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吹奏万華鏡   作者: 幻創奏創造団
近付くふたり ホール練習編
344/351

第59楽章 コピー

 ホール練習がはじまり、個人練習を広一朗に命じられた。各パート、OB・OGに見てもらう。


「美心乃ちゃん、ここはもう少し短めにしてくれる?」

「あ、はい!」

「上手だね」

「ありがとござます!」

美心乃は、茉莉沙に教わっていた。茉莉沙の方が、トロンボーンの腕としては、かなり優秀か。

「……明作さん、トロンボーンうまいですね」

「ふふっ、ありがとう」

美心乃も、茉莉沙の腕を知っている。もはやプロ級だと有名だからだ。


 その頃、スマホで怠けるゆなを尻目に、優月と瑠璃はドラムを練習していた。

「……もうちょっとでできるかな」

瑠璃は『失恋(しつれん)(うた)』の練習をしていた。優しいメロディーから、強いメロディーへと変わるのが特徴だ。それは、ドラムの譜面にも反映されている。

「瑠璃ちゃん、そろそろ?」

「ごめんね。ちょっとだけ待っててくれるかなぁ?」

瑠璃が申し訳なさそうに、眉を曲げて問う。

「あ、もちろん!」

そう答えた優月は、瑠璃の演奏が完璧になる時を待っていた。


「……」

優月は、ずっと瑠璃の演奏を見ていた。体を揺らし、リラックスするように演奏する彼女。その姿をただ眼に焼き付けている。

(……この演奏を見て、自分の演奏を置き換える)

あまりに集中していたせいか、瑠璃に肩を叩かれるまで、脳内思考に支配されていた。

「ゆーづーきーせーんぱーい!?」

「あ!」

思考に阻まれた霞が溶ければ、瑠璃の困ったような顔が眼前に飛び込んできた。


「……ご、ごめんね。考え事をしてた」

「んもぉ、早くしないと、ゆな先輩来ちゃうよ〜」

そう言って、瑠璃はドラムの椅子から飛び出した。彼女からの配慮に、優月は「ありがと」と言って、スティックを構えた。 

「……スゥ」

優月は息継ぎひとつで、タイミングを入れる。ハイハットの金切り音が辺りへ響く。

 その刹那、スネアのアクセントが柔らかく響いた。その音はホールの客席まで、容赦なく放たれる。

タカタタタカタタ……!!

「……!?」

いつもの演奏と何かが違う。瑠璃は直感で感じた。何より柔らかい音は、柔軟で今までの硬い音色は聴こえなかった。スネアの響線が大きく揺れる。その威力のまま、優月はスティックを曲げるような軌道で、シンバルをたたいた。

(……スティックの軌道が変わった…!)

瑠璃は少し驚いた。緩やかで、誰でも出来そうとはいえ、しっかり軌道を変えている。音速の中、スティックの振る方向を、手首の捻転で変えたのだ。

 去ろうと思った瑠璃も、いつもと違う優月の演奏に目移りしてしまう。


 そこから、単純なリズムも計算されたかのように、正確なものとなっている。しかも全身を軽く動かし、完全にリズムを掴んでいる。

まるで、普段の自分の演奏のようだ、と瑠璃は思う。それくらい、リズムが力強く正確だった。

チクチクと刻むライドの音も、正確かつ、無駄な力が一切ないのに、心の奥まで響くような音だった。力強い音色だ。

(……ゆな先輩の演奏みたい)

肩を軽く揺さぶられる優月の演奏に、瑠璃は、ゆなの演奏を重ねた。

……もしかして、コピーでもしたのか。

 乱立するシンバルの地帯も簡単に超えていく。1打1打が流麗に刻まれている。複雑なリズムでない所は、殆ど完璧だといえた。


 曲の終わりで再び、優月はスティックの軌道を緩やかに変える。刃の反りの方向が変わるようだった。

そうして、この技術を駆使した彼らは、無事に指導網から逃れることに成功する。


「……うーん、ドラムよ」

……と思ったのだが、結愛が何やら言いたげな様子であった。

「は、はい!」

優月は恐る恐る、彼女の指示を聞く。低い声色に、あまり良い話ではない事は、容易に予測できる。

「少し危なっかしい所があるからね」

「え、はい」

そう、人の技術を組み込みすぎた結果、本来の演奏が圧殺されていた。

(やっぱり、コピーしたやつは、使い所を考えなきゃ、かな)


「……では、少し休憩にします」

『はーい』

 広一朗の指示にて、ようやく休憩が与えられる。ゆなは既に、鍵盤楽器の裏で、スマホゲームを始めている。

 優月が項垂れていると、瑠璃がアハハと笑いかけてきた。

「……うぅーっ、ちょっと無理しすぎちゃった」

「ふふっ、人の演奏真似るのはいいけど、場所を考えなくちゃ。秀くんみたいに」

「……秀麟くんだっけ?」


末次(すえつぐ)秀麟(しゅうりん)。茂華中学校のパーカッション奏者だ。小学校からの打楽器奏者で、人の演奏を見ては真似る、はっきり言って(チート)みたいな少年である。


「……あの子、人の演奏を真似るの得意だったの」

その時、茉莉沙がトコトコと歩み寄ってきた。

「瑠璃ちゃん、優月くん、お疲れ様」

「あ、お疲れ様です」

茉莉沙はにこりと穏やかな笑みをしていた。去年までは、控えめな笑い方をしていたのに、今は可愛らしい笑みを浮かべていた。

「……茉莉沙先輩!」

「ふふっ、瑠璃ちゃんは1年ぶり?」

「はい……、えっと、今は?」

凜西(りんさい)市医療大学1年生です」

「わぁあ!お医者さんになるんですか!?」

瑠璃がそう問うと、茉莉沙はこくりと頷いた。


「……そういえば、茉莉沙先輩も元々は打楽器奏者だったんですよね?」

「あ、そうだよ」

茉莉沙は、ふふっと可愛らしく笑う。綺麗な顔だな、と誰もが思う事だろう。

「……確かに、演奏会でのドラム上手でしたよね」

「あっ、見ててくれたんだ」


明作茉莉沙。中学時代は、全国でも最高級の打楽器奏者だった。

『もう…だいたいの曲で、困らなくなったなぁ』

『……私がやってる曲なんて、できて当然です』

かなりネガティブな所はあったが、それでも僅か3年のスパルタ指導で、最高級の奏者へと仕上がっていた。

そんな彼女は、他人の奏法をコピーすることが得意だったはずだ。


「……あの、スティックが曲がるやつって、どうやってやるんですか?」

瑠璃がふと問うた。

「曲がる?ああ、軌道?」

茉莉沙はそう言って、静寂を被るドラムに歩み寄り、スティックを拝借した。

「これ、瑠璃ちゃんの?」

「あ、僕のです」

「あ、優月くんの?借りるよ」

そう言って彼女は、スティックを真縦に振る。その勢いが止まった瞬間、丁度良い地点で、手首の方向を変える。そのまま、上へと持ち上がるスティックだが、あまり想像がつかないだろう。

「……やっぱり、ドラムやらないと分かんないかも」

そう言って、茉莉沙はドラムセットへと歩み寄る。


「やっても大丈夫だよね」

 茉莉沙はかなり打算的になっていた。すぐにスローンに腰掛けるなり、パラパラとロールを流す。

「……!!」

 その時、何人からか視線を浴びせられる。それでも茉莉沙は、蜘蛛の子を散らすような爆音のビートを刻みだした。

「……ええ、まじ?」

「鳳月先輩よりも……もしかしたら……」

音圧と的確なリズム力で、辺りは釘付けになった。華奢な体ながら、出す音は殆どプロをそのまま写したよう、これが明作茉莉沙だ。


「……よし、じゃ、瑠璃ちゃん。私はいつまでもいられないから、動画を撮って学習して」

そう言って茉莉沙は、真縦にスネアへスティックを振り下ろす。落雷の速度……と思いきや、羽のようにゆっくりと落ちる。

「……わぁあ」

スネアの表面へ当たった瞬間、そのタイミングで手首を一瞬で翻す。そこからいきなり速く振られる。

ぱしん!

近くのシンバルが鳴る。完全なる軌道変化だ。


「どう?」

「む、難しそう……」

「まぁ、これね、打って跳ね返ったときの反動と、手首の方向を変えて振るまでのタイミングを、合わせなくちゃいけないの」

「む、難しそう……」

「結構、コツとかタイミング掴むまで、時間が掛かるから頑張ってね」

「は、はい!」

「あと、上へ振るときは、下へ振るときの2倍の速度にするんだよ。普段から物をたたく癖をつけなきゃ難しいと思う」

「わぁあ、難しそう……!!」

この茉莉沙の技術は、同じ楽団にいた元宿敵、沢柳(さわやぎ)(りつ)から盗み見たものだった。


 すると茉莉沙は、優月の方を見る。 

「あと優月くん、スティックの軌道が緩やかだけど、もっとゆっくり基礎練習した方が、もっと綺麗なフォームでたたけると思う」

「あ……、基礎練習」

ぱしん!ぱしん!瑠璃の、逆手抜刀のように振られるスティックが織りなすシンバルの音が、優月の耳と記憶を断絶させる。

「分かりました」


瑠璃は楽しそうにたたいて、少しずつ基礎を固めている。それを見ていると、優月の中で本性が沸き出る。

(……そうだ、僕は基礎(こういうの)が好きなんだ)

ひたすらたたく。優月はそちらの方が性に合っている。彼はにやりと笑った。

「……頑張ります」

それは、瑠璃にも向けていた言葉だった。


最後まで読んで頂きありがとうございました!

 読んでくださったみなさんの、アドバイスや感想は大きなモチベーションになります!総合ポイント100point 目指しております!

 良ければ、リアクション、ブックマーク、感想、評価をお願いしたいです!

 吹奏万華鏡では、様々な吹奏楽の話しの他にも、音楽に関わるすべての物語を描いています。また音楽や人間関係だけではなく、恋愛や非日常、過去から背中を押す物語を展開しています。

 初心者も、これから吹奏楽を始める方も楽しめる物語を作ることが目標です。

 皆さんの応援や、ページビューがモチベーションです。これからも魅力的なストーリーを更新できるよう頑張ってまいります。

 次回もお楽しみに!


【次回】 まだまだ続く……茉莉沙の新奏法

     優月と瑠璃の恋は焦れ焦れ………♡

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