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ナザーユ雪山 その2

 イヴィがこの街で誰かを待っているって話は聞いてたけど……それが私?


「初対面だと思ってたけど、ひょっとして前にどこかで会ってる?」


「いいや。会うのは初めてだよ」


「ん~? じゃあどうして私なの? ハッ! まさか私の不名誉なふたつ名の真偽を確かめようと!?」


 ウィッグかどうか私の髪を引っ張るつもり?


 それともどんなお笑いのネタが飛び出すか調べようと!?


「……なんのことだい」


 イヴィは半ば呆れたように言った。


 違ったらしい。


 まぁ普通に考えて、そんなくだらない事のために王都から拠点を移してまで待ち続ける人もいないよね。


 逆の言い方をすれば、そんな程度の事くらいしか接点らしい接点が見出せないというか。


 待たれる理由に心当たりがないんだよねぇ。


「う~ん……」


「お前は持っているんだろう?」


「へ?」


「神器『神の一滴の涙』さ」


 神器?


 あぁ、イヴィはこれの所有者の人を探してるのかな?


 私は胸元から涙の形のペンダントを取り出した。


 陽光に輝く『神の一滴の涙』を見て、イヴィが満足そうに微笑む。


「あなたがどうしてそれを知っているのかはわからないけれど、何か誤解してると思うよ。これは私の本当の両親から私に預けられた物だけど、私は神器の真の所有者とは違うの。使い方もわからないし、ただ持っているだけだよ」


 いまは私の首にかかっているけれど……エルガンが聞かせてくれた話の通りなら、いずれは私の手から離れて本当の所有者の元へ流れていくのかな。


「ふむ……そうなのかい」


「私だったらよかったんだけどね」


 私にとっては、神器である前に本当の両親が私に残してくれた大切な物だから。


「だからたぶん、あなたが待っている人は別の……」


 イヴィは遮るように首を横に振った。


「私の待ち人はお前で間違いない。私にはもう1つ確信がある。おそらく神器を使えるかどうかは重要じゃないんだろう。いまこの場にあって、それを持っていることに意味があるのさ」


「はぁ……。そういうものなの?」


「そういうものさ。運命というものはねぇ」


 運命ねぇ……。


「私としてはあなたに案内してもらえるなら大助かりだけど」


「同行はしよう。だがそれには2つ条件がある」


「なあに? さっきも言ったけど何でも言ってみて」


「そうしゃちこばることじゃないさ。見ての通り私はもう歳だからねぇ。カリーナは私をまだ現役だと思っているようだが、実情はギルドが引退を認めてくれないだけさね。さすがに雪山登山の遠征は骨身に応える。体力的にも魔法で補助しなければとてもじゃないがついていけんだろう」


「つまり1つ目の条件は、あなたは戦闘には基本的に参加せず、道案内に徹するってことね?」


「話の早い娘で助かるよ。だが自分の身は自分で守るから安心おし。そこまで衰えたつもりはないからねぇ」


 だろうね。()ればわかるよ。


 Bランク級の魔物だって魔法の一撃で軽々と倒しそうだもん。


 条件の方はイヴィを護らなくていいならなんとかなるかな? タイガも強くなってるし。


「もう1つの条件は?」


「お前の持つその杖を私に貸す事だ」


 イヴィがベッドに立てかけられた私の杖を指差す。


「これを? う~ん。でもそうすると私の武器がなくなっちゃうよ。やっぱり新しい杖を買いに行かない?」


「他の杖では役不足だ。いや、この国のどんな名杖でも足りん。お前の、その神木の杖でなければねぇ」


 また”神木の杖”か。


「この杖をそう呼ぶ人はあなたで3人目……ん? 2人目だったかな? その人たちにも言ったけど、これはガジの木で作られた杖で、そんなたいそうな物じゃないよ?」


「本当にそうかい?」


 ベッドから立ち上がったイヴィが私の杖をとる。


 彼女が杖に魔力を流した瞬間、増幅された魔力が部屋いっぱいに膨れ上がった。


「わぷっ」


 押し寄せてきた魔力に全身を包まれて、私は思わず声が出た。


「初級魔法程度の魔力を込めただけでこの有様だ。こんな規格外の魔力増幅効果を持った杖が、神木の杖じゃなくてなんだというんだい?」


「わっ、わかったから魔力を引っ込めて!」


 まるで濁った水の中に落とされたみたいだ!


 まぁ息は普通に出来るんだけど。


 ただ気分的な息苦しさが気持ち悪い。


 活性化された魔力がイヴィの体内に吸い込まれていくと、ようやく視界も戻ってくる。


「やはり途轍もない杖だねぇ。まさに神杖(しんじょう)の名に相応しい。この杖なら魔法効果を維持するのも容易いだろうて」


 イヴィは宝物を見るような目で私の杖を眺めている。


 うーん。私は主に魔物を殴るためにしか使ってないからなぁ。


 魔力増幅の媒体として使うのが本来の杖の用途だもんね。


 しかたがない。殴る用の杖は代わりを探そう。


「あなたの条件を全部飲むよ」


「いい返事だ」


「それじゃ案内よろしくね、イヴィ」


 私は右手を差し出した。


「ああ。任せな」


 イヴィと握手を交わす。


「出発は1週間後でいいかな? いろいろと準備があるし」


「それで構わない。こちらにも準備があるからねぇ。私は隣の部屋を借りてる。用がある時はいつでも訪ねてくるがいい」


「わかった」


 それならこの部屋を延長して借りた方がよさそうだね。


 イヴィと別れた後、私は宿屋のカウンターに寄って1週間分の延長料金を支払った。


 ついでに宿の人から武器屋と冒険者ギルドの場所を教えてもらう。


 さて、まずは武器屋かな。


 それからギリギリまでギルドの資料コーナーに篭って雪山登山の予習だ。


 知識を身に着けたら雪山装備と登山道具の調達、あっと出発前に消耗品の補給も忘れちゃ駄目だね。


 うん、忙しくなってきた!


 私は意気揚々と、人で(にぎ)わう大通りへと踏み出した。



 ――そして1週間後。


 イヴィと一緒に宿を出た私は、ペイジュの北門から街を出る。


 目指すのはペイジュから北北東。馬で10日かかるナザーユ雪山の裾野だ。


 いまのタイガの足なら6日以内に着けるんじゃないかと思うけど、例によってタイガは私以外を背中に乗せる気がない。


 というか人に触れられるのをすごく嫌がる。


 なかなか改善しないタイガの人見知りにも困ったものだ。


 でも無理強いは出来ないしね。


 かと言って以前カブトにいちゃんにしたように『つるつるの魔法』で滑らせて運ぶ方法も、まる1日を連続6日となると私の神力が持たない。


 いつも通り馬の足に合わせることになった。


 イヴィの馬と並走するために、タイガが適当に流して走る。


 ゆっくり景色を楽しみながら進む道程は、まるでピクニックのようだ。


 なんてったってこっちはAランク冒険者2人と、仮にランクを付けるならAランク級の魔物のタイガの3人だからね。


 言ってみれば全員Aランク級の少数精鋭パーティだ。


 仮にAランク級の魔物が現れたとしても対応可能なんだから、そんな私達にとって街道沿いに現れるCランク以下の魔物なんて脅威にもならない。


 まして魔物の接近はタイガが教えてくれるのだから緊張感もない。


 散歩気分になるなという方が無茶というものだよ。


 そうしてペイジュを出発してから9日後。


 私達はナザーユ雪山から最も近いリエットという名の街に到着した。

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