第13話 お似合いの二人
『碧くん、今日も会えるかしら?』
「別に構わないけど、何か用があるのか?」
『用がなかったら電話しちゃいけないわけ?』
「いや、別にそのような事を言ったつもりではないのだが……」
『じゃあ、一日家に居るって事よね……』
「まぁ、そうだな。よっぽどのことがない限りは家に居るな」
『そう、だったら、午前中に家に行くからまた、後でね』
「ん。じゃ」
通話が終了すると、スマホをベットに放り投げて、大の字になりながら仰向けで自分の部屋の天井をじっと見つめる。
まさか二日間連続で【学校内の白雪姫】・橘白雪と会う事は夢にまで思ってもいなかった。
そもそも彼女自体がご近所さんだったという事が昨日まで知らなかったのも驚きである。
開放している窓から朝の冷たい風が外から中に入って来て、肌に伝わる。
(今日は、母さんも家に居るって言っていたな。面倒だ……)
平日、この時間帯には出勤している母・桜子も家に居る。
妹の雫は当然学生なので、碧同様、家に居るのが当たり前である。
土日祝日完全休養日の桜子の会社は、ホワイトと言ってもいい企業であり、長年彼女がそこで働いているのは息子の碧でも知っている。世の中では恵まれている方なのだと誰もが思う。
二人の子供を産んで、若さを保っているのは深く考えないでおこう。
とりあえず、部屋の整理整頓を軽く終え、碧は、顔を洗いに一階へと降りる。
洗面所で顔を洗い、タオルでしっかりと水気を拭き取る。
昨日、寝る前に歯を磨いておいたのに起きた時に口の中で変な感触がしたので、ついでに軽く歯を磨いた。
リビングに向かうと、当然のように桜子は鼻歌を歌いながら朝食を作っている最中であった。
寧ろ驚いたことに家族で食事をする際のテーブルの席には、一人先客が新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。
「父さんいたんだ」
「おはよう、碧」
「おはよう」
碧は自分の父親・秋英の前に座る。
「父さんがいるなんて珍しいな。いつ出張から帰ってきたんだ」
「そうだね。昨日の夜中、いや、今日の深夜一時前に帰ってきたかな。流石に桜子を起こすのもあれだし、こっそり家に入ったんだけどね」
秋英は、桜子の方を見る。
この視線の送り方は、どうやら秋英の行動はお見通しの様だった。
「うふふ。昨日変える予定の人がいつまでたっても帰ってこないのに待ち遠しくて早く寝てしまう妻がどこにいるのかしら? ねぇ、秋英さん」
「うっ、ああ、そうだね」
秋英は桜子の笑顔に帰す言葉もなかった。
あの笑みは、何で帰る時間帯をメールでもいいから送ってこなかったんだ、と訴えている信号である。
「まぁ、私としては愛しい旦那様を迎えたいのに裏切られたって感じね」
「すまないね。僕だって夜も遅いから君が寝ていると思って敢えて連絡しなかったんだよ」
「その気遣いは有難いけど、でもなぁ……」
桜子はわざとらしく話を焦らしながら、じわじわと秋英を追い詰めていく。
「んー、それじゃあ、桜子はどうやったら許してくれるのかな?」
「あら、私は何も要求していないわよ」
「そうかい、僕からしてお詫びに何かしようかと思ったんだけどね」
「あらあら、それはまぁ、秋英さん、いいの?」
わざとらしい。あまりにもわざとらしい。
「いいよ。そういう事で、碧」
「なんだよ」
「今日は、父さん達と買い物に出かけよう」
どういうわけか流れ弾がこちらに飛んでくる。
「話の流れでそんなことになるんだよ。というか、俺は今日、用事があるから無理。行くなら母さんと行ってくれ」
「えー、碧は行かないのー」
「ほらそこ、フライパンから目を離さない!」
碧は、桜子のノリに掌返しで厳しい目を向ける。
「仕方がないね。桜子と僕の二人で行こうか」
「そうね。本当は連れて行きたかったけど、仕方がないわね」
桜子は残念そうな顔をするが、碧は高校生にもなって、この夫婦のお守りをするのはごめんだと思った。
「というか、なんで雫を誘わないんだよ。普通、息子よりも娘の方を選ぶだろ」
「だってあの子、私達と出かけようとすると、『苦いコーヒーが欲しいからどちらか片方の時に呼んで』って言うのよ。ひどいでしょ。可愛い可愛い娘なのに!」
原因はどう見ても桜子達にあるのでは、と考える碧は、雫はうまく逃げたな、と現在、未だに自分の部屋から出てこない彼女顔が浮かんだ。
「桜子、雫も反抗期を迎えたって事じゃないのか? 最近では僕と買い物をする時は欲しい物を強請ってくることがあるよ。二人の親と一緒にいる方が恥ずかしいんじゃないかな?」
さり気なく雫本人は、父親にパパ活みたいなことをしているらしい。
秋英が娘に甘いのを見越しての行為だとすぐに分かる。
「あなた、まさかとは思うけど、最近、雫の部屋に物が増えたのって……」
「そういえばこの前はコスメを買ったかな?」
そう言うと、桜子は料理の手を止めて笑っていた。
碧はまずいと思った。
あの笑顔は、どう見ても怒っている。
普段は喧嘩をしないおしどり夫婦の二人なのだが、秋英が娘の雫に甘いのを桜子としては複雑な思いがあるらしい。もちろん、教育上甘やかすのは良くないことなのだが、自分よりも娘を優先するのはいかがなものだろうか。
「あなた、後でゆっくりと二人で話しましょうか」
「さ、桜子?」
「ね?」
「は、はい……」
家の中では大黒柱は桜子に軍配が上がったらしい。
この後、どうなったのかは碧は知る由もない。




