第12話 まさかの
「すまない。うちの母さんが色々と迷惑をかけたな」
「うんん。そんなことないわよ。ただ驚いたというか、びっくりしたというか、そんな感じかな?」
「そうか、別に悪気があって橘に絡んだわけではないと思うから気を悪くしないでくれると助かる」
「うん。私の方こそごめんなさい。私の友人が強引すぎて困ったでしょ?」
「あ、いや。あれはあれで凄かったな……」
碧は白雪の友人・和泉水奈の事を思い出す。
あのような似たタイプは若干心当たりがあるようでないのだが、いろはとはまた違うベクトルを持つ少女だというのが印象深い。
「水奈にはあの後、きつくお説教しておいたから安心して、おそらく大丈夫だと……思うから……」
白雪は最後の方で自信なさげに疑問符をつけていた。
白雪が怒ったところで彼女にとっては本当に耳に入っているのか、不安に思っているのだろう。そういう節が思い当たるところがあるようで絶対に言いきれないのが白雪本人の悩みの種なのかもしれない。
だが、それでも彼女たちと一緒にいるという事はそれだけ信頼を寄せているからこそ心置きなく接することが出来るのである。
「ま、そういうことだから何かあったら遠慮なく言ってね。あの子達の性格からして絶対に篠原くんに絡んでくる可能性はあるから」
「分かった。ご忠告ありがとう」
碧は白雪の荷物を渡す。
少し荷物の量は多いが大丈夫なのだろうかと思っていた。
「荷物多いけど大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ。篠原くんに住所を教えてもらった時、割と近所だったから」
「え? 橘って、この近くに住んでるの? 聞いたことないけど……」
「だって聞かれていないもの。それに両親の都合で引越してきたばかりだけどね」
「へぇー、だったら、家まで半分持っていこうか? まだ夕方とはいえ、太陽も沈みかけているし、女の子一人で帰らせるには行かないだろ? 俺は別に暇だったから気にしなくてもいいよ」
それを聞いた白雪はきょとんとした表情をする。そして、ニヤニヤしながら口元に手を添える。
「へぇ、篠原くんって結構紳士的なのね?」
「わ、悪いかよ」
「そうじゃないわよ。とてもいい事よ。紳士的な男の子って将来、有望株って女の子は思うものよ」
「それはどういう意味で?」
「さぁ、どういう意味なのかしらね」
白雪にからかわれる碧は、彼女が指す意味を理解できないでいた。
それでも白雪は、楽しそうに碧の考える表情を見てはくすくすと笑う。
「それじゃあ、お言葉に甘えて送り届けてもらおうかしら」
碧に自分の荷物を半分持ってもらう。
「それじゃあ、お邪魔しました」
白雪は家の奥の方にいる人物に挨拶する。
リビングの扉からこっそり顔だけを覗かせている桜子に対してだ。
気になって、扉の向こう側から覗いていたらしく、微笑みながら二人の様子を窺っていたらしい。
碧も振り返ると、桜子の姿を見ては嫌な表情を見せて、恥ずかしいと思った。
「母さん、橘を送って来るから」
「分かったわ。それじゃあ、白雪ちゃんもまた今度、家に遊びにいらっしゃい」
「機会がありましたら……」
そんな機会があるのだろうかと思う碧は白雪を彼女の家まで送り届ける。
「それにしてもあの後、何があったのか聞いても大丈夫か?」
白雪を送り届ける間、道の車道側を歩いている碧は隣である白雪に聞いた。
「別に大したことはなかったわよ。あの三人に色々と振り回されたくらいかしら」
「橘を振り回すって、あの三人組は一体何者なんだよ」
「そうね……。見張っておかないと何をしでかすか分からない子達かしら?」
「それって厄介者では?」
「あはは、そうとも言えるかもね。でも、私の大切な友人だからそうでもないのがあの子達のよね」
白雪は友人三人を思い浮かべると厄介者なのに友人という矛盾な関係性に苦笑いする。
振り回される側としては、もう少し落ち着いて欲しいのが本音である。
この時期の夕方は、それほどまで熱帯夜と言うほど暑くはないが、心地よい風が向かい風で吹いてくる。
白雪の長い髪がふわりと宙に浮くたび、彼女の髪から漂う匂いが伝わってくる。
そんな刺激はいらないのだと、碧は自分の精神と闘いながら耐えるしかなかった。
「その中でも水奈は……ね。水奈は、基本いい子なのだけど……いや、これ以上は言わない方がいいのかも……」
白雪は友人の和泉水奈の事を考えるたびに表情がなぜか暗くなっていく。
過去に何かしらの不幸な出来事でもあったのだろう。友人として共にいる中で彼女の性格が分かっているからこそ、口にしないのかもしれない。
「うん、分かった……」
目の前の角を曲がった先が白雪の家である。
本当に碧の家からそれほど遠くなく、寧ろご近所さんという事が判明した。
確かにここ最近、新築が出来たのは知っていたが、それが白雪の家だったとは碧でも知らなかった。
「ここが私の家よ」
紹介されて、碧は新築の二階建ての家を見た。
広々とした庭に、車庫がついている。
碧の家とは全然違う一軒家だという事は一目見ただけで分かった。
「ここが……近所に家が建ったとは噂で聞いていたけど、まさか橘の家だったとは……」
「うふふ。びっくりしたでしょ」
「ああ……」
碧の反応を見て、自分の家を自慢げに言う。
碧は荷物を白雪に渡す。
それを受け取った白雪は玄関に置き、すぐに外に出てきた。
「今日はありがとうね」
「別に大丈夫だよ。たまには出かけるのはいいと思っていたから」
「そう言ってもらえると助かるかな」
そして、碧は自分の家に帰ろうとする。
「それじゃ、また」
「うん、またね」
挨拶を終えると、碧は振り返らず元来た道を戻った。




