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吹奏万華鏡   作者: 幻創奏創造団
近付くふたり ホール練習編
347/351

第62楽章 夜宵の狂想曲

「……ドラムにもコツはあるんだよ」

優月は、巌城美乃禀へそう言った。美乃禀は和太鼓奏者で、ドラムなど触れたことがない。

「……コツ?」

美乃禀が分からないようで、首を横に傾ける。

「うん。確かに、美乃禀ちゃんは、そこそこ力強い音を出してるけど、もう少し軽くて良いんだよ」

「……軽く?」

「うーん……?分かりづらいか」

優月が、そう言って少し考える。

 和太鼓とドラムは本当に違う。ドラムができれば和太鼓ができる、和太鼓ができればドラムができる、という概念は机上の空論に過ぎない。


 ドラムならば、手首を使うし足も使うので、上下別々に動かさなければならない。逆に、和太鼓ならば、腕だけでなく腰も使うので、ドラムとは違う体力や技能が必要になる。

 むろん、叩き方も然りだろう。和太鼓の皮と、ドラムの皮は素材が違うからこそ、叩いたときの感触も、叩き方も、素材も違うといえよう。


「……んーっ」

優月が考え込んでいるときだった。

「みのりん、締太鼓みたいな感覚だよ」

「!!」

優月は(確かに!)と心の中で呟いた。

「……なるほど。ならば、スナップを効かせて、軽めにたたくってことだね?」

「うん!」

「なら、もう少しやりようはあるよ」

そう言って、美乃禀は軽く叩き出す。


「那珠葉ちゃん、すごいね」

優月が説明できなかったことを、那珠葉は簡単に説明にしてくれた。

「いや〜、ボクもドラムやったことあって」

「え?そうなの?」

「はい!小学校の器楽クラブで」

「へ、へぇ」

(そうだったんだ)


那珠葉は小さく肩をすくめる。

「あと、たまに締太鼓たたいてるの見てて、ドラムと少しだけ似てるなあ、なんて思ってたんです」

彼女はすごいなあ、優月が思うと、それを感じ取ったように、那珠葉はへへっと笑った。


 どど!たんっ!たんったんったんっ!!

美乃禀は結局、バスドラムとスネアを往復して、たたいていた。優月が教えたスネアのゴーストノートを、彼女は一瞬で覚え、演奏している。


(………)

 しかし優月の脳裏は何故か、過去を求めていた。理由は分からない。だが、美乃禀の叩く所を、どこかで見たことがあったのだ。


「……みのりん、うまいね」

すると、戻ってきた鳳月ゆなが、話しかけて来た。

「………あ、鳳月さん」

「ゆゆより、うまいよ」

「いやいや、とんでもない」

「………」

確かに、美乃禀のリズム力は日心も認めるほどだ。死月にでもならなければ、爆発的な能力は見込めないだろう。

(……にしても、ゆなは本当に僕を引き合いにするよな)

 それにしても、ゆなが最近、優月を軽蔑してきている……気がした。それは、瑠璃が入ってきたことにより、パート内でのレベルが高まったからだろうか。

だが、そろそろ、ぶつかってしまうのは必然だった。



 1時間の休憩を終え、ようやく合奏が再開された。後半は、他の曲を演奏するようだ。

「……本当の自分でいることこ〜そが♪何より素晴らしい人生♪」

広一朗が熱唱している曲は、彼自身が作詞作曲した曲、『失恋の詩』だ。瑠璃のドラムのリズムに合わせ、力強い旋律が流れる。

失恋で苦しむ自分から、抜け出したいと必死にもがく曲だ。いわば、青春の痛みを歌っている。

 優しい曲調で終わると、広一朗が大きく頷いた。そして楽譜をめくる。


「あい、また恋愛セクションで、『儚き恋風 あなたに』やりますよ」

この曲は、演奏会の恋愛セクションでやるようだ。ちなみに、失恋の詩の前に演奏する予定らしい。

 『儚き恋風 あなたに』という曲は、好きな人への想いは、風のように儚い……を歌った曲だ。

※詳しくは『みんなで語ろうMelody③』を。



「おぉおぉぉーーーーいえぇーーーーーー!!」

叫ぶように広一朗が叫ぶ。まるで、大切な人へ叫ぶ心の内のように。

その歌声に、力強い旋律が加わる。

その合奏は完璧………のはずだった。


「えーっ、皆さん、この曲は恋心だけでなく、家族や大切な友達や、亡くなってしまった人にも贈る曲なので、もう少し深い音で表現してください」

「重っ!」

優月がツッコミを入れると、

「恋セクションちゃうやん!」

心音が強く叫んだ。


「ま、まぁまぁ、恋セクションには変わらないので」

「では、『ばいばい、ありがと』から、もう1回やってみましょう」

そう言われ、ゆなはスティックを静かに構える。


 先ほどの広一朗の言葉は、ゆなの琴線に触れた。その言葉が強く突き刺さった。

(……玖衣華(きいか)

心の中で呼んだ名前は、ゆなの義妹の名前だった。自分を守って、この世を去った彼女。

 ゆなは手元のマレットを握りしめた。簡単なメロディーだと、広一朗に騙され、難解な譜面を見下ろす。

(………ばいばい、ありがとう……か)

 優月のドラムが鳴り響くと同時、ゆなは呼応するように、マレットを流すように振り下ろした。


「ばいばい あり〜が〜と〜……!!」

歌詞の真の意味を知ったゆなは、広一朗の歌う歌詞の意味が強く突き刺さった。

天にいる玖衣華には、届くのだろうか?

この音が………。



 ホール練習は休憩を挟みつつ、少しずつ終了切れが迫ってきている。

「……では、狂恋と復讐の唄やりますよ」

『はーい』

優月はそう言われ、スティックを構えた。


 広一朗のベースに、隼乃駿佑のチューバの低音が、空気をぴりぴりと震わせる。

少しずつ高まると、優月はシンバルを乱打する。力強い金切り音を、もう片手で押さえ、それを何度も繰り返し、スネアのアクセントと連打を繰り出す。

「狂気に染まった 赤き未来を♪触れても離すの 恋と秘密♪」

広一朗の甲高い歌声に、管楽器の唸りが一致する。狂恋とは、狂想曲のように響きゆく。

力強い音色が、ホールへと襲う。


(……すぅう)

優月は、先ほどの美乃禀の演奏を、脳内映像として反芻(はんすう)していた。

(美乃禀ちゃんの叩き方……どこかで……?)

美乃禀が太鼓をたたく。その光景は、物心ついてすぐ、見たことがあった気がした。

 どこかの祭りか、どこかのイベントか、確かに彼女と会ったことがあった気がした。

(……もしかして、かなり前にも美乃禀ちゃんに会ってるのかな?)

疑問は、力強いリズムを刻んでも忘れることがなかった。

(………いや、それ以前に、瑠璃ちゃんにだって)


『みのりー、こむらびとー!』


 刹那、誰かの声が脳裏を強くたたいた。それは、子供の声だろうか。それとも声だろうか?

いずれにしても、どこかで聞いたことのある名前だった。そして、その人物の正体が………。







「ゆゆーーー!!??」



「あっ………」


気づけば、合奏は終わっていた。どうやら、体が勝手に動いていたようで、演奏していた記憶がまったくなかった。

「ゆゆ、眠いの?」

広一朗が、心配そうにこちらへ歩み寄る。

「あ、いえ……。かんがえごと……いや、何でもないです」

「ま、まぁいいや。片付けしなきゃ。むらこいに迷惑が掛かるよ」

「は、はーい」

広一朗に軽く注意されつつ、先ほどまでの誰かの言葉を思い出そうとしていると、あっという間に片付けが終わった。

考え事をしていると、こうもはやく終わるのか。

何だか、不思議な気分だった…………。



「ねぇ、瑠璃ちゃん」

 優月は、ホールのエントランスを歩きながら、ひとりで帰る瑠璃に話しかける。

「ん?」

「美乃禀ちゃんのこと……なんだけどね……」

「巌城のこと?どうしたの?」

瑠璃が頬を僅かに膨らませ、こちらを見る。なんだか、嫉妬しているようにも見えたが、それより聞きたいことがある。

「……僕、美乃禀ちゃんに会ったことが……あった気がして」

「茂華中の文化祭で?」

「ううん。それよりも……ずぅっと前」

「ずぅっと前?」

瑠璃が少し怪訝そうな顔をする。優月の心は、好きな人を傷つけたくない気持ちと、霞がかった過去を晴らしたい気持ちで争っていた。

「……そこで、もしかしたら……瑠璃ちゃんとも、そこで……」

「私にも……そこで?」

瑠璃が『何を言ってるんだ?』と言いたい気持ちがあるのは分かる。だが、これだけは言える。

―――間違いなく幼い頃、瑠璃と出会っている。



「……瑠璃ちゃん!僕と瑠璃ちゃん、小さい時、どこかで会ってない!?」

優月は、確信を持ってそう問うた。

「………優月くん?と?」

「う、うん」

「………」

しかし、瑠璃は微笑する。

「私、ちっちゃい頃の記憶なんて、あんまり覚えてないんだ。ほら、結構大変だったから、思い出したくないことだってあるし」

「………!!それはごめん」

優月が謝ると、瑠璃は首を横に振る。

「ううん。大丈夫だよ。……でも、私も小さい頃、どこかで会ったことがあったような気がするんだよね」

「………瑠璃ちゃん」

彼女も覚えているのか、それとも話しを合わせてくれているのか、どちらかは分からないが、瑠璃の優しさに救われてしまった。



―――だが、優月はこのとき、知らなかった。

『……へへ、こむらびとって誰?』

『………クソ悪人が…!!』

過去いちばんで、思い出したくなかった回想が、目を覚ますことを。



優月は、ホールを出ると、瑠璃へと手を振る。

「じゃあね、瑠璃ちゃん。また明日」

「うん!優月先輩、ばいばい!」

別れを受け取った優月が背を向けた時、


「瑠璃おねーーーちゃーーーん!!」

「……わっ!」

聞き覚えのある声がした。つい、優月は後ろを振り返る。その目に飛び込んできたのは、瑠璃の妹の樂良だった。

樂良も、瑠璃を真似るように、小学2年生ながら吹奏楽をはじめたらしい。ちなみに、入部できたのも特例だった。

「……あれは……樂良ちゃん」

しかし、優月はこの時知らなかった。

樂良のことも、彼女の存在が瑠璃を壊すということも。



「……ここだよね?私も行くんだあ」

「そ、そうだったね」

「帰るか」

父に言われ、ふたりも駐車場へと歩き出した。


 この星も見えぬ夜空のような黒い影が、ふたりに迫っているなど、この時は知る由もなかった。




最後まで読んで頂きありがとうございました!

 読んでくださったみなさんの、アドバイスや感想は大きなモチベーションになります!総合ポイント100point 目指しております!

 良ければ、リアクション、ブックマーク、感想、評価をお願いしたいです!

 吹奏万華鏡では、様々な吹奏楽の話しの他にも、音楽に関わるすべての物語を描いています。また音楽や人間関係だけではなく、恋愛や非日常、過去から背中を押す物語を展開しています。

 初心者も、これから吹奏楽を始める方も楽しめる物語を作ることが目標です。

 皆さんの応援や、ページビューがモチベーションです。これからも魅力的なストーリーを更新できるよう頑張ってまいります。

 次回もお楽しみに!


【次回】古叢井瑠璃に……悲劇再来!?  

    古叢井瑠璃編 最終章!!


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