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3日振りの食事 その2

「何か思いついたっすか?」


「まあ見ててよ」


 みんなが期待の眼差しを向ける中、私は言葉で説明せずに行動で示す。


 まずはタイガに頼んでキングデスストーカーの8本の足の1つから、関節部分の比較的厚みの少ない外殻を鍋型に切り出してもらう。


 理由は単純に厚みがあると火の通りが悪そうだと思ったからだ。


 次に転がってる石を集めて簡単な釜戸を作る。


 その上に切り出したキングデスストーカーの即席大鍋を設置した。


「タイガ、ちょっと多めに魔力を貸して」


 借りた魔力を杖に通して増幅する。


 その魔力を使って描くのは、大気中の水分を触媒にした水の造成魔法と炎の設置魔法だ。


 炎の設置魔法は物理現象としての炎ではなく、魔法効果としての炎を具現化した上で熱には指向性を持たせる。


 これは周りにいる私達が少しでも暑くならないようにするための簡易措置だ。


 現実の炎と違って、魔法効果による炎だから出来る芸当だね。


 逆に水の方は後から満腹感が目減りするとガッカリしちゃうので、魔法効果が切れても消滅しない本物の水を作る。


 水の造成魔法を鍋底に、炎の設置魔法を簡易釜戸に展開すると2つの魔法を発動させた。


 大鍋とそこに溜まっていく水を熱する中、続いてもう1つの造成魔法を構築する。


 組み上げる魔法の内容は、転がってる石や砂を触媒とした器の造成だ。


 大きさは片手で持ちやすい程度がいいかな。


 これを人数分作る。


 よし、準備は整った。


 後は造成が終わるのとお湯が沸くのを待つだけだ。



 時間が経つにつれ、大鍋が焼けて次第に赤く染まっていく。


 ぐつぐつと煮立つお湯が、ほんのり黄色く染まり始めた。


 立ち上る湯気も香りづく。


 カリーナが言っていた通り、キングデスストーカーの外殻から順調に良いダシが取れているみたい。


 私は鞄から塩を取り出すと、ふた握りの塩を大鍋の中へ回し入れた。


 木ベラで2周ほど軽くかき混ぜてから味見する。


「ふぁ」


 はぁ……なんて濃厚なダシなんだろう。


 調味は塩だけなのに、まるで王都で飲んだコース料理のスープみたいだ。


「お待たせ。準備できたよ」


 私はみんなに言った。


「んーだよ。黙って観てりゃ、結局鍋じゃねえか」


「そうなんだけどね。でも食べ方がちょっと違うんだよ。やってみるから見ててね」


 私は造成魔法で作った石の器でキングデスストーカーのミソを掬い取る。


 続いて棒状に切り取ったお肉の端を持って、先端を大鍋で煮立つお湯に沈めた。


「こうやって少しお湯の中を泳がせて……透明なお肉が白みがかったところで引き上げる。あとは」


 出し汁にまみれたお肉をキングデスストーカーのミソにちょんとつけて、はむりと食らいつく。


「んん……っ」


 溶けてしまう生肉と違って、少し弾力のある歯ごたえ。


 そして熱で消えてしまった甘味は濃厚な旨味へと変わっていた。


 塩で引き締められた外殻のダシの風味とミソの苦みとコクが、私の口の中で凝縮されたキングデスストーカーのお肉の味を最高点まで引き上げる。


「もぐもぐ……」


 噛むほどに味が染み出てくる。


 咀嚼するたびに口いっぱいに幸せが広がっていく。


「ごくん……。っはぁ。おいしい」


「「「ごくり」」」


 即座にカリーナ、ガッシュ、レグランが視線を交わす。


 ガッシュが器を抱えると、ミソを掬いにキングデスストーカーの死体を登り始めた。


 その間にレグランとカリーナがお肉を切り取っていく。


 連携が早い。しかも目配せしただけで。


 さすが息の合った熟練の冒険者パーティだね。


「ガッシュさーん。俺達の分のミソもお願いするっす!」


「おう!」


 若い男性騎士が2つの器をガッシュに投げ渡す。


「騎士さま、私にもお肉を切り分けてください」


「任せるっすよ」


 協力し合って準備を整えたみんなが、早速茹でキングデスストーカーを堪能し始める。


「うっお。これ激うまっすよ!」


「はいっ。生食もいいですが、私はこちらの方が好みかもです」


「味もだがこの食感も悪くねえな。しかし暑ィ!」


 汗だくのガッシュは両手持ちでお肉を頬張っている。


 そうやってずっと鍋の側に張り付いてるから余計暑いんだよ。


 魔法の炎自体は近寄っても熱くないようにしてるけど、焼けた鍋と煮立つスープが発する熱気は魔法の制御外だからね。


「こんな食べ方、ティアズさんよく思いついたよねー」


「私が思いついたんじゃないよ。ロンブルク王国の王都の料理店に、こんな感じの料理を出すお店があるんだよ。あっちでは薄切りにしたリトルホーンのお肉を使うんだけどね。それとカリーナの話を合わせてみたんだ。えへへ」


「へー。ロンブルク王国はまだ行った事がないなぁ。でも本当においしいよ。これで湯がく時の暑さがなければな~」


 カリーナが手をパタパタさせて顔に風を送る。


「ここは砂漠だからなァ。言っても鍋はやっぱ、クソ寒い雪山で食うのが最高だろ。特にこのミソはたまらねえよ。酒が欲しくなる味だぜ。なァ? レグラン」


「同感だ。ここが砂漠じゃなかったら熱燗(あつかん)で一杯やりたい所だ」


「あーっ、言わないでよもう~。考えないようにしてたのにぃ~! こうなったらお酒はないけど、せめて最後にスープを入れて飲み干そう」


 このミソに出し汁を合わせる?


 お酒の味は知らないけれど、それは絶対おいしいやつだ。


 私も最後の〆にやろう。


「ところであなた達はフレイディールが拠点って言ってたけど、3人共フレイディールで生まれ育ったの?」


「ああ。そうだぜ」


「ガッシュはペイジュの街の生まれで、私はその北にある雪山近くの名もない小さな村の生まれなんだ。レグランは王都の生まれだったよね?」


 レグランが頷く。


 ペイジュはキューチェガルとの国境に最も近い、フレイディールの街の名前だ。


「ペイジュの街の北にある雪山って、ナザーユ山のこと?」


「そー! ロンブルクの人なのに詳しいね?」


「私の旅の目的の1つがそこにあるからね」


「ティアズさんの?」


「うん」


 私はエンリを死の運命から救うために天魔戦争を止めるべく魔界へ渡りたい事。


 そのために必要な7つの特級魔法を探しているという話をした。



「――へっ、あんたの実力とこの相棒がいれば、魔界でも生き延びられそうだな。だが魔界へ渡る特級魔法か。俺は魔法の事はさっぱりだが、んな大層なもんがマジで実在すんのかよ?」


「私は知らないなー。お師匠さまからも聞いた事ないし。でも特級魔法って秘匿されるものだしね。誰も知らないレアな魔法があってもおかしくはないんじゃない?」


「魔族はこちらにやってこれるんだ。逆にこちらから魔界へ行く方法だってあって然るべきだろう」


 悟ったようにレグランが言う。


「ま、そりゃそうか」


 半ば荒唐無稽な私が作り上げた話だけど、一応納得はしてくれた、のかな?


「私がロンブルク王国の魔法学園で見つけた古い記録によると、ナザーユ山のどこかにその1つがあるらしいんだよね。何でもいいんだ。何か情報があったら教えてくれないかな?」


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