第10話 突然の嵐
「え?」
白雪は、自分の名前が呼ぶ方へと視線を向ける。
彼女の名前を呼んだ真ん中の少女が楽しそうな笑顔をこちらに向けてくる。女三人の中では背が低く、いかにも能天気そうな少女である。
その両端にいる少女たちも彼女の友人そうに見えるが、声を掛けてきた少女と同じ性格に見えそうで見えなく判断しづらい。
「あ、あなた達、なんでここに?」
彼女たちに気づいた白雪が席から立ち上がる。
「いやー、私達は普通に遊んでいただけだよ。そしたら、ユキちゃんの姿がたまたま目に入ったから声を掛けただけだよ」
「うん、私も右に同じ」
「私はさすがに、今は声を掛けない方がいいんじゃないかと言ったんだけどね」
他の二人はそれぞれ自分の意見を言う。最後の一人に関しては、声を掛けるのは躊躇した方が身のためだと考えていたらしい。
「そう、なら仕方がないわね」
「でしょ~」
「全くあなたは……」
白雪は額に手を当てて、はぁ、と小さなため息を漏らす。
先程の緊張感はどこかに消し飛んだような気がした。
この白雪の彼女に対する態度は、日頃様々なお世話をしているのだろうと安易に想像できる。
「それでユキちゃんは何をしているの? そういえば、午前中は部活じゃなかったっけ?」
「ええそうよ。午後は買い物に来ていたの?」
「それで? 男の子とデートしていたのかな? 私、ユキちゃんに彼氏がいるなんて、知らなかったから」
「………。っ‼」
彼女の発言は、全く持って失言であった。
「か、彼氏だ……なんて……」
白雪は、彼女の言葉にすごく動揺しながらあたふたとして、行動がおかしくなっている。
さすがの碧もこれを誤解されるのも面白くないので、何かいい言い訳を考え、その上で彼女に傷が残らないようなフォローを考える。
彼女の発言で赤く恥じらう白雪を後ろの二人もニヤニヤ微笑み、ご馳走様ですと言わんばかりな暖かい眼差しを向けてくる。
「あの……ちょっといいか?」
仕方なく、碧は動くことにした。今後、学校で噂になるのを避けたいがために己の身の安全を考えて口にする。
「はい、どうぞ。そこの彼氏さん」
「いや、彼氏じゃないんだけど……」
この能天気な少女には何を言っても無駄な感じがしたので怒る気にならなかった。
「あの、そうだな。俺が妹の欲しいものを買いにここのショッピングモールに来たら、たまたま橘に会っただけで、少し疲れたから俺の方から相談に乗ってもらったというか……。ええと……。君の思うような橘の彼氏とかそういうのではないんだが……」
碧は愛想笑いをして、彼女にも理解しやすいように優しく反論をする。
それを聞いた少女は、ぽけー、と理解しているのかしていないのか分かりにくい表情をして、黙ったまま碧の方を見ては、絶賛混乱中の白雪の方を見る。
それから数十秒目を閉じ、軽く頷く。
「うんうん。なるほど、なるほど。これはデートではなく、たまたま偶然に出会ったと」
「ああ、そうだ」
「なるほどねぇ~」
どうやら彼女の中ではそれなりの納得はしているように見えるが、なぜか、目元はニヤついているようにしか見えない。
「相談、相談かぁ。それならその相談というものは終わったの?」
「ああ、終わっているがそれがどうかしたか?」
首を傾げて碧は答えると、少女は、白雪の左腕を持って、強制的に彼女を立たせ、自分の方へと体を寄せる。
「それなら今からユキちゃん借りていくね!」
「え、あ、ああ?」
碧は、強引な彼女に何も言えなかった。ここで白雪を引き留めたら共に買い物をしていたと認めざるに得ない。
「え、ちょっと!」
びっくりする白雪も少女の方を見る。
「それじゃあ、遠慮なくお借りしていきますね」
彼女は白雪を逃がさないように力強くがっちりと自分の腕を回しているので白雪は解くことができない。
いや、本気で引き剥がそうとすれば、彼女の力だったらそうたやすくないのだろうが、白雪はこの少女の事をそこまで拒んでいない様子だった。
「あ、そうそう。私の名前は和泉水奈。君と同じ学校の同級生だよ。よろしくね」
そう言って、白雪を引っ張りながら彼女たちはどこかへ行ってしまった。
置き去りにされた碧は、白雪と買い物をした彼女の私物を見て、これはどうすればいいのかと頭を悩ませながら、とんだ嵐がやってきたとしか言いようがなかった。
そして、数時間後、自分のスマホに彼女から連絡来たのは言うまでもない。




