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ペイジュへ その7

 ロフマンが護衛で雇った冒険者は全部で17名だ。


 Cランク冒険者が16名で、Bランク冒険者のひとりがリーダー役。


 キャラバンの規模は前回一緒したときと同じなので、今回は護衛の数を減らしたみたいだね。


 私がいるから護衛をケチったのかな?


 もしくは黒薔薇盗賊団が解散して野盗の脅威が低くなったから?


 たぶん両方だろうね。


 それにロフマンの事だ。王様が投じた一石に、早くも対応を始めたということかもしれない。


 ちなみにCランク冒険者の中に数名ほど、私とタイガが魔物を乱獲した事で仕事を台無しにされた人がいたようだ。


 顔合わせの挨拶の時に睨まれてしまった。


 そう、私の新たな旅は暗雲立ち込める雰囲気で始まったのだった!


 ……な~んてね。


 心配することなんてなくて、数日もすると私を睨んでいた冒険者とも打ち解けて談笑するようになっていた。


 見た事も聞いた事もない漆黒の虎の姿をした魔物のタイガに、そんな未知の魔物を使い魔にする最年少のAランク女性冒険者の私。


 もう1つ言えば、大きなお肉の塊を魔法で調理する姿は、特に注目を集めたからだ。


 彼等は私への不満や怒りよりも、興味の方が大きくなっちゃったみたい。


 話してみればすぐに打ち解けられたんだよね。


 それからはタイガが魔物に気づいた時には護衛の冒険者達に情報を提供するようになっていった。


 契約では有事の時だけ手を貸すという取り決めなんだけどね。


 でもそれはそれ。私とタイガが警戒しない理由にはならないし。


 タイガにとっては周囲を警戒するのは、魔物? 野生? の本能だし、私にしてみても意識的なものというよりはもう習慣みたいになっていたからね。


 となれば、魔物の接近に気づいておいてそれをみんなに伝えない理由もない訳で。


 これは自然の成り行きというやつだ。


 もちろん魔物と遭遇した際には、護衛の冒険者達に全て任せて私もタイガも一切手は出さない。


 ほんとはタイガのご飯に魔物のお肉が欲しかったから、その分だけ手を出させて欲しかったんだけどね。


 でもせっかく良好な関係を築き始めたのに、私が彼等を信用していないだなんて思われちゃうと嫌だもん。


 そんな日々が続いていくうちに誰が何を言ったという訳じゃないけれど、いつしか護衛の冒険者達が討伐した魔物のお肉をタイガのご飯として分けてくれるようになっていった。


 旅は想定外の事態に当たる事もなく、穏やかに続いていく。


 道中、タイガの背中でずっと暇を持て余していた私は、その時間を使って料理用クラスライブラリの改善に務めるようになっていった。


 やり始めるといろいろと欲も出てきて、アイデアが止まらなくなる。


 久しぶりに1つの事に夢中になった気がするよ。


 出発からふた月近くが経ってキャラバンがザピスに到着する頃には、細分化されたスクロールの束はかなりの枚数になっていた。


 もはや本と呼びたくなるくらいの厚みだ。


「俺達は明日いっぱい、この街で物資の補給をする。街中なら護衛はいらないからな。1日だけだが、あんた達は久しぶりの休暇を楽しんでくれ」


 ロフマンの言葉に護衛の冒険者達が歓喜の声をあげる。


 今夜はみんなザピスの酒場で飲み明かすつもりのようだ。


 うれしそうに騒々しく談笑しながら、街の奥へとぞろぞろと大移動を始める。


「あんたは行かないのかい?」


 ロフマンが私の側に寄ってくると言った。


「私はお酒は飲んだことないから。それに明日はやりたい事があるからね。早めに休みたいんだ」


「そうか。出発は明後日の朝だ。遅れるんじゃないぜ」


 ロフマンと別れた私は、宿探しに街の中へと歩き出した。



 そして翌日。


 宿で朝食を食べた私は、宿のおかみさんに教えてもらった雑貨屋さんを目指す。


 そのお店はすぐに見つかった。


「あの、すみません」


 私はカウンターに座っている初老の男に声をかけた。


 初老の男が読書を中断して顔を上げる。


「いらっしゃい。お嬢ちゃん。お会計かい?」


「宿のおかみさんからここで製本が出来るって聞いてきたんだけど」


「製本かい? ああ、もちろん出来るよ」


 私は肩掛け鞄からスクロールの束を取り出すと、カウンターの上に置いた。


「これなんだけど、どのくらいで出来るかな?」


「どれどれ……ふむ。綴じ代が少々心もとないが、特に問題はなさそうだね。これならすぐにできるよ」


「ほんとう!? じゃあお願いできるかな」


 最初は本にすることなんて考えてなかったけれど、なんせ肩掛け鞄に入れて旅の間中持ち歩くのだ。


 端っこが破れたり折れたりするだろうと思って、余裕をもって魔力図を描いておいたのが幸いしたね。


 製本に必要な表紙を選ぶために、初老の男に案内されながらお店の雑貨を見て回る。


 私は大きくて少し厚みのある、丈夫そうなこげ茶色の表紙を選んだ。


 防水加工も施されているので、ちょっと高いやつだ。


「若いのに随分渋いものを選ぶね。こっちの桃色の表紙の方が値段もお手頃だし、お嬢ちゃんには似合うと思うよ?」


「これがいいよ。だってこっちの方が魔導書っぽいでしょう?」


「魔導書かい? ああ、なるほど。確かにそうだね」


 初老の男が孫娘でも見るような優しい目で笑う。


 これ、絶対子供の玩具と勘違いされてるね。


 でもしょうがない。


 魔法図形や魔力図など、魔法を学ぶための書物は魔法書であって魔導書じゃないからね。


 魔法使いが魔法を行使したり、それを補助する魔導書っていうのは、物語の中にだけ出てくる空想上の本だ。


 魔導書が現実には存在しない理由は至って単純で、使い捨てのスクロールを本にしてもメリットが無いし、複雑な魔法は必然的に魔力図が大きくなって本の枠に納まらないから。


 つまり需要がない。


 考えても見てよ。自分が魔法使いだったとして、肖像画並に巨大な使い捨ての本を持ち歩きたい?


 だけど1つの魔力図を複数のキャンバスに分けるというレンジの発想と魔法図形をヒントに、私自身の工夫がこれを実用的な意味で可能にした。


 自分で言うのもなんだけど、結構すごい事じゃないかと思っている。


 正直、いつになく興奮してるくらいには。


「実はこれ、本物の魔導書なんだよ。もしかすると世界で初めてのかもしれないよ?」


 私はカウンターで製本作業を進めている初老の男に、どや顔で小声で言った。


「そうかい。よかったねえ」


 まただ。孫娘へ向けたおじいちゃんの笑顔。


 むー。完全に子ども扱いだ。


 私はもう17歳だっていうのに!


「はい。できたよ」


「ありがとう」


 私は代金をカウンターに置いた。


「のりが乾き切るまでは、あまり乱暴に扱っちゃいけないよ」


「うん」


 表紙を付けた事で鞄に入らなくなってしまったので、一緒に買った本用のベルトで本を締めると腰のベルトに固定した。


 それなりの大きさの本なので右足の太ももにかかってしまうものの、しっかりと固定するんじゃなくて吊り下げたのが良かったのかもしれない。


 足を上げると本が動いてくれて、思っていたよりは動きを阻害しなかったので安心する。


 良い買い物をしてご機嫌の私は、軽い足取りで雑貨屋さんを出た。


「これで旅の間も邪魔にならずに済むよ」


「そーか? 背中に背負った方が邪魔じゃねーだろ」


 私の肩に乗ったタイガが言った。


「そうなんだけどね。でもそれだと必要な時にすぐに取り出せないでしょう? さて。それじゃ今日の晩御飯の材料を獲るついでに、魔導書の実地テストをしに行こうか!」


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