第14話 初対面で
桜子と秋英が仲良く外に出かけた後、家の中は物静かであった。
リビングに置いてあるタンスの上の時計を見ると、時刻は十時前を指していた。
それと同時にインターホンのチャイムが鳴る。
やっと来たかと、碧は玄関に向かって歩き、扉を開ける。
「おはよう、篠原くん」
「お、おはよう……」
碧は玄関の外に立っていた白雪を見て度肝を抜かれた。
碧の表情が一瞬にして固まる。
それは、彼自身が彼女の姿を見て、一瞬ドキッとしたからである。
昨日の姿と今日の姿は一変してイメージが違っていた。
昨日は変装していたからもあるので、ボーイッシュに近いイメージのファッションであったが、今日はそれと真逆でお人やかな清楚系イメージを漂わせるファッションスタイルに変貌していた。
「な、なによ……」
「いや、別に……」
白雪は人差し指で自分の髪をくるくると絡めながら恥ずかしそうにしている。
上は優しい色の薄ピンクの生地が薄い長袖の服にもう一枚それに合わせた少し濃ゆめの色の前が開いている服を着ており、下に関しては上に合わせた自分の背丈に合う長めの純白なスカートを履いていた。
碧が彼女の姿に見惚れるのも無理はない。それだけ彼女が美しく眩しく見えるのである。
「そ、その……」
「は、はい……」
玄関の前でお互いに緊張する二人。
どちらともまともに視線を合わせることが出来ず、ここに誰か目撃者でもいたら、「とっとと話せよ」と言われるくらいの甘ったるい雰囲気である。
「今日の服、可愛いな。似合っている……」
「あ、ありがと……」
髪は結ばず綺麗におろして、それもまた、彼女が着た服に合うように整えられている。
「ほ、他には?」
「え?」
「ほらー、他にも褒めるところとかあるでしょ! な、何か言ってよ!」
白雪はたった一言、二言では飽き足りず、せっかく碧のためにオシャレしてきたのだからもっと褒めてほしいと頬を赤くし膨らませ、碧に目で訴えかけてくる。
そんな怒ったような可愛らしい白雪に見つめられて、碧はこれ以上何を言えと、混乱している。
ただでさえ直視するのを避けているのに、こんなにも彼女が不服そうな表情で可愛らしい怒り方をされるとこちらはもっと恥ずかしくなる。
「そ、そうだな……。いつ――」
「あのー、いつまで甘々な空気間を漂わせているんですかねぇ。甘すぎて苦いコーヒーが欲しい感じなんですけどー」
と、場の空気を遮る声が聞こえた。
碧は後ろを振り返ると、階段の方からずっとこちらを窺っている一人の少女がいた。
ジト目でこちらを見て、そんな発情期な雰囲気を作るのであれば他でやってもらえませんかと言わんばかりな妙な圧がかかっている。
「お、おま、いつの間にそこに!」
「いや、そもそもここは私の家でもあるんだからいるのは普通でしょ。それに日曜日なんだから学校があるわけじゃあるまいし、それに今の今まで寝ていたから……ふわぁ……起きたらこんな状況だもん。そりゃあ、言いたくても言いにくいし、でも言わないと、いつまでたってもその面倒な甘ったるい雰囲気を見せられるこっちの身にもなって欲しいよね」
それは雫だった。
まだ、寝間着姿のまま降りて来たらしく。目を擦りながら小さな欠伸をする。
目覚めたら自分の兄がこんな状態なのだから、ちょっとばかり嫌気がさす。
「いやいや、その前に起きてくるのが遅いし、もう十時は回っているんだぞ。普通の人間は休日であっても起きるのが普通だ、普通」
「あ、そう。私は夜中遅くまで夜ふかししていたから今が普通なので」
眠そうにしながら洗面所へと消えていく雫の後姿を見て、だったら夜ふかししなければいいのではと考える碧だった。
「あ、あの……」
白雪が兄妹の話が終わるころに話しかけてくる。
「どうした、橘」
「もしかして、私、お邪魔だった? また、時間を改めてきた方が……」
申し訳なさそうな表情を見せるので、碧は首を横に振る。
「別に入ってもいいぞ。あの時間まで寝ている方にも非があるし、俺もここの住人だからな」
碧は白雪を招き入れる。
「そ、そう……」
少し申し訳なさそうに白雪は碧の家へと入った。
とりあえず、さすがに自分の部屋に彼女でもない知り合いの女の子を入れるのも抵抗があるのでリビングに案内することにした。
白雪は碧に言われ、席に座って彼が冷蔵庫から麦茶をコップに注ぎ、持ってくるのを黙ったまま待つ。
リビングの扉から碧の妹である雫が入って来て、白雪と目が合う。
「こんにちは」
「こんにちは……」
初対面の二人はなぜかぎこちない挨拶をする。
それも当然である、さっきまでの行動を踏まえればそういうものであろう。
「私、篠原くんの同級生の橘白雪と言います。突然、お邪魔してしまってすみません」
「あ、いえいえ。兄がいつもお世話になっています。妹の雫です。こんなダメな兄ですけど仲良くしてやってください」
礼儀良く妹の雫が挨拶を返すので、碧は目の前にいる自分の妹が本物なのかと疑ってしまうほどだった。
「おい、ダメってなんだよ。ダメって……」
碧はお盆に三人分の麦茶を入れたコップを載せて持ってくる。
「えー、本当の事じゃん。お兄ちゃん、友達少ないし、今まで私が知っている中で交友関係があるのってあの二人だけだと思うけどね」
「まぁ、そこに関しては否定するつもりはないが……」
「では、ダメだという事は認めると?」
「それとこれとは別だ」
「あー、はいはい。そういう事にしておくー」
生意気な妹に手を焼いている碧を見て、白雪はくすくすと笑った。
「あ、ごめんなさい。悪気はなかったの。仲のいい兄妹だなぁと思って」
「えー、別に仲良くないですよ、白雪さん。お兄ちゃんは私から見て、いつも通りのお兄ちゃんなのでこれが普通なんです。たまには妹の気持ちになって欲しいくらいですよ」
「おい、誰目線で話しているんだよ」
「そりゃあ、妹目線? 兄は妹に優しくするものですよ」
「優しくしてほしかったら、態度を改めて欲しいくらいだけどな」
「えー、やだ」
即答で返す雫は、手首を上下に振って、少し離れろとジェスチャーする。
「あ、そうそう。白雪さんはなんでうちに来たんですか?」
雫は、それよりもなんでこんな美少女な人がこの家にやってきたのか気になっていた。
「え?」
白雪もまた、先程までこの家に来た理由を今の今まですっかりと忘れていた。




