第11話 突然の訪問
『さっきはごめんなさい。私の友人が強引すぎて困ったでしょ?』
『ま、まぁ……。でも、大丈夫だったから心配するな』
『そうは言うけどね……』
『それで大丈夫だったのか?』
『おかげさまでね。あ、そうそう』
『ん? どうした?』
『篠原くんに預けてしまった荷物なのだけど、今から取りに行ってもいいかしら? いつまでも預けたままっていうのも……ね』
『それはいいけど、橘の家まで持っていこうか? 今、帰って来たんだろ?』
『うんん、大丈夫。それこそ申し訳ないわ。私の方が取りに行くから住所を教えてもらえるかな?』
『橘がいいって言うならいいけど……。俺の家は――』
碧と白雪がそんなメッセージのやり取りをしたのが、夕方六時前だった。
あの嵐が過ぎ去った後、碧はとりあえず荷物を持って、主に何も用事がないので家に帰っていた。
彼女の私物は、家族に見つかりたくないので自分の部屋の隅に置いている。
別にこれくらいの量であるなら届けるつもりだった碧は、これ以上自分を困らせたくなかった白雪の気持ちも受け止めて、彼女が来るまで待機することにした。
リビングでは料理をしている母親がいて、土日は仕事がないので碧の料理もお休みである。
「ねぇ、碧」
「何?」
リビングのソファーでスマホをいじりながらスポーツ記事を読んでいると、キッチンで料理をしている母親から話しかけられる。
「今日はどこに行っていたの? 日中、家に居なかったよね?」
「うん、ああ……」
「海斗くんのところ?」
「いや、買い物。ショッピングモール」
「一人で?」
「いや、知り合いと一緒に行っただけだよ。それがどうかした?」
「珍しいわね。あなたが誰かと買い物するなんて。だって、もし、休日合うならあの二人のどちらかしか考えなかったから」
「そんな日もあるってことだな」
スマホの通知に『もうすぐ、家に着きます』と、その知り合いである白雪から連絡が入り、それを確認すると、スマホの画面を消し、荷物の置いてある自分の部屋へ向かおうとする。
「あ、そうそう」
「何?」
リビングを出る前に足を止めて、母親の方へと振り返る。
「そういえば雫は? あいつの姿が見えないけど」
「雫なら自分の部屋で絶賛勉強中よ。課題が終わってないとかで焦っていたわね」
「早めにやっておけばいい事なのに……」
おそらく朝から夕方までだらだらとしていたのだろう。明後日には学校が再開するのを考えて、課題を急いで終わらせているに違いない。今現在、本当に自分の部屋で勉強をしていればの話であるが、やっているのか疑わしい限りである。
二階に上がり、おそらく妹の雫は部屋で勉強していると思いたいのだが、全く想像が出来ないので、そのまま素通りして自分の部屋に戻る。
もししていたのなら、今頃うめき声が部屋の奥から聞こえてくるはずである。
「さてと、そろそろ着く頃だろうから持って降りるか……」
そう思っていた時に、一階の方から呼び出し音が鳴ったのが聞こえた。
「はーい」
と、女性がその音に反応して出る音がした。
おそらく母親だろう。碧は、荷物を持って降りようとした時に、まずい、と頭に過った。
自分の母親と白雪が対面するのは初めてである。
対して、自分が買い物を一緒にしていたのが白雪だとバレると非常に面白くないのが碧は感じた。
初めに言っておけばよかったと、そこまで頭を回していなかった自分に責任がある。
荷物を持って降りると、何やら玄関の方が騒がしかった。
「ええ! それでそれで、あなたとうちの碧とはどういう関係なのかしら?」
「その篠原くんのお母さん、私と篠原くんは……」
「あら、お母さんだなんって」
「すみません。お話を聞いてください! 私と篠原くんは――」
なんだろう。このカオスな状況はどうなったらそうなるのだろうか。
碧は、ぐいぐいと完璧に誤解しながら白雪に目を光らせながら質問している自分の母親を見て、ため息を漏らした。
「母さん、そういうのはやめてやってくれ。橘が困っているだろ?」
「えー、私はただ、碧との関係を聞こうと思っただけなのに」
「そういうのはいいから」
「あ、あの……」
碧が母親を玄関から追い出そうとした時、白雪が申し訳なさそうに声を出す。
「どうした、橘」
「篠原くんのお母さん。私は橘白雪と言います。よ、よろしくお願いします」
白雪は礼儀良く頭を下げ、碧の母親に挨拶をする。
「あらあら、まあまあ。それはそれは、今後もうちの碧をよろしくね。私は篠原桜子っていうの」
「はい、よろしくお願いします、桜子さん」
「ちなみに〝お義母さん〟と呼んでもいいのよ」
「は、はぁ……」
白雪は苦笑いをする。
碧の母親、桜子はこういった性格である。
自分の子供達とは性格が正反対で、コミュニケーション能力が高く、人望が多く、それを活かした職業に就いている。
普段は仕事で家事が出来ないのだが土日の休みは、碧の代わりに家の事をしている事が多い。
「はいはい、からかいはもういいから。母さんは、料理でもしたら? まだ作っている途中だろ?」
「あら、やだ。そうだったわ。それじゃあ、また、遊びにいらっしゃい、白雪ちゃん」
「はい……」
桜子の性格に圧倒された白雪は、なんだかすごい人だと感じた。




