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3日振りの食事 その1

「高みに到達できる者というのは、やはり感性からして違うということなんだろう」


 む。レグランまで何を言ってるんだか。


 後からでも喜びを噛み締められる昇級と、いま切羽詰まっている空腹だよ?


 誰だって考える余地もないよね?


「う~、もう街まで我慢できないよ。ここで食べていこう、タイガ」


 馬車から肩掛け鞄を取ってきた私は、タイガと一緒に倒されたキングデスストーカーの元へ向かった。


「ん~と、食べやすそうなのは、っと……。私が砕いた右鋏かな? ねぇタイガ。ちょっとこの外殻剥いでくれる?」


 タイガが割れた外殻の亀裂に両手の爪を入れると、バキャリと引き裂くように殻を外してくれた。


「えへへ。ありがと」


 剥された外殻の下から透き通ったたっぷりのお肉が姿を見せる。


 う~っ、これはおいしそうだ!


 鞄からナイフを取り出した私は、早速ひと口大のお肉を切り取ると口に含んだ。


「もにゅもにゅ……ごくん。ふあ……ぁ。甘くて溶ける」


 なにこれ。


 滅茶苦茶おいしい!!!!


 今度は少し大きめに切り取って口いっぱいに頬張る。


「あーん、はむっ。もにゅもにゅ……むふー。しあわせすぎるっ」


「「「ごくり」」」


 私の周りで複数の唾を飲む音が鳴った。


 いつの間にかガッシュ達に若い男性騎士、受付嬢まで近くに立っている。


「な、なぁ。俺達にも少し分けてくれないか? もちろん金なら払うぜ」


 短い沈黙を最初に破ったのはガッシュだ。


「お願いティアズさん! ひと口だけでもー!」


「頼む」


 続いてカリーナとレグラン。


 2人の視線は私にというよりは、私が手にしているキングデスストーカーのお肉の方に釘付けだ。


「はい! はいっ! 私も食べてみたいです!」


 ついさっきまで魔物に怯えて縮こまっていたのに、受付嬢が元気に手を挙げる。


「俺も食ってみたいっす! キングデスストーカーの肉なんて滅多に食えるもんじゃないっすよ!」


「もにゅもにゅ……」


 頬張り過ぎてなかなか飲み込めない私に、返事を待つみんなの視線が集まる。


「ごくん。えへへ、もちろんいいよ。大勢で食べた方がもっとおいしいもん。ね、タイガ?」


「ふん」


「タイガもいいってさ」


 みんなの顔がぱぁっと明るくなる。


 早速ガッシュ達がナイフを取り出してお肉を削ぎ始めた。


 道具を持っていない受付嬢には、若い男性騎士が剣を使ってお肉を取ってあげている。


 そしてそれぞれ切り取ったお肉を手に取ると、ぱくりと頬張った。


「こりゃ……! 話で聞いてたよりヤベェくらいクソうめぇな!」


「ほいひぃ。ごくん。旨味の塊みたいだねー。あむっ」


「あぁ。想像していた以上の味だ」


「魔物は怖いけど、お肉はおいしいです~」


「っすね。けど俺、しばらくこの味を忘れられなくなりそうで、そっちもちょっと怖いっす」


 雑談を交えながら、みんな笑顔でおいしそうにお肉にかぶりついている。


 タイガはというと、砕いたキングデスストーカーの頭部に頭を突っ込んで咀嚼に夢中だ。


「そういえばキングデスストーカーのお肉には、最高においしく食べられる独特の調理方法があるらしいね?」


 ブリトールの魔物図鑑に、ひと言だけそう書かれてたんだよね。


「鍋だろ」


 肉を咥えたままガッシュが即答した。


「鍋なの? なんだぁ、思ってたより普通だね」


 独特っていうから、もっと突拍子もない調理方法かと思った。


「俺も聞いた話でしか知らねえから」


 落胆する私に、カリーナがニンマリと微笑んだ。


「鍋は鍋でも、使うのは普通の鉄鍋じゃなくてキングデスストーカーの外殻を鍋代わりにして作るんだよー。そうすると真っ赤になった外殻の内側からいいダシが取れるってわけ。あの極上のダシが染み込んだ野菜がまたおいしーんだぁ。あと蠍王鍋(さそりキングなべ)は、キングデスストーカーのミソを使うのもポイントなの!」


「随分詳しいね。ひょっとしてカリーナは作った事があるの?」


「実際に作った事はないよー。私のおばあちゃんがキングデスストーカー製の鍋を持ってたから、作り方だけは聞いたことがあるってだけよ。私が生まれ育った町は雪山が近いからね。寒い夜は鍋で体を温めるの。キングデスストーカー製の鍋を使うと、ほんとにおいしいんだから!」


「へぇ」


「食ってみたいっすね。蠍王鍋(さそりキングなべ)


 若い男性騎士が呟いた。


「わっ、私も食べてみたいです!」


 受付嬢がそれに続く。


 そのチャレンジ精神は買うけれど。


「気持ち的には私も同意だけど、2人共本気? こんなに暑いのに、熱々の鍋なんて食べたら倒れちゃうかもよ?」


 夜は涼しくなるけど、夕方までもう少しある。


 日中の暑さにはいい加減慣れてるけど、このうえ体の中からも熱くされたら流石に目が回りそうだよ。


「それに作るにしても材料が足りないんじゃないかなぁ。野菜なんて持ち歩いてないもん」


「そうねー。味の染みた野菜がおいしいから野菜がないのは残念過ぎるけど。それより唐辛子を切らしてるのが一番の問題かな~。他の調味料は持ち合わせがあるから、あと唐辛子があればお肉だけでも一応作れるんだけど」


 腕組したカリーナが唸る様に頭を傾ける。


「とうがらし?」


「そー。唐辛子」


「唐辛子、ねぇ……? 似たような名前のトンガラシって辛くて赤い実なら持ってるけど」


「それだよ、それー!」


 カリーナがパッと腕を開く。


「え?」


「外国人はよく唐辛子の名前をそういう風に間違えるんだ」


 レグランが言った。


「しょうがないよー。本当の名前は唐辛子なんだけど、大昔に間違った名前を伝えた商人がいたらしくて。国によってはトンガラシが別名みたいになっちゃってるんだよー」


「そうなんだね。ロンブルク王国でもトウモロコシをトウモコロシ(・・・)って言い間違える事があるけれど、その商人の人もそんな感じだったのかなぁ?」


 私がそう言うと、ガッシュがふてくされたようにそっぽを向いた。


 それを見たレグランとカリーナが爆笑する。


「あっははは! そーそー! ガッシュもさー、フレイディールを出るまでずっとトウモコロシだと思ってたんだよー。コロシって、ぷっくく! 食べ物が死なすのかってねー!」


 カリーナがガッシュの肩をパシパシと叩く。


「チッ、うっせーよ!」


 ガッシュの顔は真っ赤だ。


 知らなかったとはいえ、ちょっぴり申し訳ない事をしたかな。


 カブトにいちゃんも小さい頃によく言い間違えてたんだけど、今その話をするのはフォローするどころか逆効果な気がする。


 よし、ここはさらっと話題を戻そう。


「まぁでも、砂漠で鍋はやっぱり厳しいんじゃない?」


「そーっすね……。けど茹でた肉も食ってみたかったっす」


 茹でたキングデスストーカーのお肉かぁ。


 私もそれは味わってみたいけれど。


 鍋以外に何か良い方法か……。


 カリーナが話してくれた調理方法がヒントにならないかな?


「ん~……あっ。そうだ!」


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