! 言っただろ、知り合いだって!」
兄のこの強い否定を見て、雫は重いため息を漏らす。
ダメだ、この男は。この兄は凄く鈍すぎる。これはいつまでたっても無自覚のまま面倒な空回りを見せられる。
雫は、この二人を見ていて、呆れ半分、イジリ半分と曖昧な印象を持った。
「ま、今はそういう事にしてあげる。じゃ、私は自分の部屋に戻って二度目の夢の世界に入って来るから後は若いお二人でどうぞ~」
雫はぐびぐびと麦茶を一気に飲み干すと、コップをテーブルの上に置いたまま、すぐさまリビングから姿を消した。
結局、雫が何をしたかったのか、ただ、雫が姿を消した扉の方を眺めたまま、白雪に対してあまりにも失礼すぎたのではなかったのかと碧は改めて彼女の様子を窺う。
「あ……う……こ……」
未だに思考停止の白雪は、頭を左右に動かし、上の空だった。
「これは……時間がまだ必要なのかもな……」
まったく飛んでもない話をしてくれたものだと、後で雫を怒ろうと胸に誓う碧だった。
白雪の混乱が収まり、正常に戻るまでそれから十分~二十分程時間がかかった。
「ん、んん……」
小さく咳き込む。少し乱れた前髪を整えて、改めて碧の方を見る。
先程とは違うその透き通った目は真っ直ぐと碧の視界に入ってくる。
「先程はごめんなさい。私としたことが自分を見失っていたわ」
「いや、俺の妹が色々とちょっかい掛けたせいでそうなったんだからむしろ非はこちらにあるし、後でゆっくりと雫とはお話ししておくから」
碧もさすがに白雪が悪いとは思わなかった。
そもそも自分の妹があれほど言葉攻めする方を予知していなかったこちら側である。
「でも、兄妹喧嘩はダメよ。この世で同じ血が繋がった二人の兄妹なんだから。もし、喧嘩するのなら私が間に入ってあげようかしら?」
人の仲裁をするのが得意な彼女だからこそ言えることだろう。
「いや、喧嘩はしないが話し合いはするつもりだ。まぁ、話し合いになるかどうかは分からないが……」
碧が思うに雫の兄をして十数年。喧嘩らしい喧嘩をした記憶がほとんどない。
喧嘩するほどの怒った記憶もなければ、互いに普通の兄妹をしている感じだ。
「喧嘩しないならいいけど、私的には兄妹は仲良くいて欲しいかな」
「橘は姉妹がいたりするのか?」
「何、急に? 一応、いるわよ。お姉ちゃんが一人ね。歳は離れているけど」
「へぇー、じゃあ、もう働いているんだ」
「うん、働いてはいるんだけどね……」
なぜか、急に姉の話になると元気がなくなり現実逃避しかけている白雪。
目は先程と違って、哀れみの感情的な目をして、口は引きずっているご様子。
これは姉に対する何かがあると思った碧は、これ以上、白雪の姉についての話を追求しなかった。
「橘、話は元に戻るんだけど、今日は何をしにここへ?」
碧は話題をすぐに変える。
「そうね。私、その……プライベートで友達と遊ぶ時間とかそこまでなくて、それに異性の男の事もあまり仲良く話す機会もあまりないというか……。それで――」
白雪は、もじもじしながら自分の話を続ける。
「篠原くんは、私の事を知り合いだといったわよね?」
「ああ、言ったな」
「じゃ、じゃあ、私と友達になってくれることは可能かしら?」
「ん?」
一瞬、時が止まったかのように碧の体は固まった。
「それはつまり、知り合いから友人に格上げという事で?」
「ええ、ダメかしら?」
「ちょっと待ってくれ。すまない、頭の整理が追い付いていないから少し待ってくれ」
「分かったわ」
碧は白雪から許可をもらい。自分なりに話の流れを一旦整理する。
(確かに友達になってくれとは言われたが、まだ、出会って数日程度しか分からない相手を知り合いから友人に格上げするのは……。でも、それが学校でバレるのは、それは面倒だよな。橘はある意味人気があるし、一方で俺は普通の同級生。条件付きでなら橘を呑んでくれそうだけど、性格からして後々不服そうな顔をするんだろうな……)
碧は白雪の人柄なども考慮に入れて、時間をかけずにすぐに結論へとたどり着く。
「分かった」
「ほ、本当に!」
白雪は立ち上がって前のめりになり、碧の顔に近づいてくる。
「あ、ああ……。ただし、条件がある」
「条件?」
首を傾げる白雪は、なんで友人になるのに条件があるのだろうと思った。
「さすがに俺としては学校で目立ちたくないし、橘は人気があるから、それはそれとして俺は注目を浴びるのは嫌なんだ。もし、橘がいいのであれば、俺は出来るだけ隠したいし、こうした時間があるときに学校外でなら人の目を気にしなくていいからそれじゃ……ダメか……?」
「それってつまり、篠原くんは、学校で極力自分に関わるなって言いたい事?」
ジト目で頬を膨らませ、不服そうにしている白雪。
案の定、碧が思っていた表情をしていた。
「そうだな。それ以外だったら俺も気にしないし、気楽だから……」
「………」
未だ納得していない様子で、小さなため息を漏らすと、仕方がないなと頭を軽く掻く。
「分かった。それでいいわ。私もそれはそれでいいのかも……」
「え、今なんて?」
「何でもない‼」
後の方の言葉が聞き取りづらかったので、聞き直そうとするがきっぱりとシャットアウトされる。
「それじゃあ、これから篠原くんの家にお邪魔してもいいのね?」
「ま、それくらいは別に構わないよ。近所だし、そこまで家が遠くないから誰かに見つかりはしないだろう」
「分かった。ありがとう。じゃあ、これからは遠慮なく遊びに行くから覚悟してね!」
人差し指を碧の前にビシッと持っていき、右目を軽くウィンクして見せた。
「お、おう……」
白雪のあまりにの強引さに碧も逆らわずに返事を返した。




