Aランク昇級試験 その6
「昇級試験は冒険者の実力を測る場であって、必ずしも試験官を倒す必要はないと私は思ってるんだけど。魔物を相手にするように……ね? 私も早く終わらせたかったし、それがあなた達が決めた試験のルールなら望み通りしっかりと倒してあげるよ。その代わり、怪我しても知らないからね?」
「……へッ。ハッタリだぜ。追い込まれてんのはてめぇの方だろうがよ! いくぜレグラン!」
「おう!」
正面から突っ込んできたガッシュの剣撃を、『威力を消す超つるつるの魔法』を使って杖で弾き飛ばす。
そのまま杖を返して持ち手をガッシュのみぞおちへ突き立てた。
「なッ!? ぐぅッ!」
お腹を抱え込むようにしてガッシュが後ずさる。
「ガッシュ! うおおおおお!」
振り返ってレグランの剣撃を杖で受け止めた私は、自分の両足に指向性のある『つるつるの魔法』をかけた。
剣の衝撃を利用して2人から距離を取る。
「くっそ……ぉッ、逃がすか……よッ!」
お腹を押さえたまま追ってきたガッシュの足に『つるつるの魔法』を放って転倒させる。
「ぶふッ!?」
「さっき俺の足も氷の上を走ったかのように滑りだしたが……これもお前の魔法なのか?」
今度は『すべらない魔法』を自分の足にかけた。
困惑するレグランに一気に詰め寄る。
「そうだよ。はああああッ!」
「ぬぅッ!」
大振りで振り抜いた私の杖をレグランが剣を盾にして防御した瞬間、私はレグランの両足に指向性のある『つるつるの魔法』を放った。
打撃の衝撃に吹き飛ばされたレグランが、立ち上がったばかりのガッシュへ向かって螺旋を描いて滑っていく。
「ぬうぅッ!? 避けろガッシュ、ぶつかる!」
「野郎……。あ?」
「「ぐあッ!」」
ガッシュとレグランが激突した。
上向きに倒れたガッシュの上に、うつ伏せのレグランが重なる。
「さっきどうして私が杖を使うのかって聞いてたよね? それにはもう1つ理由があってさ」
「やべぇ……早くどけ! レグラン!」
「くっ、やってる! だが駄目だっ。砂が滑って手も膝もまるで支えが効かん。ティアズの魔法だ!」
私はもつれ合って倒れたまま藻掻く2人の側に立つと微笑んだ。
「刃の付いた武器と違って、相手を殺さずに制するのに向いている所が気に入ってるからなんだよね。こんな風に」
私はレグランの顎を杖の先でやさしく撫でると、意識を刈り取った。
「おいっ、レグラン! 返事しろ! おい!」
「レグランは気持ち良く眠りについたよ。次はあんたの番だね?」
「くぅ……何してんだカリーナ! フォローはどうした!」
「うるさいなぁもー! ティアズさんにさっきと同じ事してもまた防がれるだけでしょー!」
なるほどね。私はひと目で気づいた。
確かに彼女の魔力図の一部が描き替えられている。
カリーナが限界まで広げた射出口から、私の腕くらいの大きさの石の棘を一度にまとめて5本放った。
私は放たれた魔法へ向かって真っすぐ駆け出す。
「ちょ! どうして突っ込んでくるのー!?」
「そんなの、魔法の方が避けてくれるからに決まってるじゃない」
私の手が届く距離にまで迫った5本の石の棘は、急に軌道を空へと変えて上昇を始めた。
別に私が何かをしたわけじゃない。
これはカリーナが組み込んだ軌道制御によるものだ。
半球体の表面をなぞるように扇状に広がっていった5本の石の棘は、やがて私が元居た場所へ向かって収束していく。
「どーしてわかるのよーっ!」
「さぁ? なんででしょう?」
突き出した私の杖が、カリーナの物理防御壁の魔法に防がれる。
その一撃だけで魔力図に1本のヒビが走った。
カリーナは私が認識しているだけでも筋力強化2回、中級レベルの土魔法3回、それに防御壁の魔法を使っている。
どれもそれなりに魔力を消費する魔法ばかりだ。
流石のカリーナも魔力の底が見え始めたってところかな。
これなら手で触れて魔力図を破壊しなくても、力で押し切れる!
「ひッ!」
私の杖の連撃を受け止めるたびに、カリーナの物理防御壁の魔力図にヒビが広がっていく。
「これで砕けたかな?」
渾身の力を込めた最後のひと振りが魔力図を砕く。
カリーナを守る防御壁の魔法が消失した。
「はわあぁ~っ、私の防御魔法が~~~! もう駄目だー!」
「大丈夫、あまり痛くないように一撃で気絶させてあげるから」
「やめてー! ゆるしてー! ……なぁんちゃって」
カリーナが私に向かってローブを広げた。
裏地に展開する無数の初級の魔力図が一斉に発動の光を放つ。
「くっ!?」
慌ててバックステップで距離を取る。
同時に放たれた石の棘の魔法から、私は必死に杖で身を守った。
「は~……あっぶな~。奥の手を隠してるなんて、やるじゃないカリーナ」
Bランクになれる魔法使いは伊達じゃないね。
「こ……この距離であれを防ぐのー!?」
「でももう隠してる魔法もなさそうだね。さて、覚悟はいいかな?」
私は杖を構えてにじり寄る。
「降参! 降参ですティアズさん! 私は痛いのは嫌だー!」
膝まづいたカリーナが、拝むように手を合わせて掲げ上げる。
「それは私の昇級試験は合格って意味でいいのかな?」
「はいー! 合格でいいと思います!」
「てめぇ、カリーナ! 勝手に決めてんじゃねえ!」
レグランの下から這いずり出たガッシュが剣を拾って立ち上がる。
範囲で魔法を残してきたはずだけど、やっぱり砂地だと『つるつるの魔法』は弱化するね。
「もうやめよーよ、ガッシュ。レグランだってやられちゃってるし。ティアズさんは否定したけど、きっとあの噂も本当なんだよ。私達じゃ逆立ちしたって敵わないって」
「ざけんな! リガルがこんな奴に負けるわけがねえ! 俺はこいつを認めねえぞ!!」
「もー! ガッシュが認められないのはティアズさんじゃなくて、リガル・アランテの敗北の方でしょー?」
カリーナが頬を膨らませる。
「うるせぇ! てめぇは黙っ……。なんだ……ありゃぁ?」
ガッシュが私達の向こうの空を見上げて固まる。
「何を見て……ん? あれは……!」
直後、黒くて巨大な物体が落ちてきて、大地が地響きに揺れるのと同時に大量の砂煙が舞い上がった。
落ちてきたそいつの咆哮が、砂煙を一気に吹き飛ばす。
「ままままま……まも! あふぅ……」
「し、しっかりするっす! うぅっ!」
中てられて気を失った受付嬢を、若い男性騎士が震える腕で抱きとめる。
「は……はは……。この辺りにしちゃ珍しく雑魚の魔物の姿が見えねえと思ったら、こんな大物が近くにいたのかよ……!」
ガッシュが青ざめる。
後ろを振り返ったカリーナが硬直した。
「ひっ! キ、キングデスストーカー!!」
「だねぇ」
魔物の硬い外殻には、まだ新しい大きな爪痕がついている。
気を高ぶらせている様子からも、ついさっきまで同等以上の何かと戦っていたんだろう。
「ティ、ティアズさん? 何をそんなに落ち着いて……」
キングデスストーカーが私達に向かって2本の巨大な鋏を高々と掲げ上げた。
ただでさえ巨大な体が、比喩じゃなしに私達の頭上の空を覆いつくす。
キングデスストーカーが再び大きな咆哮を上げた。
どうやらやる気らしい。




