第16話 お昼をいただく
「そういう事で篠原くんと私が友達になったという事で、何をしようかしら?」
「そうだな。今からどこかに出かけるのもお昼になるし、橘は何がしたい?」
「私、そうね。あ、そうだ。私――」
白雪が何かを言いかけた時、彼女のお腹から「ぐ~」と音が鳴った。
音が鳴った瞬間、顔を真っ赤にする。目の前に碧がいるとはいえ、相手は異性の人間、気にしないわけではない。
碧も悪いと思い、視線を逸らし、聞いていなかったフリをしようとする。
お腹を押さえて下を向き、無言のまま何も言ってこない。
そして、ゆっくりと顔を上げると白雪は偽りの笑みを見せながら碧に話しかけてくる。
「し、篠原くん……。何か、聴こえた?」
「あ、いや……」
碧も言葉を選んで返さないと、後々ひどい目に遭うのかもしれないと考える。
「何も聞いてないよね?」
と、目が笑ってない笑みを碧に見せて、声色と顔で圧を掛けてくる。
「ああ、何も聞こえてない。うん、何も……」
碧は強く頷く。
「それじゃあ、もうすぐお昼になるし、何かする前に俺は腹が減ったから何か作ろうと思うんだが、橘は何か食べたいものでもあるか?」
そう言われると、白雪はキッと目で睨み、歯を食いしばってこちらを見る。
「やっぱり、さっきの聞いていたんじゃない!」
と、同時に右の拳が碧のお腹の部分を綺麗に食い込む。
手加減しているのか、痛みが物凄く走る程ではないのだが、地味にジンジンと痛む程度で、これが白雪並みの照れ隠しだとすぐに分かる。
碧は、くすっと笑い、「はいはい」と言いながらキッチンの方に向かった。
「篠原くんのばかっ……」
碧に意地悪された白雪は口をとがらせて、ずっと碧の方を見ていた。
碧は、確かにこっちの素の方が可愛いなと思いながら、虫の音は誰でもある事なので、生理現象と言えばそうだし、体の消化がいい事も示しているので健康的な体だと言える。
「それじゃあ、何か作るとしますかね。と、その前に」
キッチンに置かれていたサランラップにかぶせられた雫の朝食の分をとりあえず冷蔵庫の中にしまう。
今は食べなくてもお腹が空けば、後で勝手に食べるだろう。
「改めて、橘は何か食べたいものがある? ないならこっちで手軽なものを作るけど」
「じゃあ、篠原くんのオススメで!」
最後の方だけ強調して、白雪はそっぽ向く。
「橘、まだ怒ってる?」
「別に」
「そう。でも、今のは体が健康的だという証拠だからな」
「―――っ‼」
バッとこちらを振り向いて、口を閉じたまま、頬を赤らませ、驚いた表情を見せてくる。
「や、やっぱり、聞いていたじゃない! 篠原くんのアホ‼」
言葉のバリエーションが怒るたびに単調になっている白雪を見て、碧は、本気で白雪が怒った時は、全身が氷漬けにされるだろうと思いながら、調理を開始した。
トマトやレタスを切って皿に盛り付け、おかずはスクランブルエッグを作った後にベーコンを焼いて、朝、桜子が作っておいたスープを弱火で煮込み、それを白雪に提供する。
ずっと、碧が料理をしている間、瞬きしながら碧の事を白雪は観察していた。
「普段から料理はするの?」
仕上げをしている碧に聞いてみる。
「そうだな。平日は両親が共働きだから、俺が朝昼版を作っている感じだな。雫も多少できるけど、自分でやった方が早いから基本、俺がしているし、料理するのは好きだから苦じゃないよ」
「そうなの。男の子が料理できるって意外だったから、珍しいのよね」
「そういう橘はどうなの?」
「わ、私? 私は……うん、ある程度は……?」
なぜそこで首を傾げながら言葉を濁すのだろうか。
「そうなんだ。まぁ、自分で食べるくらいは出来て当然か。簡単のならだれでもできるし」
「そ、そうね。それくらいなら私でも……できるかな……?」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、何でもないわ。何でも」
慌てて手を振り、誤魔化そうとする白雪。
「そ、そうか。それなら別にいいんだけど。ほら、出来たから並べてくれ」
碧はキッチンとテーブルの間にある置き板にどんどん自分と白雪の分の皿を載せていく。
「う、うん!」
白雪は言われるままに碧が置いていく皿を持っては、テーブルの上に置いていく。
最後に冷蔵庫から冷たい麦茶の入ったボトルを持ってきて、ようやく昼食が完成する。
「さて食べるとするか」
「そうね。お言葉に甘えてご馳走になろうかしら」
「ああ、味は保証するから安心して食べてくれ、と言っても簡単なものだけどな」
「ありがとう。別に構わないわよ。私の方こそご飯作ってもらって、それだけでもありがたいわ」
二人で手を合わせて「いただきます」と言って、お昼を食べる。
「あら、美味しい」
「それはどうも、作り手冥利につくよ」
「べ、別にお世辞で言っているわけではないわよ。本当に美味しいし、味付けも私の好みに近い味だから、それに桜子さんのスープも美味しいわね」
「今度言っておくよ。母さん、橘の事、案外気にいっていたから」
「そ、そう……」
白雪はスープを飲みながら、嬉しそうに残りを飲み干した。
一つ一つの箸の持ち方や食べる作法など、そのどれもが美しく、目の前で見ている碧は、食べるたびに箸が止まっていた。
「ん? どうかしたかしら?」
「あ、何も」
碧は、止めていた手を動かして、レタスやトマトを口の中に入れていく。
何気ない会話をしながら昼食を食べ終えると、食器を重ねて流し台へと持っていく。
食べ終えた食器を水につける。
「ねぇ、篠原くん。ご馳走になったから今度は私が食器の片づけをするわ」
「あ、いや。でも、悪いし……」
「いいの、いいの。私だけもらいっぱなしじゃ気分も良くないし、ほら、ソファーで横になっていたら?」
と、白雪の提案に碧は、難しい顔をするが大丈夫かなと心配するも彼女が一度言い出したら引かないので、ここは一つ甘えることにする。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん、素直でよろしい!」
白雪は自分を頼ってくれて嬉しかったのか笑みを浮かべた。




