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吹奏万華鏡   作者: 幻創奏創造団
近付くふたり ホール練習編
346/351

第61楽章 ドラムにもコツはあるんだよ

「……何名様ですか?」

「6名です」

優月が、店員の問いに答え、ボールペンで席票に書き込んだ。

「……じゃ、行こっか」

優月は、そう言って後輩たちの方へと振り返った。


 ホール練習の大休憩。瑠璃と2人きりの夕飯(ディナー)を断られた優月は、後輩の美乃禀と孔愛と日心と冬一と那珠葉についていき、このファミレス『シェスター』に訪れていた。


「……美乃禀ちゃん、ありがとね」

優月が美乃禀に礼を言う。

「ううん。瑠璃ちゃんに断られたんでしょ?」

すると美乃禀はそう言い返した。

「う、うん」

「大丈夫だよ、気にしなくていいからね」

美乃禀の言葉には、優しい響きが感じられた。いつもの活気ある声と違って、この声はひどく穏やかだった。

「うん」

瑠璃に誘いを断られた優月を、美乃禀はただ励ましたかっただけだった。

―――だが、この美乃禀の優しさが、後に枷となり、鎖となってしまうのだった………。



 その頃、紅愛と瑠璃は、秘密の恋バナで盛り上がっていた。ふたりのいるカフェは、御浦市内でも人気なお洒落カフェだ。

「ふふっ、小倉先輩って優しいのね」

「うん!優愛お姉ちゃんみたいなの!」

「……優愛?」

「うん。優愛お姉ちゃんはね……」

2人の話しが盛り上がった時、『お待たせしました〜』とウェストレイトがやってきた。メイドのようなウエストレイトは、とても美しい顔をしていた。

「……キノコとバターの和風パスタです」

「あ、瑠璃、来たよ」

「あ、ありがとうございます!」

彼女は「ごゆっくり」と言葉を残して、厨房へと戻っていった。


 料理を見た瑠璃は、目をキラキラと輝かせた。パスタの上に乗ったノリに、バターの匂いが食欲を強くそそるのだ。

「……美味しそう」

「おいしいわよ」

紅愛はそう言って笑った。

「えへへっ、紅愛お姉様のご飯が、来るまで待ってるね」

「別にいいのに」

紅愛はそう言って笑った。それでも、瑠璃の無垢な瞳には、なぜか逆らう事ができなかった。


「お待たせしました。トマトクリームパスタです」

数分後、先ほどとは違うウエストレイトが、紅愛の料理を運んできた。

「あら、ありがと………」

紅愛が礼を言おうとした時だった。


「紅愛に、瑠璃ちゃん?だよね」

そのウエストレイトは、紅愛と瑠璃の名前を呼んだ。すると紅愛が目を丸める。

「あら……」

「あっ……、麻文ちゃん……?」

そこにいたウエストレイト……いや、女の子は、瑠璃も知っている女の子だった。


野々村 麻文(まふみ)。瑠璃と紅愛の同じ保育園からの知り合いだった。

「……麻文ちゃんかぁ。相変わらず可愛いね」

「またまた〜、瑠璃ちゃんも可愛いよ」

売り言葉に買い言葉、のように麻文も褒め返す。

「……てか、あとで家に遊びに来てよ」

「えっ?いいの?」 

「うん!葉菜姉ちゃん、来週日本に帰ってくるんだ」

「あら、葉菜さん?」


 麻文の姉、それは野々村葉菜だった。そういえば、雄成が葉菜に握手を求めていたな、と瑠璃は思い出す。

「……そしたら、瑠璃ちゃんにもメイクしてあげる。話しを聞く限り、彼氏ができるんでしょ?」

「……聞いてたのね」

紅愛は、話しを聞かれたことに呆れると、麻文は「ごゆっくり〜」と厨房へと戻った。

「……保育園と小学校を思い出すなぁ」

瑠璃がそう言って目を細める。


『……まふみん!だいすき!』

たまに、瑠璃は紅愛と麻文と遊んでいた。

それと同時、数少ない思い出も、彼女の脳裏へと強くよみがえった。

それと同時、天龍での思い出も―――


 その頃、優月たちは天龍メンバーと、店へと入っていた。

「……あれ?颯佚?」

「あ、ゆゆ。うっ!」

「もしかして、推しと料理を一緒に撮ってる?」

「うあ!よく分かったな……」

すると優月は、グラスに入ったサイダーを、ストローですすった。ドリンクの見放題を頼んだ彼は、それをあっという間に飲み干す。

「た、立って飲むなよ」

「あ、ごめん。んで?まどマギの誰を撮ってたの?」

すると颯佚は、隠したはずの推しのキーホルダーを見せる。

「美樹さやか」

「ふぅん」

穏やかそうな青髪の女の子のイラストに、優月は目を丸めた。何だか、心音みたいだなと思った。

「……颯佚の彼女さんもまどマギ好きなの?」 

「ああ。今度、映画観に行くんだ」

「へぇえ」

彼の推しトークに、優月は過剰に反応している。それを見た颯佚は、小さく笑う。

「あ、あとでもっとグッズ見せてあげるわ」

「えっ?ありがとう」


 そんなふたりへ、美乃禀が駆け寄ってきた。颯佚は、歩み寄る彼女の姿を見ただけで、グッズをリュックへ押し込んだ。

「優月くーん、大丈夫?」

「うん。大丈夫!」

しかし美乃禀は、颯佚のことを、まるで気づかなかったかのように、スルーをしていた。


 そうして、それぞれの料理が運ばれると、優月を巻き込んだ天龍トークが始まった。

「……えっ?筝馬くん、彼女できたの!?」

「はい。もう2ヶ月くらい前から」

小さな声で驚く優月に、孔愛は平然と言い放つ。

「まぁ、久遠はいい人だからな」

「暴力は望めんが」

冬一と日心もそう言った。


「確かに。でもお兄ちゃんとしては、理想の上の上だよ。守ってくれるし、優しいんだから」

そして美乃禀も、筝馬の人間性を認めているようだ。たしかに、筝馬は悪い人ではない。

「……でも、静かな人だよねえ」

そこに突っ込んだのは、小皷那珠葉だった。

「それは、そうだよね」

優月は仕方なさそうに笑い返した。


 天龍トークの傍ら、デザートのチョコレートパフェを食べていたときだった。

「……ん?」

突然、広一朗から連絡が来た。

(………了解っと)


「んでさー、この前私は言ったのね」

「え?なんて?」

「ちょっとごめん!」

「?」

優月は財布を手にして、彼女たちを見る。

「ちょっと、ホールに帰らなくちゃいけなくなったから、お金払って先に帰ってるね」

優月がそう言うと、美乃禀と那珠葉も財布を取り出した。

「あ、私もドラムやりたいから、先帰るね」

「私も」

どうやら、美乃禀と那珠葉もついてくるようだ。

「我らは、もう少ししたら帰る。気をつけて」

「高津戸さん、ありがと〜」

日心に、美乃禀が別れを告げ、優月へついて行った。



「ドラムやるって、鳳月さんが練習してるかもだよ?」

 夕闇の空に街の街灯が灯る。建物にも幾つかの照明が、窓より漏れていた。

「……ええ〜、私、文化祭でドラムやってみたいんだよね」

美乃禀がそう言って、拳を握りしめた。

「みのりんは、和太鼓やるんじゃないの?」

「うぅーん、悩むなぁ。1度でいいから、ドラムもやってみたい」

那珠葉のツッコミにも、美乃禀は悩む素振りを見せていた。

(……美乃禀ちゃんなら、ドラムもできそうだけど)

そんな彼女にも、優月心配する様子も見せなかった。



 ホールに帰った優月は、広一朗の所へと向かう。彼が優月を呼んだのだ。

「井土先生、楽譜の製本ですよね?」

「ああ、うん。お願い」

理由は、パーカッションの楽譜の製本だ。


 その間、美乃禀と那珠葉が、広一朗に話し掛ける。ドラムが使えるか、交渉に行ったのだ。

「先生、ドラム使ってもいいですか?」

するとパソコンを叩いていた広一朗が、ふたりを見る。

「それは、ゆゆに聞いてください」

「あ、はーい」

広一朗がそう言って、優月の方を見る。


 次に美乃禀は、楽譜の製本をする優月へ、交渉に向かった。

「優月くーん、ドラムやってもいい?」

「え、いいよ」

すると美乃禀が、嬉しそうに瑠璃の使っているスティックを掴んだ。指全体で握り込む。

「あ、違うよ。みのりん!」

「えっ?」

「持ち方!」

(……早く終わらせて教えてあげないと………)

優月はそう言いながら、楽譜の製本を急いだ。

 その間、彼を急かすが如く、ドラムの力強い音が鳴り響いていた。



 数分後。美乃禀が適当にたたき出したときには、ようやく製本が終わっていた。

「……美乃禀ちゃん」

「ん?」

優月は、美乃禀へ話し掛けた。

「ちょっと、音が大きいかな」

「えっ?」

「ドラムにもコツはあるんだよ」

優月はそう言って笑いかけた―――。




最後まで読んで頂きありがとうございました!

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 吹奏万華鏡では、様々な吹奏楽の話しの他にも、音楽に関わるすべての物語を描いています。また音楽や人間関係だけではなく、恋愛や非日常、過去から背中を押す物語を展開しています。

 初心者も、これから吹奏楽を始める方も楽しめる物語を作ることが目標です。

 皆さんの応援や、ページビューがモチベーションです。これからも魅力的なストーリーを更新できるよう頑張ってまいります。

 次回もお楽しみに!



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